(つづき)                                                             

  3 手続違反                                                          

   (1) 経過

    ア、2007年(平成19年)10月5日、原告は、被告ハラスメント調査委員会のO委員長から、原告からハラスメントを受けたとの訴えがあるので、事情聴取したいとの申し入れを受けた(甲8)。

しかし、原告がしたとするハラスメントの内容については全く明らかにされていなかったので、この点を質すと(甲9)、同月9日、O調査委員会委員長は、「学生から、安川先生からハラスメントを受けたという訴えがあったことによる調査」とのみ回答してきた(甲10)。

この回答では、何のことについて調査されるのか、全く不明なので、原告は、これでは面談に応じることはできない、ハラスメントが発生した日時、場所、内容等を明らかにするように同日O委員長に申し入れた(甲11)。

そうしたところ、同月12日、O調査委員会委員長から、

      【発生日時と場所】

       2.平成17年度、医学部保健学科

       1.平成19年6月〜7月 医学部保健学科

      【ハラスメントとされる内容】

       1.安川先生が募集した園芸療法のボランティア学生に対する対応について

       2.卒業研究で、安川先生の班に所属した学生に対する対応について

との回答があり、さらにその回答には、「最初の面談依頼から時間が経過してしまいましたので、やむを得ず面談の時期を繰り下げます。何度も申しますが、本件は、早急に対応すべき重要事案と判断しています。もし、面談に応じていただけないとしたら、自ら弁明の機会を放棄することにもなりかねません。学生や関係者の言い分がそのまま認められる可能性もあり、訴えられた側にとって一層不利な状況になるおそれがあります。」との文言が付加されていた(甲12)。

   イ、原告は、自分が不利な状況に置かれては困ると思い、開示された内容は不十分であったが面談に応じることとし、同月23日と25日に調査委員会による面談が行われたが、調査委員会の委員側は抽象的な質問に始終し、原告が、いつ、誰に対し、どのようなハラスメント行為を行い、その結果どのような被害が発生したのかの詳細については、一切明らかにされないままに終わった(甲13の1、2 なお、この面談記録は、被告ハラスメント調査委員会が作成したものである)。

   ウ、同年12月下旬、原告がO調査委員会委員長に、調査結果はどうなっているのかと尋ねたところ、「報告書は、忙しくしているために遅れている。特に問題はないと思うので、園芸療法のベンチャー化を進めているのなら進めておいて。」と返答を得た。

   エ、ところが、2008年(平成20年)2月22日、「看護学専攻における教育指導法に関する調査委員会」から、「ハラスメント調査委員会の医学部保健学科看護学専攻の「ハラスメント事案に係る調査報告書」のいくつかの記載事項について確認」したいから、同月25日16時に学科長室に来るようにとの呼び出しがあった(甲14)。

しかし、原告としては、この「看護学専攻における教育指導法に関する調査委員会」は、如何なる目的で設置された調査委員会か分からず、かつ、調査報告書も見ていなかったので、翌23日、「看護学専攻における教育指導法に関する調査委員会」のA委員長に、設置目的が分かる規約の提出と調査報告書の開示を求めた(甲15)。

これに対してA委員長は、同月25日、「医学部保健学科看護学専攻のハラスメント事案に係る調査委員会報告書が平成20年2月22日、本学ハラスメント防止委員会で了承され、学長に報告された。同日、学長の指示により審査委員会が設置され、同日開催の第1回審査委員会において、保健学科に対し、調査依頼が口頭で行われた。」と回答し、さらに、その文書の中で、何故か、議題については、当初、「ハラスメント事案に係る調査報告書」のいくつかの記載事項について確認」としていたのを、「平成19年11月14日付けで貴殿に送付済みの面談記録とその内容の確認に関すること」と変更していた(甲16)。

さらに、A委員長は、同月29日にも、原告に対し、「看護学専攻における教育指導法に関する調査委員会」に出席するように通知してきたが、その文書では、「看護学専攻における教育指導法に関する調査委員会」の設置根拠を「平成20年2月25日付け文書「『看護学専攻における教育指導法に関する調査委員会』への出席に関する確認事項等について」に、「医学部保健学科看護学専攻のハラスメント事案に係る調査委員会報告書が平成20年2月22日、本学ハラスメント防止委員会で了承され、学長に報告された。同日、学長の指示により審査委員会が設置され、同日開催の第1回審査委員会において、保健学科に対し、調査依頼が口頭で行われた。」と述べたように、学長が指示して教育研究評議会のもとに審査委員会が設置されました。この審査委員会は、貴殿の懲戒処分に関する審査委員会で、本学職員懲戒規程及び本学教育職員人事規程に基づいて審査を行っているものです。念のため、両規程(一部抜粋)及び本学ハラスメント防止等に関する規程を添付いたします。なお、本調査委員会は、この審査委員会の依頼によって設置されています。」と説明してきた(甲17)。

しかし、教育職員人事規程によると、教育研究評議会の審査に必要な事項は、教育研究評議会の議に基づき、学長が定めるとされており(4条5項)、学長が、教育研究評議会に審査委員会を設置するよう指示することは出来ないはずであるから、原告は、その審査委員会の依頼により設置された「看護学専攻における教育指導法に関する調査委員会」には出席しなかった。

   オ、そうしたところ、同年3月6日、原告は、被告学長から、審査説明書の交付を受けた。

勿論、かような処分には到底納得できないので、原告は、同月20日、陳述請求した(甲18)。

そうしたところ、被告教育研究評議会は、同年4月21日までに、陳述書面を提出するよう求めて来たので(甲19)、同日までに補充陳述書(甲20)、参考人の陳述書(甲21の1ないし3)等を提出するとともに、そもそも、審査説明書においては、原告が行ったとされる非違行為が特定されていないので、これを特定すべく求釈明及び情報開示請求を行った(甲22)。

しかし、これに対し、同年5月9日、何故かA被告医薬保健研究域保健学系長の名で、求釈明事項については、既にハラスメント調査委員会で説明しているか、被害者または関係者のプライバシーの観点から明らかに出来ないと回答してきた(甲23)。

カ、そして、前記のとおり、被告は、5月16日、原告を本件処分に付した。 

(2) 非違行為の不告知による弁明の機会の剥奪

前記のとおり、被告は、原告が非違行為を特定すべく釈明を求めたのに、既にハラスメント調査委員会で説明しているか、被害者または関係者のプライバシーの観点から明らかに出来ないとの理由で、釈明に答えなかった。

しかし、前述の通り、調査委員会においては、何ら非違行為の特定はなされていない。また、被害者や関係者のプライバシー如何にかかわらず、処分対象となる非違行為が特定されていなければ、弁明が出来ないことはもとより当然のことであるから、被害者や関係者のプライバシーは、釈明に答えない理由とはならない。

結局、被告は、処分の対象となっている非違行為を特定せず、原告の弁明の機会を奪ったまま本件処分を行ったのであるから、手続的保障がなされておらず、本件処分は無効である。

 

3 懲戒処分理由の不存在

(1) ボランティアの学生に関して

ア、科学研究費補助金助成の対象となっている園芸療法の研究のため、原告が、ボランティアを広く募集したところ、一般市民の外、被告大学医学部保健学科看護学専攻の3年生が6名、2年生が2名参加してくれた。

そして、園芸療法の準備として、2007年(平成19年)6月30日に被験者にも来てもらって花壇造り等をしたが、その際にボランティアの学生には、被験者に生活栄養指導をしてもらった。 

    イ、しかし、それは、何も質、量において負担の重いものではない。

また、作業中暴言を吐いた事実もないし(どのような暴言か不明であるが)、ボランティアを辞めたいのならいつ辞めてもいいのであって、辞める旨申し出た学生に対し、「人間失格」等と激しく叱責したという事実もない。

(2) 卒業研究で指導した学生に関して

    ア、学生に対して、長期間にわたり、深夜、早朝までの作業を指示したことはない。

    イ、ある学生が、休みたいと診断書を持ってきたことはあるが、それは、2005年(平成17年)8月のことであり、卒業研究の初期の頃で、卒業研究に忙しい時期ではない。むしろ、就職活動とか大学院受験の時期であり、その学生は大学院の入試対策で休みたいのだと思ったので、原告は、その学生に対し、「休んでいいよ。」と答え、それで終わっている。  

   (3) 保健学科調査委員会の調査について

前述のとおり、教育職員人事規程によると、教育研究評議会の審査に必要な事項は、教育研究評議会の議に基づき、学長が定めるとされており (4条5項)、学長が、教育研究評議会に審査委員会を設置するよう指示することは出来ないはずである。

従って、学長の指示に基づいて設置された審査委員会で、本件処分につき審査することは出来ないはずであるから、これに出席しなかったことが、懲戒処分の理由になるはずがない。 

    (4) 以上のとおりであるから、本件処分理由はそもそも存在しない。

 

 4 小括

   以上のところから、本件処分は無効である。(づづく)


皆様へのお願い                                                  

 本事案は、大学の法人化後の内部競争の激化とともに起きた、    

極めて社会的普遍性の高い事件と捉えています。この点を踏ま

え、本件を広く国民に知らせると共に、最高学府の就学・教育環

境の改善につなげていくことが肝要であると考えております。                                                      

 何卒、皆様のご支援、ご協力を賜りますよう心よりお願い申し上 

げます。