武装組織「イスラム国」に占拠されたシリアで、外国人ジャーナリストの「処刑」が続いています。

先月の8月19日にはアメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリー氏が、9月3日には同じくアメリカ人ジャーナリストのスティーブン・ソトロフ氏が殺害され、インターネット上に「処刑」の瞬間を映す動画が公開されました。

9月3日の動画にはイギリス人とみられる男性捕虜も写っており、欧米人への「処刑」がさらに続く可能性があると懸念されています。



【なぜ欧米人ジャーナリストは処刑され、自称「傭兵」の湯川さんは未だ無事なのか?】

この報道を見て気になったのが、なぜ「ジャーナリスト」である欧米人たちが次々と殺され、自称「傭兵」である湯川さんが殺されていないのか?ということです。

無論、僕は湯川さんが無事開放されて欲しいと心から願っています。彼が本当は「傭兵」でもなんでもなかったことを知っていますし、彼に殺されるほどの罪はないと信じているからです。

しかし、ISの兵士たちから見れば「傭兵」を名乗り武器を持って自分たちの土地に来た以上、敵として扱われても仕方のない状況にある、とも言えます。そもそも武器を携えないジャーナリストですら次々と処刑されているのです。なぜ湯川さんだけが、開放はされていないとしても無事でいられるのでしょう。



【イスラム系メディアも湯川さんの誤解を解くために奔走】

湯川遥菜さん拘束事件への関心は、中東地域内でも極めて高いようです。

例えばドバイに本拠地を置く代表的なイスラム系メディア「アル=アラビーヤ」ニュースは

(意訳:夢に生きる人生に敗れた男が、日本をシリア情勢に巻き込む)

という題で本件に対する特集記事を執筆しました。

この記事では彼が「傭兵」と名乗りながらも実は違うこと、妻との死別や事業の失敗により精神的に傷つき自殺未遂を図ったこと、軍事コンサルタントの経験が全く無いにも関わらず実態のない「民間軍事会社」を立ち上げたことなど、日本で彼について判明している情報のほぼ全てが記されています。

この記事が公開されたのは8月の27日。つまり湯川さん拘束が明らかになってから10日足らずで、イスラム系メディアからも「こいつは傭兵なんかじゃないぞ」というメッセージが中東全域に発せられたということです。



【日本は中東から「敵」として見られていない】

これらの事実は何を意味しているのか。要するに、日本と日本人は、「イスラム国」の兵士たちを含む、中東全域の人たちから「敵」として見られていないということです。

アメリカ人ジャーナリストのスティーブン・ソトロフ氏の「処刑」が移された映像の中で、ISの兵士は「自分たちへの空爆をやめない限り、アメリカ人の殺害を続行する」と宣言しました。つまりジャーナリストという明らかな非戦闘員の殺害は、空爆に対する「報復」としてISの中では正当化されているのです。

一見すると明らかな「戦闘員」であった湯川遥菜さんがなぜすぐに殺されなかったのか。日本が中東と戦争をしていないからです。「こいつどうするよ…?」としばらく考えていた時間があったからこそ、「アル=アラビーヤ」を始めとする各メディアから情報が出揃い、「あ、こいつただの変なやつだ」ということがIS側に伝わったわけです。


日本は幸いにも有史以来、中東の人々と殺す・殺されるという関係に至りませんでした。それは目には見えませんが、とても大きな財産だと思います。

現代の戦争は「戦場」だけに留まりません。国内への爆弾テロや、誘拐、薬物の密輸など、市民生活にも大きく影響を与える現象です。もし日本が中東から「敵」と判断されれば、今まで考えもしなかった色々な所に影響が出てくると思います。

日本と中東との間の平和は、もちろん完全に幸運によるものです。日本が積極的に考え行動した結果ではありません。しかしこの幸運によってもたらされた関係の恵みの大きさを、今更ながら実感します。

湯川遥菜さんの事件が平和裏に解決すること。
また日本と中東との間の幸福な関係が長く続くことを願っています。