オリジナルの小説(短篇)を載せています。 マニアック派ホラー、ミステリなど。実験小説『ちょっと猟奇的な一家とその飼い猫の記録』不定期連載中。





閲覧いただきありがとうございます。

気まぐれに小説(短篇)を載せています。

いろいろ書きますが、ホラーが主流となります。あしからず。

アーカイブがごちゃごちゃしているので、{
目次}を用意しています。大体の作品はそこから飛べます。どうぞご利用ください。


*作品の無断転載を一切禁止しています。







○ホラー

 管理人の主力です。
 一部にマニアック要素を含みます。苦手な方はご注意ください。



○ミステリ

 ホラーに分類するか迷ったものは、こちらにカテゴライズしています。



○ちょっと猟奇的な一家とその飼い猫の記録。 /連載中

 基本はコメディ。たまに特別篇が登場します。



○その他

 幻想を紡ぎます。


b









『犬』

 
         9


『記憶』

     


『城』

   


『ベルの音が…』

 


『にごり』

     


『いらないもの』

    


『忌祭』

      


『削除してよろしいですか

   


『よじれる』(記念小説)




『仔虫奇譚』

     



『におい』

 


『錯綜』

   


『魅惑のパスタ』(記念小説)




『いびつな…』

       


『譫妄』

1


『アスファルト、或いは…』(公開停止中)

     


『恐怖症』

      


『冀望』




違和感』




『滅裂』

   


『幻想映画館』





c



『霧の街』

         10

11 12


『怖い家』

第一の場所
       

決裂の場所
  


d










S病棟の怪(実話怪談)
 
 

久しぶりの更新となってしまいました。
タイトル通り、内容は滅裂となっています。どうぞ…お楽しみください。




滅裂 -4






 布団を跳ね除けると同時に、枕元のスマートフォンを耳に押し当てていた。

 べったりとした汗が体中に滲み、呼吸は異様に乱れている。スマートフォンは押し黙ったまま、何の音も吐き出してはいない。あれ、と思い、端末を耳から離しながら音にじっと耳を傾けていると、不意にそれが通話の着信音ではなく単に時計のアラーム音だと気付いた。一瞬の逡巡。瞬きとともに、汗が睫毛を伝って、滑り落ちた。寝ぼけた脳が、ゆっくりと現実を取り戻してゆく……。

 アラーム音を切り、何をするわけでもなく、しばらくベッドの上でじっとしていると、鈴の音が鳴り響いた。

 治まり掛けていた動悸が、途端にぶり返す。端末の画面を見ると、通話着信の文字が表示されていた。今度は幻聴でも、気のせいでもない。

 滴る汗をそのままに指先を画面に当てると、そっと耳に当てた。

『ワタシは、……が食べたい。あなたは?』

「………」

 聞き慣れた声だな、とも、初めて聞く声だな、とも思った。

 何の言葉も、口からは出て来ない。思考は停止したまま、激しい動悸だけが、己の体を揺さぶっている。

 声は、続けた。

『……あなたの中の…主人は死んだ。残っているのは……奴隷のみ』

『あなたは…あなた。あなたは……誰?』

『両者は統一されないまま、並列している……。けれど、それは、違う。違う。違う、違う……』

『矛盾と……対立』

『あなたは…あなた。ワタシは……誰』

『……あなたは』一瞬、声のトーンが、わずかに変わったように思えた。『……あなた自身を、死に追いやった。気付いてる?気付いていない……』

『対立している、君は。対立してはいけない。対立と、矛盾……』

『ワタシは、……が食べたい』

「………」

『両者は、君の中にある。あるけれど、ない…』

「……。……もう……やめてくれ」

しばらく黙って声に耳を傾けていたが、ようやく博は溜息のような言葉を発した。「やめろよ……」

『矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、矛盾、』

「――――やめてくれ!!」

 何かよく解らないが、堪えきれなくなって、気付けば端末を投げ飛ばし、画面を覗き込めば着信は切れていた。

 もはや通話の相手が誰であるかはどうでもよかった。ただ、会話はやはり会話にならず、意味の通じぬやり取りをすることに、頭は疲れ切っていた。

 再び鈴の音が鳴ったことに、新たな汗が滲み出る。躊躇ってから、ラグの上にひっくり返った端末をのろのろと拾い上げると、誤って指先が画面に触れてしまったのか、途端にスピーカーからぼそぼそした声が聞こえ出した。

『…ど………大丈夫?』

 声を聞いた瞬間、深い安堵にも似た気持ちが、さざ波のように凍った心に広がってゆくのを感じた。

 先生、と発しようとして、しかし思うように口を利けず、黙っていると、電話の声は穏やかな調子で続けた。

『……ボクの所に、例の電話が掛かって来た。それで…君に、ちょっと聞きたいことがあるんだ。何がどう関係しているのか、何ともわからないんだけど――……君、〈十一〉という番号に、心当たりはある……?』

 軽い目眩を覚えた。何かが映像となって、フラッシュバックした。

 焼け付くようなアスファルト。喧しい蝉の鳴き声に混じり合う、子供の笑い声。錆びた鉄の臭い。記号とも番号ともつかない文字……。これは………現実とも、悪夢ともつかぬ記憶の片鱗……。

『あ、それから……』低い咳払いが一つ、聞こえた。『電話の内容について、少し解ったことがある。いや或いは、思い出したと言った方がいいのかもしれないが――一つに、〈君は、君自身を、死に追いやった…〉……この言葉について――』

「………すでに…僕は死んでいるってことですか」

 堪らず博は口を挟んだ。「僕は死んでいるんですか」

『…そうじゃない。これは…』

「じゃあ、比喩なんですか」

『………違う。違うんだ。君……ヘーゲルを知っているか?』

 突然の問いに、博は一旦口を噤んでから、再び口を開いた。

「……いえ、知りません」

『……そうか。…例の電話の発言の中に、こんな言葉も含まれていた。……〈ワタシの中の主人は死んだ。残っているのは、奴隷のみ〉…。……一見意味不明にも聞こえるが、ヘーゲル哲学を用いるなら――〈主人〉というのは自存の自己意識を表し、〈奴隷〉というのは欲望の自己意識を示している――…つまり簡訳すると、〈理性に欲望が勝った〉というものになる。そして、〈君は、君自身を死に追いやった〉……これを訳すと――』電話の向こうで、再び咳払いが聞こえた。『……〈君自身〉とは、恐らく〈主人〉のことを示している。〈主人〉とは〈理性〉の意味――厳密には違うが――だ。…いいか、要するに……〈君は、君自身で理性を手放した〉……こういう意になる』

「……じゃ…じゃあ…」死んだような貌をしながら、博は必死に、声に耳を傾けた。「〈ワタシは……が食べたい〉というのは……?」

『……いいか。〈主人〉と〈奴隷〉――つまり、〈理性〉と〈欲望〉の関係――は、互いに交じり合うことなく、並列して存在しているんだ。両者は常に闘い合い、結末としては、必ず一方が生き残り、一方が死ななければならない。必ず……。……〈食べたい〉というのは、〈欲望〉の自己意識だ。〈食べるのか〉〈食べないのか〉――〈主人〉と〈奴隷〉は闘い合い、結論として――』

「…で、でも……だから…何なんですか?電話の主は、要するに、一体何を言いたいんですか?…」

『あの電話の内容は、君に宛てられたもの……それを前提とするなら――』気のせいか、声の中にわずかなノイズが混じったような気がした。『君は今、君の中の〈奴隷〉と闘っている………単純な解釈だけど、単にそんな意を表しているのかもしれない』

「………〈奴隷〉と、闘う……」

 主人と奴隷……。

 さあ……食べるのか……食べないのか……。

 混乱する頭で考え込みながら、端末を強く耳に押し付けていると、次第に鼓膜に当たるノイズ音が激しくなった。

『……君は一体、何をそんなに葛藤しているんだ?』

「…えっ?」

 思わず、俯いていた顔を上げていた。

 質問の内容に戸惑っただけではない。声の中に、何か他の音が混じったような気がした。

「…ど……どういう意味…ですか…」

『〈主人〉と〈奴隷〉は、心の葛藤なくして存在し得ない。君は今……何に苦しんでいるんだ?』

 声は、淡々としていた。

 途端に何かが込み上げそうになって、慌てて博は深く息を吸い込んだ。

「………あ…」

博はふと、気が付いたように言った。「でも……どうして……その電話が、僕だけでなく……先生の所に掛かってくるんですか…?」

『それは……』

ふふ、と、なぜか電話の向こうで、声の主が嗤ったような気がした。

『……それは、君がよく知っているんじゃないか?』

(続く)
お願い
{はじめに}をご一読ください。
Profile
author: 古石

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いろいろなものを書きます。
ホラーが主力。