今日深夜、当ブログでもお伝えたように、シリア北部にて日本人傭兵「湯川遥菜」氏がイスラム系武装組織「イスラーム国(通称IS)」に拘束されていることが明らかになりました。

邦人が中東地域で拉致・拘束された事件は過去に何例かありますが、邦人が「戦闘員」として国外で拘束されるケースは極めて珍しく、イラクで元自衛官の日本人傭兵が拘束され死亡した事件に次ぐ恐らく戦後2例目のケースです。

しかもこの湯川氏、単なるいち傭兵ではなく「民間軍事会社のCEO」を名乗っており、何人かの部下を持ちつつ自らも戦闘に参加しているとブログFacebookなどで主張していました。

もし湯川氏がISらと対立する「日系民間軍事企業」のCEOとしてシリアでの任務中に拘束されたという話であるならば、ISを始めとするイスラム系武装組織に日本人自体が「潜在的な敵」と位置づけられる可能性もあり、日本の安全保障にも重大な影響を与えかねません。


しかし、多少の疑問が残ります。

民間軍事会社(以後PMC)が盛んなアメリカ合衆国やアフリカ諸国では、基本的にPMCというのは正規軍の中核的な人材がその経験を活かし、担当していた地域において起業するのが通例です。

例えば「現代型民間軍事会社の元祖」とされている伝説的なPMC、南アフリカのエクゼクティブ・アウトカムズ社(EO社)は旧国防軍の中佐が自分が指揮していた部隊をそっくりそのまま引き抜く形で設立され、隣国のアンゴラ内戦を初陣として成長した組織です。

捕虜殺害事件で有名になったアメリカのブラックウォーター社も同じような組織で、こちらはSEALs(海軍特殊部隊)の中核人材が組織の中心になっています。


現在日本の自衛隊は何処にも紛争地帯を抱えていません。よって、特段に紛争地帯の軍事的事情や各種の人脈に通じている人材も存在しません。そもそも自衛隊の部隊がPMCに「引きぬかれた」という事件も全く生じていないわけです(小隊、中隊規模の「引き抜き」が行われれば必ずニュースになります)。


湯川氏は、本当に「プロの傭兵」であり「民間軍事会社のCEO」だったのでしょうか?

僕にはかなり疑わしいように思われます。当記事では、彼のブログを元に検証をしてみました。


■疑問1「ダイエット発言」

湯川氏は今年4月10日のブログ記事で

今回は国境を超えるのに山脈を徒歩で行かなくてはならない。
しかも70キロの荷物は大変だ!
毎日、出国までトレーニングしているが、恐らく帰国時には
体重が10キロは減っているだろう。合計15キロぐらい
減るのではなかろうか?毎日携帯食料と水だから昔の様に、
かなりスリムになれるのは嬉しい!

発言しています

これは、プロの傭兵としてはかなりおかしな発言です。

あらゆる軍事組織、警察組織において行軍訓練は全ての基本です。もし多少のトレーニングで10キロも15キロも体重が変わるのだとすれば、それは全くの素人か、年単位で訓練から遠ざかっていたことを意味します。しかも、このブログが書かれたのはたった4ヶ月前です。

湯川氏が、少なくとも今年8月において肉体的に屈強な戦士でなかったことは確実のように思えます。


■疑問2「拙い英語力」

もし湯川氏が国外の軍事組織において一定の経験を積んでいるなら、相応の英語力が備わっていなければなりません。しかし、例の尋問動画での湯川氏の英語力は

「私は日本人だ」を

I`m Japan !
I`m Japan !


と連呼したり(正しくはI`m Japanese)

「その銃は拾ったんだ」を

I take gun.

と表現したり(正しくは I took the gun. 又は I picked up the gun)

話しているほとんど全ての英語が、文法的に間違っているレベルでした。

もちろん非常事態で混乱していたということもありますが、言語というのは習慣的な側面を多分に持っていますから、普段から英語を使っている人間なら、ここまで酷い英語にはなりません。

言語によるコミュニケーションは戦友と協働する上で必須のものです。例えば多くの外国人が参加しているフランス外人部隊では、定期的なフランス語のテストに落第したものは即時除隊となります。

この英語力では、海外の軍事的組織で経験を積むことは極めて難しいでしょう。


■疑問3「PMC JAPAN」の会社登記が今年の1月

では湯川氏が戦闘員ではなく純粋な経営者であったのかと言うと、それにも疑問符がつきます。

時事ドットコムの報道によると、湯川氏の経営する「PMC JAPAN」の会社登記が行われたのは今年の1月で、なんと会社設立から4ヶ月で最初の渡航地であるシリアに出撃したことになります。

4ヶ月程度では人員の募集も、必要な訓練も、装備の購入も行えません。つまり、近代戦に必要な準備を、ひとつとしてまともに行うことができません。この登記→出撃の早さからいって、湯川氏の会社には恐らく部下と呼べる人員はほとんどおらず、湯川氏ひとりだけの限りなくペーパーカンパニーに近い会社だったのでしょう。

つまり、PMC(民間軍事会社)としての実態は、限りなくゼロに近かったといえるわけです。


■では、湯川遥菜氏とは一体何者なのか

上記したように、湯川氏は

・戦闘に必要な身体的能力も
・英語でのコミュニケーション能力も
・会社組織としての実態や組織力も

この中のひとつとして備えていません。プロの傭兵やPMCの経営者でないことは明白です。

では、彼は何者なのでしょうか。ISの兵士たちは「スパイだ」と考えているようですが、それもありえない話です。日本の外務省がイランにエージェントを派遣し積極的な諜報活動を行っていると考えることにそもそも無理がありますし、アメリカであれロシアであれトルコ・エジプトなどの周辺諸国であれ、英語もアラビア語もまともに話せない、しかも目立つ東洋人の男性をシリアにスパイとして送ることはありえません。

恐らく、湯川氏の正体は単なる軍事マニアのおじさんです。

彼はブログに

>>僕は第二次大戦からの軍用銃を100種類以上取扱いしてきた
>>(今回の)渡航先はハワイではない


などと書いています。
恐らくいつもはハワイに旅行で行き、射撃場で好きな銃を撃ったりして遊んでいたのでしょう。

100種類以上の銃を取り扱うレベルでハワイに通っていたり、会社の資本金として300万円をポーンと出せたということは、恐らくそれなりに裕福な方だったのだと思います。

それが、インターネットか、もしかしたらハワイの射撃場かもしれませんが、中東地域とコネのある人間と繋がってしまい、 観光ツアーのような形でシリアに渡ったのだと思います。

本人は「そこで経験を積んでいずれ立派なPMCを立ち上げる」と大真面目に考えていたのかもしれませんが、恐らく体の良いカモとして食い物にされていたのでしょう。もしかしたらFSA(自由シリア軍)から「軍事顧問」みたいな適当な肩書をもらって、良い気分になってお金を貢いでいたのかもしれません。過激派の収入としてそういった「物好き」を利用するというのは古来からある方法論です。

しかし彼の軽率な行動は、結果としてIS兵士による拘束、そしてISを始めとするイスラム系武装組織の日本人への疑念という最悪の結果となってしまいました。

基本的に紛争地帯の人間にシャレは通じません。
少しでも怪しかったらスパイとして殺されます。

コネも技能も経験も組織によるバックボーンもない日本人が戦場で活躍できるなどと、馬鹿な夢を見ないでください。現実の戦争はアニメではありません。中東にガンダムはいません。

もし本当に軍事的分野で活躍したいのなら、ちゃんとした組織で下積みを積んでください。元自衛官のPMC社員というのは、ちゃんと存在したわけですから…。

何にせよ、一刻も早く湯川氏が開放され、またISの誤解が解けることを願います。
状況は極めて難しいと思いますが、政府には出来る限りのことをしてあげて欲しいです…。 




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