2019年02月

第168回 多島斗志之 『不思議島』離島を舞台とした幻惑ミステリー

第168回 多島斗志之 『不思議島』


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内容
二之浦ゆり子は青年医師・里見に誘われ、瀬戸内海の小島巡りに同行するが、その際、ひとつの無人島を目にしたことで、過去の悪夢が甦る。彼女は十五年前誘拐され、その島に放置されたことがあるのだ。里見と交際を始めたゆり子は、彼とともに過去の謎と向き合う決意を固めるが、浮かび上がってきたのは驚愕の真実だった。『症例A』の著者が贈る、ドラマとトリックが融合した傑作。


多彩で唯一の作風でカルト的なファンを獲得している多島斗志之氏の長編小説。


離島で暮らす女性の純愛物語と思わせながら、
前半部分を後半で見事にひっくり返すミステリーです。


島に伝わる伝説や、
島民の閉鎖性、
古風な家族システム、
海にかこまれた島々の風景などを

叙情的な文章で描きながら見事なストーリーに書き上げている作品だと思います。


多島氏の作品はミステリー的な構成はもちろんですが、
人物や風景の表現力の豊かさも魅力です。



主人公の心情に入り込み、作品世界に入り込めば入り込むほど
ラストの衝撃は大きくなると思います。


代表作は『症例A』や『黒百合』などになってくると思いますが、
そちらも合わせてこの『不思議島』もオススメです!

第167回 ウィリアム・アイリッシュ 『幻の女』サスペンスの代名詞となる歴史的名作

第167回
ウィリアム・アイリッシュ
『幻の女』

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内容

妻と喧嘩し、あてもなく街をさまよっていた男は、風変りな帽子をかぶった見ず知らずの女に出会う。彼は気晴らしにその女を誘って食事をし、劇場でショーを観て、酒を飲んで別れた。その後、帰宅した男を待っていたのは、絞殺された妻の死体と刑事たちだった! 迫りくる死刑執行の時。彼のアリバイを証明するたった一人の目撃者“幻の女”はいったいどこにいるのか? 最新訳で贈るサスペンスの不朽の名作。



ウィリアム・アイリッシュの代表長編であり、
サスペンスミステリーの傑作である作品



そんな作品を今さらながら読んでみました。



まずは、
サスペンスの詩人と呼ばれるアイリッシュの美しい文章が素晴らしいです。


有名な冒頭文

「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」

最初にこの文章を読んで
クールさに打ちのめされました。

この時点でもうほぼ名作確定です。

翻訳の稲葉明雄氏の能力も凄まじいですが、
原文でも素晴らしいです。
(最新訳は黒原敏行氏)



原文
The night was young, and so was he. But the night was sweet, and he was sour.」


最初のThe night was youngがもうカッコいいですね。



そんな文才に恵まれた作者ですが、

サスペンス的なプロットも時代を超えて愛される素晴らしいものになってます。


霧のように消えた「幻の女」を探す
WHY

じゃあ誰がやったのか?
WHO

じゃあそいつは何故やったのか?
WHY


そんなミステリー的要素を巧妙に隠しながら、伏線を散りばめられています。


いろんな作品に取り上げられる名作なので
必読です。




第166回 森村誠一 『終着駅』社会派で本格なミステリーの傑作

第166回 森村誠一 『終着駅』

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内容
金策のために上京した父の急病死。犯罪の痕跡はなかったが、所持していたはずの三千万円はなぜか消失していた。父の一周忌、上京した慎也は運命の異性と出逢い結婚するが、そのわずか半年後、妻は何者かに殺害されてしまう。慎也は犯人を追うが、妻の死は絡まり合う事件の一端に過ぎなかった―。終着駅・新宿を中心に、無数の夢と欲望が渦を巻く東京で、連続発生する殺人事件に新宿署の牛尾刑事が挑む!本格推理の結晶



森村作品はいくつか読んでいますが、今のところこの作品が一番好きです。


東京の人を惹き付ける魅力と、人を呑み込む残酷さが描かれていて、


少し昔の作品ですが、ミステリーの仕掛けとともに、作品の雰囲気にも魅了される内容になっています。

現在でも圧倒的に人口が集中している東京という大都市は、
様々なひとの憧れになって、終着駅になっているんだなあと切なさ混じりに思いました。


ミステリー的な仕掛けとしては、
黒幕が重なりあって物語に厚みがあり、
ミステリーを読み漁っている読者には多少意外性に欠けるかもしれませんが、


森村誠一が描く社会性や人間模様に惹き付けられることは間違いないです!



角川文庫新装版では記念作品の
『オアシスのかぐや姫』
という短編もついてますのでオススメです。



第165回 北村薫 『街の灯』昭和初期を舞台にした上流本格ミステリー

第165回 北村薫 『街の灯』

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内容
昭和七年、士族出身の上流家庭・花村家にやってきた女性運転手別宮みつ子。令嬢の英子はサッカレーの『虚栄の市』のヒロインにちなみ、彼女をベッキーさんと呼ぶ。新聞に載った変死事件の謎を解く「虚栄の市」、英子の兄を悩ませる暗号の謎「銀座八丁」、映写会上映中の同席者の死を推理する「街の灯」の三篇を収録。



日常の謎解きを得意とした北村薫さんのシリーズ短編一作目。


前時代的な階級や家柄などの慣習が色濃く残る、昭和初期の上流階級を描いたミステリー。

主人公の花村英子もそんな上流階級に属する社長令嬢。


そこに運転手としてやってくる、当時では珍しい女性運転手、別宮みつ子。


このふたりがメインとなって謎解きをしていきます。


本作は

『虚栄の市』
『銀座八丁』
『街の灯』

の三篇が収められています。


個人的には
英子が別宮と出会うシーンや暗号ミステリの要素を含んだ『虚栄の市』がお気に入りです。

主人公が貧しい人々を見て、嘆くシーンなどがありますが、
昭和初期の社会の暗さや、閉塞感、危機感などが上品に描かれています。



舞台設定によって、北村薫さんの良さが存分に出ている作品だと思いますので、
初めて北村作品を読む方や、
他の作品を読んで、面白かった人も
どちらも楽しめる作品だと思います。


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