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ここぞとばかり虚業は良くない、マネーゲームなどせずに額に汗して働くべきだという合唱が聞こえてくる。私個人は自分が翻訳などという「虚業」に従事していて、額に汗して手で物を作っていないことを後ろめたく思うこともあったし、百姓のまねごともやっている。物作りは日本の基礎だ。それは正しい。しかしなあ。

額に汗する、誰も文句をつけられない甘美な言葉ですよ。でもそれが弁護士や、タレント、経団連のお偉いさん、額に汗することなどありそうもない人たちの口から出てくるのは許せない。自分は汗まみれにはならないけどお前はガンバレってこと?

揺るぎない生活で退職金も保証され、老後も何の心配もないという人もいるだろう。だがそうでない毎日が綱渡りの人間も大勢いる。病気をしたら、年をとったら、怪我をしたら、ホームレスになるしかないぎりぎりの人が大勢いる。どうすれば安心できるか。自己責任とやらで国が面倒を見てくれないのなら自分で資産を形成するしかないじゃないか。

将来も今も生活の不安のない人間が安全なところから批判するのはおかしくないか。世の中、恵まれた人ばかりじゃない。大企業に勤める者や公務員だけが国民じゃない。日本は、健常者の男の国だ。そこからはじかれた病弱、年寄り、ハンディキャップ、年齢が若すぎる、多すぎる、女…額に汗して働こうとしても仕事はどこにある?

景気後退のいわゆる失われた10年の間、次々と大企業でもリストラが行われた。ということは中小企業、そしてどん詰まりの零細企業からは大量の人たちが職から放り出されたということだ。周囲を見回して欲しい。ホワイトカラーであっても働くフロアーの半分が契約社員や派遣だろう。額に汗して働けといっている人たちは彼らがどんな待遇を受けているのか分かっているのだろうか。どんなに不安か分かっているのだろうか。

そして、日払いの派遣労働をするしかない者がどんな生活をしているのか知っているのだろうか。例えば、引っ越し作業やエアコンの取付、水道管の掃除、工事現場、車の誘導、すべて息子が経験した作業だが、交通費は自腹、安全靴やユニフォーム代を差し引かれ、保険料も差し引かれ、激しい労働でちょっと多くを食べれば何も残らない。それも毎日など仕事はない。病気なら働けない。

大卒の健常者の男でさえ職を見つけるのが難しいとき、女は、ハンディのある人間は、年寄りはどれほどの困難を抱えたか。抱えているか分かって言っている言葉だろうか。虚業であれ、何であれ、頑張っている人は偉い人だ。偏見で見下げるべきではない。

幼い子供3人を抱えた母子家庭というれっきとした弱者であった私は、外国から帰ってきて借りる家さえ見つけられなかった。ありったけの知恵を使い、少々のずるをして住居を確保し、クレジットカードを手に入れたが、どれほどの綱渡りだったか恵まれた人間には分かるまい。

子供2人は大学院、1人は大学を卒業したが、翻訳の仕事だけでは生活するだけで精一杯だっただろう。「額に汗して」冷や汗をかきながらちまちまと株式に投資するという虚業に励んだおかげで生活保護のお世話にもならず、無事に育て上げ、税金を納めて国の役にも立てたのだ。

リストラで株価を上げた大手企業の社長たち、仕事を提供してから偉そうなことを言ってくれ。

*題名を変更しました。