1e6ca028.JPG出稼ぎ家業で洋服には苦労しているが、靴は大丈夫だった。売るほどある。買っただけでほとんど履いたことのない靴もたくさんある。まあ、ウォーキングシューズ中心だが。

オフィスについて廊下を颯爽と歩いていた。歩いていたはずなのだが、変な音がする。キュー、キューとでもいうような、聞いたことのない音だ。
周囲に人はいない。つまり、私から出ているようなのだ。

バッグがこすれているのかと思った。が、違った。首をひねりながら席に着き、ひょっとしたら、靴に何か挟まっているのかもしれないと靴の裏を見たら、靴が、私の了解も得ずに、勝手に分解を開始していた!

靴の裏の真ん中、土踏まずのあたり、真横に線が走っている。糸魚川-静岡構造線の活断層がずれたみたいだ。靴のつま先とかかとを持ってちょっと力を入れるとぱっくりと完全に割れているのが分かった。

トイレに立ってもキューキュー、クウクウうるさい。恥ずかしい。うるさいだけならまだしも、どうも各部分がぼろぼろ割れ始めているようだ。これじゃあ、家に帰り着けない。

直ちに、Mデパートに走った。受付で聞くと靴のセールをやっているという。まっしぐらに靴売り場に駆けつけると、売り場のおばちゃんが、私の顔を見るなり、安い靴はこっちよという。むっ。失礼な。

しかし、下を見ると靴の横からも割れた靴底が顔を見せているではないか。人を見るには靴を見るというのは、ホテルだけではなく、客商売の鉄則なのかもしれない。客の少ない大型デパートの中、暇をもてあましている多数の売り子が全員、私の靴ばかりみているような気がする。いや、実際に見ているのだ。ここまで靴をはきつぶさなくてはいけないのかと同情したのかもしれない。

そのまま処分して貰ったので写真は撮れなかったが、解体工事がかなり進行していた。危なかった。靴底のない靴を履いて大手町や日本橋をうろつくのは、いくら私でも避けたいではないか。

靴はたまには履かなくてはいけない。履く前には点検しなくてはいけない。たとえ、お気に入りの靴だとしても、履いたことのない靴だとしても、いつ反乱を起こすか分かったものではないのだ。

そして、もちろん、安い靴を買ったのだった。