2010年08月02日

逆手にとろう

 文部科学省が,全国学力調査の結果を公表した中で,こんな内容も含まれていました。7月30日付朝日新聞からの記事を引用します。


幼稚園出身の子の正答率、高い傾向 全国学力調査

 今春実施された全国学力調査では、3歳から6歳の間の幼児教育の経験を児童生徒に聞き、学力調査の正答率との関係をみた。調査開始以来初めての試みで、幼稚園に通っていた子の正答率は、小6、中3とも全教科で保育所に通っていた子より高かった。

 調査では、幼保両方に通った経験がある場合は、より長く通っていた方を選んだ。集計すると、幼稚園出身者は小6、中3とも6割、保育所出身者は4割。どちらにも通っていなかった子は1%以下だった。

 学力調査との関係をみると、小6では、基本知識を問う国語のA問題の正答率は幼稚園出身者85.4%、保育所出身者82.1%で、幼稚園の方が3.3ポイント高い。最も差があったのは、知識の活用力を問う算数のB問題の5.0ポイント。この傾向は中3も同じで、6.3ポイント(数学B)〜3.4ポイント(国語A)の差があった。どちらにも通ったことがない子の正答率は保育所出身者よりさらに低かった。

 こうした結果に、全国国公立幼稚園長会の池田多津美会長は「幼稚園は、充実した遊具や広い運動場で体験を通して主体的な学びを積み重ねている。勉強が難しくなる6年生ごろから学習意欲で差が出るのでは」と言う。

 一方、保育所施設長でもある全国保育協議会の小川益丸会長は「保育所の教育が幼稚園より劣るわけではない。十分な説明や前提なしにこんな結果が公表されると、利用者に不安や誤解を与えないか」と心配する。

 幼稚園は1日のカリキュラムが4時間ほどで終わるのに対して、保育所は夜間まで子どもを預かり、共働きやひとり親家庭の利用も多い。白梅学園大学大学院の無藤隆教授(発達心理学)は「小6や中3段階でも差があることを考えると、家庭環境の差が要因として大きい可能性がある。保育所は低所得層など、家庭環境が不利な子どもも受け入れている」と指摘する。その上で「補うところは補い、どちらに通うにせよ、質の高い幼児教育を受けられるようにする必要がある」と話す。

 今回の調査は幼稚園や保育所へ通った経験と正答率を重ね合わせただけで、家計や子どもが育つ環境など他の要素は調べていない。お茶の水女子大学の耳塚寛明副学長(教育社会学)は「データがひとり歩きすると、近所に幼稚園がなかったり、働いていたりして通わせられない保護者の動揺を招きかねない」として、さらに分析を進める必要性を指摘する。(中村真理子)


(2010年7月31日9時30分)



 幼稚園の方が保育園より優れている,という結果の報告は,今議論されている「幼保一元化」に釘を刺したい(「幼稚園の方がよい」という我田引水をしたい)という意図が隠れているように見えてなりません。
 厳しい言い方をすれば,「福祉(保育園)ではだめ」「教育(幼稚園)によってこどもは伸びる」ということなのだろうと,つい穿った見方をしてしまいます。


 ただ,これを逆手にとって考えれば,こどもの「学力」を伸ばしたいならば,小学校に入学するまでは,

・両親のどちらかがこども達とじっくり関わっていくこと(時間的余裕)が大切
・そのためには,片親の収入だけでも十分生活できる経済的余裕が必要
・その上で,集団での保育制度を考えていく必要がある

 ということになりはしないか,と思っています。


 今の「待機児童」問題は,基本的には「不況」あるいは「不安定な雇用」から来る「低賃金・低収入」が大きな要因であると思っています。ですから,こうした要因を取り除き,両親のどちらかがこどもとじっくり向き合うことができれば,こどもの興味関心を広げ,学力向上につながるのだ,と言えるような気がします。

 そう考えれば,幼稚園も保育園も関係なく,幼児期の集団保育とその中での保育内容をどうするかを考えていけばよいのです。


 母子・父子家庭については,延長保育を引き続き行いつつも,就学前(学童保育期:小学校低学年まで)は「短時間労働」も可能とし,その分所得が下がることについては,今の「児童扶養手当」で補っていく(財政的には企業の拠出も必要かなと思います)ということになるでしょうか。そのほか,家事支援サービスを充実していくことも必要です。
 それによって,両親がそろっている家庭に近い形で,こども達に関われる時間ができる環境整備を行います。

 また児童養護施設等の児童福祉施設は,今の6対1ではなく,3対1程度まで増員できる措置費を支弁します。また学習支援には,退職した教員(誰でも・・・ではなくきちんとこどもの福祉や虐待に理解のある人を試験:筆記&面接で選考)を一日5時間程度派遣するとともに,今大学生が行っている学習ボランティアをきちんと報酬が出る形に制度化する。(学生にもプロ意識を持ってもらう)
 そうした形で,施設のこども達(里親さんも必要ですね)にも学習を保障します。



 「今」を生きる労働者を大切にし,そのこども達が健やかに育てば未来には「学習」の優れた大人が日本を担う,極論ですがここまでやらなければもう衰退するしかないように,今の日本はあまりにも,何事にも余裕のない社会を見ていると思えてなりません。
fukushi_ashi at 17:00│Comments(2)TrackBack(0)ソーシャルワーク 

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この記事へのコメント

1. Posted by 遥香   2010年08月03日 13:44
Maa-chanさん。
こんにちは。
当方のブログにコメントありがとうございました。同じ日に同じテーマでエントリーをしていたとは偶然ですね。 上記調査の目的に関する見解は若干異なっているようですね。

私は上記調査については「幼稚園と保育園」とでは「教育格差」があるという仮説を導き出した。その仮説をもとに「幼保一元化を推し進めその格差を埋める」という政策をすすめるための世論形成のために公表したと考えました。
ただ、一番正答率が低かったのは「幼保のいずれにも通っていなかった」というグループで幼児期には集団で教育を受けることが後の学力形成に重要とすれば、この部分で逆手を取って幼児教育の機会をすべての幼児に公的に保障する政策をもとめる根拠にはできそうですね。

しかし、男女共同参画を掲げながら幼児教育における幼稚園の優位性を説くなど、行政は自分の庭先でしか仕事をしていないことを示す一例ですね。
2. Posted by Maa-chan   2010年08月03日 14:15
遥香様:

 コメントありがとうございます。

> ただ、一番正答率が低かったのは「幼保のいずれにも通っていなかった」というグループで幼児期には集団で教育を受けることが後の学力形成に重要とすれば、この部分で逆手を取って幼児教育の機会をすべての幼児に公的に保障する政策をもとめる根拠にはできそうですね。

 そうですね。私はお恥ずかしながら,斜め読みをしてしまい, 「幼保のいずれにも通っていなかった」を見落としておりました。
 幼保いずれにも通えない,という状況がどういうことなのかは,地域性もあると思いますので一概にはわかりませんが,「学力」ということを焦点化するのであれば,幼児教育の義務化も含めた検討は必要だと感じます。


> しかし、男女共同参画を掲げながら幼児教育における幼稚園の優位性を説くなど、行政は自分の庭先でしか仕事をしていないことを示す一例ですね。

 同感です。「我田引水」としかいいようがありません。「人間」であるこども,をきちんととらえ,その成長に教育や福祉がどう寄与していくか,という視点から発言をしてほしいものだと思います。

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