無医村の状態が続いていた岩手県鷲尻村にやってきた医師・滝本志門。彼の着任以後立て続けに発生する殺人事件。殺害された遺体はどれも異様な姿をして発見される。村が猟奇殺人事件に恐怖に怯える中、追い討ちをかけるように人食い熊が出現。村はパニックに陥る……。

 平成十九(2007)年の第27回横溝正史ミステリ大賞大賞受賞作にして大村友貴美のデビュー作である。単行本発売時の帯に「新世紀の横溝正史」との旨で煽られたことから話題となった作品である。

 表紙を開いて数ページ、冒頭から血にまみれた死体が姿を現す。ショッキングな内容で読者を迎え入れる『首挽村の殺人』は、「これが、21世紀の横溝正史だ」という煽りがストレートに感じられるほど横溝正史テイストに溢れた作品である。村に隠された伝説、異様な姿で発見される遺体、殺人事件の進行と同時に発生する混乱、外からやってきた人間に心を開かない村人などなど横溝正史作品でいえば『獄門島』や『八つ墓村』という有名作をイメージしてもらえばいいだろうか。これまで多く横溝正史のパロディやオマージュとした作品が世に送り出されてきたが、この作品は最も横溝テイストに固執しているといっていいだろう。もっとも横溝テイストといっても地方を扱うときの横溝正史であるが。

 しかし単に横溝正史に影響を受けた作品というわけではない。選評で綾辻行人が、

「過疎化や少子高齢化、市町村合併、自然破壊などの問題にあえぐ東北の寒村のしごく今日的な現実が、語り継がれる村の陰惨な歴史と妙に生々しく響きあう感じが、「単に『いかにも』な横溝的世界を現代に表現してみました」というレベルを超えた面白さにつながっている」

と述べている。しかし、この綾辻行人の指摘は適当ではないだろう。横溝的世界を一般に植えつけられている寒村・集落という一面だけ捉えていることを置いておくとしても、横溝正史も作品に設定した年代とその当時の社会情勢を意識していたことは作品に目を通せばわかることである。

 この作品で評価すべき点は、閉鎖的な社会(村・集落)で発生する事件の根源者(犯人)に新たなポジションを見出したことであろう。多くを語るとネタバレになりかねないので控えるが、少なくとも横溝正史は作品で用いてはいない犯人像である。この一点は横溝正史を意識していると唸らせられるポイントであろう。

 尚、平成二十(2008)年8月著者の第二作「死墓島の殺人」が発売されている。