現在のインターネットには、攻撃的な、心ない言葉が溢れています。

それは先に話題になったネット右翼「ヨーゲン」氏の事例のような人種や性別を対象とした差別的発言という形を取ることもあれば、「スマイリーキクチ事件」のような思い込みや勘違いによるデマ、私怨や悪戯目的による中傷など、様々な形を取って我々の前に姿を表します。

これらネットの誹謗中傷はあまりにも頻繁に見受けられるので、多くのネットユーザーはそういった言葉に半ば「見慣れ」てしまっています。いちいち真に受けていれば心臓にいくら毛が生えていても耐えられません。皆いちいち真剣に取り合うのをやめることで、なんとか身を守っています。

しかし、そういった言葉がエスカレートし、深刻に人を傷つける事例もまた確かに存在します。

ネットの誹謗中傷に深刻に傷つけられた時、私たちはどうすればよいのでしょう。本稿では、過去の事例などをはさみつつ、私たちに可能な対策についてまとめてみました。


【インターネット上の誹謗中傷は犯罪である】

まず第一に確認しなければならないのが、この事実です。

例えインターネット上の行為でも、誹謗中傷は疑いもなく犯罪です。
もちろん、実際に起訴され刑罰も下ります。


例えば、この事件

企業社長を名指しして「死ね」などと連呼した人物が民事で訴えられ、損害賠償を請求された事件です。彼はプロバイダにより身元を特定された上で起訴され、33万円の罰金刑が下されました。


刑事事件として告訴された例もあります。

こちらの事件では、拓殖大客員教授の藤井厳喜氏を「2ちゃんねる」上で計33回にわたり執拗に攻撃した23歳の北大生の男が名誉棄損罪の疑いで逮捕・起訴されています。

犯人に下された判決は懲役1年6月執行猶予3年。執行猶予付きとは言え懲役刑なので、これは「前科」にもなります。執行猶予中に繰り返せば無論、実刑です。

ネット上とは言え、誹謗中傷は疑いもなく犯罪であるし、実際に厳しい刑罰が下ります。
これは疑いのない事実です。


【ネットの誹謗中傷はどんな罪に当たるのか?】

ではネットでの誹謗中傷は、実際にどんな法律に抵触するのでしょう。
代表的なのが「名誉毀損罪」と「侮辱罪」であると言われています。


■名誉毀損とは?

名誉毀損とは、「不特定多数の他者が認識できるような場で、他人の社会的評価を損なう行為」を指します。

例えばインターネットの掲示板やSNS(不特定多数の他者が認識できる場所)で、「A山B太郎は殺人の前科があるキチガイだ」などと書き込めば(社会的評価を損なう行為)これは名誉毀損に当たります。

注意して欲しいのが、この書き込みの内容が「事実」であっても名誉毀損に抵触するということです。

つまり「善意の告発」のつもりであったとしても、それが他人の社会的評価を損なっていると見なされれば、それは名誉毀損に当たるのです。

ただし、「真実性の証明による免責」という事項も設けられており、「公人」、つまり公務員や選挙の候補者や議員などに対する真実の告発は、公共の利害に関する事実とみなされこれは免責されます。

もちろん「公人」という言葉は地位の高い公務員や選挙の候補者などの極めて限られた対象にしか当てはまらないという事実には注意が必要です。


■侮辱とは?

侮辱とは、他人の人格を蔑視する価値判断を提示することを指します。名誉棄損罪とは異なり、これは抽象的な事実でも構いません。例えば「A太郎は下品だ」「B子はブスだ」「C之助はクズだ」といったものでも成立します。


■その他

また「A太郎を殺す」のような相手を脅し威嚇する行為は「脅迫罪」に問われますし、相手の個人情報(学歴、出自、容姿、賞罰、年収etc)の暴露は「プライバシー権の侵害」として民法上の罪に問われます。

一見ありふれたインターネット上の攻撃も、法律を紐解けばふつうに犯罪であることが多いのです。


【警察「だけ」を頼らない】

しかしこれらインターネットの犯罪は、あまり厳密に処罰されず、半ば放置されているような現状もあります。何故でしょうか。

それは恐らく、警察組織のインターネット上の犯罪に対する備えが十分でないことが原因です。

例えばインターネット上の誹謗中傷について警察に相談したのに、「よくあることだから気にしない方がいいですよ」などと言ってまともに取り合ってくれなかった、などという話はよくあります。

これは別に警察が犯人と結託しているとかそういう話ではなく、警察側のITに対する無知が原因です。現役警察官は、基本的にLINEやtwitterなどの最新のネットサービスに関して極めて疎いです。

「私の誹謗中傷がツイートされて、それが300RTも行ってるんですよ!」

と説明したところで

「ツイート?アールティー???」

なんて状態になってしまう。そういうことでしょう。

もちろん部署によっても違いますが、全ての警察官がネット上の誹謗中傷に対して十分な知識を持っているかというと、それは望めないのが現状です。

警察は犯罪と戦う上で重要な味方ですが、警察「だけ」を頼りと考えるのは、やめておいた方が良いでしょう。


【告発の方法を考える ─ 被害届と告訴の違い】

犯罪被害を訴えるとき、それを「どう訴えるのか」というのは極めて重要な視点です。

上で見てきたように「通報する」「警察に相談する」程度では、有効な捜査が始まらない場合も多々あります。それはネットの誹謗中傷という事例では特に顕著です。犯人を罰したいという気持ちが強いなら、まずは有効な告発の方法を考えましょう。代表的な「被害届」と「告訴」の違いについて説明します。


■被害届

被害届とは、被害者が犯罪の被害にあったことを警察に「報告」するためのフォーマットです。つまり、警察がその犯罪に対し捜査を開始するか否かは、完全に警察側の判断に委ねられることになります。

ネットの誹謗中傷で、「警察に届け出たのに警察は全く動いてくれない!」などという時は、大抵が「被害者」をフォーマットに選んだ場合です。

「被害届は報告書に過ぎない」ということは、ぜひ覚えておきましょう。


■告訴

告訴は被害届とは全く違います。被害届は「こういう犯罪被害がありました」という報告に過ぎないのに対して、告訴は「こういう犯罪被害があったので犯人を処罰してください」という訴えの意味を持ちます。

当然、警察が「インターネットはよくわからんから放っておこう」という態度を取ることは許されません。即座に捜査が始まります。

もちろん、そういった強い法的な意味のある届け出ですので、「被害届」よりも「告訴」の方が出すのが煩雑で手間が入ります。しかし、出した以上必ず捜査が始まるわけですから、「警察が動いてくれない」といった状況にある犯罪被害者の方にとっては大きな助けです。

告訴と被害届は全然違う。これはぜひ覚えておきましょう。


【本気で戦えば必ず勝てる】

ネットの誹謗中傷に悩むみなさんに自分がお伝えしたいのは、本気で戦えば必ず勝てる、ということです。

確かに法律は難しく、手続きは煩雑で、弁護士にはお金がかかります。

しかし、日本の法律は故なく他人に悪罵をまき散らす人間を、決して許していません。制度を把握し、告発する手間を厭わないなら、必ず犯罪者に対し法の裁きを下すことが出来ます。絶対に、勝てます。


お金の面でも、日本には「法テラス」など、無料で弁護士に相談できる制度もあるのです。どうか諦めず、また「誰も助けてくれない」などと絶望せず、正しい手続きで、公的な手順を踏みつつ犯罪と戦いましょう。

国と法律と司法と正義は、あなたの味方です。


【ネット右翼「ヨーゲン」事件について】

昨日、僕が当ブログにあげた記事


が自分の予想を超えるほどのバズを引き起こし、多くの反響を頂いています。


自分の意図を理解して、同意のコメントを下さった方も多かったのですが

「じゃあどうすればいいのか代案を出すべきだ」
「ヨーゲン氏は公人のようなものなのだから、彼の個人情報を暴くことには公益性がある」
「警察が動かなかったからこそ安田氏はああいう手段に出たのではないか」

などという、反論のご意見も頂きました。

この記事は、そういったご意見に対しての自分なりの反論という意味付けも持っています。


自分の代案は、ヨーゲン氏を告訴することです。
上の記事にも書いたように、安田氏は極めて早い段階でヨーゲン氏と合法的に戦う道を諦めました。そして彼の個人情報を暴き紙面上で攻撃するという「自力救済」の道に出ました。

自分は、そういった道は対立の激化しか生まないと考えます。故に氏の行動には反対です。


ヨーゲン氏は公人のようなもので彼についての事実の暴露は公益性を持つ、という意見も、やはり間違っていると思います。彼は上級公務員でも選挙の候補者でもありません。自分の知名度で収益を得ているような芸能人や作家というわけでもありません。何らかの政治的な団体で役職を得ているわけでもありません。

ただインターネットで私的にヘイトスピーチを行っている、ひとりの人間です。

彼に対する事実の暴露が公益性を持つとは、僕には考えられません。


警察が動かなかった件については、多くの文字数を割いて説明しました。
「被害届」の段階で警察が動かなくとも、「告訴」という手段を取れば、確実に捜査を始めさせることができます。そしてヨーゲン氏は逮捕され、執行猶予中ということも鑑みれば恐らく実刑に処されたでしょう。

安田浩一氏はネット右翼について単著もあるほどの優れたジャーナリストです。こういった法的知識を知らなかったはずがない、と僕は思います。

なぜ安田氏は告訴という公的でまっとうで最も有効な手段を取らず、 紙面での攻撃という手に出たのでしょうか。残念でなりません。

末筆になりましたが、僕は弁護士などの法律の専門家ではありません。本稿の内容は、全て自分なりの調査によって得られた情報です。記事内の内容について間違いや補足などありましたら、ぜひコメント欄などでご指摘下さい。よろしくお願いいたします。