2012年07月19日

【コラム・ネタ・お知らせ】 日本犯罪史上最悪の大量殺人をモチーフ。「ツバキ」2巻発売中の押切蓮介先生インタビュー

押切蓮介 ツバキ 講談社「月刊少年シリウス」編集部のボカロ好き編集M島です。シリウスコミックス「ツバキ」最新刊2巻はもうお読みになりましたか?著者の押切蓮介先生といえば「ハイスコアガール」が話題となっていますが、ホラーテイストの作品を本来得意としています。マタギの少女・椿鬼を主人公とした、この「ツバキ」もまたその系譜に連なる作品です。
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中央が「ツバキ」最新刊2巻(講談社刊)。
左が「ツバキ」1巻、右が「椿鬼」(ぶんか社刊)

──まず、『ツバキ』の企画はどのようにして生まれたのでしょう?

押切先生(以下押切) 「ぶんか社の「ホラーM」で連載していた「ミスミソウ」が終了して間髪入れずに始めたのが「椿鬼」でした。マタギ語源である「鬼より強い鬼、又鬼」という一説に魅了されて、いつかマタギ漫画を描きたいと思っておりました。同時に昔話に出てきそうな世界観を前々から描きたかったので、うまい事融合させて欲張った作品にしようかな、と。

カバー没ラフ。収録作の「朧月夜」と「マヨイガ」のキャラクターを組み合わせて幻想的な一枚絵となっており、こちらも捨てがたい

カバー採用バージョンのラフ。舞い散る紅葉の中に立つ椿鬼、という秋のイメージ。1巻と異なり、椿鬼の表情に哀切の色が濃く出ている

──主人公の椿鬼に関してはいかがですか?

押切「前作「ミスミソウ」の主人公が暗い雰囲気を醸し出していたので、今度の連載では元気で活発な子でいこうと息巻いてたんですが、連載当初は確かに声を荒げたりすぐ怒ったりとしていたものの、だんだんとくらーい雰囲気の少女になってしまい、「あああ」と思いました。でも、話が進むに連れて様々な邪念や迷いを振り払って明るい性格を主人公に取り戻してあげたいなと、凄まじく優しい気持ちで願って描いているわけなのですよ。」

「又鬼(マタギ)は山に棲む鬼より強い鬼でないといかん」
父から遺されたシロビレ(村田銃)で山を守る少女・椿鬼

──「ホラーM」から講談社の「ネメシス」移籍の経緯を教えていただけますか?

押切「中学生のときに僕にトラウマを与えた素敵な雑誌、「ホラーM」で当初連載をしていたのですが、突如の休刊と共に『椿鬼』の連載も途中で終わってしまいました。その時です‥‥声をかけられ後ろを振り返ると、立っていたのは講談社のシリウス担当のF氏。同編集部から創刊したばかりの別冊「ネメシス」で『椿鬼』を続けないかと誘ってくれたのです。さらに、悪友である清野とおる氏もそこで連載をしているという事実に歓喜し、迷うことなく「ネメシス」に寝返ったわけなのです。色々なしがらみはありましたが大人の事情に負けず、『ツバキ』として復活出来たことは大変喜ばしい出来事だと、今ふんぞりかえっている次第です。」

──では、そろそろ最新刊2巻の内容について伺いたいと思います。2巻収録の『朧月夜』は長い間描きたかったネタだったそうですが、どういう思い入れがあったのでしょう?

押切「ずばり「夜這い」を描きたかったのです!──というのは冗談で、古い風習や差別等に前々から関心を持っていて、いつか漫画で表現したいと思っていたのです。実際に起きた津山三十人殺し事件を土台にしました。」

──横溝正史の『八つ墓村』とかゲームの『SIREN』とか、いろいろな作品のモチーフとして扱われている事件ですね。

押切「はい。正直一巻分‥‥いや、二巻分くらい描きたかったのですが、それだとツバキの漫画でなくなってしまうので自制しました。準主役である「丑雄」が差別やイジメによって自分の中に存在する鬼をジワジワ降ろしていく描写があるのですが、この過程には「人間誰しも自分の中に鬼が棲みついているのだよ!」と自分なりの深いメッセージを加えたつもりなのです。そう、僕もこの前自分の中の鬼を感じたからなのです・・。新宿で麻雀勝負をしている最中、後ろで見ている外野が「なんでそれを切るんだ」とか「なぜそれで待たない」と僕のやり方にいちいちちゃちゃを入れてくるではありませんか。この時ばかりは僕の中の鬼が暴れに暴れ、制御するのに必死でした。まあ、見事勝利し1位を取ったから良かったのですが、ラスを引いていたら鬼がどんなことになっていたか‥‥恐ろしい限りです(笑)。」

両親を亡くし都会から祖母の郷里である山村に移り住んだ姉弟。
その里では今なお「夜這い」の風習が残っていた

色の味を覚えた少年は昼夜を問わず、里の女達の体にのめり込むが
やがて彼女たちから疎まれ差別の対象に

鬱屈した感情は姉の体を貪る村の男達への憎しみへと向かい、
少年の中の鬼は育っていく

淫臭の立ちこめる里に、一陣の涼風をもたらす椿鬼の来訪

しかし、時はすでに遅く、エスカレートする村の若者達の姉弟への虐待に
ついに少年は自らの鬼を解き放つ

──2巻収録のもう一編『マヨイガ』のエピソードは、ぶんか社版『椿鬼』収録のエピソードやキャラクター達とリンクしていますが、著者である押切先生自身による解説をお聞かせいただけますか?

押切「最初に言っておくと、ぶんか社版の「椿鬼」と講談社版「ツバキ」は収録作が別々でございます。再収録ではないので、ぶんか社版のほうも是非読んでいただければと思っております。そのぶんか社版の巻末に、僕の姪っ子をトラウマのどん底に叩き落とすことに成功した読み切り『ひかりの森』が掲載されているんですね。この作品は現代で例えると娘が親の制止も聞かずに家出し、憧れの東京に赴いたものの悪い男に唆され廃人になるようなものでしょうか。つまりは「親の言うことを聞きなさい」というメッセージを込めているのですが、我ながら何とも救いの無い結末であり、いつか『ツバキ』の中で救いの手を差し出したいと思っておりました。漫画の中で情け容赦なく登場人物をぶっ殺す割には白々と救いの手を差し伸べたいとほざく僕は、真の偽善者なのかもしれません(笑)。今まで積み重ねてきた登場人物の死、ツバキの葛藤や迷い、読者のモヤモヤ感‥‥残虐シーン満載の漫画を描く息子に絶望する僕の母親の苦悩──それらへの救いの要素を2巻最後のエピソードに持ってきたわけなのです。ですから、ぶんか社版の『椿鬼』を読んだ方にはぜひ、この『マヨイガ』のエピソードを読んでほしいですし、読んでいない方は『ツバキ』2巻と併せて買って読んでもらえるとより楽しめると思いますよ。」

──押切先生、どうもありがとうございました。

山奥の謎の屋敷に迷い込んだ、椿鬼を含む6人の男女
彼らに共通するものとは‥‥?

ひかりの森」で山に消えた少女キヨ。
「マヨイガ」では彼女の父親が椿鬼らと共に屋敷に閉じこめられる

マヨイガでは、今まで人間の業(ごう)をシロビレで打ち砕いてきた
椿鬼の心そのものが試される

本インタビューでもいつもの押切節がここかしこに炸裂し、どこまで本気なのかわからない発言もありましたが、『ツバキ』をより楽しめる手かがり的なナニカにはなったのではないでしょうか。

未読の方は、これを機会にぜひ「ツバキ」1~2巻(講談社刊)と「椿鬼」(ぶんか社刊)を手にとってみてください。なお、『ツバキ』はシリウス別冊の季刊漫画誌「ネメシス」で連載中です。「ネメシス」最新8号も『ツバキ』2巻と同日発売していますので、そちらのほうもよろしく!

講談社 月刊少年シリウス編集部 ボカロ好き編集M島

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