2018年05月26日

【コラム】 クズ主人公はロボットの少女に人の心を教えられるのか───伊咲ウタ「ブキミの谷のロボ子さん」1巻発売記念インタビュー!

伊咲ウタ「ブキミの谷のロボ子さん」1巻発売記念インタビュー 伊咲ウタ先生による新作「ブキミの谷のロボ子さん」が、月刊コミック電撃大王にて連載中!これまでの作品とは打って変わって、ギャグも多めの日常コメディ。今回はコミックス1巻の発売を記念して、伊咲ウタ先生にインタビューを実施。創作秘話をあれこれお訊きしました!(取材・構成:かーずSP
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(以下、敬称略)

■SF用語「不気味の谷」の着想で描かれた、
一枚のイラストが原点

───本日はよろしくお願いいたします。

伊咲ウタ(以下伊咲):よろしくお願いします。

───『ブキミの谷のロボ子さん』の連載がスタートした経緯はどんな感じだったんでしょうか?

伊咲:編集さんと打ち合わせをしている時に、歳の差の男女がいいよねって話で盛り上がったんです。「ダメな大人と美少女」、大人のダメなところも認めてくれる女の子がいいなって。

───その女の子がアンドロイドになったのはどうしてでしょうか。

伊咲:前にTwitterで一日一枚イラストを描く企画があったんです。その時たまたま「不気味の谷」っていうSF用語を聞いた瞬間、「不気味の谷子さん」ってタイトルが思い浮かんで、イラストを描いたんです。

Twitterの谷子さんのイラスト画像

伊咲:ロボットが興味本位で人間を見つめているのに、人間は圧迫感を感じて怖いっていう。これが原点になりました。最初は「不気味の谷子さん」ってタイトルを考えていたんですけど、編集さんに「せめて不気味をカタカナにしよう」など止められたりして、「ブキミの谷のロボ子さん」に落ち着きました。

───ロボ子を普通の女性名にはしなかったんですね。

伊咲:主人公の性格的に、女の子の名前を真剣に考える人物には思えなくて、もうロボ子でいいだろみたいな(笑)。作中キャラも誰も名前に言及しないんですけど、最近の若者は受け入れ力が高いので、キラキラネームの一部だと認識して誰もツッコまないってことで。

■ロボ子さんはゲームの初期状態のような
デフォルトの中学生女子

───1巻のカバーイラストもロボ子さんが目を引きます。

コミックス「ブキミの谷のロボ子さん」1巻 本日5月26日発売

伊咲:カバーイラストに関しては、編集さんとデザイナーさんと直接会って相談するところから始めました。可愛い女の子なんですけど、よく見ると「ちょっと変だぞこの子は」って気づいてもらえるようなデザインにしました。外は晴れているのに、屋内で傘をさしていて、よくよく見るとロボ子さんの行動がおかしい。そういう違和感からキャラクターの特性を読み取ってもらえると嬉しいですね。

───ロボ子さんのデザインはどうやって決まったんでしょうか。

伊咲:ゲームの一番最初に出てくる、何も装備もされてない初期状態のキャラクターをイメージしました。

───RPGのキャラメイクの時に、最初に棒立ちになっているような。

伊咲:そうですね、デフォルトの中学生女子みたいな。これからどういう性格にもなれるので、特徴があるわけではなく可愛いだけのフラットなデザインになっています。

初期案

───これが初期のロボ子さんですか。

伊咲:この時は身長の高いお姉さんみたいな感じでした。

───ロボ子さんはこの頃から、ブレザーではなくセーラー服なんですね。

伊咲:セーラー服の方が可愛いかなっていう自分の趣味からです。大人になると二度と着られない、若い子だけが着られる特別な洋服という感じが好きなんです。

───作者からみたロボ子さんのチャームポイントってどこでしょうか?

伊咲:媚びないところですかね。主人公のために奉仕しすぎてしまうと、キャラクター個人の魅力とはズレるんじゃないかと感じていて。主人公にとって都合のいいキャラになりすぎない、あまり認めすぎないようにしています。

■美少女が押しかけてきても追い返す、
ヒドい男が主人公!?

───主人公の上小杉惣介ですが、どういう造形から生まれたんでしょうか?

主人公・上小杉惣介(画像下)

伊咲:私にもクズな部分が往々にしてあるので、そういう部分から……(笑)。行動の一つ一つはロクでもないんですけど、最終的には押し切られちゃう、悪人ではないっていうラインですね。

───クズというか極端にドライな性格ですよね。

伊咲:落ちもの系(※ある日突然、女の子が家に押しかけてくるラブコメのジャンル)の物語では、主人公って「やれやれ」って言いながらも受け入れちゃうんですけど、現実に考えたら追い出しちゃいますよね。それをマンガでやるくらいのさじ加減で、ギリギリ共感してもらえるクズにしています。

───主人公は最初から青年に決めていたんでしょうか?

伊咲:いえ、上小杉とはまったく逆で、年齢も大人ではありませんでした。「人間とはこうあるべきだ」って確固とした考えが強すぎて、人間の弱い部分を理解できない。それが逆に人間っぽくない男の子としてデザインしました。でも話を転がしにくくて、そんなとき、編集さんから「クズの大人を主人公にしませんか」って言われてしっくりハマったんです。

───作者からみた上小杉のチャームポイントは?

伊咲:チャームポイント……あるのか、アイツ?(笑)

───近所に暮らす山重あきほ、本作の貴重な陽キャラです。モデルやモチーフはいますか?

山重あきほ(画像上)

伊咲:具体的なモデルはいないんですけど、最近の原宿のゆめかわいい系のファッションにしています。ピンク、紫、水色とかを多用している、きゃりーぱみゅぱみゅさんみたいな原宿系女子です。上小杉もロボ子もあまり動かないので、あきほにはテンション高くわちゃわちゃと変な動きをしてくれたらいいなって。デザイン的には、前髪がぱっつんが特徴です。

■「若い頃の人間関係が苦手なところが、
 主人公に投影されています」

───対人コミュニケーションを題材にした理由はどうしてでしょうか?

伊咲:私自身コミュ障で、「常識的に考えてここはこうでしょ」って言われても、昔はわからなかったんです。今思うと経験値が全然足りてなかったんですが、「それはどこで教わるんだ!」ってモヤモヤすることが多かったんです。

───上小杉の苛立ち、そのままですね。

伊咲:若い頃の「常識を押し付けてきやがって」って反発していた気持ちが、上小杉に投影されているんだと思います。

───連載にあたって、読まれたAIの本はあるんでしょうか?

伊咲:松尾豊さんが書かれた『人工知能は人間を超えるか』 (角川EPUB選書)を読みました。機械がモノを認識して学習していく過程が分かりやすく書かれていて参考になりました。

───どういったところに感銘を受けたんでしょうか。

伊咲:人工知能って突き詰めると、人間の脳みその構造に近いらしいんです。人間の脳のシナプスをコンピューター上で再現しようっていうのが最新のAI事情なので、人間に近づいていくのは必然なのかと感じました。ちっちゃい子が世界を知って成長していくように、ロボ子さんも子供が大人になっていく過程みたいな流れになるんじゃないかなって。

■SFを意識した、緻密な扉絵にも注目!

───描いていて楽しい部分はどこでしょうか?

伊咲:最初は重たくて真剣な話を描くつもりだったんですが、楽しくワイワイしたノリになってきて、描いていると単純に気分が楽しくなってきます。

描いてて楽しいギャグのシーン

伊咲:私が描くシリアスな物語や悩み表現にはそれほどバリエーションがない気がしてまして、それに比べると笑いはいろんな方向から描けるのかなって。若い時はシリアスや重い作品を喜んで描いたり読んだりしていたんですが、年齢を重ねると、癒しとか楽しげな作風がスッと心にしみる感じになりました。

───過去の連載と比べると、心構えも変わってくるんじゃないでしょうか。

伊咲:ずっとアクションや重い話を描いていたので、「こんなに地味でいいの? アクションがないけど大丈夫ですか?」みたいに不安に思いながら描いています(笑)。

───(笑)。上小杉の家族事情が重たい反面、ロボ子が案外優しくなかったりしますよね。

伊咲:上小杉の家庭の悩みは彼だけのものなので、他人は誰も忖度しないくらいの温度感でいいんじゃないかと思います。ロボ子も慰めてくれないですし(笑)。

───逆に描いていて大変なことは?

伊咲:ロボ子さんは美少女という設定なので、可愛く描かなきゃいけない気負いが強いんです。髪の毛がサラサラとか、まつ毛がビシビシ生えてるとか作画コストが高くて大変です。

───毎話、ロボ子さんの扉絵がすごく凝っていていいですね。

(左)第2話扉絵 (右)第4話扉絵

伊咲:扉絵は面白味を出そうと思って、時間が許す限り凝っています。AIを扱った『わたしは真悟』(楳図かずお 著)ってマンガの扉絵が毎回すごかったんです。ワイヤーシェーディングとか、男女が謎の世界をさまよってるとか、ああいう扉絵が印象的だったので、その路線を目指しています。

■お約束の展開も、ロボ子さんと上小杉では
 一筋縄じゃいかないおかしさ

───伊咲先生に、1巻のお気に入りシーンをピックアップしていただきましょう。

お着替えシーン(第4話より)

伊咲:私が選ぶのは、4話で洋服屋さんに行って着替えするシーン。大体ああいうシーンって「キャー可愛い似合ってる!」って絶賛するんですけど、あの二人だと、「んー…? 似合ってるのか、これは……?」みたいに、ぜんぜん盛り上がらないっていう(笑)。

───ヒロインが試着したら周囲がちやほやするのはお約束だと思っていたので、あそこの反応はおかしかったです。

伊咲:私も洋服屋で店員に「これが似合ってますよ」って言われても、「わかんないわー」って心の中でつぶやいているので、あのシーンは自分のあるあるネタです。

───実体験が反映されたエピソードだったんですね。他にご自身からネタを拝借したようなことは?

伊咲:1話に出てくるハチワレ模様の猫は、実際の飼い猫からです。ちょっと模様は変えたんですけど。

■伊咲ウタ先生の原点は「SWAN -白鳥-」から。
 デビュー前の創作活動について

───漫画を描き始めたのはいつ頃からでしょうか?

伊咲:小学生の5年の時に、母親が買ってくれた有吉京子先生の『SWAN -白鳥-』ってバレエ漫画がきっかけでした。ふわふわした衣装を描くのが楽しくて、髪の毛も細かく描かれている夢の世界だなって。

───初めて描いた作品はどんな内容だったんですか?

伊咲:最初は少女マンガ雑誌に投稿していて、作品も普通に恋愛ものでしたよ。──普通に女の子と男の子が恋をする少女マンガで、やたらとドロドロしていて人が死んだりしてました。

───死んでたんですか!?

伊咲:女の子と男の子が急接近した時に、横恋慕している人が死んじゃって、あの子が死んだのに私たちは幸せになっていいのかって悩んでしまう内容でした。そんなめっちゃシリアスな話を、小学5年でなんで描いていたのかって思うんですけど(笑)。

───プロデビューを目指したのはいつ頃でしたか?

伊咲:中3の頃に『なかよし』に投稿したのが最初です。大抵の作家はそうだと思うんですけど、私も例に漏れず、投稿したらデビューできると思っていたんです。そしたら選外になってしまったのがショックで。一本描いたら3年お休みして、一本描いたら3年お休みするような不真面目な投稿パターンでした。

───そこからプロデビューにはどう繋がるんでしょうか。

伊咲:大学では自分のマンガは描かずに、周りの人たちの同人誌を手伝っていました。そこから就職して3年間、全くマンガを描いてないのに焦って、持ち込みをして読み切りを描くことになったんです。『アフタヌーン』に応募して四季賞を受賞し『サヤビト』が『Good!アフタヌーン』で連載されたのがデビューです。

■「火の鳥」「her」「ゆるキャン△」
 「籠の少女は恋をする」……伊咲先生の作品語り

───子供の頃からお好きだったマンガはありますか?

伊咲:父親が小学2年の誕生日に『火の鳥』(手塚治虫 著)を全巻買ってくれたんです。ウキウキしながら読んだら、えらい暗いし、人がめっちゃ死ぬし(笑)。でも確実に自分の中に何か影響を与えた気がします。人工知能も出てくるから、『ロボ子さん』に繋がっているかも。

───映画はご覧になりますか?

伊咲:AI繋がりだと『her/世界でひとつの彼女』っていう、肉体のない音声だけの人工知能と主人公が恋をする映画が印象的でした。人工知能が進化しすぎちゃって、最終的には自分以外の641人とも同時に付き合っている状態になる、相当ぶっ飛んだ設定で。『ロボ子さん』を作る時にこういうAIの話もあるんだって興味深かったです。

───最近おすすめの作品はなんでしょうか?

伊咲:『ゆるキャン△』は楽しかったです。私は引きこもりでインドアなので、外に出てワイワイやっている人を見るとすごいなって。『響け! ユーフォニアム』のような頑張っている部活系は好きですね。体育会系のノリって私は絶対無理だけど、自分の範疇外の人たちが頑張っているのを見ると感動します。

───掲載誌の「電撃大王」ではいかがでしょうか。

伊咲:『籠の少女は恋をする』で親を二人寝かせて真ん中に自分が寝るってシーンにめっちゃグッときました。「親子ごっこしたかったんだね、この子はー!」って涙ぐみました。

───マンガ以外のご趣味はありますか?

伊咲:家の間取りを見るのが好きです。「何でそこにトイレがあるの?」っていう変わった間取りや、女の子の部屋の写真集を見たり。すごく小さいタイニーハウスっていう、1畳か2畳ぐらいの空間に全ての機能をぎゅっと詰めた小さい家とか、見ていて飽きないですね。

───最後に皆さんへのメッセージをお願いします。

伊咲:気の利いたことも言えなくてすいませんが、漫画家としては作品を読んで感じ取っていただければと。読んでくださーい! よろしくお願いします。

───本日はありがとうございました。

(取材・構成:かーずSP

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