激オシ小説レビュー・感想 〈~出版業界人による独断無責任書評~〉

第241回 長岡弘樹 『白衣の嘘』

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内容

苦手な縫合の練習のため、シミュレーターに向かう内科医の副島。彼が担当した女性患者はある秘密を抱えていた(「最後の良薬」)。バレーボール日本代表の彩夏と、医者である姉の多佳子。2人は実家に向かう途中でトンネル崩落事故に巻き込まれてしまう。運転席に閉じ込められた妹に対して多佳子がとった意外な行動とは(「涙の成分比」)。医療の現場を舞台に描き出す、鮮やかな謎と予想外の結末。名手による傑作ミステリ集。



作品のほとんどが短編である著者の病院ミステリー。
もちろんこちらも6つの短編が収められた作品です。

シリーズものでなく、ほとんどの作品が短編というミステリー小説家も珍しいんだとか。


それぞれの短編はひとつひとつ完結していますが、
しいていうならタイトルの『白衣の嘘』というのが共通しているかなと思います。
表題作は無いので全てに通じるイメージなのかなと。


予想外の結末という触れ込みで、
もちろん、どんでん返し系ミステリーではあるんですが、

ひっくり返る衝撃というよりは、
結末の鮮やかさ、オシャレさが際立ってるなという感じ。


特に最後の一行の着地は綺麗。
読者への感謝の一文のように、スッと話を終わらせながらも余韻も出てる。スゴい。

完璧な演技をした体操選手を見てるよう。
選手が綺麗に着地して、それを見た観客が瞬間に歓声をあげる感じ。



あとは、割りと感動系というか心温まる系の物語なんですが、
そういうストーリーにありがちな善意の押し付けがましさがなくて、
控えめなところもお気に入りです。

個人的には『涙の成分比』好きです。


医療ミステリーといっても、専門的なことは殆どないし読みやすいので、
読書初心者はこういう話から入ったら好きになるだろうなとも思うし、

本の虫みたいな人も逆に好きになるような気もする良い本。

第227回 貫井徳郎 『女が死んでいる』
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内容
朝起きたら、知らない女の死体があった――。ひねりと企みに満ちた短篇集。

二日酔いで目覚めた朝、ベッドの横の床に見覚えのない女の死体があった。俺が殺すわけがない。知らない女だ。では誰が殺したのか――?(「女が死んでいる」)表題作他7篇を収録した、企みに満ちた短篇集。



叙述トリック名手による短編集

最近は少年の葛藤や、社会の歪みなど重いテーマを濃厚に描いた作品が多いイメージの作者でしたが、

この短編集では、ストレートで、良い意味でライトにどんでん返しを楽しめる内容を集めた印象です。


表題作『女が死んでいる』
朝起きたら自分の部屋で女が死んでいる、しかも鍵がかかっていて密室。
自分が殺したのか?
という状況にどういう結末が待っているのかとハラハラしながら読んだ。
密室自体はなんてことない方法で作られている話ですが、サスペンスフルなストーリーは一気読みでした。

『二重露出』
店の前に棲みついたホームレスを殺害し山中に埋めたはずが、全く違う場所で死体が発見された。
結末までの混乱がよく描かれていて、論理的にどんでん返し。
本格叙述ミステリーという感じ。


『母性という名の狂気』
一番ダークな雰囲気でストーリーが展開され、
ラストの一言も伏線回収でゾッとするような秀逸な作品。
ところどころの違和感が綺麗に回収されていて、鮮やかに読者を騙します。




最後の『レッツゴー』や『殺人は難しい』など、ある意味コミカルな作品もあり、様々な作風に触れることができる短編集です。 



共通して言えるのは、
すっかりシンプルにどんでん返されたい人にオススメの良作です。


第325回 柳広司 『はじまりの島』

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内容
1835年9月、英国海軍船ビーグル号は本国への帰途ガラパゴス諸島に立ち寄った。真水の調達に向かう船と一時離れ、島に上陸したのは艦長を含む11名。翌日、宣教師の絞殺死体が発見された。犯人は捕鯨船の船長を惨殺し逃亡したスペイン人の銛打ちなのか?若き博物学者ダーウィンが混沌の中から掬い上げたのは、異様な動機と事件の驚くべき全体像だった!本格ミステリの白眉。




『種の起源』を書き、進化論を唱えたことで、
当時の生物観、宗教観、科学観をひっくり返したチャールズ・ダーウィンが進化論を唱えるに至った旅路を、
本格ミステリーにのせて読者に届ける歴史ミステリー。


旅程で降り立った島で起こる連続殺人事件を、ダーウィンが探偵役として解決するという大胆な発想。


登場人物や起こった出来事などは、かなり忠実に守りながらも、フィクション部分は大胆に本格ミステリーの手法を取り入れた傑作。


島にまつわる忌まわしい歴史などから、
怪奇的な雰囲気も醸し出しつつ、
大河小説としてのリアリティを両立させています。


ミステリーの要素にしても、
犯人の動機や周辺人物の心情などを通して、

進化論や異文化の襲来という、今までの自分をつくり上げてきた信条をひっくり返す出来事に直面した際の、

人間の心の崩壊、防衛を上手く取り入れています。


ただ単に、歴史にミステリーを足しただけではなく、

ミステリーというフィクションを通して、
進化論や異文化の襲来という歴史の転換点を
史実、人間の心の両面から抉り出しています。



『進化論』というものが当時のキリスト教文化圏や神を崇拝する文化に住む人々に与えた衝撃、
閉じ籠った狭い生活圏でしか生きてこなかった人々が異文化に接したときの衝撃は、

科学崇拝、グローバリズムが当然の現代の人々、
特に無宗教に近い日本人には理解しがたいところも大きいですが、


この小説はミステリーとして面白いだけでなく、
当時の史実だけでなく、それに巻き込まれた人々の心情を少しだけかもしれませんが、
感じることができる稀有な小説です。


ミステリー、歴史好きは絶対読むべき一冊

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