2009年08月02日
ナタルは未来のゲーム入力機器となりえるか
■はじめに
・MS、Xbox最新ゲームや新コントローラ「Project Natal」発表--E3 2009プレスカンファレンス
・“Project Natal”はハードの枠を超えた取り組み
・ナタル動画1
・ナタル動画2
上記のURLにある記事や動画を見てみるとナタルは大きな可能性を持つゲーム入力機器であることが分かる。ナタルを用いれば既存のゲームパッドやWiiなどでは不可能な操作が可能であり、ゲームの幅が大きく広がることは間違いないだろう。
しかし、この可能性は既存のゲーム入力機器が持つ重要な機能を無視することで成り立っている。これはゲーム入力機器としては致命的なことである。残念なことに上記のURLにある記事や動画からはこの機能を補完するようなものを探すことはできなかった。今回は良い機会なのでゲームの入力機器が持つ機能を省みつつ、ナタルの可能性について考えてみたい。
■ゲーム入力機器の持つ機能とは
ゲーム入力機器が持つ最も重要な役割は「プレイヤーの意志をゲーム機本体に伝えること」である。これは誰もが知る役割だ。そして、もう1つの役割は「ゲームの選択肢を明確に提示すること」である。これは少し説明が必要だろう。
ゲームによってプレイヤーがゲーム内で行う行動や操作方法は異なる。同じアクションゲームでも、敵を倒す方法がマリオなら敵の上に乗っかるというアクションだが、ロックマンなら弾を相手に目掛けて撃つといった具合である。当然、(マニュアルを読まずに)ゲームを始めたばかりのプレイヤーはこのことを知らない。ではプレイヤーキャラクターがどのような行動を行うか知らなければゲームが進められないかといえばそうでない。むしろそんなことを憂慮することのほうがバカバカしいほどゲームは簡単に進められることはゲームをプレイしたことがある人なら誰でも知っていることだろう。そう、とりあえずボタンを押しさえすれば、ゲームは進行させることができる。実はこのなんでもないようなことがゲーム入力機器が持つ2つめの重要な役割なのである。
とりあえずボタンを押しさせすれば、ゲームを進行させることができる。初めてのゲームをプレイするということはプレイヤーにとって未知の世界に踏み込むようなものだ。そんなプレイヤーに臆すことなくゲームを進めてもらうためのモチベーションをこの安心感が与えている。もし、この安心感が無ければ、例えば押しても反応しないボタンがあったり、ゲームを進行させるには非常に複雑な操作が必要でまずプレイヤーはその操作を手探りで探さなければならないとしたら、プレイヤーが手軽にゲームに挑戦する気になるだろうか?
■ゲーム入力機器に対するメーカーの配慮
上記のような安心感をプレイヤーに与えるためにゲームメーカーはそれなりの配慮を行っている。まずはどのボタンを押しても何かの形でレスポンス(ゲームの進行)をさせるようにしている。ボタンがあまったのでキャラクターのアクションを新たに追加してその穴を埋めるといったソフトも存在するだろう。重要なのは押しても反応しない操作を作らないことである。
また、より早く操作を覚えてもらうための配慮も存在する。簡単に説明すれば、使用する頻度の高いアクションには使用頻度の高いボタンに割り振り、使用頻度が少ないアクションには使いづらいボタンや複数のボタンを組み合わせにするなどの配慮がなされている。プレイステーション(以下、PS)のパッドなら×ボタンが最も押しやすいのでこのボタンに最も使用頻度が高くなるアクションを割り振る。そして次に重要なアクションなら□や○ボタン、特定の状況下でしか使用しないようなアクションならRやL系のボタンや十字キーと○、×ボタンの組み合わせにするなどの配慮が有効である。これらの配慮がどのゲームでも的確にできていれば(実際できているわけだが)慣れたプレイヤーは初めてのゲームでもゲームの進行する上で重要な操作をある程度推測することが可能となり、より安心感を与えることができるといえる。
■ナタルの持つデメリット
ナタルが無視している機能とはまさに上記の「安心感に関わる機能」である。
例えば、下の画像を見てもらおう。これはナタルで格闘ゲームを始めようとしている画面である。プレイヤーの男の子はカメラに向かってファイティングポーズをとっている。どうやらこのポーズが既存のゲームパッドでいうところのスタートボタンにあたるらしい。しかし、そのような操作をマニュアルを読まずにどうやって伝えるのだろうか?

もう1つの画像はレースゲームである。車を操作するのは女の子。その車がピットインした瞬間、父親らしき男性が画面の前に乗り出してタイヤの交換をしだした。しかしゲームの進行にタイヤ交換があることやタイヤ交換に必要な操作はゲーム画面を見ただけでは分からない。

最後に、怪獣を操作して街を破壊するゲーム。画面内で口を大きく開けて口からブレスを吐き出させているが、これもゲーム画面を見ただけではこの怪獣キャラが口からブレスを吐くアクションを持っていることも、その操作方法が口を大きく開けることであることも分からないはずだ。もしこれが既存のゲームパッドであれば、何気にプレイヤーが△ボタンを押したときに怪獣キャラが口からブレスを吐くことでプレイヤーは怪獣キャラのアクションと操作方法を理解することが可能となる。

以上のように、ナタルでは既存のゲーム入力機器を重要な役割を無視したままになっている。このことをマイクロソフト側が理解しているのかどうかは定かでは無いが、少なくともナタルを発売するまでにはクリアしておかなければならない非常に深刻な問題点といえるだろう。
■ナタルの持つメリット
冒頭でナタルは大きな可能性を秘めていると書いた。それは既存のゲームパッドやWiiでは到底不可能なことがナタルでは可能であるからだ。
それを端的に示しているのが下の画像である。

この画像ではプレイヤーの男の子が手前から飛んでくるものを手や足を使って叩き落とすというゲームに興じている。このゲームでは一度に複数のボールが飛んでくるわけだが、ナタルでは左上のボールを左手で、右下のボールは右足で一度に叩き落とすことが可能である。これがスゲー。これこそ既存のゲームパッドやWiiでは不可能でナタルでしかできない操作だ。
既存のゲーム入力機器はファミコンのパッドの発明以来、基本的に十字キー+ボタンの組み合わせが主流なっている。この方式のメリットは非常に汎用性が高いことにあるのだが、そのため1つのものしか動かすことができない。1つの目的に対して1つの操作しかできないということである。ちょっと分かりづらいので具体例を出してみよう。
例えば、2Dスクロールのアクションゲームでプレイキャラが銃を持って移動しながら敵を倒していくゲームがあるとする。このさい、歩きながら(振り向いて進行方向後ろにいる)敵を狙うという操作が既存のゲームパッドではできない。そのため、この手のゲームの場合、攻撃できる方向は進行方向のみと限定させることでゲームを成り立たせているわけだ。これが既存のゲーム入力機器の限界であり、それを超えることができることがナタルの最大のメリットの1つとなるだろう。これによりゲーム内でプレイヤーが行うことのできる行動というものは爆発的に広がるため、必然的にゲームの幅も広がるだろう。
■ナタルが成功するためには
どのようなものにもメリットとデメリットは存在する。重要なのはメリットとデメリットを良く把握し、メリットを大きくアピールし、かつデメリットが目立たないようなゲームのイメージを作り出し、市場にアピールすることである。
任天堂はWiiのアピールが非常にうまくいっているのはこの部分を熟知している点にある。Wiiのメリットは日常で実際に使用する動作をゲームの入力操作に取り入れることにある。卓球をプレイするさいに十字キーとボタンの組み合わせでゲームを進行させるよりも実際にラケットを振る動作をさせた方がプレイヤーの感情移入度をより高めることができるわけだ。
逆に、十字キーとボタンの組み合わせを捨てるということは汎用的な操作を捨てることになるから、同一の操作方法で異なる多くの動作、あるいは行動をプレイヤーにさせることはできない。
これらのメリットとデメリットを考慮してそれに合うようなゲームのみを任天堂は供給しているわけである。このようなゲームは感情移入度は高いが非常に単純で複雑なゲーム性を好むコアなゲームファンには満足できないものかもしれない。しかしながらその高い感情移入度は既存のゲームを超えるものであり、既存のゲームファン以外の人々に対するアピールを可能にし、新たな市場を生む力となった。
ナタルに関しても同様のことが言える。デメリットに関しては入力機器自体にゲーム内の選択肢を提示させる機能がないなら別の方法でそれを提示してやればよい。ナタルにあったインターフェイスを整備することでデメリットを補うことができるだろう。メリットに関しても、単にWiiの延長線上にせずにナタルでしかできないものを提示することで差別化が図れるだろう。
デメリットとしては、上記で挙げたもの以外にもプレイヤーの認証が必要となる機会がある(クイズゲームなど複数のプレイヤーがゲームを行っている最中にトイレなどで参加しているプレイヤーが深度感知カメラの範囲外にでる可能性がる)のでそれをどうするかなど、幾つか課題がありそうではあるが、ゲームの幅を上げる可能性は非常に高いのでぜひとも実現して欲しいものである。
・MS、Xbox最新ゲームや新コントローラ「Project Natal」発表--E3 2009プレスカンファレンス
・“Project Natal”はハードの枠を超えた取り組み
・ナタル動画1
・ナタル動画2
上記のURLにある記事や動画を見てみるとナタルは大きな可能性を持つゲーム入力機器であることが分かる。ナタルを用いれば既存のゲームパッドやWiiなどでは不可能な操作が可能であり、ゲームの幅が大きく広がることは間違いないだろう。
しかし、この可能性は既存のゲーム入力機器が持つ重要な機能を無視することで成り立っている。これはゲーム入力機器としては致命的なことである。残念なことに上記のURLにある記事や動画からはこの機能を補完するようなものを探すことはできなかった。今回は良い機会なのでゲームの入力機器が持つ機能を省みつつ、ナタルの可能性について考えてみたい。
■ゲーム入力機器の持つ機能とは
ゲーム入力機器が持つ最も重要な役割は「プレイヤーの意志をゲーム機本体に伝えること」である。これは誰もが知る役割だ。そして、もう1つの役割は「ゲームの選択肢を明確に提示すること」である。これは少し説明が必要だろう。
ゲームによってプレイヤーがゲーム内で行う行動や操作方法は異なる。同じアクションゲームでも、敵を倒す方法がマリオなら敵の上に乗っかるというアクションだが、ロックマンなら弾を相手に目掛けて撃つといった具合である。当然、(マニュアルを読まずに)ゲームを始めたばかりのプレイヤーはこのことを知らない。ではプレイヤーキャラクターがどのような行動を行うか知らなければゲームが進められないかといえばそうでない。むしろそんなことを憂慮することのほうがバカバカしいほどゲームは簡単に進められることはゲームをプレイしたことがある人なら誰でも知っていることだろう。そう、とりあえずボタンを押しさえすれば、ゲームは進行させることができる。実はこのなんでもないようなことがゲーム入力機器が持つ2つめの重要な役割なのである。
とりあえずボタンを押しさせすれば、ゲームを進行させることができる。初めてのゲームをプレイするということはプレイヤーにとって未知の世界に踏み込むようなものだ。そんなプレイヤーに臆すことなくゲームを進めてもらうためのモチベーションをこの安心感が与えている。もし、この安心感が無ければ、例えば押しても反応しないボタンがあったり、ゲームを進行させるには非常に複雑な操作が必要でまずプレイヤーはその操作を手探りで探さなければならないとしたら、プレイヤーが手軽にゲームに挑戦する気になるだろうか?
■ゲーム入力機器に対するメーカーの配慮
上記のような安心感をプレイヤーに与えるためにゲームメーカーはそれなりの配慮を行っている。まずはどのボタンを押しても何かの形でレスポンス(ゲームの進行)をさせるようにしている。ボタンがあまったのでキャラクターのアクションを新たに追加してその穴を埋めるといったソフトも存在するだろう。重要なのは押しても反応しない操作を作らないことである。
また、より早く操作を覚えてもらうための配慮も存在する。簡単に説明すれば、使用する頻度の高いアクションには使用頻度の高いボタンに割り振り、使用頻度が少ないアクションには使いづらいボタンや複数のボタンを組み合わせにするなどの配慮がなされている。プレイステーション(以下、PS)のパッドなら×ボタンが最も押しやすいのでこのボタンに最も使用頻度が高くなるアクションを割り振る。そして次に重要なアクションなら□や○ボタン、特定の状況下でしか使用しないようなアクションならRやL系のボタンや十字キーと○、×ボタンの組み合わせにするなどの配慮が有効である。これらの配慮がどのゲームでも的確にできていれば(実際できているわけだが)慣れたプレイヤーは初めてのゲームでもゲームの進行する上で重要な操作をある程度推測することが可能となり、より安心感を与えることができるといえる。
■ナタルの持つデメリット
ナタルが無視している機能とはまさに上記の「安心感に関わる機能」である。
例えば、下の画像を見てもらおう。これはナタルで格闘ゲームを始めようとしている画面である。プレイヤーの男の子はカメラに向かってファイティングポーズをとっている。どうやらこのポーズが既存のゲームパッドでいうところのスタートボタンにあたるらしい。しかし、そのような操作をマニュアルを読まずにどうやって伝えるのだろうか?

もう1つの画像はレースゲームである。車を操作するのは女の子。その車がピットインした瞬間、父親らしき男性が画面の前に乗り出してタイヤの交換をしだした。しかしゲームの進行にタイヤ交換があることやタイヤ交換に必要な操作はゲーム画面を見ただけでは分からない。

最後に、怪獣を操作して街を破壊するゲーム。画面内で口を大きく開けて口からブレスを吐き出させているが、これもゲーム画面を見ただけではこの怪獣キャラが口からブレスを吐くアクションを持っていることも、その操作方法が口を大きく開けることであることも分からないはずだ。もしこれが既存のゲームパッドであれば、何気にプレイヤーが△ボタンを押したときに怪獣キャラが口からブレスを吐くことでプレイヤーは怪獣キャラのアクションと操作方法を理解することが可能となる。

以上のように、ナタルでは既存のゲーム入力機器を重要な役割を無視したままになっている。このことをマイクロソフト側が理解しているのかどうかは定かでは無いが、少なくともナタルを発売するまでにはクリアしておかなければならない非常に深刻な問題点といえるだろう。
■ナタルの持つメリット
冒頭でナタルは大きな可能性を秘めていると書いた。それは既存のゲームパッドやWiiでは到底不可能なことがナタルでは可能であるからだ。
それを端的に示しているのが下の画像である。

この画像ではプレイヤーの男の子が手前から飛んでくるものを手や足を使って叩き落とすというゲームに興じている。このゲームでは一度に複数のボールが飛んでくるわけだが、ナタルでは左上のボールを左手で、右下のボールは右足で一度に叩き落とすことが可能である。これがスゲー。これこそ既存のゲームパッドやWiiでは不可能でナタルでしかできない操作だ。
既存のゲーム入力機器はファミコンのパッドの発明以来、基本的に十字キー+ボタンの組み合わせが主流なっている。この方式のメリットは非常に汎用性が高いことにあるのだが、そのため1つのものしか動かすことができない。1つの目的に対して1つの操作しかできないということである。ちょっと分かりづらいので具体例を出してみよう。
例えば、2Dスクロールのアクションゲームでプレイキャラが銃を持って移動しながら敵を倒していくゲームがあるとする。このさい、歩きながら(振り向いて進行方向後ろにいる)敵を狙うという操作が既存のゲームパッドではできない。そのため、この手のゲームの場合、攻撃できる方向は進行方向のみと限定させることでゲームを成り立たせているわけだ。これが既存のゲーム入力機器の限界であり、それを超えることができることがナタルの最大のメリットの1つとなるだろう。これによりゲーム内でプレイヤーが行うことのできる行動というものは爆発的に広がるため、必然的にゲームの幅も広がるだろう。
■ナタルが成功するためには
どのようなものにもメリットとデメリットは存在する。重要なのはメリットとデメリットを良く把握し、メリットを大きくアピールし、かつデメリットが目立たないようなゲームのイメージを作り出し、市場にアピールすることである。
任天堂はWiiのアピールが非常にうまくいっているのはこの部分を熟知している点にある。Wiiのメリットは日常で実際に使用する動作をゲームの入力操作に取り入れることにある。卓球をプレイするさいに十字キーとボタンの組み合わせでゲームを進行させるよりも実際にラケットを振る動作をさせた方がプレイヤーの感情移入度をより高めることができるわけだ。
逆に、十字キーとボタンの組み合わせを捨てるということは汎用的な操作を捨てることになるから、同一の操作方法で異なる多くの動作、あるいは行動をプレイヤーにさせることはできない。
これらのメリットとデメリットを考慮してそれに合うようなゲームのみを任天堂は供給しているわけである。このようなゲームは感情移入度は高いが非常に単純で複雑なゲーム性を好むコアなゲームファンには満足できないものかもしれない。しかしながらその高い感情移入度は既存のゲームを超えるものであり、既存のゲームファン以外の人々に対するアピールを可能にし、新たな市場を生む力となった。
ナタルに関しても同様のことが言える。デメリットに関しては入力機器自体にゲーム内の選択肢を提示させる機能がないなら別の方法でそれを提示してやればよい。ナタルにあったインターフェイスを整備することでデメリットを補うことができるだろう。メリットに関しても、単にWiiの延長線上にせずにナタルでしかできないものを提示することで差別化が図れるだろう。
デメリットとしては、上記で挙げたもの以外にもプレイヤーの認証が必要となる機会がある(クイズゲームなど複数のプレイヤーがゲームを行っている最中にトイレなどで参加しているプレイヤーが深度感知カメラの範囲外にでる可能性がる)のでそれをどうするかなど、幾つか課題がありそうではあるが、ゲームの幅を上げる可能性は非常に高いのでぜひとも実現して欲しいものである。