fb785b75







1: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 17:05:02 ID:boktaoc.



「……最近雨ばっかだな」


「そうだね」


「明日までたっぷり降るんだとよ」


「もう梅雨だからね。……それか京ちゃんが雨男か」


「ざけんな」




午後5時、部室。

京ちゃんと私は何をするでもなく、ただ部室で雨音を聞いている。

雨足が更に強まる前に……と他の4人は先に帰っていったけど、なんだか私は帰る気にならない。
それはどうやら彼も同じようだ。



「……俺、雨ってあんま好きじゃないんだよな」


「そう?」


「だって濡れるし」


「……そりゃそうでしょ」



小学生みたいな理由を真顔で述べる彼に苦笑しながら、読みかけの本を開いて栞を抜く。




6: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 17:26:14 ID:ZBMrv2YI

あぁ…気持ちえぇ……京咲で満足できそうじゃ……




8: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 17:36:09 ID:boktaoc.




「……私は結構好きだよ、雨」



活字に目を走らせながら呟いた。



「こうして雨の音を聞きながら本読むの、好きだよ」



「咲はインドアだからなー」と椅子に座る京ちゃんを「何か文句ある?」と言わんばかりに睨んだ。

ははは…と困ったように笑い頭を掻く彼をしばらく眺めてから読書に戻る。


……本当は他にも理由があるんだけど。








「…………」



「…………」








時計の秒針と、雨音と、ページを捲る音。

どれも些細な音だけど……今この部室で彼と2人で共有していると思うと、何だか心地いい。




13: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 17:51:43 ID:boktaoc.



「…………」



ちら、と京ちゃんに目をやった。
明らかに暇そうな表情で椅子に座り、座席をくるくる回している。

ホント子どもなんだから……と眉を寄せる私を見て、京ちゃんはガタッと椅子から立ち上がった。



「おい何見てんだ! やる気か!?」


「な、何でもないよ! 何でもないから大人しく座ってて!」



手をわきわきさせて近づいてくる彼から身を守るように本を盾にする。

ったく……と呟いてまた椅子に座るのを見て、ふぅ…と一息。
少しだけ乱れた前髪を整えて読書を再開する。


なんとなくまだ彼からの視線を感じるけど気のせいだろう。






……えぇっと、どこまで読んだっけ。



.
17: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 18:51:40 ID:boktaoc.










「…………あ」



暫くして、彼は不意に呟いた。



「どうしたの?」



本を閉じて京ちゃんに向き直ると、彼は窓を指して「雨、弱くなって来たぞ」と言った。



「……あぁ、ホントだ」



確かにさっきまでの大粒な雨とは打って変わって霧雨になってきているようだ。

これなら……



「これならもう少しで止むかもな」



待った甲斐があったぜとニカッと笑う京ちゃん。

そんな彼を見て、私は本を鞄にしまう。





「ね、ねぇ、京ちゃん」


「ん?」


「……そろそろ帰らない?」




19: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 19:19:36 ID:boktaoc.



「……え? なんで?」


「そ、それは……」


「もうすぐ止みそうなんだし待ってた方が無難じゃね?」


「そう……なんだけど……」



明らかにぽかーんとして首を傾げる京ちゃん。



「……ほら、待ってても止む保証ないでしょ?」


「まぁそりゃそうだけど……でもこれ明らかに止みそうじゃね?」


「……い、いいから! 帰るよ!」



流石に無理がある。ていうか無理だらけだ。
我ながら言い訳の下手さにため息が出る。



「……へいへい。ワガママなお姫様だな」


「う、うるさいなぁ……」



.
22: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 20:17:00 ID:boktaoc.






ツカツカツカツカ…



2人の足音だけが廊下に響く。





「……なぁ、咲ー」


「なに」


「歩くの速くねー?」


「そ、そんなことないよっ」


「いやスゲー速いぞ」


「きょ、京ちゃんが遅いんだよ! 早くしないと止んじゃうよ!」


「……え?」


「……あっ」




あっ




「……『止んじゃう』? 止んだ方が良いだろ?」


「あ……う……」



足を止めた私を横から覗き込んでくる京ちゃんに「な、何でもないよ!」と返し、
そっぽ向いて再び歩き出す。

すぐ足音が追い掛けてきたのを確認して何故か妙にホッとしながら、私は足を早めた。




24: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 20:34:03 ID:boktaoc.





「……おぉ、やっぱ大分弱まってんな」


「そうだね」



下駄箱で靴を履き替えてから同時に空を見上げた。



「これなら傘要らないかもな」


「そ、それはだめだよ!」


「え? なんでだよ」


「まだ少しは降ってるんだから風邪引いちゃうじゃない」


「俺は咲と違ってアウトドアだからな、身体の鍛え方も


「ほ、ほら! 早く行こっ」



「ったく、最後まで言わせろよな……」と愚痴りながら京ちゃんは渋々私に付いてくる。




26: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 20:52:22 ID:boktaoc.



「……あ」



すると、また不意に彼が呟いた。



「なに、どうしたの?」


「教室に傘置いてきちまった。ちっと取ってくるわ」



そう言って踵を返した彼の背中に、蚊の鳴くような声で囁きかける。



「……要らない、でしょ」


「へ?」



振り向きながら素っ頓狂な声を出す京ちゃん。

そんな彼に返事のつもりで黄色の折り畳み傘を「……ん」と突き出した。

顔を背けてるので京ちゃんの顔は見えない。



でも……




「……はいよ」




口調はちょっと雑だけど、何も聞かずに京ちゃんは傘を受け取って隣に並んでくれる。





「…………ふふっ」





だから、私は雨が好きだ。



.
28: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 20:54:44 ID:boktaoc.

(終わり)
どうせ両想いなんだよなぁ…




27: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 20:53:49 ID:I8zuwB02

優しい愛しい




30: 名前なんか必要ねぇんだよ! :2018/06/10(日) 20:56:40 ID:AfSw0p7U

京咲は青春






https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20196/1528617902/







クイズじゃないのは久しぶりですね






このエントリーをはてなブックマークに追加