激オシ小説レビュー・感想

2018年09月

第137回 赤川次郎 『東京零年』

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赤川次郎さんの作品数が膨大であまり読めてないんですが、
『東京零年』はやはり読みやすくて力のある作家さんならではの作品でした。


監視社会や権力の暴走、濫用を批判する内容ですが、そんな重いテーマを踊るような文章でどんどん読ませる力はもはや神業です。

結局こういう「最後に正義は勝つ」的な物語って

やたら登場人物がヒステリックで偽善を感じる(今の野党のアホ議員みたいな)んですけど、

そこらへんの落ち着き具合とか、ストーリーが広がりすぎないところとかベテランの筆致だなと、思います。


『東京零年』というタイトルがカッコ良くて好きなんですが、どんな思いが込められてるんでしょうか……そこが知りたい。



テーマに関しては確かに、権力によって監視を強めたり、故意に冤罪を生むような社会はディストピア中のディストピアだと思います。

現代でもマスコミは権力に(内閣ではない)飼い慣らされてるのでネットは確かに真実を広げるのに有効でしょう。

個人的に現代の左翼とかリベラルはあんまり好きじゃないし、反権力!とか叫んでる人はアホばっかりやと思いますが、

冷静でまともなリベラルや反体制派が育って、権力の監視が、できるような社会になるようにしていかなくてはいけないなと思います。


赤川次郎さんが、

「これは自由の失われた近未来の話ですが、同時に若い人々に 『あなたは未来を変えられる』と呼びかける希望の物語でもあります。」


と帯に書いてらっしゃいましたが、

将来世代に良い国を渡すため、
自分の人生をよりよく生きるために

この作品の登場人物達の活躍が勇気をくれるんじゃないかなと、


そんな希望をくれる作品だと思います。



あらすじ

脳出血で倒れ介護施設に入所している永沢浩介が、TV番組に一瞬だけ映った男を見て発作を起こした。呼び出された娘の亜紀は、たどたどしく喋る父の口から衝撃の一言を聞く。「ゆあさ」―それは昔殺されたはずの男・湯浅道男のことだった。元検察官の父・重治が湯浅の死に関与していた事を知った健司は、真相を解明すべく亜紀とともに動き出す。時は遡り数年前、エリート検察官の重治、反権力ジャーナリストの浩介、その補佐を務める湯浅。圧倒的な権力を武器に時代から人を消した男と消された男がいた―。

第136回 本谷有希子『異類婚姻譚』
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 芥川賞受賞作
前に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』をタイトルに魅せられて読んでみたら面白かったのでこちらも読んでみました。

表題作の『異類婚姻譚』ですが、徐々に夫と顔が似てくる…
夫と同化していくことに違和感と恐怖を感じていく。
そんなよくいう「似た者夫婦」になっていく過程とそれへの反抗をユーモラスに、豊富なメタファーで描いている。
一言でいうと芥川賞らしい「文学的な」作品です。

いろんな暗示が作中に織り込まれていて、さらさらした文章にちょっとずつひっかかりがある、ほっこりした感じを受けました。

何故か最後にオカルトめいたとこもあったり結構「?」が、多い作品なので、苦手な人も多いかもしれないですが。

赤の他人が一緒に生活する上での
"境界線"はどこに、どのくらいあるべきか
夫婦二人が同化していくこと

なんとなくですがわかったようなわからんようなそんな感じですが、文体は好きです。

最近ロジカルな小説ばかり読んでたので、
文学に触れたかなーという、気にさせてもらいました。


あらすじ (Amazonより)

「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」――結婚4年の専業主婦を主人公に、他人同士が一つになる「夫婦」という形式の魔力と違和を、軽妙なユーモアと毒を込めて描く表題作ほか、「藁の夫」など短編3篇を収録。大江健三郎賞、三島由紀夫賞受賞作家の2年半ぶり、待望の最新作

第135回 佐藤究 『QJKJQ』

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第62回江戸川乱歩賞受賞の問題作です。
第63回の乱歩賞は該当作なしだったので最新の受賞作で、ある意味2年間美味しい思いをできている作品です。

選考委員の有栖川有栖さんに「平成のドグラ・マグラ」と言わしめた作品。

ネタバレにならないか心配ですが、
確かに殺人を突き詰め、精神を病んだ人間がいること、登場人物の存在の曖昧さなどはドクラマグラのような雰囲気もあり、つい作者の世界に引き込まれてしまいます。

ただ、かなりドグラマグラと比べるとかなり秩序がある構成で、物語世界の深さという点ではドグラマグラの方がヤバいです。
(長く語り継がれる奇書・傑作なので当たり前ですが)

ただ、秩序がある分『QJKJQ』の方がかなり読みやすいので、こうしたちょっとイカれた小説に触れるには丁度いいかもしれません。

佐藤究さん自身が夢野久作のファンだそう。

作品の異様さやミステリ要素の上手さなどすごい作品を書く人だなと思いました。

とりあえず選考委員の方々の選評の抜粋を載せておきます

(厳しい意見も載せておきます。個人的には『QJKJQ』を読んで大満足だったのでプロの目は厳しいですね笑)


有栖川有栖
・「新しい」という判定を下した
・平成の「ドグラ・マグラ」である。
・受賞作にしたい、と強く思った

池井戸潤
・現実と幻想が交差するストーリーで、その境界線が曖昧なことが読み味なのかもしれない。
・謎解きは肩透かしだ。

今野敏
・『QJKJQ』には興奮した。
・あり得ない設定だが、それを力尽くで読ませる筆力がある。
・殺人そのものを突き詰めることで、人間を見つめている。

辻村深月
・非常に真面目な作品であると感じた。
・すべてが丁寧にまとまりすぎ
・今後が非常に楽しみな作家だ

湊かなえ
・文章がうまく、たくさん張られた伏線もすべて回収されていて見事
・しかし、こういう作品があまり好きではないのです。
・こういった作品が大好きな人はたくさんいるはずです。



こんな感じでした。
池井戸潤さんはあいかわらず厳しい……


【あらすじ】

市野亜李亜(いちのありあ)は十七歳の女子高生。猟奇殺人鬼の一家で育ち、彼女自身もスタッグナイフで人を刺し殺す。猟奇殺人の秘密を共有しながら一家はひっそりと暮らしていたが、ある日、亜李亜は部屋で惨殺された兄を発見する。その直後、母の姿も消える。亜李亜は残った父に疑いの目を向けるが、一家には更なる秘密があった。 

「平成のドグラ・マグラ」 
「ものすごい衝撃を受けた」 
選考委員たちにそう言わしめた、第62回江戸川乱歩賞受賞作。

第134回 春口裕子 『行方』
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ちょっと目を離した隙に…
もしあのときああしていなければ…

そういう偶然が重なって行方不明となってしまった幼女の行方を探す物語…

かと最初は思っていましたが、最終的にはいろんな登場人物の場面が重なりあって、すべての登場人物の行方を描いた物語になっています。

初めは行方不明の女の子とその家族を中心に話は進み、その後時間が進み、行方不明になった女の子と一緒にいた家族、ペンション経営の父娘の場面と展開していって最後に一気に話が収斂していくストーリーです。


正直結末は想定内でしたが、そういうどんでん返し的な要素を期待する話ではないと思います。
結構伏線も多く、最後に回収するミステリー的要素もあります。
犬の気持ちの描写で最後の結末を暗示しているところなんかもあって、それはすごいなと思いました。サラッとしてますけど。
くわしくはネタバレになりますので書きませんが…


行方不明事件から、家族のあり方や人間の条件は行方を素晴らしいストーリーで描いた作品だとおもいます。


あらすじ

あの子がいない――。山口妙子の娘、琴美が行方不明になった。 
パートが長引いて幼稚園のお迎えが遅れ、友達のお母さんが一緒に連れ帰ってくれたのだが……。
公園で遊んでいて琴美だけが忽然といなくなってしまった。 
目撃情報はなく、警察の捜査も行き詰まり――山口家は琴美を捜し続け、行方につながる糸を一本ずつたぐりよせる。 
そしてついにたどりついた真相とは。家族の形を問う衝撃のサスペンス。

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