激オシ小説レビュー・感想 〈~出版業界人による独断無責任書評~〉

第333回 島田荘司 『毒を売る女』
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内容

娘は名門幼稚園に入り、家も手に入れた。医者である夫の仕事も順調で、全てがうまくいっているはずだった。あの女があんな告白をするまでは―。人間が持つ根源的な狂気を描いた圧巻の表題作をはじめ、御手洗潔シリーズの傑作「糸ノコとジクザグ」からショートショートまで、著者の様々な魅力が凝縮した大充実の傑作短篇集!


島田荘司の短編集のなかでもかなりの上位にくるであろう作品です。

シリーズの御手洗潔、吉敷竹史も出てきますが、
本格ミステリの島田荘司というステレオタイプからは、
少し毛色の違うものから大きく雰囲気が異なるものまで様々な短編が収められています。


『毒を売る女』

表題作。夫が梅毒にかかり半狂乱となり、自らも感染したセレブ妻。そしてその事実を知った知人にも何とかして梅毒を感染させようとする狂気。
サスペンス要素満載で、ミステリー的な伏線・回収は少し冷静になって立ち止まれば割りとシンプルで分かりやすいが、
立ち止まらせないストーリーのハラハラ感が見事。


『渇いた都市』
ふとしたキッカケで、美人の裏の顔を知ってしまう冴えないサラリーマン。それをネタに無理矢理パトロンとなり、お金もつぎ込み遂には犯罪にてを染める。
何気ないストーリーから始まり、本筋は心理サスペンス風に盛り上げ、話を繋げて綺麗にオトす。さすが。
悪いことを企んで結局ドツボにはまってしまうあたりは、『笑ウせぇるすまん』みたいで面白い。ドーンと聞こえるほど。


『糸ノコとジグザグ』
島田荘司の長いキャリアの多くの作品の中でも傑作と推す人も多く、

作品ラストのセリフ、
「私は感心した」
これは読者も読後同じことを思うのでは?

ラジオで自殺志願者が読んだ現代詩をリスナーに推理してもらうという斬新な展開。
今読むとノスタルジックでもあり、逆に新しさも感じます。

一応御手洗潔作品ということです。


この後の収録作品は結構異色短編という感じでまたいつもと違った島田荘司を楽しめるという感じ。

怪奇短編『ガラスケース』、
切ない回想が胸を打つ『バイクの舞姫』、
ユーモラスに、ウィットに富んだ『ダイエット・コーラ』、『数字のある風景』はSFや純文学的な要素もあると思う。

この4つは中々異色。

『土の殺意』はシリーズになっている吉敷竹史が登場。東京の歪な都市化を鋭く描いた社会派ミステリー。
都市論とからめてストーリーを組み立てているあたりは島田荘司らしさも楽しめるかな。



ファンにも島田荘司を初めて読む人にもオススメする作品。




島田荘司 『ネジ式ザゼツキー』
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〈内容〉

奇妙な童話、異形の死体 御手洗シリーズ本格長編!

記憶に障害を持つ男エゴン・マッカートが書いた物語。そこには、蜜柑の樹の上の国、ネジ式の関節を持つ妖精、人工筋肉で羽ばたく飛行機などが描かれていた。御手洗潔がそのファンタジーを読んだ時、エゴンの過去と物語に隠された驚愕の真実が浮かびあがる! 圧倒的スケールと複合的な謎の傑作長編ミステリー。

御手洗潔シリーズの長編で、
王道であり、異端でもある
600ページ超の大作です。


『水晶のピラミッド』や『アトポス』のような時代や場所を問わず、
ひとつの作品の中に複数のストーリーが様々な色を見せ、ながら1つの結末に収斂していくスケール感の大きな作品や、

『暗闇坂の人喰いの木』のような怪奇色が強く、作品自体の雰囲気が強い作品が
島田荘司、御手洗シリーズ長編の醍醐味のようになってきていたと思いますが、


『ネジ式ザゼツキー』はそういった側面もありながら、
より、御手洗潔という天才的な推理力を持った人間の、

推理のプロセスや、
頭脳の内側を

より強調し、
謎解きのロジックにより焦点を当てた、
本格推理の純粋度が高い作品です。


安楽椅子探偵よろしく、

この作品の御手洗潔は、
推理において、
部屋を一歩も出ない。

場面が変わらないからこそ、推理力がより際立っていて、
本格推理ファンとしては垂涎もの。


また、部屋を一歩も出ない理由として、
手がかりが記憶喪失の男が書いた、
「タンジール蜜柑共和国への帰還」しか
手がかりが無いから、
出る必要もないというのはさすがの設定。


ちょっとしたネタバレですが、
男が書いた「タンジール蜜柑共和国への帰還」が、
ビートルズの
『Lucy in the sky with diamonds』
との奇妙な符号があったりして、

ビートルズのメロディが愉快に脳内に響きながら読めたのは楽しかった。
LSDのドラックソングですしね。


そう思っていたら、

首を切断され、
首と胴体に、ネジとネジ穴が埋め込まれた
射殺死体の事件が浮かび上がってきたり、

宗教的な悪魔信仰や、
戦争の残酷な拷問の話が出てきたりして、

島田荘司らしい雰囲気強めのストーリーも味わえてページを捲る手が止まらない。


本格ミステリファンとしては読んでおくべき一冊。




島田荘司 『アトポス』

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内容
虚栄の都・ハリウッドに血でただれた顔の「怪物」が出没する。ホラー作家が首を切断され、嬰児が次々と誘拐される事件の真相は何か。女優・松崎レオナの主演映画『サロメ』の撮影が行われる死海の「塩の宮殿」でも惨劇は繰り返された。甦る吸血鬼の恐怖に御手洗潔が立ち向かう。渾身のミステリー巨編が新たな地平を開く。




名探偵は登場が遅ければ遅いほど素晴らしい。



島田荘司の御手洗シリーズの大長編を読んでいるとふと思います。


読者は少なからず名探偵の御手洗の登場を待ち望んでいるけど、
全然出てこない。

『アトポス』でも御手洗が登場するのは
かなり後半に差し掛かってから。
しかも白馬に跨がって!!


当たり前ですが、後半に出てくれば出てくるほど、
解決へのページ数は少なくなるわけで、
その短さの中で、読者を唸らせる解決を提示しなければならない。

そんな離れ業を見せてくれるのが、島田荘司の御手洗潔シリーズという作品の魅力だと思います。



文庫版で1000ページに迫る大作の『アトポス』ですが、

大作だけに、いくつかのストーリーを組み合わせたような内容で、最後に一つに纏まっていきます。


前半の希代の吸血鬼エリザベート・バートリ
のストーリーは、
作品の中では一応フリではあるのですが、
章のタイトルに『長い前奏』とあるように、
そこだけで300ページ以上ある。
長いだけでなく、エリザベートの異常な美への執着、若い娘を監禁しなぶり殺したうえでの吸血など、鬼気迫るグロさ。
ここだけでかなり魅力のある作品。

後半は一昔前の上海での異常な娼館の物語が提示されつつ、


既に御手洗シリーズではお馴染みの、
ハリウッド女優レオナ松崎とその出演作品の周辺で起こる異常としかいえない嬰児誘拐・殺人、奇怪な外見をした怪物の目撃など、
異常のオンパレード。

そして、イスラエルの死海に舞台をうつしてもさらなる悲劇的な殺人が繰り返され、

世界で最も異常で狂った女が登場する、
『サロメ』のストーリーも絡みながら怪奇的な物語はどんどん進んでいきます。

すべての状況がレオナの異常犯罪という解決に向かっていくなかで、
御手洗がそれらを覆し、鮮やかに真実を暴くところは感動的です。
なんだかんだ、ベタだとか、古いとか言われようが天才的な名探偵が好きなんですよ!


物語を通すと、女性を狂わす美への追及が1番大きなテーマだったと思います。
それも、異常なほどに。

ネタバレですが、
真犯人が自害したあとの、レオナの言葉は何気ないようで、背筋が凍りました。


かなり読み終えるのに労力がいりますが、
絶対に読んで損はない傑作です。






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