2005年04月26日

天皇って、なんなんだろう―――『日本国憲法の二〇〇日』

以前一風斎さんにご紹介いただいた『日本国憲法の二〇〇日』。
仕事がバタバタしていたり、途中で他の本に浮気したりして読むのが滞っていたが、今日、ついに読み終わった。
敗戦から、日本政府がGHQ憲法草案を呑むことを決定するまでの200余日を検証した本書は
私のように戦後史に疎いものが読むと大変新鮮だし、また、終戦直後の日本を描いた読み物としても面白い。
15歳で終戦を迎えた筆者の、素直な真情の吐露が心にしみる。
 
一風齋さん、よい本をご紹介くださいまして、ありがとうございました。
 
さて、詳しい本の内容は一風齋さんの『日本国憲法の二〇〇日』を読む。を読んでいただくとして(いい加減ですみません。でも、私が中途半端にまとめるより、全然わかりやすいと思いますので)
私は例によって、この本を読んで思ったことをパラパラと書かせていただく。
 
一番に思ったのは「日本人にとって、天皇ってなんなんだろう」ということ。


天皇制護持のため、セットで受け入れた戦争放棄=九条。
マッカーサーも、当時の日本政府も、なぜそれほど天皇を守ろうとしたのか。
正直、理屈ではわかっても実感として理解できない。

一つ思うのは、「天皇制」という漠然としたものではなく、「裕仁」という個人に魅力を感じていた人が多いのではないか、ということ。

戦後もずいぶんたってから生まれた私にとって、昭和天皇は「あ、そう」とばかり言っているただのじいさんにしかすぎない。
が、戦中を生き抜いた人にとっては、やはり特別な存在なのではないか。
それは現人神という神聖な存在としてではなく、あくまでも「裕仁」という人間として、それでも特別な存在だったのではないかと思うのだ。

筆者も、戦時中から
「蔭で「天ちゃん」などと呼び、少なくても「神様」などとは金輪際考えたこともなかった」と言いつつ、
「日本人の多くは「神」として天皇を崇めたのではなかったのではないか。時に強制されてそのふりをしたこともあったが、どちらかといえば、少し高いところにいるもうひとりのおやじ的に、半ばおっかなく、半ば尊敬をもって仰ぎ見たというほうが、感覚的に近くはなかったか」
と、当時の日本人の心情を分析している。

天皇の「我が身はどうなってもいいから」という英断で戦争が終わり、「象徴天皇でもいい」という聖断で日本国憲法ができた、といったこの本の論調からも、筆者の昭和天皇に対する愛慕の年が感じられる。

私は天皇制に賛成か反対か、どうしても二つに一つの返答をしなければならないなら「反対」と答えたいと思っている人間だが、その一方で「今の天皇も皇太子も、いい人っぽいよな」という、非常に漠然とした親しみを持っている。
これは戦前から続く、日本人にありがちな心情なのだろうか。

まあ、いい人だから「天皇」なんていう不自由な身分からさっさと解放してあげるためにも、天皇制は廃止したほうがいいと思ってるんだけどね。

さて、他にも感じたことはたくさんあるのだが、長くなったので印象に残った箇所をあと2つだけ。

マッカーサーが戦争放棄に関して「国策遂行のためにする戦争を放棄すると声明して、日本がモラル・リーダーシップをとるべきだと思う」と言ったことに対して
当時の幣原総理が「おそらく世界中でだれもフォロワー(後につづく)とならないのではないか」と疑念を口にすると、マッカーサー答えて曰わく。
「フォロワーがなくても日本は失うところはない。これを支持しないのは、しない者が悪いのである」
―――ああ、そうだよ、あんたが悪いよ、(60年後、今の)アメリカさん。

憲法草案が衆議院で採択された時のこと。
投票総数429票のうち、賛成421票、反対8票で、この反対票はおもに共産党だった。
反対理由の一つに第九条があり、これは「民族の独立を危うくする危険がある」からとのこと。
―――戦前、戦中、戦後を通しての共産党の歴史を知りたくなった。

食うだけで大変な時、憲法について深く考えるだけの余裕も情報もないまま、GHQに押しつけられた憲法。これは確かなことだろう。
しかし、選挙によって承認され、日本人の多くに歓迎されたことも確かなのだ。
そして、導入のされ方よりも、中身が大切なのは当然のこと。
どんな設立過程があろうとも、平和憲法という「大理想」はやはり守りたいという気持ちに変わりはない。

大きな流れがあると簡単に(そして喜んで)流されるのが日本人の特性、ということも、この本を読んで改めて実感した。
今、大きな流れは危険な方向に向かっている。
こんな時代だから、私は、流されない日本人でいたいと思っている。

gegenga at 21:03│Comments(7)TrackBack(2)こんな本を読んだ 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 『安心のファシズム―支配されたがる人びと―』を読む。  [ 一風斎の趣味的生活/もっと活字を! ]   2005年04月28日 13:23
この本を手に取ったのは、まずはタイトルに惹かれたから。 小生、近年の社会の底に、「大きなもの」に身を委ね、自らの頭で考えようとしないという傾向があると感じてきていた。また、今「現実主義」と称せられるものが、手段における合理性ではなく、現状追認の姿勢にほか
2. 『日本国憲法の二〇〇日』 半藤一利  [ じゅうのblog ]   2016年08月03日 21:45
「半藤一利」のノンフィクション作品『日本国憲法の二〇〇日』を読みました。 [日本国憲法の二〇〇日] 「半藤一利」作品は、昨年の2月に読んだ『ソ連が満洲に侵攻した夏』以来ですね。 -----story------------- 「日本のいま」を決めた、激動の200日を詳述する! 敗戦から

この記事へのコメント

1. Posted by まきこ   2005年04月27日 02:20
> あくまでも「裕仁」という人間として、それでも特別な存在だったのではないか

へええ。それは想像してなかったです。いままで伝え聞いたのとだいぶ違いますね。

親しみを感じるのも、尊敬するのも構わんけど、制度としてあるのは、私はやはりイヤだなあ。それがいい人かどうかの問題じゃないですもんね。私が天皇制に反対するのは、現天皇が悪いヤツだからじゃないですもん。
2. Posted by 山辺響   2005年04月27日 09:47
幣原首相の立場に焦点を当てた「幣原喜重郎〜日本国憲法を作った男」という本もなかなか面白かったです。

私もgegenngaさんやまきこさんの立場に近くて、制度としての天皇制には反対だけど、「天皇家」については、伝統的な日本文化の担い手として守っていく(重要文化財とかそういう扱いに近いか?)のがいいんじゃないかと思ってます。

そうそう、改憲当初、確か共産党は軍備放棄に反対していたはず……。当時はソ連共産党とかからの影響も強かったんじゃないでしょうか。

3. Posted by gegenga   2005年04月27日 17:40
>まきこさま
久世光彦という人がいまして、大昔「時間ですよ」のプロデューサーとかしていた人なのですが
ここ数年、小説も書いています(今でも、向田邦子ドラマとかの演出もしています)。
彼の小説によく昭和天皇が登場して、それが何とも言えずに不思議な“憧れ”のような存在なんですよ。
彼が特別なのかと思っていたんですが、この本を読んで、戦中派にとっては、昭和天皇は神ではないけれど、分類不能な特別なものなのかなぁ、と、思ったりしました。

で、“天皇制”については、どう思っているのかなあ、この年代の人。まきこさんがおっしゃるとおり、いい人かどうかと制度は別問題だもんなあ。

と、山辺さんへのコメントにつづく。
4. Posted by gegenga   2005年04月27日 17:55
>山辺さま
私が天皇制について考える時いつも一番気になるのが、「神道」の問題です。
「神道」が悪いわけじゃないのでしょうが(いいか悪いか判断できるほど、知識がない)、「国家神道」の恐さ、危なさを先の大戦で充分に証明してしまったのに、いまだに天皇に神道行事をさせているのは、どうしても納得できないのです。
しかも戦後は、政教分離のはず(はず、だよねぇ。と、誰にともなく言ってみる)。
5. Posted by gegenga   2005年04月27日 17:56
(クゥ〜、この程度の分量でも多いのか。つづき)

だから「神道行事とはまったく切り離した存在として、天皇家を存続させたらどうか」などと考えたこともあるのですが、
逆に「重要文化財」として、神道行事だけさせておくのもいいかもしれない。
日本政府は関わらずに。
って、財政的に不可能か?

>当時はソ連共産党とかからの影響も強かったんじゃないでしょうか。
あ、なるほど〜。
やはり、勉強してみなければ。
・・・学生時代に何もしていなかったしわ寄せで、今頃、学ばなきゃいけないこと、多すぎ(苦笑)
6. Posted by 一風斎   2005年04月27日 19:09
>gegengaさま

コメントおよびトラックバックいただき
ありがとうございました。

さて、天皇および天皇制に関しては、
一言では語り尽くせそうもありませんので、
一本書いてからまたトラックバックしたいと
思っております。

なお、戦前日共の「三・一五検挙事件」に関しては、
松本清張の『昭和史発掘2』(文春文庫・新刊)に
一章ありますので、こちらの書評も
ブログに書きたいと思っています。
こちらの方が先になるかな?

では、また。
7. Posted by gegenga   2005年04月29日 16:09
>一風斎さま
トラックバックいただき、ありがとうございます。

天皇制、どうも感覚的に理解できません。
「制度」として、不思議です。
特に不思議なのが、なぜ今でもあるのか、ということです。

何の意味があるんだろう??

『昭和史発掘2』の書評も楽しみにしております。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔