2010年06月28日

【コラム・ネタ・お知らせ】 個性と価値とエトセトラ

クエスチョナーズ藤岡でごわす。「個性の時代」なんて言葉が古臭く感じられるくらい、もう長いこと世の人たちが「個性個性」なんて言い続けている気がしますが、世の中が「個性的」な人たちで溢れかえって右を向いても左を向いてもなんだか楽しい、みたいな状況には一向になる気配がございません。不思議なものでごわすね。
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「個性」というモノは、エンタテインメントで食っていこうという人間にとっては無視できない要素の一つなんですが、コレが面白いもので、自分(個性を持つ人)一人だけで存在している状態ではその価値の意味がよく判らないけど、第三者が客観的に見た時に「なんだかコイツはおかしい(普通じゃない)」と感じることにより存在が確認される、という特徴があります。

この「自分ではよく判らない」というのが結構曲者で、「俺は個性的だ」なんて自分で言っている人間ほど、蓋を開けてみると「個性」と「個体差」をはき違えているだけで退屈極まりない、なんてことが多々あります。

個性は常に客観的な評価

僕の経験則からすると、パッと見は何の変哲もない普通の人なのに何かのきっかけでスイッチが入ってしまうと何かが止まらなくなるというタイプの人が「個性的」で面白いモノを生み出すことが多い。ちなみにココで言ってる「面白い」というのは、純粋に人に何がしかの特異な感動を与えうる、という意味で、正の感情か負の感情かは関係ありません。「個性」が溢れるあまり、人に嫌悪感を与えてしまう場合も含みます。僕は結構そういうモノも好きですが。


ちょっとここで用語を規定しておくと、「個性」と「個体差」は同質のベクトルデータにより表わされうるものであるが、その絶対値が他者の感動を呼び起こす閾値を超えている場合に、それを個性と呼ぶ、という感じ。

具体例で言うと、「ちょっと人より足が速い」という先天的な「個体差」をトレーニングなどにより「無関係な周囲の人間がその能力に対して何らかの代償を払ってもいいと思ったりする(スポンサーがついたり)レベルで足が速い」状態まで持っていくと「個性」になる、くらいのニュアンスで受け取っておいてください。

「個体差」の中で、あるしきい値を超えたものが「個性」

エンタテインメント商材を創り上げようとする企画屋たちは、そういった「個性」を自分の関わる商材に「価値」として付加させようと躍起になるわけですが、その「価値」と「個性」の関係性があまりに複雑なため、「これが正解」という絶対的な回答を言語化したいとか思うとややこしい話になってきます。これはそもそも「価値」という概念自体が「時代」や「場所」とか、さらには「受け取り手のその瞬間の気分」なんてものによって大きく変化してしまうモノだからです。

そんな厄介な「個性」というモノを、目利きであるところの企画屋たちがどういう風に選び出し・集めて回るかと言うと、身も蓋もない話「何となく」だったりします。よく「企画屋は常に色々なところにアンテナを張っておかなければならない」みたいな話を聞きますが、これは「個性」という選択肢の数を増やして比較研究することにより、「何となく」なりに正答率(利益を出す確率)が高くなるように努力しましょう、という話だったりするわけです。なので世の中に、流行しているアニメや漫画の関連商品が溢れかえる、なんていう現象が起こるのも当然の話。ちなみにクエスチョナーズの商品にそういったものが少ない(そもそも商品点数も少ないんですが)のは企画を立てることの多い僕の趣味がそういったところから外れ気味なので、良さがわからないまま機械的に版権商材を作るよりは、もっと根源的な部分で感動を生む(と思われる)ような商品を作ったほうが良いであろう、という判断に依っております。

で、たまに理論的にその「何となく」の中身を語ってくれる人もいますが、後付けだったり的外れだったりすることが多い気がします。また、成功体験に固執してしまうあまり、変化し続ける「価値」に対するアプローチの柔軟性が失われて「老害」だなんて呼ばれてしまうのもよくある話。大切なのはその場その場の状況に合わせて、良い加減で「何となく」対処していくことです。で、「何となく」でモノの良し悪し(ここではそれ自体が利益を生み出すか否かという意味)を判別する際に、以前ココでも書いたように、平凡な(一般的な)モノに対する感覚が重要になってきます。

詳しくは2010年2月5日のコラム「平凡って悪くないですよ」を御覧下さい

こうして見ると「企画屋」というのは、「何となく」自分が良いと思う「個性的」なモノを見つけ出し、ソレを商品化するためにかかる経費(物質的なものも精神的なものも含む)と予測可能な利益のバランスを周囲の人間に納得させ、商品を作り上げるお膳立てした上でエイヤッとギャンブルに身を投じて、結果できたモノが売れて利益が出たときには大きな声で笑い、そうでなければ隅っこで反省しているフリをするのがお仕事、という生き物なわけです。いやあヤクザな人たちですねw。

企画屋の仕事の1サイクル

話が少しそれてしまったので本筋に戻しましょう。このように「個性」というのはとても曖昧模糊とした概念なんですが、それでもやっぱり世の中には確固として「個性」というモノは存在するし、「個性」のあるモノというのはその特異性から、それだけである種の娯楽・エンタテインメントになりうる「価値」があるわけです(理由はこの辺照)。

例えば何の変哲もない「お皿」があったとします。そのままでは人は多分その「お皿」に対して、食事を盛り付ける「道具」以上の「価値」を見出すことはないでしょう。でも、それに「個性的」なデザインが施されて(このような方法以外にも「誰かが良いと言った」という事実を付加する千利休方式みたいなものもあったり)ブランドとして認識されたりすると、人は「お皿」に「道具」以上の「価値」を見出したりして、本来の用途そっちのけでコレクションしてみたり、美術品として見世物にまでなってしまったりするわけです。

じゃあとにかく商品に含まれる「個性」の数をを増やしたり、一つ一つの「個性」の絶対値を増大させてやれば、「価値」が高まるのかというと、それもちょっと違う。どちらの方法もやりすぎると悪趣味だったり、統一感がなくなったりして、海原雄山に「お前は何年この仕事をやっとるんだ!」と怒られるようなことになってしまうわけです。

そういう失敗を避けるため、「個性」を選別したり、調整したりして、最適と思われる「価値」ある存在を作るのが企画屋の仕事なんですが、そこ自体にも「個性(≒個体差の時もある)」が生まれてきます。なので、とある商品に対して、それに参加している作家の「個性」だけでなく「企画自体も面白い」なんて評価が出てくると、僕らのような仕事をしている人間は人知れずニヤリとする事になります。


ともあれ世の中には様々な種類・レベルの「個性」を含んだモノ達が存在していて、僕らは好むと好まざるとに関わらず日々そういった「個性」に触れて生きているわけです。そうなると自然の流れで、何人かの人たちは自分自身の「個性」を表現してみたい、などという欲望にとりつかれる事になって色々なモノを作ってみたりします。

で、その時にその「個性」の「価値」を誰がどのように評価するのかというと、制作者以外の受け取り手がてんでバラバラ好き勝手に評価してくれるわけです。商業作品なら、様々な評価を踏まえた上で、売上という結果がその商品の「価値」を厳格に規定してくれます。一応このプロセスは商品の原型たる何かを制作した人の「個性」の「価値」だけではなく、営業や広報などの諸々の担当者の仕事の「価値」も加味されるので、一概に大元の制作者に利益・評価の全てが還元されるわけではありませんが、目安としては判りやすいものでしょう。

商業作品では売上が「個性」の価値の評価の目安

そこで制作者は、自身がどのような「個性」に触れ、それらに対してどのような「価値」を見出し、自分の「個性」に取り込んできたのか、という真価を問われることになります。「作家業は自分の恥部をさらけ出すことが仕事」みたいな話はここらへんを指しているのでしょうね。まあ別に作家に限った話でもなく、真面目に何かを作り出そうとする人全般に当てはまる話な気もしますが。

さらに言うと、こういった世界に足を踏み出してやろうという際に大事なのが自分の「価値」に対する評価を恐れないこと。実際にこういう事をやってみたいという人の大部分が、他人からの評価を恐れて、作品を周囲の人に見せてみるという第一歩を踏み出せずに、スタートすらしないままに挫折していくのが現実です(会社経営もそうですね)。何も成していない状態の人が、無駄に自分の「個性」にプライドを持って何もできなくなるくらいなら、開き直ってどうしようのないものでも世に出してみて、数多の批評を乗り越え、「価値」を高める努力をしていく、という方が夢が見られて楽しいんですけどね。願わくば、開き直った面白い人が増えて、僕の退屈が掻き消されますように。

今更ですが今回のお話は、最近お手伝いをすることになったとある漫画家の卵さんと「プロになるために何をやっていくべきか」という話し合いをしまして、その中身の一部を抜粋したものです。このコラムを読んでいる方の中にもそんな状況で悩んでいる人がいるのであれば、何かの一助になれば幸いです。もしそういう方が本当にいらっしゃるのであれば最後に一言。「こんな駄文を読んでいる暇に自分の創りたいものを少しでも形にしてください(笑えない)」お後がよろしいようで。

いつものように、ご意見ご感想はこちらへ

最後に恒例のあきでんラジオ告知。今回も生放送です。日時は本日6月28日月曜日の22:00~ニコ生Ustreamどちらもやります。毎度のことながらギリギリまで何が起こるかわからないドキドキの約2時間をお楽しみに。

そんな感じで今回はここまで。ではまた再来週。

クエスチョナーズ 藤岡聡

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個性と個体差は違うんですよ【基本オタクですが、なにか?】at 2010年06月28日 20:21