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2009年08月

生ける

 夏になると、靖国神社参拝の事でいろいろ世間でとりざたされますが、私は“靖国神社”と聞くと、生け花の“奉納生け”を毎年思いだします。奉納なんて言うと相撲の奉納相撲みたいだと思う方もいらしゃる事と思いますが、“奉納”するのは何もお相撲だけに限りません。
 生け花の奉納生けは1月1日朝行われます。私の様なペーペーはもちろん参加などできませんが、生け花の先輩方が朝早くから着物を着込んで、大変な思いでとりおこなっていたようです。
 私が習っていた生け花の流派の先生は、草木のあるがままの姿(有り様)を大変重視されていました。生け花でもよく有る、針金を巻いたり差し込んだりして、思い通りの形にする事を極端に嫌がられていました。「そもそも生けると言う事は“生かす”という事に他ならない。何を生かすか見極める事こそ生け花です」と静かに言いながら、不要な枝葉は徹底的に切り落としてしまうのが常でした。
 生け花の先生の生けたものは、ハッとするほどシンプルでしたが、何回も見極めを繰り返し、選択を積み重ねてできた枝と葉の隙間あるいは空間と、生かされた枝とのバランスは、確かに意味のある重要な”間合い”でした。

 今から半年以上前だったと思いますが、私は愕然として目がはなせなかった事がありました。
 毎週日曜日、いつもの太極拳の練習メニューを順にこなしていって、いつもの単推手の練習の次の、四正推手練習の時でした。TさんもHさんも、もう何年も太極拳を練習されている男性方で、これもいつもの通り2人で四正推手を練習しはじめました。私は何となく観ていましたが、その時、昔、生け花の先生が生けた一杯(生け花では一つの作品を一杯と杯で数えます)と突然重なってビックリしました……何気ない枝ぶり、シンプルに伸びた葉、それらが緊張感ある空間を仕切って、意味のあるバランスを保っている……
 その枝が、その葉が、取り立てて美しいわけでもなんでもないのにある意味をもった空間が存在する事によって、たちまち美に変わってしまう……
 TさんもHさんも、平素においては、美を意識することなどはまったく有り得ない生活を送られている方々だと思いますが、相手の出方を意識し合い、集中して練習している時、おそらく無駄の無い動きで、相手とたまたま絶妙な間合いを取った一瞬の時のことだったのだろう思いました。
 その日以来、套路の練習の時はもちろん、自由推手のとき、散打の時、色んな動きをする生徒さん達に、ハッとする事が出てきました。
 一瞬だけの動く生け花、一秒もたたずに消えてしまう美しさは、まさに無駄が存在しない美しさです。私は、それまで、手の動きが柔らかくて奇麗だとか、高いジャンプが奇麗に決まったとか、そんな事が美しい事だと思っていました。確かにそれも美しいことではありますが、それだけではない、太極拳をしている人を取り囲む空間の一瞬の絶妙なバランスが、このように美しく見せるものなのかと、想いました。私は、今までとはまた違う太極拳が存在していることに気が付きました。
 先生が「視線は右で、肩を落として、腕はのびのびと伸ばして、肘と膝は合わせて……」と言われますが、私にとって、単に腕や足の形だけでなく、腕の肘と足の膝を合わせた時に出来る空間が……の問題になってきたような気がします。
 人が美しさを感じる時、その題材というよりは、美しさに対する一種の普遍性に共感するようです。太極拳って武芸だと想いますけど、ヤッパリ奇麗かもしれないです……

 *蛇足
 西洋美術においての機能美の先駆者にマルセル・デュシャンという人がいます。この方は“泉”という題名で何処にでも有る便器を展覧会に出品したことで有名です。誰でも知っている様に、便器の中のしずくは全て内側に跳ね返るように設計されています。この無駄の無い緻密な曲線と便器内の程よい空間のバランスを機能美として芸術だと定義しました。

 『泉』は2004年12月、世界の芸術をリードする500人に最もインパクトのある現代芸術の作品を5点選んでもらうという調査の結果、ピカソの名作『アヴィニヨンの娘達』を抑えて堂々の1位を獲得した(ターナー賞のスポンサーとジンの製造会社が実施)。『泉』の発表後、20世紀の多くの芸術家は『デュシャン以降、何が制作できるのか』という命題に直面しており、それに応えた作品が多く生まれている。
(ウィキペディアより抜粋)

 あのピカソの絵より便器が重要だという結果に驚きを禁じ得ませんが、そのものがもつ素材の高価さ、制作の複雑さで決まるのでは無いのが、近代、現代の価値観、ということでしょうか。機能美の芸術性は絶対揺るぎないものみたいですね。私達はみんな、毎日、芸術のお世話になっているみたいです……

 (Sさん よりいただいた練習の感想、第三弾です)

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第二十二回特別講習会

講師 鎗田 勝司
内容 陳式太極拳老架一路と推手および用法
日時 9月13日(日) 15:30〜18:00
場所 文京スポーツセンター 
多目的室
 〒112-0012 東京都文京区大塚3-29-2 
(TEL.03-3944-2271)
受講料 2,000円

*詳細は事務局までお問い合わせください。

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2009年9月練習日程

9月6日 通常練習(西神田コスモス館音楽室・記念室 13:30〜)
9月13日 第二十二回特別講習会(文京スポーツセンター多目的室 15:30〜)
9月20日 通常練習(西荻窪永谷ダンススタジオ 12:30〜)
9月27日 通常練習(西神田コスモス館体育館B 13:30〜)

* 場所および時間が変則的になります。確認をお願いいたします。

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