2009年10月28日

大人と子どもでは訓練の効果が違う

今回は、介入研究の話である。タイトルのとおり、大人で効果的な訓練法や教育法も、子どもにあてはめると、ほとんど効果がない可能性があることを示した論文であり、大変興味深い。


以前にも触れたが、ある課題の訓練をして、その課題の成績が向上するか、新しい課題にその訓練の効果が転位するかを調べる。

介入研究の重要性はたくさんあるが、おもに
A.発達障害を抱える人への支援方法の開発につながる
B,教育法の効果を評価することができる
C,遺伝と環境という問題に貢献できる(ある能力が訓練できるとすれば、その能力は遺伝で全て決まっているわけではないことが示される)
D.相関関係にある2つの変数の関係を規定することができる(ある能力を訓練すると別の能力も向上したが、その逆が認められなかった場合、2つの能力の因果関係に迫ることができる)

などがある。

今回紹介する研究は、AやBと絡んでくる研究である。

最近実行機能の発達、特にタスクスイッチング研究で存在感を見せつつある、ドイツのKrayらの研究である(Karbach & Kray, 2009)。

タスクスイッチングとは、作業の切り替えである。例えば、友人と話しているときに、子どもを見つけると、それまで普通に話していたのに、急に(気味が悪い?)子ども向けの言葉に切り替える。子どもと話した後に、友人と話すときは、また普通の言葉に切り替える、といった具合である。

通訳にも同じような能力が必要である。英語と日本語を切り替える、といった具合だ。


この研究では、小学生、大人、高齢者、を対象に、タスクスイッチングの能力が訓練されるかどうかが検討された。

デザインは、プレテストー訓練ーポストテストで、プレテストに比べて、ポストテストの成績が向上するかが検討された。

プレテストとポストテストは全く同じタスクスイッチング課題であった(ほかに、Stroop課題やワーキングメモリ課題が用いられたが、今回は割愛する)。

ここでのタスクスイッチング課題は、画面上に、フルーツか動物の一方と、大きい絵と小さい絵の一方、の2つが提示され、ある試行では「フルーツか野菜か」の判断を、別の試行では「絵が大きいか小さいか」の判断をするように求められた。食べ物の判断か、サイズの判断かを切り替えなければならないわけだ。 

で、訓練が4種類があり、どの方法がより効果的かが検討された。
訓練は、別のタスクスイッチング課題を用いて行われた。
1)単一課題群(統制条件)
この群は、課題の切り替えはなく、刺激の単純なカテゴリー判断(動物か魚か)の訓練をした。

2)課題切り替え群(課題の種類は1つ)
この群は、課題の切り替えの訓練を行った。例えば、ある試行では「動物か魚か」で、別の試行では「木か花か」の判断を求められた。

3)課題切り替え群(課題の種類は多数)
2)と同様に課題の切り替えの訓練を受けるが、2)が同じ課題でずっと訓練を行ったのに対して、3)では、数種類の課題で訓練を行った。つまり、様々な刺激で、課題の切り替えを行ったわけである。

4)ややこしくなるので割愛。


成人の研究から、1)よりも2)が、2)よりも3)の方が効果があることが知られている。3)は様々な種類で訓練をするから、効果も出やすいわけである。

今回の研究でも、成人や高齢者では先行研究どおり、3)が最も効果があった。

ところが、小学生では、同じ結果ではなかった。むしろ3)はほとんど効果がなかったのだから興味深い。

つまり、3)の群の小学生は、プレテストとポストテストでは結果に差がなかったのである。訓練の受け損である。

この結果について、著書らも困惑しているようだが、有力な解釈としては、小学生ではワーキングメモリなどの処理能力が十分に発達していないため、一度に色々と詰め込まれると、逆に効果が失われる、というものである。私もそう思う。


この研究は、社会的にも意義深い。小さい頃から詰め込みすぎ、やりすぎると、逆に効果が失われるのだ。「過ぎたるは及ばざるがごとし」とはよく言ったものである。

また、もうひとつ大事なことは、成人に対して、高齢者に対してうまくいく訓練も、子どもにあてはまるとは限らないということだ。

最近は、脳や頭にいいトレーニングとかが出回っているが、仮に成人や高齢者で効果があったとしても(そもそも、その効果すら怪しいものが多いが)、子どもにそのまま適用しても無意味な可能性がある。


残念ながら、私が知る限り、世に出回っている(脳科学に基づく??)教育書は、大人の研究を基に、子どもの記憶力や知能の訓練の仕方を無責任に論じているようだが、それを書いている人たちにぜひこの論文を読んでほしいものである。


<参考文献>
Karbach, J. & Kray, J. (2009). How useful is executive control training? Age differences in near and far transfer of task-switching training. Developmental Science, 12,978-990.



gccpu at 17:29コメント(5)トラックバック(0)幼児 | 実行機能 

トラックバックURL

コメント一覧

1. Posted by KY   2009年11月03日 22:46
今回の研究も興味深いですね。
gccpuさんが指摘しているように、トレーニングの効果といっても、子どもでは効果がない場合があるという結果は、現代の日本の風潮に警鐘を鳴らすものであるといっても過言ではないですね。

ただ、少しいじわるな見方をすると、この研究は、トレーニングの効果を否定しているのではなく、今回用いたトレーニング方法は、たまたま子供には不適切であったということを証明しただけの結果ともとらえることができると思います。

効果がなかった解釈として、ワーキングメモリの処理の発達が不十分であるというくだりがありますが、もしそのような解釈が正しいとすると、逆に子供のワーキングメモリにあったトレーニングであれば、十分にトレーニングの効果がある可能性が考えられます。そのように考えると、この研究では、子どもにとって、用いられたトレーニングは不適切であっただけじゃないかと思うのですが、どうでしょうか?

ただ、このトレーイングにおいて、子供に会ったトレーイング方法というのを具体的には思いつきませんし、もしかしたらこのような単純なトレーニングでは、そもそも量的な違いはあまりないのかもしれませんが・・・・
2. Posted by gccpu   2009年11月04日 10:58
KY様

コメントありがとうございます。

この論文は、トレーニングの効果を否定しているわけではなく、「大人に効果のあるトレーニング法であっても、そのまま子どもに適用すると逆効果になりかねない」ことを示しています。今回の記事の主旨もそこにあります。

私も、トレーニングの効果を完全に否定しているわけではありません。ただ、現代のメディアや書籍に目を通す限り、大人に効果のあるトレーニング法を、無批判に、何の検証もなしに、子どもにあてはめようとするものがあまりにも多いです。しかも、それを書いてたりするのが、神経科学や心理学の研究者だったりするわけです。

つまり、成人の研究をしている神経科学者などが、そこで得られた知見を、なぜか教育に結び付けようとして、勝手な主張をしているということです。そういう人たちに読んでもらいたいのがこの論文です。

近年の進化発達心理学の考えによると、子どもはどの発達段階においてもその段階に適応しており、完成しています。それを考慮すると、訓練ってどれだけの意味があるのかなあと考えたりもします。

3. Posted by KY   2009年11月04日 14:11
今の風潮への警鐘ということですね。

確かに、トレーニングの意味を考えるのにはうってつけの論文ですね。勉強になりました
4. Posted by 緋月   2009年11月04日 18:03
こっちのエントリも興味深いので連投・・・

こちらの訓練効果の話では、タスクスイッチする用の回路(小脳レベル?)が子供にはまだなかったのかもと思いました。
大人ではモジュール化されてるからそこを活性化するだけ、子供はなかったので汎用的に処理する部分でがんばっちゃって、訓練時間では十分活性化しなかったとか。
完全に思いつきなので活動領野を調べてみると違いが出るかなーとか思ったりします。

自分もこーいう系統の「脳科学に基づいた」系はあんまり好きじゃないです。
解釈が定まってなかったり仮説レベルでしかないものを、あたかも確定事項のように扱っているところとか。
しかもこういう子供相手の話だとさらに危なくて、研究者の言ったことに対して親御さんが過剰に反応してしまう危険をはらんでるんですよね。

#あと、コメントの文字数制限に引っ掛かることが多いのでもし増やせれば増やしていただきたいな・・・と思ったり。
5. Posted by gccpu   2009年11月05日 00:33
緋月様

こちらもありがとうございます。コメントの文字数、ちょっとわからなかったので、ちゃんと調べてみます。

たしかに、脳の機能・構造的な発達という観点からすると、同じ課題でも、子どもは、脳の多くの領域を使う広範的な処理であるのに対し、成人は、一部を使う局所的な処理ですね。

タスクスイッチに関しては、成人では、前頭前野腹外側部、補足運動野、頭頂葉、小脳などを使いますが、子どもでは、少し違う領域を使うという報告もあります(Crone et al., 2006. The Journal of Neuroscience)。

おっしゃるとおり、大人では様々な訓練をしても、上記のネットワークを活性化させ、訓練はそのネットワーク間の結合を強めるだけなのに対し、子どもはネットワーク自体ができていない(もしくは色々なところがつながっている)ため、訓練の種類をころころ変えると、ネットワークを特化(鋭敏化?)させることができないのかもしれませんね。単純な訓練は、ネットワークを方向づけられるため、有効なのかな。

結局汎用的な処理領域(前頭前野外側部?)のみが活動してしまうのかもしれないですね。やはりこれは画像化させてみたいですね。

興味深いご指摘ありがとうございました。またお願いします。

コメントする

名前
URL
 
  絵文字
 
 
記事検索
Recent Comments
TagCloud
livedoor × FLO:Q
QRコード
QRコード
楽天市場
  • ライブドアブログ