2012年07月11日

【コラム・ネタ・お知らせ】 自分が望むセカイを作る愛のオコトバ

クエスチョナーズ クエスチョナーズ・モリです。フィギュアを始めとする『完成品ホビー』を作り続けて、ユーザーさんからお褒めの言葉を頂くのは大変な励みになるものです。ただ、ここ何年かは製品に対するユーザーさんのコメントが、年々『辛辣』になっている様なキガス。今回はそんなお話。
-

双葉ちゃんの「フィギュア板」から、amazonのカスタマーレビューまで色んなトコで、色んな人が、色んなコトを書き込みするので、モリも開発マンの端くれとして自社製品に限らず気になった他社アイテムへのコメントにも目を通してみるのですが、思わず『ぐぬぬっ』と唸ってしまう程のネガティブなコメントが年々増加している感があります。

ところで、全然関係ないですが『辛辣』って文字をじっと眺めてるとなんだか中華の香辛料みたく見えてきますね。

双葉ちゃんのフィギュア板 SUGEKAEスレから
「色々と情け容赦ない」スレ(泣)まで、色々楽しませてもらってます

縁日みたいな気分で「お金を使う行為そのもの」を楽しむ

ここ5~6年の間で各メーカーさんも、生産の受注を受ける中国工場も大分こなれて来たのか、『あまりにも極端な邪神像』は大きく減少しているのを肌で感じているのですが、しかし、それに反比例して『ユーザーさんの辛辣なコメント』は毎年増え続けている感があります。

確かに製品に満足しているユーザーさんはそんな声を張り上げる必要は無いので、ふたばとかamazonに酷評を書き連ねる必要も無いし、同時にネット上においてユーザーが商品の状態を口コミで伝える窓口も年々増え続けているので、自然と『クレーム』の方が前に出てくるのは仕方ないのですが、それを読むにつれ最近は『「フィギュアという商品」そのものよりも、「ユーザーがフィギュアに求める期待値」の方がはるかに肥大化している』んじゃないか…、そんな気もしているのです。

なぜそうなるのかちょっと考えてみると、2008年のリーマンショックを境にフィギュアのリリース量、1アイテム辺りの生産個数は年々減り続けた事から、ネット通販の受注でほぼ全個数捌けてしまい、リアル店頭に商品がほとんど並ばないアイテムが増えています。

そうすると当然、店頭で商品の出来を吟味して買う、買わないを決める機会が損なわれていきます。勢い、プロのフィニッシャーさんが手塗りしたサンプルの写真を通販サイトで見るだけでポチって何ヶ月かの間に期待が膨らみに膨らみ続け、『その期待通り』『またはそれ以上』の商品が出てこないと、その膨らんだ期待の分だけそれが憎悪に早変わり。まさに『可愛さ余って憎さ百倍』って事になるんじゃないかしら、とかね。

ただ、フィギュアでも、音楽でも、映画でもそうだけど、基本、エンタメ商品って『バクチ的な要素が強い物』でして…、や、これはなんだか自己弁護じみててアレな感じがしないでもないし、ややもすると『フザケンナ!』的なお叱りも受けそうですが、『縁日でモノを買う様な”買って楽しい”、開けてイイものだったらもっとうれしい』という感覚が、フィギュアはもちろんエンタメ商品購入の醍醐味なんじゃないかと。

縁日に役立つものやウマいものはないけど、みんな楽しいよね

もちろん作って売ってるメーカー側の『客を喜ばせ、楽しませよう』という熱意が前提にあってこそですが、そこでユーザー側にも『お金を使う行為そのものを楽しむ』粋な感覚がリンクすれば、この業界はもっと楽しいものになるのではないかと思う次第です。


「安定の○○」、ブランドはユーザーとの「血の契約」!?

それでもやっぱり、『安定した品質のものを安心して買いたい』という思いはオタクに限らず誰にだってあります。そして、それをユーザーと約束するために、そしてその目印自体を付加価値とするべく『自社の製品に自信があるメーカー』がこしらえたものが『ブランド』ってやつです。

ブランドと一口に言っても、業界や企業によっては『メーカーそのものがブランド』だったり、『単発商品そのものがロングセラーを経てブランドになった』りする場合もあり、その定義がバラバラで分かりにくいこと山の如しですが、今回のお話では皆さん良くご存知の「figma」とか「マスターグレード」などの『メーカー』の中に内包されている『一定のフォーマットを持った商品シリーズ』としての『ブランド』を指すことにします。

ユーザーが商品を買うにあたって、その商品に求める『ワクドキ感』と『安心感』は(本人がそれに無意識であっても)その時々でウエイトを変えつつ常に存在しているものです。景気が良くて誰もがちょっとした無駄遣いくらいでは動じない世の中であればもっと『ワクドキ感』にウエイトを置いた商品開発が出来るのですが、いかんせん今は1,000円使うのにも一瞬立ち止まってしまう様なご時世です。そんな状況下で「高い安心感を得られる買い物をしたいユーザー心理」をつかもうと思うメーカーにとって、商品の安定を保証する目印となる『ブランド』は強力な武器です。

しかしそのブランドを構築するには、先ず何より人々から忘れ去られるわけにはいきません。それなりに苦労をして思いつく限りの施策を講じてはブランドイメージをコツコツ構築していきます。良くネットでは『安定の○○』と言いますが、それを築き上げる苦労たるや、まさにユーザーとの「血の契約」です。

北欧神話に登場する巨人族のロキ(左)と神々の一員であるオーディン(右)
切った腕ににじんだ互いの血を混ぜ合わせる血の契約で義兄弟にはなったが
神話中盤にロキは「オーディンを含む神々を罵倒する狂言回し的存在」に
逆にオーディンは「自罰的な求道者」的生を最後まで全うするらしいです

そんな苦労をしてもメーカーがブランドを作ろうと思うのは、ブランドに紐づく『商品のフォーマット』が市場に定着しさえすれば、以後のアイテム開発にかかる経済的、時間的、人的コストは確実に下がりますし、なにより商品を『点』ではなく『広い面』で展開出来ることでユーザーとの接点が確実に増えるからです。『ブランド』は安定した商品のクオリティを保証する『ユーザーとの約束』であると同時に、メーカーが商品を通じて『多くのユーザーと対話し続けるためのインタフェイス』でもあると言っても過言ではないでしょう。

しかし、1/8フィギュアの様な単発商品をリリースする以上の金と神経を使いまくって、せっかくブランドを築き上げても、1回ゴミ商品を出してしまえばそれは以後のブランドイメージに甚大な被害を与え、また、その瑕疵の種類によってはそれ以降何を出しても信じてもらえなくなってしまう可能性もあるので、『ブランド』もメーカーにとってまさに諸刃の剣です。

ブランドを媒介とした「メーカー」と「ユーザー」の関係

それでも会心の製品が出来て、多くのユーザーが喜んでくれればそれでいいのですが、それでカスタマーレビューにたくさんの予想だにしないクレームが並んでいた日には『フィギュアなんか作るのやめてしまおうかな』と心が折れるメーカーもこの先出てくるのではないのかなと、その辛辣な内容には心痛を禁じえないものがあります。

まあ、『逆境に強い事』がホビー開発マンの重要な(苦笑)資質ですので、そこまでスネる事はないとは思うのですが、フィギュアを取り囲む開発、生産、販売全てにおいて逆風が吹き荒れている昨今ですから、このクレームの山を『市場がフィギュアを必要としていない』というサインと捉え、別の市場に転地する事も十二分に考えられ、そうこうしているうちに『フィギュア』とか『ホビー』いうものが市場から消滅する事も十分にありえるのです。


セカイを変えうる「愛のお言葉」

でも、このアキバBlogを読んでるみなさん、フィギュアとか完成品ホビーとか好きですよね?モリは好きです。プラモみたいに自分で組み立てるものも含めて、自分たちの食い扶持とかそういうことを除いても、(流行や市場の変化から、製品のスタイルが変わることはあるでしょうが)この先もあり続けて欲しいと願っています。

しかし、フィギュアとかホビー等の趣味性の高い商品というのは本当に儚いもので、いつ、どのタイミングで世の中からなくなっても誰も困らないモノです。確かにいきなり世の中からなくなれば困る人もたくさん出てくるでしょうが、こういうものは需要が失われればその時は大体誰もが気づかぬ内、静かに市場から退場していくのが定石です。

廃れてた後でも、せめてナタ・デ・ココみたいにひっそり生き残れればまだめっけモンです

確かに誰もががっかりするようなひどい製品は世から無くなってしかるべきです。しかしあまりにクレームばかりでは、開発も萎縮、商品開発における新アプローチも難しくなり、その保守化が進行、商品はみるみるつまらないものになり、やがて前述通り『市場から退場』するかもしれません。

そこで、フィギュアをはじめとするホビー商品の受け手である皆様にお願い。ひどい商品に対するクレームと同じくらい、いやそれ以上に応援や愛のある言葉をレビューやBBSにどんどん投げかけて欲しいなとモリは思っています。 平たく言えば「もっと自分のヨメやその親に愛のある言葉を投げかけてやってくれ」ということです。

愛してるって言わなきゃ殺す! 「戸川純-好き好き大好き」

モノや金の流れからメーカーとユーザーは『上流』と『下流』に分かれ、また、企業と個人の違いから来る市場に対する影響力の強弱はあれど、市場の構成要素としては対等な存在です。特にフィギュアやホビーの開発マンなんてのは、その大半がうっかり『作り手』にはなったけど、基本的には受け手である皆さんと同じような趣味を持った『仲間』だったりするので、そういう人たちからの応援が一番の燃料だったりします。

そういった言葉が『開発者のメンタル』に良い影響を与えるのはもちろんですが、応援の声が多い商品はもちろん他のメーカーの開発マンだって見ています。モリもこのコラムの冒頭で『他社製品のコメントも見てますよ』って書いたのはそういうことです。

他社のものでもユーザーの反響が高いホビー商品に対しては『どこがヒットの要因なのか?原型師か?選択したキャラクターか?投下タイミングか?量産品の質か?』いろんな角度から検証して、可能であれば自社製品にも取り入れたいと考えます。そうして、様々なメーカーの商品の品質がアップし、市場は更に活性化すると…、まあそんなにとんとん拍子によくなるわけではありませんが、そういった効果は確実にあります。

市場というとすごくシステマチックで、感情の入る余地は一切なく、『論理』とか『責任』のみが支配している印象を持っているユーザーさんも少なくないと思うのですが、実際のところ、その構成要素である『経済主体(消費者・生産者・投資家)』は全員ヒトなので、むしろ『感情(≒ノリ・空気)』によって支配されていると言っても過言ではありません。

辛辣な言葉を投げつけて相手を苦しめるよりも、逆に良かったと思うモノの方にもっと目を向けてポジティブな言葉を集積させた方が、『目の前の状況を皮切りにして、そのセカイそのものを変えていける』というのはある意味真実です。

楽しい言葉で塗りつぶされたセカイ。「楽しいは自らの手で作れる!」

同時に『フィギュアをはじめとするエンタメ商材』って普通にリリースされてそこにある事が当たり前とつい思われがちですが、ヒトは得てして「当たり前」には冷たいもの。しかし、その『当たり前』をなんのフォローもなく放置していると、その内その「当たり前」すら失ってしまうというのも良くある話です。

元々、『オタク』というものはその表現方法が偏執的であったり、裏返ってたりする事はあってもその本質は『アニメやマンガ、その他作品に対する愛』なので、他の市場よりははるかにその言葉の効果は高いんじゃないかと踏んでいます。なので共感出来るなと思う方は是非一度、相手が喜ぶような言葉を想像しながら、お好きな作品やフィギュアなどに愛あるコメントしてみて下さい。サブミットボタンを押す頃に一番変わっているのは案外自分だったりするかもしれません(笑)。

ではまた次回。

クエスチョナーズ / モリ コウイチロウ

【バックナンバー】
ヒトを、モノを作る「体系」と「個人的・自助的努力」
オタクと結婚
アナログデザイン懐古譚(印刷編+後日譚)と読まないと損する!?かもしれない緊急告知
アナログデザイン懐古譚(デザイン~版下実製作編)
アナログデザイン懐古譚
四十六歳。転職遍歴を紐解きながら、組織と個人の関係
心が折れそうになる時もあるけれど私は元気です
オタクと老化、そしてそれを補う(?)成熟(出来んのか?)
最近のクエスチョナーズ ~ドSなアイツとドMな俺と~
出版社を作ろう!番外編~手間を取るか金を取るか~
出版社をつくろう!その6 お金の話と売り方と
出版社をつくろう!その5編集のお仕事
3Dソフトでフィギュア原型開発 ~原型師視点~
3Dソフトでフィギュア原型開発(原型師経験者のメリットと新規参入者のハードル)
会社のほしがる人材とは?~就活生に送る韜晦の言葉~
果たして日本国内でフィギュアは作れるのか?
「限界」はどこにあるのか?
今もなお「フィギュア」が欲しいと思っている貴兄に
「責任」や「年の功」につぶされないために
マスメディア社会主義の「終わりの始まり」
欲しかったのは何?~市場形成の仕組みと理想の王国~
暗い闇の中で金色に光る過去の追憶…(押入れで「らっぱ」を見つけました)
才能と情熱と現実のあいだ
僕と契約して「フィギュアメーカー」にならないかい?
出版社をつくろう!その4表紙サンプルが上がってきましたぜ
ホビーメーカーと陸上自衛隊と今回の震災
会社員であるべきか、辞めるべきか、そもそもそれは問題か?
秋葉原でエロゲーを売っていた男のお話・激闘編
ゼネラリストの憂鬱とスペシャリストの煩悶
たまには人の話を聴いてみよう!~秋葉原でエロゲーを売っていた男のお話~
親が口うるさく色々言ってくる理由
お叱り覚悟で「お客様の声」に向きあってみる~値段以外の諸々編~
有事だからこそ考えておきたいこと
お叱り覚悟で「お客様の声」に向きあってみる~値段編~
人脈という形無いモノの価値~友達100人できるかな~
出版社をつくろう!その3 作家さん決まりました
知ると得する!? 企画のミソ
専業プロの報酬というものについて考えてみる
年末総決算~企画供養という名の"黒歴史"回想地獄変~
出版社をつくろう!その2
出版社をつくろう!その1
会社という組織、会社という個人
商品の価値に関する考察
フィギュア作りの中国残酷物語
いっちょフィギュアでも作ってみますかvol.3
いっちょフィギュアでも作ってみますかvol.2
いっちょフィギュアでも作ってみますか Vol.1
悪名で売れるも美名で売れるも高名のうち
信用とカネ~人の価値ってナンジャラホイ?~
失敗と恥そして栄光をその手に
他人を喜ばせる上手な「嘘」
個性と価値とエトセトラ
ダメ人間がダメなりに考えていること
正解なんて無い バランスとモノの値段
「パクりと模倣」論争にみるインターネットの公共性
同じ阿呆なら一緒に踊っていただけませんか?マドモワゼル
「表現の自由」様をお守りするために
現代における消費というマナー(下)
現代における消費というマナー(上)
平凡って悪くないですよ
アマチュアの憂鬱
フロンティアスピリット
真面目であることの大事さ
初心忘るるべからず
夢憶えていますか?
空飛ぶパンツ クエスチョナーズがヤリます!!
ちょっと頭がアレな人たちの、アレな会社の特殊な事例
(株)クエスチョナーズの作り方
(株)クエスチョナーズ ちょっと普通の会社とは違う

この記事はコラム カテゴリーに含まれています |Ajax Amazon Edit
トラックバックURL
http://trackback.blogsys.jp/livedoor/geek/51349225