25970959.JPG

かなり前の話だが、そのとき所属していた外国法律事務所で大きな訴訟事件の開示手続に関係して大量の翻訳をしたことがある。3,4畳ほどのスペースが天井まで埋まるほどの書類が集まり、ひどく忙しい思いをしたが、実際は私はそのうち1箱ほどを翻訳しただけなのだろう。

その事務所が代理したのは、それより数年前にマスコミで激しく叩かれ、希代の悪党のように扱われ、私もそう思い込んでいた人物だった。財産を海外に隠したとしてバッシングされたこともあり、なぜ事務所は金の亡者のようなこんな人物を代理するのだろうと、内心では少々疑問に思っていた。

この人物が原告で、日本のマスコミでは被害者とされた機関を被告とする海外での裁判だったのだが、翻訳が進むにつれ、自分が訳したちっぽけな範囲からも想像もしないことが次々に明らかになってきた。マスコミ報道によると騙された側であるはずの機関側の横暴や悪辣さ、希代の詐欺師、悪党であるはずの人物がその機関に振り回されている様子が浮かび上がってきたではないか。

結局この裁判では悪党とレッテルを貼られている人物が勝訴し、その機関が敗訴した。しかし、逮捕され、マスコミ報道などで社会的に葬り去られていたこの人物の会社は見事に解体されてしまっていたし、財産も多分、その海外で勝訴した物以外はすべて失われてしまっていたのではないだろうか。

そしてその人物は若くしてひっそりと亡くなってしまった。もちろん、勝訴の記事も小さな囲みだけだったし、小さな死亡記事が出ただけだった。マスコミは自分たちが葬った人物にすっかり興味を失っていたのだ。彼の名誉は回復されてはいない。未だに誰に聞いても、そういえば、そういう悪い奴がいたねという印象だけが残っているだろう。

もちろん、私はその件をきちんと調べたわけではないから、かなりの怪しいことをしていた可能性もあるし、その事件以外に法律に触れることをしていたかもしれない。しかし、有能で、バイタリティに溢れ、活発に事業展開していた若者が、これからという円熟期を前にして無惨に折り取られ、何年もの間全精力を裁判に費やしなければならず、名誉を回復できないまま死亡したという事実は重い。彼はその罰に見合うほどの悪いことをしたのだろうか。

だから私はこのブログを引っ越さない。堀江氏が最終的に有罪判決を受けるまでこのまま静観する。それがマスコミの報道を受け、尻馬に乗って一緒に叩いてしまったその死亡した人物に対する私の小さな贖罪だ。