P10108204月末だったか、少々前。娘がウェブで安い宿泊券を手に入れ、ドタバタの最中に、といってもまだ母宅を畳むことを考えつかない前に、2泊3日で京都に行ったことがあった。

数年前に泊まったことがあったなかなかの高級ホテルで、温泉付きスパもあり、立地も最高でお気に入りとなっていたところが3分の1ほどの値段なのだから、どんなに忙しかろうと、へとへとでへろへろで気分が落ち込んでいる身なのだから、すがれる物は何でもすがりつくしかない。不安定な体調を抱えて頑張って行った。

ホテルに荷物を置き、まず三千院に向かった。桜の季節を過ぎ、人は少なかったが、新緑は美しく、寒からず暑からず、気分は高揚とまではいかないまでもゆっくりと見事な芍薬を楽しんでいたのだが…。

部屋を巡っていたら、薄暗い廊下の隅、お皿のような物の中におみくじが盛ってあった。娘は先に行き、誰もいない。こういうところのおみくじって当たるのだろうか。ちょっとした好奇心で100円を入れておみくじを手に取った。

凶だった。これまで見た中で最悪の運勢。こんなおみくじが存在するのかと存在自体を疑うほどのおみくじだった。中でも一番の衝撃は、病人長引く、十に六、七は死すべしと断言されていることだった。たかがおみくじなのだが、母が30キロまでやせ細り、当時は座ることがやっとで歩くこともできない状態だったし、自分がお皿の中から当たるかもと思って手に取った物だったから余計にショックを受けてしまった。

どうしようと順路をふらふら辿っていくと、お堂にお坊さんが座っていた。

凶だったんですが、どうしたらよいでしょうか。思わず聞いていた。近くにおみくじを結ぶような枝はなし、結んだ物も目に入らない。でもこれを持ち帰るわけにはいかない。炊きあげた方が良いのか、それを問いかけたのだが。

お坊さんはおみくじを手に取ると、下に書かれていた部分、悦び事すくなしとかうせ物出ることむつかし、子に縁うすしなどに大きく×を入れた。何を願って引くか分からないのでおみくじには色々なことが書いてあるが大事なのは最初の部分、後は無視していいんですよ。最初の部分は「身同意不同 月蝕暗長空 綸離常在手 魚水未相逢」とあったが、要するに、魚がまだ水を見つけられない状態、体と心がばらばらで自分が分からなくなっており、そのため体調を壊しているということなのだという。そしてそのお坊さん自身、最近まで母親を自宅で介護していたが施設に入れたところで、やっぱり大変なんですよ、人がなんと言おうとあなたが楽なようにするのが一番ですと言ってくれた。

下で待っていた娘に何故こんなところで泣いているのと笑われたが、でも凶のおみくじを引いて良かった。そのおかげでお坊さんと話せた。母を施設に入れたことが正しかったのかどうか、そこで良かったのか、迷いに迷っていたが、肩の重さが半減した。お坊さんに感謝だ。

そのおみくじは持ち帰り、今でもバッグの中に入れて時々眺めている。そして当分はダメの当分はもう過ぎたに違いないと思っている。その証拠に母は日々元気を取り戻し、昨日はクレンザーを持ってきて、部屋の洗面所が気になるから掃除をすると言い出した。野菜が多くて元気が出ない。やっぱりお肉が必要だとも。もう大丈夫。とても病人とは思えない。施設の方からは3ヶ月間の延長が認められた。その先も元気になりすぎず、重病にならなければって、今となっては元気になりすぎないことの方が難しいけど、このままいける。9月末までは心配することを停止しようっと。