2006年01月

2006年01月16日

丘の上の愛

まだ、日本がバブル全盛で浮かれてた頃、所得もないはずの
学生達が、巷で流行りのDCブランドなんかを着て、
上等の車で繁華街に繰り出す、そんな時代。

そんな時、貧しい環境の中、苦学をして学業に励む青年がいた。
彼はそんな日常を表には出さず、いつも明るく笑っていた。

彼はゼミでは決して目立つタイプではなかったが、堅実な研究姿勢で
成績はいつもトップだった。

その同じゼミに‘彼女’がいた。

彼女は涼しげな瞳とすらっと高い鼻をしたスレンダーな美女で、
いつもブランドの服を着て、長くストレートな髪をなびかせながら凛として
歩く姿が同年代の女子より大人びて、いつもキャンパスの注目の的だった。


♪笑顔ひとつで 君はどんな恋でも容易く手に入れた 
 でも誰ひとり愛さず だだのボーイフレンド 遊び相手 ♪


彼はそんな彼女と入学当初から何故か気が合い、
よく語り、よく歌い飲んだりもした。

彼女は、授業中、遅れて教室に入ってくると、必ず後ろの席に座り
「よぉ〜」と可愛い笑顔で肩を叩いてきたりもする間柄だった。
その笑顔は確かにその年代の女の子の笑顔だった。

彼は‘そんな時の彼女’がたまらなく好きだった。

同じ気持ちが彼女の方にもあったことは、授業中によく視線が
合うことでも確信できた。

お互い惹かれ気になる存在だった。
キャンパスではいつも一緒で、何でも話せる二人であったが、
‘恋人’というラインを越えることは最後まではなかった。

苦学生の彼にはそんな時間すらないのはよくわかっていた。

♪君がただひとり心奪われたあいつは まだ若く 
   夢のほかには 何も 持たない 貧しい学生  ♪


4回生の熱い7月の日の事だった。
前期試験が終わり、いつもの様にバイト先の工場へと
向かう為、足早にキャンパスを後にする彼の横を
一台のスポーツカーが通りすぎた。

そのサイドシートの窓から‘彼女’の横顔が確かに見えた。


♪貧しさの中 壊れて消える 愛の暮らしはいやだと 
  まるでショウウインドに 自分を並べるように
        着飾って誰かを待っていた     ♪


卒業論文を提出しに、学校にいった寒い冬の日のこと。

彼女がある御曹司と婚約したとの噂を聞いた。

卒業式の後、校門の前に彼女は立っていた。

彼女は彼の顔を見るなり、泣いた・・・その涼しく綺麗な瞳が潤んでいた。


♪愛が買えるなら その涙の理由を聞かせて 
  愛が買えるなら ため息の理由を聞かせて いつわらずに・・・♪

彼は何も問わず、彼女をやさしく抱きしめた・・・

時はバブル全盛期、RICHという言葉が生まれ、誰もが‘MONEY’を
求めることを人生の最大の幸せだと疑わなかった時代の話である。

あれから20年近くの月日が流れた。

今、彼女は幸せに暮らしているのだろうか・・・
  
幸せならそれでいい。彼女は正しい選択をしたのだ。

 笑顔でうなずきながら、真っ青な空を見上げるのだった。


                 《ハマーシャ》


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2006年01月08日

ラストショー

道を間違えた。

「次の信号を左折」と思っていたのに
直進のラインに並んでしまった。
あっ。と思う間も無く右に左に後ろにと
どんどん車が詰め寄ってくる。
仕方ない。このまま前に進むしかないか・・・
3年ぶりに帰ってきた町の風景はすっかり変わっていて
家にたどり着くにはまだまだ時間がかかりそうだ。

それにしてもこのまま進んでいくととんでもない所に
行ってしまう・・・早くいつもの道に戻らなければ。
でもどうやって?Uターンできる道ではないし、
地図もないし、ナビもない。
自宅まであと数キロで遭難か?!
仕方ない。次、左折。・・・あ〜あ やっちゃった。
こんな道全然知らない、しかも道幅狭すぎ。


♪さよなら バックミラーの中に あの頃の君を探して走る
 さよなら 二人演じたシーンを 想い出す もう一度♪


車が大好きな君とのデートはいつもドライブ。
何処にいくかは気分次第で
「このまま海までGO!」や
「日が沈むまでひたすら西へ」etc・・・
そして帰りは帰巣本能を研ぎ澄ませて
ひたすら私達の町を目指して走る。

「大体そうやって地図をクルクル回して見るから
余計にわからなくなるんだよ。地図を見て方角を頭にいれる。
後はただひたすら目的地までその方向を見失わずに進む!」
いつも助手席で「今どこを走っているの?」と
あたふたしている私に、ケラケラ笑いながら言っていた君。


♪さよなら エピローグは俺ひとり 明け方の海岸線を走る
 さよなら フラッシュバックのような 
 過ぎた日々 抱きしめて もう一度 忘れるために♪


卒業して二人は町を離れ別々の道を進み始めた。
それっきりもう10年以上会っていない。
でも時々、君の名前だけのハガキや写真が実家に届く
いろんな街や国からの「元気です」と一行だけの消息
君のことだから、きっと迷わずに自分の選んだ道を
まっすぐに進んでいるんだろうね・・・ずっと応援してるよ!


あれっ?この道見覚えがある。確か・・・
『ぼくの家からキミの家までの近道 その4』だ!
いつも同じ道、それも大通りしか通らない私に
君は幾つもの道を教えてくれたね。
今日は初めてひとりで通る道。
途中で少し不安になったけど 君に教えてもらったとおり
しっかり、自分が行きたい方向を決めて進んだよ。

そして程なく大通りにでて 無事に到着〜。

ありがとう、偶然だったけどあの道から帰れたよ。
あんなに狭い道から急に視界が開けて大通りに出たのは
意外なほどあっけなく、そしてすごく気持ち良かった。

たまには「いつもの道」以外の道も悪くないね・・・

                       《エミーナ》


futarino_show_go at 12:07|PermalinkComments(10)TrackBack(0)