たんぽぽ東北地方太平洋沖地震は、3月11日に発生してから、9日目が経過した。地震、津波に加えて、福島県原子力発電所が問題となっている。世界で唯一の被爆国である日本であるが、私自身、原爆症について、ほぼ無知である。今回は2009年に「病理と臨床」で特集された、関根一郎:原爆症を参考にし、まとめた。*関根先生の論文は、非常に示唆に富んだ内容ですので、御一読下さい。

以前のブログも参照:その1その2。*原爆によって放射能を浴びる事を「被爆」、その他の原因で放射能物質を浴びる事を「被曝」と呼ぶ。原爆は後述の如く、爆弾を爆発させる事により、大量の放射能を浴びせる武器である事を確認する。原子力発電所などとは圧倒的に放射能量が異なる。

 


 

関根一郎先生は、長崎大学医学部の、原爆後障害医療研究施設 腫瘍・診断病理学研究分野(原研病理)の元教授として御活躍しています。

以下、教室の概要はこちら:原研病理は、放射線の及ぼす人体影響についての研究を行なっている。被爆者の手術材料、生検例や剖検例を用いた病理疫学的調査研究に加えて、原爆被爆者の晩発性放射線障害(原爆後障害)の代表的疾患である、腫瘍の分子病理学的解析に取り組んでいる。また急性放射線腸障害や放射線治療に伴う副作用である腸炎の予防法・治療法についての基礎研究も行っている。

関根先生のプロフィールはこちら

 



 

関根一郎:原爆症:2009年:病理と臨床特集号:病理学と社会、を参考にした。一部編集して記載。

原爆投下後60余年が過ぎ、被爆者の平均年齢は75歳を超えた。現在も被曝生存者は25万人いる。平成20年の長崎市は人口45万人で、被爆者数は10%、4.5万人を占める。

I. 原爆投下について。II. 放射線。III. 急性原爆症の症状。IV. 原爆後障害について。

 


 

I. 原爆投下について。

原子爆弾(原爆)は、ウラニウム238 (広島市)、プルトニウム239 (長崎市)の瞬間的な核分裂(連鎖反応)によって生じる爆発力を利用した核兵器である。*ウラニウム、プルトニウムは広島大学の情報を参照にした。

昭和20年8月6日広島市、8月9日長崎市で、米軍B29爆撃機により投下され、地上500 mで炸裂した。爆発とともに火球が形成され、強烈な熱線と放射線が放射され、爆発点の周りの空気は膨張し、爆風が生じた。爆発で生じたエネルギーの30%が熱線、50%が爆風、15%が放射線であったと推定される。爆発とともに太陽のような火球ができ、拡大し1秒後に直径280 m、温度が5,000度の大火球が地上500 mに出現した。爆発後に放射された赤外線が人体に熱傷を与えた。広島では爆心地から3.5 km、長崎では4 kmまで襲った。爆心地から1.2 km以内のものは致命的に受傷し、死者の20-30%はこれによる。爆風は、中心地から500 mでは280m/秒、800 mでは200m/秒の風速で、建物のほとんどは崩壊した。二次的に火災も生じた。広島では12万人が死亡、8万人が負傷、長崎では7.4万人が死亡、7.4万人が負傷した。

II. 放射線。

通常の爆弾でも熱線による熱傷、爆風による外傷は生じうるが、放射線による影響は原爆(核兵器)特有のものである。原爆は主成分はγ (ガンマ)線と中性子線である。著者はヒトの推定半数致死量線量(LD50)を450cGyとし、γ線と中性子線の単純加算で、広島で970 m、長崎では1,170 mでこれを受けた、としている。両市においては、1 km以内の人達は爆発の瞬間の放射線のみで死亡する線量を被曝したと推定している。*cGyに関しては北里大学放射線部を参照。Gyは、吸収されたエネルギーで放射線の量を表す。吸収線量の単位で、放射線および物質の種類に関係なく、照射物質の単位質量当たり、放射線から与えられたエネルギー量をいい、1グレイGyは、1 kg当たり1J(ジュール)与えることを表す。

更に残留放射能として、土壌等から生じた二次的・誘導放射能、核分裂によってできた放射性物質等が加わった。爆発後、放射性降下物が起こり、黒い雨が降った。*長崎市では、爆発の中心部の山向こうの谷に放射性降下物が、「黒い雨」として降り土壌を汚染した。

1. 放射線による影響:熱傷では組織全体が変性や凝固壊死を生じるが、一方で、放射線は感受性のある細胞を個々に障害する。

2. 放射線感受性の法則:ベルゴニー・トリボンドーの法則:長崎県放射線技師会参考。各細胞、各組織は特有な放射線感受性を有する。放射線感受性が高い細胞は、1) 細胞分裂が盛んなほど感受性が高い、2) 組織の再生能力の大きいほど感受性が高い、3) 形態的、機能的に未分化なほど感受性が高い、と言う特徴がある。

放射線感受性の高い組織の例として、免疫組織やリンパ節、次いで骨髄造血細胞、水晶体上皮、消化管上皮、精巣精母細胞、卵巣卵子、皮膚毛根がある。逆に、筋肉、軟骨、骨、脂肪組織は放射線抵抗性である。

 


 

III. 急性原爆症の症状。

1. 下痢:赤痢が蔓延したと誤った情報が報告されるくらいの血便が生じた。小腸は放射線感受性の高い組織である。これは、小腸絨毛細胞は腺窩で産生され、絨毛表面まで上昇し、尖端でアポトーシスに陥り、脱落消失する。この細胞の寿命は3-4日である。この腺窩上皮に放射線標的となる。広範囲にアポトーシスが起こり、腸管死が起こる。水分を摂取しても下痢として排出されるため、脱水が起こる。被爆者に「水が飲みたい」と訴えながら死亡するものがいたが、これによるとされる。大腸粘膜も崩壊し、出血性下痢が生じ、これらが赤痢と誤認された。

2. 骨髄造血障害:赤血球は寿命が120日と長く、貧血は軽微であった。一方、白血球や血小板の寿命は2-3日である。被曝後生体は、白血球減少=免疫不全による感染症が起こった。急性原爆症の死亡ピークは、1ヶ月後で、肺炎や感染性腸炎が多発したと推測されている。これは骨髄死である。

3. 免疫不全:被曝後に胸腺、脾臓、リンパ節は萎縮する。組織学的にはアポトーシスに陥り、重症免疫不全が起こったと推測される。

4. 脱毛:毛根は放射線標的組織である。近距離被爆者ほど頭髪の脱毛が多かったと記録されている。動物実験で、X線照射により毛根は消失する。毛髪産生途絶により、いっせいに脱毛が起こる。

 


 

IV. 原爆後障害について。

1. ケロイド:通常の熱傷と異なり、原爆ケロイドは醜く、隆起する(カニの甲羅などと呼ばれる)。爆心地から2 km以内のヒトに多くみられた。被曝後4からみられ、6-14ヶ月で顕著となった。長期に渡る瘢痕は運動障害を残した。

広島原爆資料館の写真参照

2. 白内障:眼のレンズの細胞の増殖帯は、レンズ後極部にあり放射線により増殖帯が障害を受ける。3-10ヶ月の後に、後極部の混濁が生じる。

3. 白血病:白血病の発生は、被爆者に早期に認められた悪性腫瘍である。最初の白血病は、被曝後2年で認められた。急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄白血病(CML)の3種が挙げられた。慢性リンパ性白血病(CLL)の増加はみられなかった。

4. その他の固形癌:前述の(比較的早期に認められた)白血病以外に、甲状腺癌、乳癌の発生が多い事が明かとなった。その他、肺癌、胃癌も被爆者に発生率が高い事が報告されている。その他、重複癌の発生がみられる。

 



 

 

学生時代に読んだ、漫画「はだしのゲン」。急性放射線被曝障害を漫画として伝えていた。あらすじ:広島県の国民学校2年生であった主人公・中岡元(なかおか げん)が1945年8月6日に投下された原爆で自身も被曝し、また父、姉、弟を亡くしながらも、母と共にたくましく生きる姿を描いた物語。*「はだしのゲン」の中で、「水を求めて亡くなる被爆者」「消化管障害で血便・下痢を生じる被爆者」が、表現されていた事を思い出す。

 

 

 


 

戦後60年以上が経過したが、日本は世界で唯一の被爆国である。今後も、原爆(核爆弾)の悲惨さ、真実を後世に伝えてゆく義務がある、と思います。

福島原子力発電所の、一日も早い安全な管理が望まれます。

写真はタンポポ。春はもうすぐそこ。