こちら極東基地

私的探偵小説読書録。

1985〜1989

『しあわせの書 迷探偵ヨギ・ガンジーの心霊術』 著:泡坂妻夫

 新潮文庫『しあわせの書 迷探偵ヨギ・ガンジーの心霊術』

 二代目教祖の継承問題で揺れる宗教団体・惟霊講会。一方、超能力を見込まれて失踪した信者の行方を追うこととなったガンジー。ガンジーはその過程で布教用小冊子「しあわせの書」に出会う。さらに惟霊講会に踏み込んだガンジーは初代教祖より二名にまで絞り込んだ候補者から二代目教祖選出する助力を求められる……。

 泡坂妻夫は「DL2号機事件」で第一回幻影城新人賞に佳作入選しデビュー。その後『乱れからくり』で日本推理作家協会賞を授賞。逆説的な作風から「日本のチェスタトン」とも呼ばれている。『しあわせの書 〜』は1987年に発表された書下ろし長編である。

 ヨガを主としながらも宗教家として様々な宗教に精通し、時に応じてヨガ以外で金稼ぎを行う飄々としたヨギ・ガンジーというキャラクター。そのガンジーを師と仰ぎともに旅をする と 。魅力的なキャラクターにより話は展開する。話の中心となる新興宗教の継承問題とガンジーたちとの関わりなど、人物設定から話の展開にいたるまでリアルというものは全く無視されたライトな物語となっている。作中の謎、そして謎の解決も思わず微笑ましく感じてしまうほどである。

 この作品に限らず泡坂氏の『亜愛一郎シリーズ』にも見られるようにライトな作風が氏の特徴の一つといってしまえばそこまでであるが、この作品に限っては真の真相に読後の衝撃を集中させるための手段であるように感じられる。

 あの一文でひっくり返された、最後の一文が衝撃だった、という作品は決して少なくはないが、マジシャンとしての顔も持つ泡坂氏がこの作品のトリックは最後のガンジーのセリフを下に実験を行い改めて驚かされる文章を超越した作品である。このような驚かされ方をする作品は二つとしてないものである。

『そして扉が閉ざされた』 著:岡嶋二人

 講談社文庫『そして扉が閉ざされた』

 地下シェルターに閉じ込められた4人の男女。彼らを閉じ込めた犯人が4人に共通するある女性の母親であると気づいたとき、女性が変死事件の推理が始まった。4人の記憶の果てに導き出される事件の真相とは……。

 岡嶋二人は井上泉(現PN:井上夢人)と徳山諄一コンビのペンネーム。昭和五十七(1982)年『焦茶色のパステル』で第28回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。コンビは平成元(1989)年解消され、現在井上泉が井上夢人として執筆活動を続けている。『そして扉が閉ざされた』は1987年に発表された。

 この作品は過去の回想と現実の推理という二つのパートに分かれる。他人に見えることのない過去の記憶が謎と行動を起こさなければ死という精神的圧迫がキャラクターの人間関係の対立・疑心暗鬼などを呼び込むと同時に、推理を楽しむ読者も全てのキャラクターが怪しく感じられる。また無機質なシェルターでの時間の経過がスリルを感じさせる。これらの要素が地下シェルターという大きな動きができない環境ながら飽きさせず読ませる面白さを含んでいる。

 「人さらいの岡嶋」と揶揄されるほど誘拐を題材に扱うことが多かったが、この作品では本格推理小説として一つのトリックに焦点が置かれている。『そして扉が閉ざされた』のテーマ及びメッセージは井上泉が推理小説に用いられる、あるトリックに対する疑問であったようで、その疑問に対する答えがこの作品に込められている(※1)。その成果か、この作品は一風かわった結末を見せている。

 思わず読み返してしまう衝撃。一度堪能あれ。


(1)講談社文庫『おかしな二人 岡嶋二人盛衰記』著:井上夢人
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