2023年09月25日

シャッター街ということ

 長い間、といってもたかだか六十年くらいだが、そのくらい生きていると、少なくとも今の日本では、何となくわかることがある。

 私が生まれ育った町も、街中は昔あった商店はなくなり、(ドアからドアまで)車で十分のところに、生活するには困らない品ぞろえの大型店舗が三つ弱ある(誤った日本語)。
 では、なぜ街中に商店がなくなったのかというと、それは、上記の大型店舗に客が流れたとか、人口減少とか、少子化とかあるとは思うが、一番大きいのは、後継者がいないということである。その人が、どんなに強い思いを抱いてその仕事を始めたとしても、身近な人がそれと同じ思いを抱くとは限らない。「売り家と 唐様で書く 三代目」。
 これは、個人商店だけではない。私が就職を考えていたころ、とてもではないが入社することは難しいと思っていた大企業も、いくつかはなくなった。それだけではなく、中高の頃必死で暗記した名前を持つ国だってなくなった。

 
 『ぎんなみ商店街の事件簿 SISTER編、BROTHER編』 井上真偽 小学館 読了

 SISTER編 BROTHER編と別々の本ではあるが、実質的には二巻本であり、両方合わせて一つの作品になる物語。
 三つの事件からなり、私は、第一話はSISTER→BROTHER、第二話はBROTHER→SISTER、第三話はSISTER→BROTHERの順で読んだのだが、まあ、この順で悪くはなかった。しかし、他の順で読んだら、また全然別の感想になるかも知れない。
 とはいえ、一度読んでしまうともう戻れない(これがゲームと違うところ)。なので仕方ない。読む順は、誰のオススメも信じてはいけない。理力と共にあれ。
 読者が、直感で読み方を選択するミステリ。これがどのように評価されるのか、楽しみである。ドラマ化されたら絶対観るけどね。


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2023年09月22日

やっと涼しくなってきた

 『化け者手本』 蝉谷めぐ実 角川書店 読了

 二作目から読むのであるからよい読者ではない。
 口語文ではあるが江戸時代のものの感じだし、章立てもないし、登場人物の性格も理解しないといけないし、慣れるまでちょっと時間がかかった。

 すべてがミステリとして片付くわけではないが、冒頭に提出される謎はなかなか魅力的で、なかなか面白うございました。

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2023年09月16日

同じ本の感想を二度書いてしまったので削除する

 ひどい老化現象である。自分でもいやになる。

 
 『或るスペイン岬の謎』 柄刀一 光文社 読了

 このシリーズ、とても面白く出れば買うことにしているのだが、おそらくこれで完結。「或るチャイナ橙の謎」、表題作、「或るニッポン樫鳥の謎」の三編が収録。

 よく書けているー謎解きだけではないプラスアルファの魅力が存在するーと思うのだが、今回は、文章の生硬さというか凸凹した感じが気になった。今まではそんなこと思わなかったのに。とはいえ、楽しみにしていたシリーズなので、これで終わりかと思うと、ちょっと寂しい。

 シリーズの中では、唯一の長編『或るギリシア棺の謎』が、圧倒的なロジックで、一番面白かったかな。「或るエジプト十字架の謎」も好みだった。

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2023年09月08日

降れば台風

 9月10月は、やや忙しく落ち着かない日々が続きそう。退職した身なので、一週間に二つ以上の予定が入ると、忙しく感じてしまうのである。アルバイトみたいなものだけど仕事はあるしね。


 『処刑台広場の女』 マーティン・エドワーズ ハヤカワミステリ文庫 読了
 本厚い割には読みやすい。格謎解きではないと聞いていたのだが、確かに。

 ところどころに、他の登場人物には明かされない(読者しか知らない情報)が挟まるので、勘の良い人(というか、引き出しの多い人)だと、ははんと思う人も多いだろう。それが当たっているかどうかは別として。

 これからどうなるのだろうという、スリルとサスペンスで読む話なので、これ以上は書くことがない。中ぐらいの出来という感じでしょうか。

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2023年09月03日

秋はまだ遠そう

ていうか、次は冬じゃないのか?

 
 『アリアドネの声』 井上真偽 幻冬舎 読了

 ちょっとテレビゲーム(死語)をやっているような気分ではあったが「いい話」である。それには「謎解き」も絡んでいて、うまく伏線が回収されている。
 
 もっと長いページ数にできる作品のようにも思うが、スパッと短く切ってあることで、むしろ読後の余韻が良い。

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2023年08月31日

鎌倉に行く

20230830_110319_HDR 第一の目的は英国アンティーク博物館。シャーロック・ホームズの部屋もある。Carr Graphic の資料を巡る旅。展示品は100年以上前のものであり、カーの時代よりも古いのだが、作品に登場する館や家具はこの時代のものも多い。

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 古我邸にも足を運ぶ。以前訪れたときは敷地内に入れず、表門から遠く眺めるだけであったが、今はカフェ・レストランになっていて近寄れる。近寄るとその大きさと美しいデザインに圧倒される。やや高いところにあるのと背に森があるためか大変に涼しかった。

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 お店屋さんの進め方が上手で帽子を買う。暑い季節にはぴったり。私の頭は手前奥の距離がやや長く、サイズが難しいのだが、専門店だったのでうまくいった。

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2023年08月28日

それでも夜は気温が下がってきたような気がする

 今月の中頃、右目の中で墨を流したような黒い渦が発生したので眼科に行ったところ、出血しているということで、経過観察をしていたのだが、今日問題なしということになった。ほっとする。黒いのは血だったのだろう。
 ただこれで両眼とも飛蚊症になった。本を読むときにちょろちょろとうるさいが仕方がない。適当に無視しながら付き合うしかない。


 『ロムニー・プリングルの冒険』 クリフォード・アシュダウン ヒラヤマ文庫 読了

 フリーマンともう一人の医師の合作。書かれている内容は面白いのだが、残念ながら読みやすいとは言えない。後のフリーマン作品の読みやすさとはかなり違う。本当にフリーマンが書いたの? と思ったが、発語訓練だったのかなとも思う。

 悪漢小説である。今でも受け継がれるジャンルではあるが、当時(1902年)のイギリスでは、今の日本ではうかがい知れないほど、好まれていたのではないかと思う。金持ちに対して庶民が溜飲を下げる娯楽として。

 ただし、フリーマンは、ここで磨いた腕と自分の知識を、「悪漢」ではなく「真相を突き止める」小説として使った。フリーマンの心が見えるように思うのは穿ちすぎか。でも、ポーストだって、悪徳弁護士から、清廉なアブナーに移ったではないか。

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2023年08月23日

それでも昼は短くなってきた

 『焔と雪』 伊吹亜門 早川書房 読了

 冒頭の「うわん」は面白かった。後ろの方になってきて、何か含みがあるのかなと思ったら、確かに「二度読み」の作品であるとは思った。

 ただ、読んでいるうちに、ちょっと引っかかるところというか、横の広がりに不足を感じた。これは『明智卿死体検分』でも思ったこと。

 それが何かというと、登場人物としての同世代の女性が登場しないということ。これは、舞台である時代として仕方がないことなのかもしれない。ただ、小説として、主人公と副主人公というだけでは、あまりに縦の線が弱いというか、賛成意見と反対意見しかない。第三の視点が欲しい。もちろんそれが男であってもよいが、それでは脛が黒すぎる。

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2023年08月19日

怒涛の一週間

 「Carr Graphic vol.2」の発送、ご入金が確認できた方々には送ることができたと思います。入金後一週間以上しても本が届かない場合は、遠慮なくご連絡ください。


 『アミュレット・ホテル』 方丈貴恵 光文社 読了

 SF的ではないが、特殊と言えば特殊な設定。この作家は、後々特殊設定の大家としてレジェンドと呼ばれるに違いない。

 第一話の「Episode 1」と第二話の「Episode2」の切れ味は素晴らしい。その後の二話は、個人的には、プロットとかストーリーとかとは別のところで、ちょっとう〜んというところがある。しかしまあ、全体としては、なかなか出来の良い連絡短編集だと思う。

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2023年08月12日

Carr Graphic vol.2 本日からご注文承ります

表紙価格は一冊2500円+送料(スマートレター180円)です。
ご希望の方は、コメント欄にご記入ください。お支払方法についてご連絡いたします。
ご入金確認後の発送となります。ご了解ください。


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2023年08月05日

絨毯を洗う(小さい絨毯)

 『アーカム・サンプラー書評集』 盛林堂ミステリアス文庫 読了

 掉尾のロバート・ブロックによる『1984』の書評が素晴らしい。この作品の評価が確定している今でも、これだけ端的に本質を射抜いた書評が書ける人がどれほどいるだろうか? 
 素晴らしい発掘でした。本年のベストオブ書評本がわが胸の中で確定。

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2023年08月04日

青春18きっぷを使う

 この歳になって初めて購入。各駅停車で遠くまで何回も旅するというタイプではなかったのである。


 『翻訳編吟 11』 翻訳ペンギン 読了。

 今号は、九人の作家の作品が収録されているが、ディケンズとストックトン以外の七人は知らない作家。翻訳作品が好きと言っている割には面目ない次第である。その一方、こうして知らない作家の知らない作品に出会えるのは、とても楽しいこと。この冊子が、ずっとずーっと続くことを祈るのみである。

 やや暗めの話が多かったが、「不思議な使者」(不思議ではあるが暖かい話)と「戦慄の一夜」(死んでいること、そして死にとらわれることの描写がものすごい)が好み。

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2023年08月02日

Carr Graphic vol.2 刊行のお知らせ

表紙
 コミケ12日(土曜日−東地区パ51b)初売りです。会場でご購入の方には、特製和歌しおり巻之二を差し上げます。

 Vol.1同様、図とおしゃべりと四コママンガの内容です。描きおろし図版多数あります。
価格は2500円です。
 内容は『死(の)時計』『赤後家の殺人』『三つの棺』『一角獣の殺人』『アラビアンナイトの殺人』『パンチとジュディ』『火刑法廷』『孔雀の羽根』『四つの凶器』『第三の銃弾』『死者はよみがえる』『ユダの窓』の十二作品です。

 ご購入希望の方は、12日以降にコメント欄に書き込みください。
12日までは外出の予定があり、それまでにご連絡をいただいてもご返事ができないことがあります。ご了承ください。


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2023年08月01日

久々の雨

 停電を伴う雷雨ではあったが。


 『ガラスの橋』 ロバート・アーサー 扶桑社文庫 読了

 短編の名手(と個人的に思っている)作家の、しかし日本の短編集。この作家の短編を読むことが、どれほど難しかったかというと、それはもう(泣)
 その一部だけではあるかもしれないが、こうして一冊の本として手に取って読めることは大変にうれしいことである。「ガラスの橋」なんて、有名なくせしてマジで入手困難だった。

 で、読んでみて、期待通りの面白さだった。謎解きの他に、ちょっとひねりがあるのが特徴。「非情な男」と「一つの足跡の冒険」が好み。
 売れてくれればよいのだが。そうしたら、もう一冊出るかもしれないので。

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2023年07月29日

体重が戻らない

 夏だから仕方がないか。暑い分食欲も伸びないし。


 『伯母殺し』 リチャード・ハル ハヤカワミステリ文庫 読了

 再読。思い出し読書。確かこういう話だったよなーと思いながら読む。やはりそういう話だった。
 初読の頃は「世界三大倒叙」と言われていたものだが、今はもうあまりそういう言われ方はされないなあ。この作品が「倒叙」かどうかについても、異議を唱える方も少なくないというし。

 今回読み直して気づいたことは、伯母を殺そうとして計画を練る男のバカさ加減である。自分を頭がよくて、上品で、財産を継ぐに相応しい人間(つまり自分以外はすべてバカ)だと思い込んでいることが、残している手記の記述から明らかである(手記を残しているというところですでにバカ)。

 今の目から見れば、非常にプリミティブであると感じる。しかし、そう感じるのは、これを基本形として、多くの作品が書かれているからである。本作は、技巧派、叙述トリックの源流の一つであると思う。
 こういう基本的な話が、まず生まれることにより、それがどんどんブラッシュアップされ今に至っているということは、大切に記憶しておきたい。

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2023年07月27日

生きることは考えること、考えることは生きること

いつまで続けられるのか、そう思う今日この頃。


 『密室ミステリガイド』 飯城勇三 星海社 読了

 面白かった。何が面白いのかというと、密室が面白いのではなくて、なぜこの作品を選んだのかという、著者の「意外な論理」が面白くて。ただ、取り上げた作品が多い分、著者の語るスペースが少なくなり、頭の悪い私には、もう少し説明をしていただきたいというところが、少々あったが。

 例えば、「一個人の書庫が、この”集合知”を超えることができない。」ということと、「密室は終わらない」ということとの繋がりがよく分からない。そこを繋ぐロジックを聞きたい(多分、聞くと「ああ、ああ、そうか、なるほどね」と思えるはず)。

 本書を読むと、翻訳作品は別にして、国内の「密室」の対する、作家(というか読者)の気持ちの推移が、見えてくるような気がする。
 最初は新奇なトリックへのワクワク感、次には「もうどうせ新しいものはない」という斜に構えた皮肉な思いと、密室にこだわることへの警句、そして今は(と言ってよいのかどうか、分からないが)密室であることはさておき、なぜ密室であるのか(なぜ密室にしなければならなかったのか)という時代になったのだなあと思う。

 1930年頃は、犯人は密室なんかにしたくなかったのだが、たまたま雪が降ったので密室状況になった、というこことは許されていた。しかし、今は、雪が降りそうな状況になれば、いったんその作戦を中止すべき、ということまで考えないといけないようだ。犯人も大変である。
 
 大地震の発生、パーティーで酩酊する人の確率、靴の紐が切れるかもしれない、自転車でこけるかも、歩道橋が工事中、電車の運休、株価の下落、急な腹痛、阪神の優勝、そこまで考えるのは難しいな。犯人になるのは、マーダーゲームまでにしておこう。

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2023年07月24日

外出してないなあ

 足腰が弱るなあ。


 『ねじれた蝋燭の手がかり』 エドガー・ウォーレス 仙仁堂 読了

 名作『ケンネル殺人事件』の中で引き合いに出された作品(とのことだが、比較的最近再読したのに、覚えていないのが情けない)。

 物語の始まりと終わりとでは、違う作品を読んでいるような感じ。話が破綻しているわけではないが、途中からこの話を(書き)続ける興味を失ったかのように、結末を急いだような感じである。だから、読んでいて面白いという感想は持てない。残念ながら。

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2023年07月22日

図書館も利用する

 住民税分くらい利用したいと思っているのだが。


 『大雑把かつあやふやな怪盗の予告状』 倉知淳 ポプラ社 読了

 表題作のほかに「古典的にして中途半端な密室」と「手間暇かかった判りやすい見立て殺人」の計三編が収録された短編集。
 題名からも推し量れるように、ユーモラスな語り口で話は進むが、謎解きの部分のロジックはしっかりしていて読み応えがある。そのロジックを支える手がかりとなるのが、「中途半端な密室」であり「大雑把かつあやふやな予告状」であり「手間暇かかった判りやすい見立て」というわけである。うまい。

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2023年07月20日

もう、不安しかない

 母の保険証等が転送されてきたので、コピーを取り、入院している医療施設に送る。マイナンバーカードと一体化されたら、どうすればよいのだろう。母はもう自力で紐づけの作業などできない。
 

 『邪悪の家』 アガサ・クリスティー ハヤカワ・クリスティー文庫 読了

 読んでいると思っていたが読んでいなかったことが判明。あわてて読む。
 クリスティーだから、こう思わせて実はこうだよなと思いつつ(自分の引き出しを活用して)読むが、近づいたとはいえ、見破ることはできなかった。わかってはいるつもりだがやっぱり騙されるというか、欺かれるというか。終わってみれば、まさにクリスティーなのだが。

 「こう見せかけて実はこう」というのは、ミステリを書く上で基本なのだが、現代の作家と比べてみても、クリスティーほど、それを滑らかに進行させ、着地させ、読者を納得させ、面白かったと思わせる作家はいないと思う。
 読むたびに、ミステリの面白さ原点に戻れる。そうだよ、これだよ、これだよなあと。

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2023年07月17日

打合せに行く

 久しぶりに長々と話をした。楽しかった(幼稚な感想)。かき氷(宇治金時)を食べる。この夏初めて。美味しかった。


 『恐るべき太陽』 ミシェル・ビュッシ 集英社文庫 読了

 叙述トリックである。これはネタバレではない。多くの読者が読み始めてすぐに気づくだろうから。
 問題は、どういう叙述トリックなのかというのと、なぜ叙述トリックなのかという点である。
 実は、なぜ叙述トリックなのかという点については、弱い作品が多い(個人的な感想です)。本作は、その点をうまくクリアしていると言ってもよいかも知れない。

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