2012年05月28日

【コラム・ネタ・お知らせ】アナログデザイン懐古譚(印刷編+後日譚)と読まないと損する!?かもしれない緊急告知

アナログデザイン クエスチョナーズ モリです。さらに前回の続き、今回は80年代末、印刷とはどういうものであったか、デザイナーたちはどんな形で印刷と向き合っていたか?前回製作した「ソフビフィギュアのよっちゃん」【AA】販促チラシデザインや版下はその後どうなったか?物事は思ったようにうまくいかないもんだという見本の様な後日譚をお送りします。
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折角デザインをアナログ手法で制作したのだから、印刷もアナログで!と思っていたらそうは問屋が卸しませんでした。玩具業界にシフトして約10年、印刷業界がここまで変化してるとは…。

デザイナーサイドでDTPが普及し、入稿までの作業がほぼ一人で完結出来るようになった事で版下が絶滅の危機に瀕しているところまでは分かっていましたが、今はほぼ完全に「CTP(Computer to Plate)」の時代なんですね。そんな事情から印刷は結局フルデジタルで行うことになってしまいましたorz

今回初めて知った事ですが「いわゆるオンデマンド印刷」というのは、印刷のあり方をしめす用語であって、印刷技法ではなく「単なる短納期、少部数」であれば通常のオフセット印刷でも「オンデマンド印刷」と言うそうで(特に同人誌業界)、必ずしも今回お話しする「CTP」とはイコールではないと言うこと。すごく勉強になりますね、アキバblogのクエスチョナーズコラム。

CTPってなんだ?

6.え、プリプレスってもうないの!?

パソコンから直接Plate(刷版)を出力し、製版フィルムが必要なくなっているって事は「プリプレス工程(印刷前工程)そのもの」がもう完全に無くなっているということを指します。

あちこちの街の出力センター(キンコーズリスマチックの様な物)を見てみても「製版フィルムの出力」はほとんど死滅、我々の与り知らぬ間に日本国内における「アナログ印刷への道」はほぼ絶たれていたのでした。 今後、コミック原稿も含めたアナログな工程で作られた「版下」などのアナログな印刷素材全てが高解像度スキャナーでデータ化され、CTPに対応出来るようになるのだそうです。

フィギュアなどのアイテムを中国で生産している我々にとって、製版フィルム製作などのプリプレス工程は現在も当たり前に存在する技術でして、今でも中国から送られるパッケージや取説の色校正を確認して問題があれば「ストリップ修正」とか、「この部分にマゼンタ10%足して」なんて指定を入れて返すのが通例。これに慣れきって「日本の印刷が途方もない技術革新を遂げていた事」に気が付いていなかった事が今回の敗因。

今まさに現役の中国印刷工場
普通に製版フィルムが使われており、職人によるフィルム修正も健在

そんなわけで今回は版下に続いて、日本国内で静かに失われつつある「プリプレス」と、80年代末〜90年代初頭のグラフィックデザイナーが「印刷」とどう向き合ってきたかを紹介する事で、当時の苦労を偲んでみたり、現在の技術と照らし合わせてみたり、ついでに現役の若いデザイナーにあざ笑われてみたりしたいと思います。


7.入稿 Back to 80's

入稿当日、版下が印刷屋さんの手に渡るとデザイナーにフォローできることは限られてくる、というかほぼ無くなってしまうので今のうちに最終チェックをしなければ!。そう、最低でも…。

1.
貼り込んだ写植が曲がってないか?ちゃんと垂直・平行を保っているか。
2.のりが写植からはみ出したり、汚れてないか。汚れがあればラバークリーナーでふき取りましょう。
3.入稿時に版下と一緒に出す写真の点数は揃っているか。
4.写植の内容も改めて校正してみましょう。
5.文字がめくれたりはがれたりしてないか。

そして最後、上がった版下にかけたトレーシングペーパーに印刷の指定を書き込んだら、一緒に入稿する写真にもトレーシングペーパーをかけてチャック袋に封入し、可能な限りほこりや小さなごみから守ります。まさに「Back to 80's」!これが20〜30年前のデザイナーが日々行っていた作業の総仕上げ部分です。今ならDVD-Rにデータを焼きつけて、傷の心配と言えば「盤面が傷つかないような袋か空きケースなかったっけ?」と引き出しの中をゴソゴソあさるくらいの所を、かつてはこんなチマチマした作業で午前中いっぱいを潰していました。

以後、印刷屋さんに版下原稿を手渡したら、そこで印刷指定を元に正確な見積を出してもらいます。

今回の「よっちゃん販促チラシ」は先に紹介した「CTPでの印刷3,000枚」で見積を出してもらいつつ、「版下から製版フィルムを製作し、昔ながらの手法で印刷したらいくらになるか?」というヒアリングも行いました(流石に失われた技術の見積は取れませんでした…)。その場合、価格はプラス80,000円、納期は最速でもプラス1週間〜10日(CTPならA5モノクロ両面 3,000枚なら4〜5日)との事。

今回は版下を直接データ化することになってしまったので、入稿までは当時と同じような作業手順を踏みましたが、版下もフィルムも制作の必要がなくなって印刷面の傷(ノイズ)など入りようもなく、その印刷面の綺麗なこと山の如し。

今回のチラシの御見積
過去の技術を再現しようってだけで倍以上の金額になります

8.スクリーン線数の今昔

まだ製版フィルムを製作するのが当たり前だった時代、入稿前の重要な指定の一つに印刷の解像度を決定する指標、「スクリーン線数」がありました。

同人誌を長く作っている方なら分かると思いますが、印刷所との初めての取引にあたって「線数」を指定してくれと言われた経験がある人も多いと思います。 同人誌はもとよりコミック雑誌は大体、表紙はフルカラーで175線(従来のフルカラー印刷の中でも最も高精細な線数)、中面はモノクロで133線あたりが標準的なコミック印刷のスクリーン線数でしたが、現在のCTPでは特に指定がなければ標準で「225線」を出してしまいます。もう、人間の目で網点を確認することすら出来ないほどです。

当時、この線数を決める要素として「紙の種類や質」も大いに関係していました。粗い紙に目の細かい線数のスクリーンを使ってもインクが紙ににじむので、線数も60〜80線くらいに指定して、紙質と線数のバランスを取ったりするのもデザイナーの仕事だったんです。

それが、CTPになるとあらかじめ高精細な印刷が約束されているので、逆に「粗めの紙に古めかしい質感のデザイン」なんてものを求められた場合「きれいな紙に"古めかしい質感の画像が載っている"」というアンバランスなイメージしか出せなかったりして、線数操作で「昔の新聞」的な荒れた表現を行ったりする事が現在では困難になってしまっているというのが、今回の「よっちゃんフィギュア」の販促チラシ製作でよくわかりました。ありがたいんだか無粋なんだか良く分からない、モヤモヤした気分です。

スクリーン線数 これの多い少ないでこんなに画質が変わります


9.今はもう望めない、製版以後の細部調整

入稿して、印刷仕様を設定、スクリーン線数が決まればあとは製版フィルム製作〜色校(試し刷り)〜フィルム修正〜印刷です。

今でこそ、色味の調整も「Photoshop」【AA】で加工済みのデータを入稿するだけで完了してしまうモノですが、当時は色校が出た際、修正がある場合は直接必要な箇所に「この女の子の肌はマゼンタ(M)を10%足して健康な感じに」とか、「青空部分はシアン(C)を足して原本の写真に近づけて」と赤ペンで書き込んで、それを受けた製版の職人さんがフィルムを加工する事で印刷物の色を理想の色に近づけていったモノです。

その他にも「写真の切り抜き作業」、「ケヌキ合わせ(4色に分けられたフィルムの"版ズレ"をなくす作業)」もこの製版の段階で行われます。今ではここもデザイナーが入稿前に自ら行う仕事になってしまいましたが、当時はデザイナーが印刷の特性や製版の仕事を熟知した上で、職人さんに微妙な色合いや細部の指示を行う事で印刷面のデティールを詰めていったものです。

それにしても、いつのまにか「入稿から本印刷直前までの様々な工程」がいつのまにやら「全て亡き物」になっているなんて、当時を知るモリとしては完全に「浦島太郎状態」です。かつてDTPの台頭から「画像データを調整してフィルムを自ら出力センターで出せるようになった」事で、製版業が成り立たなくなった所までは体感してましたが、それ以降「プリプレス」全体が滅んでいく所まで来てしまうとは夢にも持ってませんでした。

ケヌキ合わせと写真切抜きの仕組み
DTPでは全てデザイナーの仕事になってしまったのですが、当事は製版職人がデザイナーの要請に従って作業するものでした

そもそもCTPというモノが「馬鹿でかいパソコン用プリンターで出力する」イメージなので、ここまで来ると「通常の印刷技術」と「家庭やオフィスでのプリントアウト」の垣根もそろそろ怪しくなってくる感じ。今の所はまだ家庭やオフィス用の設備では「製本」や「大量部数」をこなすことは困難ですが、これも今後、電子書籍が台頭するとその存在が危ぶまれることになるのでしょうねえ…(遠い目)。

ともあれ印刷も上がり、チラシが3,000枚クエスチョナーズに届けられました。しかし玩具業界に長くいる間に、たまたまフィギュアのチラシ1枚作っている中で「プリプレス」が日本からほぼ消滅したことを知ることになるとは、なんだか遠くを旅してる間に実家の飼い犬の危篤を知らされた様な気分です。

まあ、日常業務にまつわる様々なモノがデジタルによって効率化され、なんでも早くて安くてきれいになるのは大変ありがたい話ですが、そんな中でも見えないところで色々な技術や物事、あるいは携わっていた人々が消えていることを思うと、単純に手放しでは喜べず、心の中では「栄枯盛衰」とか「諸行無常」とか「隠密同心(※)」とか色々な四文字熟語が渦巻いてきます。

既に離れてしまったデザインの世界で起こっている出来事は置いておいても、このような変化は現在のモリが属している「フィギュア原型の世界」でも形を変えて起こり始めている事ですので、この世界においては出来る限り「これまでアナログ仕事でキャリアを積み重ねた人々」がうまくデジタルに移行して、うっかりどこかにいなくなることのない様にするお手伝いくらいは出来るようにしたいと考えております。ではまた次回。


ちなみにこれが刷り上ったチラシの裏表。 その目で確認したい方はクエスチョナーズ 森までご連絡ください。どうしようもないくらい余っているので、欲しいだけ差し上げます

(※)隠密同心:「死して屍拾うものなし」です。

クエスチョナーズ モリ コウイチロウ


ここからは藤岡です。そしていきなりですが緊急告知!!!!!

実は現在私、やんごとなき理由により「50万円を使い切らないといけない」状況にあります(別に節税とかそういう話ではない)。で、これまたやんごとなき理由により「なるべくバカバカしく夢のある方法で使い切る」ことが求められております。

そこで本題ですが、アキバblog読者の皆様から「バカバカしくて夢のある50万円を使い切る方法」を公募したいと思います。制限・資格・条件等一切ございませんのでなるべく多くの皆様のお知恵を拝借させてくださいな。

応募方法はメールで「fujioka@questioners.co.jp」(藤岡の会社メアドです)まで。
件名に「【50万円企画応募】」と書いてください。中身は何でもアリです。

極論すれば「俺にくれ!」でもいいですが「上記やんごとなき理由に関わる人間たち」全員で審査の上使い道を決定しますので選ばれなくても悪しからず。一応期限は一ヶ月ほど取らせていただいて6月いっぱいに届いたものを対象とすることにします。

これがきっかけでこんなことも起こるかも…?

選ばれたモノはおってこの場で詳細に発表していくつもりですので、そちらはそちらでお楽しみに。

ちなみに面白いものがないときには関係者全員で贅沢な飯を食って終わりにしてしまいますので、藤岡たちに美味いメシを食わせたくないという方は特に気張って、メールで「fujioka@questioners.co.jp」(藤岡の会社メアドです)までご応募ください。それでは皆様の「魂を熱く震わせる面白企画」をお待ちしております。ではではまたまた再来週。

【バックナンバー】
アナログデザイン懐古譚(デザイン〜版下実製作編)
アナログデザイン懐古譚
四十六歳。転職遍歴を紐解きながら、組織と個人の関係
心が折れそうになる時もあるけれど私は元気です
オタクと老化、そしてそれを補う(?)成熟(出来んのか?)
最近のクエスチョナーズ 〜ドSなアイツとドMな俺と〜
出版社を作ろう!番外編〜手間を取るか金を取るか〜
出版社をつくろう!その6 お金の話と売り方と
出版社をつくろう!その5編集のお仕事
3Dソフトでフィギュア原型開発 〜原型師視点〜
3Dソフトでフィギュア原型開発(原型師経験者のメリットと新規参入者のハードル)
会社のほしがる人材とは?〜就活生に送る韜晦の言葉〜
果たして日本国内でフィギュアは作れるのか?
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