2016年07月25日

【コラム】 「今読むべきグルメ・料理マンガ4選」を料理マンガ研究家・杉村啓が語る!

グルメ・料理マンガ今期も「食戟のソーマ」「甘々と稲妻」がTVアニメ化されているほど、目にする機会が増えた『グルメ・料理マンガ』。今回は料理マンガ研究家の杉村啓先生に、今注目のグルメ・料理マンガをお聞きしました。どこに着目して読むと、より楽しめるようになるのも徹底分析!インタビュー・構成:かーず
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杉村啓プロフィール
料理マンガ研究家として、「溜池Now」など多くのテレビ、ラジオ、雑誌など多数のメディアに出演。醤油やお酒にも造詣が深く、醤油研究家としては『醤油手帖』シリーズを同人誌で発表。河出書房新社からも「醤油手帖」として商業化されている。お酒系の近著はビールの魅力を余すところなく記したビール入門所の「白熱ビール教室」
Twitter:むむ(@mu_mu_)   サイト: 醤油手帖料理漫画を研究してます

★本コラムで紹介している漫画(コラム紹介順)
「新米姉妹のふたりごはん」(柊ゆたか KADOKAWA)
「姉のおなかをふくらませるのは僕」(原作:坂井音太 作画:恩田チロ 秋田書店)
「甘々と稲妻」(雨隠ギド 講談社)
「味噌汁でカンパイ!」(笹乃さい 小学館)

■「孤独のグルメ」の大ヒットで広がる料理マンガの世界

───最近、料理マンガを多く見かけるような気がするんですが、実際増えているんでしょうか?

杉村啓(以下、杉村):はい、今は料理マンガがブームと断言してもいいと思います。少年向けから青年誌、女性マンガ誌など様々な雑誌で連載されていて、それだけではなくテレビで実写ドラマやアニメが、ここ数年ずっと続いています。

国民的ドラマになった「孤独のグルメ」をはじめとして、『めしばな刑事タチバナ』『おとりよせ王子』『いつかティファニーで朝食を』『最後のレストラン』など料理マンガが原作となっているドラマが多数放送されています。アニメも『幸腹グラフィティ』『ワカコ酒』等が流れていました。

───数えきれないほどありますね

杉村:ええ、基本的に『孤独のグルメ』第一期から料理マンガ原作のテレビ番組がずっと途切れたことはない、そういう時代なんですね。

また、料理を題材にしたドラマの幾つかでキャッチコピーに「深夜の飯テロ」という言葉が出てきたり、夜中の時間にもかかわらず、おいしそうな料理をドラマで食べる番組が増えたのも、『孤独のグルメ』の大ヒットに影響されていると考えられます。

───わたしは「食戟のソーマ」が好きです。専門家から見てあのマンガはどうですか?

杉村:わたしも大好きですね。『食戟のソーマ』はテーマが明確で、遠月学園では「料理で全てを解決する」っていう舞台が整っているので、料理対決に不自然な部分がないのも良いですね。

■今の料理マンガのトレンドは「二人モノ」

───そんな料理マンガブームにおいて、杉村さんがオススメする「今読むべきグルメ・料理マンガ」について教えて下さい

杉村:それには、まず今のトレンドを考える必要があると思います。

───トレンド……ですか?

杉村:はい、料理マンガには「型」がありまして、例えば「料理対決をする」「家庭料理を作って、そこに人間ドラマが乗っかる」「問題を料理で解決する」、あるいは作るではなくひたすら食べていく方向など、基本的な部分があるんです。
そういう基本的な部分の他に、そこから外れて新たな潮流がトレンドとして定期的に発生しているんです。少し前のトレンドは『孤独のグルメ』の影響で、一人で黙々と食べる料理マンガが多かったんですね。

───ドラマやアニメにもなった『ワカコ酒』も同じ型ですね。「黙々と食べる」系が流行ったのは時代性もあるのでしょうか?

杉村:おそらくは。バブル時代はただ豪勢なものを食べるマンガが流行ったんですが、デフレ時代になると、すごい豪華なお店に行かなくても楽しめる作品が増えました。『ワカコ酒』に関しても、ちょっとした居酒屋で一人酒だけの量を楽しむ。そういう飲み方が広く認知されてきた、という時代性もあると思うんですね。

───では今のトレンドについて教えて下さい

杉村:最近とても増えている料理マンガとして「二人モノ」が挙げられます。昔から『美味しんぼ』、『ラーメン発見伝』などライバル関係や会社の同僚コンビが同行する料理マンガはあったんですけど、今は友人や家族、恋人同士など、関係性の親しい二人が共同で料理を作ったり食べているマンガが増えているんです。一番代表的なのが『きのう何食べた?』ですが、『高杉さん家のおべんとう』、『いぶり暮らし』もこのカテゴリに入ると思います。

───書店でよく見るタイトルですし、これらは「二人モノ」に当てはまりますね

杉村:はい。その中でも、自分もコラムで関わらせていただいていて恐縮なのですが……「二人モノ」の代表として、「新米姉妹のふたりごはん」を推したいです。

■柊ゆたか「新米姉妹のふたりごはん」 
柊ゆたか 「新米姉妹のふたりごはん」 (月刊コミック電撃大王/KADOKAWA)

杉村:この作品は料理マンガとしてみた時に、いくつも素晴らしい点があるんですね。まず、「料理の根源的な楽しさを描いている」ことが挙げられます。これがありそうでなかったりするんですけど、料理マンガって料理人と食べる人が分かれてる作品が結構多いんですよ。

───普通は審査員が出てきて、食べる側と料理する側に役割が分かれていますね

杉村「新米姉妹のふたりごはん」の場合は自分たちで料理をして、自分たちで食べているので、「料理を作って、自分たちで食べるのが楽しい!」というのが伝わってきます。家でワイワイと生ハムの原木を削ってバケットで食べてみたり、チーズを溶かしてみたり、楽しそうに二人が料理をして食べるっていう見た目が実に良いんです。

そこから繋がるんですが、出てくる食材や料理が、お店で食べるような特別なものなんですけど、少し頑張ると手を出せるのもポイントです。特別なものを家で食べるという新たな楽しみの提供ですね。例えば「超絶技巧を駆使して、最新調理器具を使って作りました!」って言われても、じゃあ真空調理器とか低温調理機を買おうってわけにはいかないじゃないですか(笑)
ですが生ハムの原木なんかも今はインターネット通販で家にいながら買えてしまう! 値段もちょっと頑張れば手が届く。ホームパーティで一個あると、ものすごい盛り上がるんですよね。

───料理マンガではあまりに特殊な食材が出てきても、自分じゃ試せませんからね(笑)

杉村:そうなんです。いろんな料理マンガに出てきて有名なのが、「鮭児」(けいじ)という何万匹に一匹しか取れない脂が乗って美味しいシャケなんですが、近所の魚屋さんでは売ってません。
だけど『新米姉妹のふたりごはん』では特別な食材だと思っていたものが、インターネット通販を利用すれば買えてしまうし、自分たちで調理を楽しむことができます。

───エッグシェルカッターとかソーセージガンとか人生で知らなかった調理道具が出てきました

エッグシェルカッター

杉村:これも素晴らしいんですよ。世の中には専門的な変わった調理器具がいっぱいありまして、人生において必ず必要ではないんですが、あると楽しいっていう器具を作中で体現しているんです。
調理器具って料理に合わせたものが無数にあるんですが、意外とそこに注目をしている料理マンガって今まで少なかったんです。

───包丁の種類にこだわるマンガは見たことがあるんですけど、オンリーワンの道具は珍しいと感じました

杉村:料理マンガって職人の成長物語的な要素もありまして、包丁のように手の延長にあるものを使って研鑽を重ねる部分で、職人としてのこだわりで調理道具が取り上げられることが多かったんです。
けれども『新米姉妹のふたりごはん』では、あやりも職人ではないので、包丁よりも専門器具を使ったほうが楽しいですよね。そういうところをしっかり描きつつ、また読者も「こんな器具があったのか!」って驚きを持って迎えられます。エッグシェルカッターは「卵の殻を割る」だけの器具ですが、「コンコン」って机の上で叩けば普通に割れるじゃないですか(笑) そんな珍しい調理器具がたくさん登場するのも魅力的です。

───他に注目すべきポイントはありますか?

杉村:料理の手順を省略しないで描いているところも大きなポイントです。マンガってページ数の関係で、三分間クッキングじゃないですけど途中がカットされることが多いんですが、しっかり料理しているところを描写しています。なおかつアレンジをしていて、今度はこれを試してみようとか、レシピの本では一行で書かれるようなところをマンガでガッツリと描いているところが実に素晴らしいです。

料理の手順を省略しない

───例えば2巻のプリンのカラメルを作るシーンで「魔法使いみたい」みたいなネタがたくさんあって、調理シーンも見ていて飽きないですよね

杉村:そこも「料理が楽しい!」を押し出しているんですよね。マンガは結局のところ紙に印刷されているものなので、香りもモノクロなので色もわからない。食感もわからない。なので食べているキャラクターがどれだけ美味しそうなのか、料理マンガではリアクションが重視されがちなんですが、それが過剰になりすぎると料理がぼやけてしまうというか、人物に焦点がいってしまう。
だけど『新米姉妹のふたりごはん』の場合、あやりは食べている時よりもサチに味の感想を言われて照れるほうが多かったりとか、リアクションが料理を損なわないので、そのバランスもかなり取れていると思います。

───サチのリアクションは毎回楽しみですが、あくまでメインは料理という部分でも、料理マンガ研究家として一目置いていらっしゃる要素なんですね

杉村:はい。それと衛生面に気をつかっていて、例えばあやりは髪が長いですが、料理をするときには髪をくくってます。

髪をくくる妹・あやり

───ああっ! 確かに、今まで料理マンガを読んでいても特に気にしませんでした

杉村:実際に料理する人の発想だと思うんですよ。『食戟のソーマ』でも幸平くんが普段腕に巻いている鉢巻を頭に締めて料理して、終わったら「お粗末!」って言って外すじゃないですか。えりな様も髪をくくってますし、最近の漫画でようやく、そういう衛生面をちゃんとしている料理マンガが増えてきました。
これは私個人のうがった見方になってしまうんですけど、マンガは髪型も含めてキャラクターの記号になっているので、あまり作中で髪型を変えると誰だかわからなくなっちゃうって問題があったのかもしれません。ですが作画技術の向上で、そういう描写も増えてきたのかなと、勝手に推測しています。

───続いての「二人モノ」料理マンガを教えて下さい

杉村「姉のおなかをふくらませるのは僕」が今、熱いです!

■原作:坂井音太 作画:恩田チロ 「姉のおなかをふくらませるのは僕」 
原作:坂井音太 作画:恩田チロ 「姉のおなかをふくらませるのは僕」
(別冊ヤングチャンピオン/秋田書店)

杉村:この作品の素晴らしいところは、キャラクターがイキイキしているのが姉弟だけじゃなくて、モブキャラ・脇キャラに至るまでかなり徹底しているんです。
しかも料理をする側ではなく、姉弟それぞれの同級生など登場人物がすごく多くて、個性豊かなんだけども強すぎないというか。主人公や料理を食ってしまうような強烈なキャラクターほどではない、バランスが絶妙なんです。

───ケンカやカードゲーム等、料理以外もたくさん出てきますね

杉村:その辺が世界観が完成しているというか、各キャラがしっかり動いているので、いろんなエッセンスが入っている日常部分も楽しいです。
最近は詳細なレシピを載せているマンガも多いんですけど、この作品は一口アドバイスくらいなんです。ですが、これも『新米姉妹のふたりごはん』と同じく調理シーンを手抜きしないで、手順を描いている。キャラと料理を丁寧に描いているという印象です。

手抜きしないで、手順を描いている

───続いての作品はなんでしょうか

杉村:今月からアニメも始まっている「甘々と稲妻」ですかね。

■雨隠ギド「甘々と稲妻」 
雨隠ギド 「甘々と稲妻」 (good!アフタヌーン/講談社)

杉村:基本的に犬塚先生と娘の「つむぎ」、犬塚先生と生徒の「小鳥」という「二人モノ」が二重構造になっている珍しいマンガなんですが、一番根底にあるのがつむぎとお父さんですね。
『よつばと』以来のシングルファーザーと娘の関係性が軸にあって、そこに料理を教える役の小鳥ちゃんが入って、みたいな形になっているんです。犬塚先生がまったく料理をしないところからスタートしてるので、慎重に一歩一歩、料理の腕前がレベルアップしている感が凄くいいんですよ。

「甘々と稲妻」の調理シーン

───唐揚げやハンバーグなど、子供が大好物の料理が出てきますね

杉村:リアクションをするメインがつむぎちゃんですから!なにせ子供なので、すごい正直じゃないですか、この食材が入ったら嫌だとか(笑) そういうところも含めて結構注目をしていたんですけど、アニメにもなってますますブレイクするんじゃないかなと。

───桜の下やテントの中など、食べるシチュエーションも色々と出てきます

杉村:すべてが「小さい子供であるつむぎちゃんをどうやって喜ばせようか」というところから始まっているので、特別感を出す、しかもそれが容易に想像できるというか。実際に家の中にテントを張るのはやりすぎですが(笑)、なんとなく楽しさが想像できるっていうのは見ていて微笑ましいです。
主要人物が三人いますので変則ですけど、「二人モノ」のトレンドの一つとして私は注目しています。

食べるシチュエーションも色々

───最後にもう一つ、挙げていただけますか?

杉村:では、「味噌汁でカンパイ!」を挙げたいと思います。

■笹乃さい「味噌汁でカンパイ!」
笹乃さい 「味噌汁でカンパイ!」 (ゲッサン月刊少年サンデー/小学館)

これもお母さんが亡くなってしまった主人公の善一郎くんの元に、幼なじみの八重ちゃんがお味噌汁を作りに来てくれる「二人モノ」なんですが、「味噌汁でカンパイ!」には料理マンガならではの、他の料理系ジャンルにはない要素があるんです。

───と、言いますと?

杉村:この作品は料理を作りに来る八重ちゃんがほとんど料理をしたことがないので、結構失敗をするんですね。例えば第一話ではしじみのお味噌汁を作るんですけど砂抜きを一切してなくて、第二話だと出汁を取り忘れてしまうんです(笑)
これが例えばテレビの料理番組なんかでは「今からこれを作りましょう」って言って、失敗することはありえませんよね。

八重ちゃんは結構失敗をする

───確かに、ありえない光景です

杉村:レシピ本でも、「こうすると失敗します、これが失敗例です」っていうのは掲載されることはありませんよね。実は料理を扱うメディアの中で、料理マンガだけが失敗を描ける!それが料理マンガの特性の一つでもあり、マンガというメディアが持つ長所だと思います。
過去の料理マンガでも、料理に関する悩みを解決するという流れで失敗が描かれてきたことはあるんですけど、『味噌汁でカンパイ!』みたいに、主人公がストレートに頑張って作ってみたけど失敗しちゃったってのは意外と少ないんですね。

───そこが料理マンガの中でも面白い存在だと

杉村:はい。失敗を描いているので料理する時の参考になりますし、誰でも料理で失敗した経験はあると思うんですけど、「昔こんなミスやったなあ」って共感を覚える事もできます。それが他の料理メディアにはない、料理マンガならではの内容だと思ってますので、その点でも『味噌汁でカンパイ!』は素晴らしいですね。

───なるほど、たいへん勉強になりました。本日はありがとうございました!


■後書き〜「二人モノ」料理マンガを振り返って〜

多くのマンガ雑誌に一つや二つは載っている「料理マンガ」。そんな料理マンガを、今まではジャンルとして意識したことがなかったんですが、「髪を結んでいるから、衛生面に気を使っている」「唯一マンガだけが、料理メディアで失敗を描ける」など、料理マンガ研究家ならではの視点に「なるほど!」と、ただただ気付かされて感心するばかりのインタビューでした。

それとともに、料理マンガのいくつかの「型」からトレンドが定期的に発生していて、一人で黙々と食べるものから、親しい二人が料理して食べるのが主流になっているという分析は、今の時代性が、家族や恋人など親しい繋がりや絆を求める気持ちが反映されているのかも、と思ったりもしました。

その結果、「新米姉妹のふたりごはん」、「甘々と稲妻」、「姉のおなかをふくらませるのは僕」、「味噌汁でカンパイ!」、のどれもが、家族や幼なじみの間柄をハートウォーミングに描いて、読み終えた後にニッコリ笑顔になるような作品が増えている事に繋がっているのかな、と感じた次第です。

ここに紹介した作品は、どれも料理マンガ研究家・杉村啓先生の推薦する面白い&美味しい料理マンガばかり!夏バテに負けない食欲増進のためにも、ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。(かーず)


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