2011年11月14日

【コラム・ネタ・お知らせ】 果たして日本国内でフィギュアは作れるのか?

日本国内でフィギュアは作れるか クエスチョナーズ・モリです。前回の続き、基本的には『日本人、ないしは日本文化を愛好している一部の海外の皆様』に向けて作られる『フィギュア』はやっぱり日本で作られるのがスジなんじゃないのとか思っていたら本当にありましたよ。新たな技術でフィギュア開発を行い始めた「株式会社アステックさん」にもお話を伺いました。
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ホビーショップに並ぶ様々な商品について、一部のプラキットを除いてはほぼ中国製、ダイキャスト製ミニカー類についてはそろそろベトナム製というものが出回ってきました。しかしながら日本人固有の美意識の結晶でもある『日本産コンテンツ』と、その版権をお借りしての『完成品ホビー』というものが『何故、そのような色や形を帯びるに至ったのか』を生まれたときから感覚的、かつ自然に受け止められていない、また、文化的な親しみも無いであろう外国人に無理無理作られていくのもお互いに苦しいんじゃないかと『少し』思っていたりします。

これまで中国人ワーカーさんの賃金は概ね日本人の日給分が『月給として』支払われていたのですが、2010年からその『月給』が日本人の日給2日分となり(<今ココあたり)、やがては3日分、4日分と毎年上がっていくという予告を受けて、メーカーさんによっては『間に入った商社を外して工場と直取引する』、『自社工場を持つ』、『工場や商社の株主になる』など、持ちえる体力と経験値に応じて様々な方法で賃金の高騰分をカバーしようと頑張っている様子です(それでも来年度発売のアイテムで本当に一体15,000円のPVC製美少女フィギュアが問屋の内見会にいくつか登場したのはマジで驚いた)。

そんな昨今ではありますが、『洗面器のような定型品』、果てはカメラやクルマの様な厳密な図面や仕様書が存在する工業製品と異なり、『工業製品工芸品の狭間』を右往左往し、版元さん、開発担当者からユーザーに至るまでの全ての関係者の恣意性がその品質を左右する『完成品ホビー』、強いては『美少女フィギュア』というモノは、もし、コスト的な折り合いが付くのであれば『現在の日本文化に親しみがあって、痒いところに手が届く』日本人の手で作られたほうが原型の再現率も高く、価格はともあれ愛好している方には納得いくのではと考え、最近では国内金型メーカーさんを中心にいろいろな方とお会いしているところです。

完成までの作業を自動化出来る「工業製品」に比してフィギュアは、彩色など未だに職人さんの熟練度という属人性に頼らざる負えないという面においてはかなり「工芸品」に近い「工業製品」です

前のコラム「中国でワーカーさんの賃金が上がって、現状の価格を維持するなら、さらに大陸の奥地へ行くか、生産個数をたくさん稼ぐしかないよね」)という話をしましたが、そんなキツイ状況下で何故、中国で未だに『フィギュアを作る事』から離れられないのかについては、その工賃以外にも色々理由が存在します。 一つは日本国内において生産にまつわる技術継承が人的にほとんどなされていないこと、国内に技術は元より生産を実現する環境そのものがあまり残っていない事が上げられます。

そこで先ずはこのフィギュアを作るにあたって、日本国内で廃れそうな技術、細々とではあるが存在する技術を洗い出してみることで、そのハードルの高さを確認しながら「国産復活」の可能性を探っていきたいと思います。


【1】ベリリウム銅合金金型

現在日本国内ではCADデータを元にレーザで削り出し、放電加工を行って開発、パーツの配置や溶けたプラの流れ方までを全てパソコン上でシミュレーション出来るというのが一般的ですが、これはあくまでも大企業のお話。中国で3000個ほどのフィギュアを作るのであれば、このベリリウム銅合金金型の開発がまだまだ一般的です。

開発手法としては、まず原型のレジン複製品(いわゆるガレキと同じもの)を元にダボを職人さんが手作業で作ります。これを元にして各パーツごとに溶けたベリリウム銅合金をかけていき、型を取ります。冷えて固まったところで中心からぶった切り、それぞれがオス型、メス型になると思ってください。

こうして出来た各パーツの型を業界では『ベリコマ』と呼んでいます。この『ベリコマ』を図面を元に金型枠に複数個セット、出来たら一旦成型機にセットして、プラスチック(ABS、フィギュアの足や台座で使用、硬いからヘタラない)やビニール(PVC、顔やボディ、腕などはこちらが使われます)の流れを確認し、不具合があれば何度か調整を繰り返しながら、ベストな状態になるまでそれを繰り返します。この段階で出来た試作をこの世界では『T1』、『T2』、版元やメーカーの承認が得られたショットを『T-END』と呼んでいます。もちろん金型の製作と調整は全て現地の職人さんが手作業で行っています。

また、中国における成型のメリット(と呼んでいいのかどうか…)としては多少金型で引っかかる膨大なフリル表現やトゲトゲ程度なら「成型機から射出出来なくても引っ張って抜いちゃう」(PVCに限る)という荒業もたまにあります。

金型にセットされたベリ型 この世界に初めて踏み込んだ時は
「これが一般的な金型の作り方」だと本気で思い込んでいました。トホホ

【2】銅版マスク

これもほぼ日本では廃れた技術。酸の力で銅をパーツに薄く付けて膜を作るのですが、このパーツを基に作った硬い膜に、塗料がのって欲しいところだけ「職人さんが丁寧に穴を開けて」1つのフィギュアについて60~100個くらいの塗装マスクを作ります。

食玩全盛期は1個のアイテムに1000工程なんて当たり前だった時代もありました(遠い目)。彩色を完成させる上で以前にも日本円で200,000円ほどかかると書きましたが、今の日本で作ると一体いくらになるやら…(さらに遠い目)。

ブースにセットされ、大絶賛使用中の銅板マスク かなり塗料でべたべたと厚みが増していますが、塗料はみ出し(オーパーペイント)などをなくすために、作業中も定期的にシンナーで洗うなどの保全に努めています

【3】彩色

そもそも何十人もの彩色ワーカーさんが一斉にあのシンナー臭い塗料を吹きまくる塗装ブースがズラッと工場内に並ぶといった環境は日本に存在しません(カタチは違うが、どうもパチンコ台生産を中心に近いものは存在することが後に判明)。

1点物を超絶丁寧に仕上げるガレキなどの完成品工房は日本国内にいくつもありますが、彼らはフィギュア開発においては「中国側に具体的な指示を与えるためのマスター開発」において力を発揮する存在です。

工場内にずらっと並んだ彩色作業中の工員さんたち

本の筆で一気に4色を同時に塗り分ける「謎」の技術を持つ女性ワーカーさんの手先。ナニを塗っているのかは大人の事情で写真には出せませんが、フィギュア工場にはこういう余人に変えがたい素晴らしい技術を持った方も少なくないです。(ほとんど女性ですが)

文中には触れてませんが、彩色作業の中で欠かせないのがこの「タンポ印刷機」です。この印刷機は6色を一気に打てる優れモノで、フィギュアに目を入れる作業においては欠かせない一品です

上記にざっと上げただけで結構なハードルがいくつも存在するのですが、今回は冒頭で少し触れました「株式会社アステックさん」という、日本国内でフィギュアを開発し始めた素晴らしいメーカーさんにお会いする事が出来ました。

彼らがこの強固なハードルをどのようにしてクリアしてこの『初音ミク』を完成させたのか色々聞いてみました。

アステックさん謹製 初音ミク「- The incarnation of Nebula -」
(C)Crypton Future Media, Inc. www.crypton.net

(C)Crypton Future Media, Inc. www.crypton.net

■ 実は実験商品なのです

アステック代表 伊藤さん(以下、伊藤さん): 私、実はこの会社の2代目なのですが、前職である広告会社に勤務していた際に培った諸々の知見やコネクションを、精密加工を生業にする家業でも活かしたいという思いがあり、そんな中、ニコニコ動画などでボカロPとしてご高名な「Tripshots」さんと出会ったことから、この「-The incarnation of Nebula-」を作ろうと考えた次第です。

参考映像:Nebula【VOCALOID3DPV】

伊藤さん:そもそも、弊社はCADデータではなく、映像に使用されるポリゴンからでも金型の開発が出来ますので。

モリ:え?ポリゴンから直接?(驚)(註1)

伊藤さん:ええ、直接です。

註1そもそも、中国で開発生産を行う分にはそんな事は出来ません(2011年現在、モリの知る限り)。これまで、ポリゴンデータを元にCADでトレースして置き換えるなどを行い、その上で金型開発に使用してきました。今は何かクリエイタを書き換えるだけで出来る方法あるのかな?

伊藤さん:で、中国では手作業で作られるベリリウム合金型、一般的にはプラモに使われるような頑丈な放電加工型などもあるのですが、フィギュアなどの精々10,000個レベルで償却してしまえるような商品の型であれば特に問題ないだろう事から、アルミ型(註2)を作って開発を行っております。 もちろん、中国のPVC型で行われているような無理抜きは出来ませんので、アンダーカット(註3)にならぬように予めデータ上でパーツ分割などの作業を施します。

註2一般製品の分野では主にペットボトルの成型に使われる事が多い。メリットとしては通常の金型よりも切削スピード、放電加工など量産金型(鋼材)よりも早い為、短納期・コストダウンが可能になります。その開発スピードはだいたい量産金型の1/3~2/3と言われています。

註3コレがアンダーカット(画像中・右)です。これが大した事ないレベルであれば手で引っ張って抜くのが中国流

モリ:すごい!ポリゴンから直接切削とか、開発スピードが速く安価なアルミ型とか、さすが日本!超ハイテク!これまでの過酷なスケジュールとかコストとか一体何だったんだろー…ギャーッ!(と心の中で思っていますが、今回はあくまでも大人の顔合わせです) そこで我々が気になるのは生産個数なのですが、一体何個作られたのでしょうか。

伊藤さん:今回は1,000個ですね。

モリ:1,000個で売価15,000円!ならば3,000個作れれば中国で作ったフィギュアに価格で肉薄できるかも!

伊藤さん:それがですね、今回はあくまでも実験企画ですので、普通の販売用のフィギュアを作るとなれば、今のところはとんでもない価格になりますね。

モリ:では、もし同様の手法で弊社の「ラクエル」を3,000個作ったとしたら…。

伊藤さん:彩色やパッケージング、輸送までを含めれば売価は80,000円ほどになるでしょうね。ただ、こういった軽工業が国内に回帰出来る環境を作れればとは考えていますので…

モリ:人海戦術的な手法の中国に対抗するには、ほとんど人手を介さずに物が作れる環境を作らないといけないですね。

伊藤さん:それでも髪の毛などにグラデーションを施すには熟練した職人の技が必要ですからね。

モリ:そこは技術だけで考えれば日本の独壇場ですが、人件費的には厳しいですね…、うーん…、今、彩色とおっしゃいましたが、私、これまで色々、この界隈を弊社藤岡と共にあちこち訪問しているのですが、こういったフィギュア『生産』における彩色は日本国内ではほぼ絶滅してるんじゃないかと思っているんです。あと金型の分野では『ベリ型』とか。

伊藤さん:いえいえ、そんなに大々的ではありませんが、日本でも銅板マスクで彩色を行っている所はありますよ。もちろんベリ型を作っているところも。

モリ:あるんですか!

伊藤さん:特にパチンコ台は顕著ですが警察の監修が厳しくて内部の機械は元より外装の装飾に至るまでチェックされ、少しでも『差異があると警察が恣意的に判断したらアウトになる』物については埼玉のさる所で今でも同様の彩色技術が使われています。今回のミクもそんな工場で行いました。同じく埼玉方面ですが『ベリ型』も健在で、現在でもなぜか大手の玩具メーカーが使っていたりします。

モリ:あるんですか!しかも作ってるんですか!

伊藤さん:ええ、細々ながら、しかしここはいわゆる『ベリコマ』を作っている工場さんで、金型にセット、そしてインジェクションする工場はまた別にあるんですよ。しかし、ベリコマだけで生産するわけではないので、連絡すれば必ずセット、インジェクションをやっていただける工場も次々出てきますよ。本当に細々ではあるんですが、フィギュア開発や生産において中国で出来る事は日本でもちゃんと出来るくらいは残っているんです。

モリ:そうですか、パチンコかぁ。パチンコ台も中国で作っているところは東莞(広東省)でよく見かけたのですが、やはり『警察の監修』をクリアすることを考えると国内生産のほうが後々いいでしょうし…。それって少ロットのフィギュア生産に使えたりしないですかね

伊藤さん:コストは分かりませんが、技術としては確実に使えますよ


今回のお話を聞いて、コストはともあれ日本国内にフィギュアを生産する技術が『確実に』残っている事がアステック伊藤さんのお話で分かった次第。また、アステックさんの中で『完成品ホビーの国産化』に向けたさらなるイノベーションにも期待が膨らみます。好奇心や探究心に任せて色々な人に会って話を聞きまくる事がいかに重要か、とても身にしみますね。

そして、このミクフィギュアの開発過程がよく分かるアステックさんのブログ、「カタチマニア」のミク関連記事はこちらです。大変に興味深いので是非、ご一読下さい。

そして、この「日本でフィギュア作れるのかクエスト」は、今後も新しい情報を得られ次第、今後も続けて行きます。では、らたまいしゅう。

クエスチョナーズ / モリ

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