主に短篇小説を書いています。 グロテスクホラー、ミステリなど。幻想、絶望に浸りたい時に。ほか、実験小説『クズ家』不定期連載中。


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『幻想映画館』




『記憶』

     


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『犬』

 
         9


『城』

   


『にごり』

     



『削除してよろしいですか

   



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『Ivy』

 


『空っぽの…』

  




c



『ぼっこれ』

   




『霧の街』


d










S病棟の怪(実話怪談)
 
 





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ホラー短篇小説を中心に文章を書いています。他、ミステリなど。

サイトのおおまかな作風の雰囲気を掴んでいただくには、「Ivy」を一読していただくのが早いかと思います。

基本的に希望ある物語は描きません。どうぞ纏わるような闇をお愉しみください。

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……書いてる人……

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悪夢を愉しんでいただこうと色々試行錯誤していますが、如何せんすべては夢幻なもので、何がどうなっているのかいないのか、それすらよくわかっていません。
密かに某ミステリ新人賞選考通過歴などありますが、特に何もできない人間です。
最近ではサンシャイン池崎の「イエェェェイ!」がどうにも耳から離れないでいます。









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 耶麻郡が発足されたのは、明治初期を幾何か過ぎてからのことであった。

 幕末期には陸奥国に属していたもので、明治元年の会津戦争の後、岩代国の支配下となった。その後、正式に福島県の管轄となったのは明治九年のことであり、さらに二百以上あった村の数が二町三十四村にまで統合されたのは、市制、町村制が施行された二十二年以後になってからのことである。

 一説には、当時、北山村と磐梯村の間に茅部村は存在するとされており――また、それは現在の北塩原村と磐梯町に値するものである――しかし、この時点での記録に茅部村の存在は含まれておらず、よって少なくとも明治期の後半までは、〈存在しているが存在のない村〉、または〈稗官の村〉とその存在を囁かれることもあった。

 明治後期から昭和初期にかけて編纂された会津の郷土誌には、〈オマネキチョウ〉という言葉がちらほら出て来るようになり、それが厳密にどの町、村を指しているのかは書かれていぬものの、中にはしっかりと〈耶麻郡に位置する北塩原と磐梯の中間の町〉という記述が成されており、そのことから、それが〈茅部村〉を表していることを導き出すことは実に容易である。

 ただ〈オマネキチョウ〉の言葉は、明治後期というよりは主に大正から昭和にかけて頻繁に出て来るようになったものであり、またその真意についてはこう述べてある。〈………気付いたのだ。何故かは知らぬが、この町に入る者の姿はあっても、出て行く者の姿は一向に見ぬ。依然として町人の数も変わらぬ、不自然にして畢竟の如く。招かれる者、招かれてはいけぬ。身を捧げよ、総ては招かれざる者として。……〉

 さらには、年号を後に移した昭和初期から平成初期にかけてのデータには、〈オマネキチョウ〉は明らかに〈お招き町〉という漢字表記に変わっており、またこの了見についてはこうである。〈………昭和三十一年七月、耶麻郡の山中と一部家屋から複数の死体が見つかった事件については、未だ謎に包まれている。捜査官(F.K)の証言によれば、殺人事件との見方を強めるも、実況の不可解さともに証拠不十分の為、死因はウェルテル催眠効果による自殺の連鎖行為――集団自殺であると断定。さらにいまさらながらに遡ってみれば、これと同筋と見られる事件が同郡、明治、大正期にすでに数件発生しており、その際には事件ではなく、橋崩れや自然火災に於ける事故であると決着しているようであるが、いまとなってはその真相も確かではない。というのも、〈不可解さが残る。現時点に於いて、築年数に関して問題はなく、橋は、震災か、人的に手を加えなければ決して壊れることのない強度である〉という専門家の供述をまったく無視して結論付けたものであり、よってわずかにも捜査の杜撰さを否めず。猶奇怪なことに、土地について郡の統計によると、茅部村は来訪者、移住者ともに多少あるに関わらず、町内の人数が常に一定に保たれていることが判明している。これが意味するものを推測するのは容易いが、総てはまったくの御伽である。一つの結論が粗慢であるように、他一つもまた迷妄である。……〉

 

「蛇の臭い……で、少し与太話を思い出してね。京樂は亡くなる直前と、その前に数度、耶麻郡のある村に出向いているだろう?その村について……」

 よく陽の当たる明るい縁側で、二人並んで腰掛けながら、なぜか衣黒は鼻声だった。

 すぐ背後に、閉じられた襖戸の隙間から、暗い居間の空間が見えている。同じ家の中であるのに、まるで対照的である。

「風邪、ですか」

「ああ。いや。わからない」

 わからない、と言いながら衣黒は乾いた鼻を啜った。

「茅部村…のことですか?」

「そう、そう」

「与太話って」

「うん。君……この地方に少しでも関連があるのなら、ほうほうさんって知ってる?」

「……どうしようもない?」

「ウン?」

「ほうほうね……で、仕方ない、とか、そういうニュアンスで使うことがあるんです。ここでは…」

「ああ、そうなの?やはり福島の言葉なのか」

「この地方の、会津弁です」

「なるほど」

 頷きながら衣黒は、脇に置いていた鞄の中から一冊の資料本を取り出した。

「何ですか?」

「うん、これが実の分野でね。この本の内容に関する情報の大部分は、俺が編纂したものなんだ」

「……そう、なんですか。ぼっこれ。これが、タイトルなんですか?」

「中身は、各地の民間信仰、風習を収集分析したものになっている。タイトルは、その中の一部から取ったものなんだ。東北のある地方にいまも根付く、信仰に纏わる――」

「東北の、ある地方?…」

「ああ。会津のほんの一部にしか、その信仰は存在しない…」

「…まさか、茅部村?」

「そう…」

 そのまさか、と言って、にやりと衣黒は顔を歪めた。

「そもそも……ぼっこれ……って、どういう意味なんですか…?」

「さあ。元々、東北の一部で方言として使われている言葉のようだけど、この場合の厳密な意味はわかっていない。ただあの村で、そのワードが信仰絡みで使われていることは確実で、察するに、ほぼ間違いなく名詞として――それも何かの呼称として、使用されていると考えられるが…」

「……はあ。でも……そのことが、何か?」

「何がどう関連しているのかは、俺にもよくわからない。そもそも初めから、すべては何も関連していないのかもしれない。ただ言えるのは、生前、京樂が確かに踏み入れた土地であるということ――」

「………何が、言いたいんです?」

「いいかい、これは与太話だよ」

前置きして本のページを示しながら、衣黒は続けた。「茅部村では昔から蛇信仰が根付いていて、村の繁栄を祈るとともに生贄を捧げる習わしがあった。祭神である蛇はほうほうさんと呼ばれていて、この村がお招き町と呼ばれる真の由来は、恐らくはこの信仰が元となっている。推測すると、〈お招き〉とは〈蛇神の為に生贄となる人間がこの村に招かれる〉という意味で、これは厳密には既存の郷土資料とは一風異なる見方にはなるが、現代に於いてもこの風習が続いているのは確かで、けれどそれは飽くまで信仰の表面上のものだ。その根の部分は未だ謎に包まれている。……」

「……いや…まさか。この時代に生贄なんて…」

「と言っても、君の想像する生贄とは、大分異なるものだろう。信仰は、時代とともにその形態を変えて根付くものだから。けれど本質は変わらない。つまり裏を返せば、一見すれば信仰でも何でもなく、知らぬ者の目には単なる事象の一つにしか見えない可能性が十分にあるということだ」

(……噂だよ……。噂じゃあ、お招きを受けた人間は……)

 なぜか慎の脳裏に、名も知らぬ駅員の声が蘇った。

 粘つく喉で、唾液を飲み込んだ。

「……そ…それで……」

「ああ。取り敢えずは――茅部村で発生した記録に残る死亡事故について、少し調べてみようと思う」

「……えっ…?」

 思わず思考を固まらせていると、分担しよう、と衣黒は言った。

「君にも一つ頼みたい。例の不良品を見つけ出して欲しいんだ。彼の部屋に関しては、君の方が随分詳しいだろうから」

 ようやく、言わんとする意図を呑み込んだ。

 出掛かった、まさか、という言葉は、すでに言葉にならなかった。

「茅部村の事故が……父の死と、何か関係があると…?」

 その首は頷かなかった。

「…衣黒さん……」

「……臭いだよ。臭い」

「…に…におい?」

 蛇の、と言いながら、衣黒は人差し指をぐにょぐにょとくねらせた。

 どこか茶化したようなその貌を、慎はただ見つめるしかできない。

「言っただろう。与太話だって」

(続く)


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