架橋を大別すると,化学反応により共有結合が形成され分子同士が結合する化学架橋と,水素結合,クーロン力(静電気間に働く力),配位結合,疎水性凝集など共有結合以外の弱い物理的な力により結合する物理架橋とに分かれます.
化学架橋により3次元ネットワーク構造をとる高分子物質には,架橋ゴム,エラストマー(人工合成ゴムの総称),樹脂,化学ゲルなどがあり,柔らかくてよく伸びるものから,固くて壊れにくいものまで種々の性質にわたります.共有結合による結合ですから,架橋は異なる高分子鎖上の官能基間の単純な対結合であり,ネットワーク構造は熱に対して安定で分解し難い,一度作製すると変形を受けても架橋が生成したり消滅したりせず,架橋総数は一定値に保たれます(架橋数保存則).
化学架橋で作られた化学ゲルは弾性固体的な性質が強く,大きな変形を受けてももとの状態に復元し,溶媒を吸い込んで膨潤しますが形は崩れません.これは調製時の網目のトポロジー構造(ネットワーク全体としての分子間の結合様式のことをさす)がそのまま保存されるからです.このようにランダムな構造ではあるが,相互の連結関係がサンプル調製時(架橋時)に初期分布として決まり,その後の変形や温度変化では変わらないような系はランダム系(あるいは凍結系)と呼ばれています.ゴムやゲルはランダム系で,ガラスもランダム系のいまひとつの良く知られた例です.初期構造がサンプルにより異なっているので,ランダム系の物質の性質(物性)の測定では,厳密には1個のサンプルだけでなく多くのサンプルについて調べ,その結果を初期分布で平均しなければなりません.しかし,この手続きは非常に手間とコストがかかるので,巨視的なサイズのサンプル中にはいろんな初期構造がすでに部分として含まれているという仮定のもとに省略される場合が多いようです.
反応の進行とともに架橋総数(正確には架橋密度)が 増加し,一定値に達するとゾル状態からゲル状態に変化,すなわちゾルゲル転移を引き起こします.化学架橋によるゾルゲル転移は架橋密度に明確な臨界値をもつ鋭い転移になり,転移とともに流動液体から弾性固体に変わるので目視で同定することが可能なものもあります.
これに対して物理架橋は非共有結合による架橋のすべてを含めて考える慣例ですので,物理ゲルには実に種々のものがあり,自然界に存在するゲルはすべて物理ゲルと言っても過言でありません.物理架橋は弱く,温度変化(熱運動の強度)や外力を加えることにより結合が消滅したり生成したりするので ,有限の平均寿命をもっています.したがって,観測する時間が架橋寿命より短い場合には結合・非結合の入れ替わりが観測できず,その瞬間の架橋数値をもつ化学ゲルのように観測されますが,十分に長時間の観測では架橋の生成・消滅をゲルの力学的な緩和時間としてモニターすることができます.このような有限寿命架橋による物理ゲルの物性測定には周波数分散を調べることが必要になります.
また,多くの物理架橋は対結合ではなく多重結合になり,架橋領域も複雑な構造をとります.架橋に含まれる鎖の数や官能基の数を架橋多重度といいます.ゼラチンの3重らせん架橋は多重架橋の典型的な例で,多重度は3です.
物理ゲルのゾルゲル転移は緩慢に起こり,ゲル化点とゲル融点とが離れて観測されるのが普通で,いずれも緩やかな転移となり,精密に同定するのが困難です.また,ゲル化したと言っても,ネットワークが完全に弾性的な固体になるのではなく,長い時間スケールでは流動性(粘性)が観測されます.それで物理ゲルは弾性と粘性の2面を備えた物質として粘弾性液体(あるいは粘弾性固体)とよばれることもあります.時間スケールは物理ゲルに終始つきまとう謎の一つです.
架橋が有限の寿命であるために,物理ゲルには多くの履歴現象(ヒステレシス)が見られます. また,ハイドロゲルでは水和水の脱離に関係して月単位,年単位で溶媒の水分子をゲルの外にはき出す離漿(りしょう) とよばれるやっかいな現象もあります.このブログでは以下で多くの興味ある物理ゲルの具体例に登場して頂き,それらのキャラクターやパーフォーマンスとをお話する予定です.
最近の研究動向としては,化学架橋で作製したゲル中に物理架橋を導入し,両者の特性,すなわち化学ゲルの形態保持能力と物理ゲルの架橋ダイナミックスによる機能(形状記憶,自己修復,分子認識,刺激応答など)を両立させる試みがあります. また,物理架橋に熱や放射線などの外部刺激を与えて化学架橋に変換する試みも行われていて,次々に新規複合ゲルが登場しています.最近発刊されたオープンアクセスのゲル専門誌"Gels"には,多くの新規ハイテク機能性ゲルに関するレビューが掲載されていますので参考にして下さい.
化学架橋により3次元ネットワーク構造をとる高分子物質には,架橋ゴム,エラストマー(人工合成ゴムの総称),樹脂,化学ゲルなどがあり,柔らかくてよく伸びるものから,固くて壊れにくいものまで種々の性質にわたります.共有結合による結合ですから,架橋は異なる高分子鎖上の官能基間の単純な対結合であり,ネットワーク構造は熱に対して安定で分解し難い,一度作製すると変形を受けても架橋が生成したり消滅したりせず,架橋総数は一定値に保たれます(架橋数保存則).
化学架橋で作られた化学ゲルは弾性固体的な性質が強く,大きな変形を受けてももとの状態に復元し,溶媒を吸い込んで膨潤しますが形は崩れません.これは調製時の網目のトポロジー構造(ネットワーク全体としての分子間の結合様式のことをさす)がそのまま保存されるからです.このようにランダムな構造ではあるが,相互の連結関係がサンプル調製時(架橋時)に初期分布として決まり,その後の変形や温度変化では変わらないような系はランダム系(あるいは凍結系)と呼ばれています.ゴムやゲルはランダム系で,ガラスもランダム系のいまひとつの良く知られた例です.初期構造がサンプルにより異なっているので,ランダム系の物質の性質(物性)の測定では,厳密には1個のサンプルだけでなく多くのサンプルについて調べ,その結果を初期分布で平均しなければなりません.しかし,この手続きは非常に手間とコストがかかるので,巨視的なサイズのサンプル中にはいろんな初期構造がすでに部分として含まれているという仮定のもとに省略される場合が多いようです.
反応の進行とともに架橋総数(正確には架橋密度)が 増加し,一定値に達するとゾル状態からゲル状態に変化,すなわちゾルゲル転移を引き起こします.化学架橋によるゾルゲル転移は架橋密度に明確な臨界値をもつ鋭い転移になり,転移とともに流動液体から弾性固体に変わるので目視で同定することが可能なものもあります.
これに対して物理架橋は非共有結合による架橋のすべてを含めて考える慣例ですので,物理ゲルには実に種々のものがあり,自然界に存在するゲルはすべて物理ゲルと言っても過言でありません.物理架橋は弱く,温度変化(熱運動の強度)や外力を加えることにより結合が消滅したり生成したりするので ,有限の平均寿命をもっています.したがって,観測する時間が架橋寿命より短い場合には結合・非結合の入れ替わりが観測できず,その瞬間の架橋数値をもつ化学ゲルのように観測されますが,十分に長時間の観測では架橋の生成・消滅をゲルの力学的な緩和時間としてモニターすることができます.このような有限寿命架橋による物理ゲルの物性測定には周波数分散を調べることが必要になります.
また,多くの物理架橋は対結合ではなく多重結合になり,架橋領域も複雑な構造をとります.架橋に含まれる鎖の数や官能基の数を架橋多重度といいます.ゼラチンの3重らせん架橋は多重架橋の典型的な例で,多重度は3です.
物理ゲルのゾルゲル転移は緩慢に起こり,ゲル化点とゲル融点とが離れて観測されるのが普通で,いずれも緩やかな転移となり,精密に同定するのが困難です.また,ゲル化したと言っても,ネットワークが完全に弾性的な固体になるのではなく,長い時間スケールでは流動性(粘性)が観測されます.それで物理ゲルは弾性と粘性の2面を備えた物質として粘弾性液体(あるいは粘弾性固体)とよばれることもあります.時間スケールは物理ゲルに終始つきまとう謎の一つです.
架橋が有限の寿命であるために,物理ゲルには多くの履歴現象(ヒステレシス)が見られます. また,ハイドロゲルでは水和水の脱離に関係して月単位,年単位で溶媒の水分子をゲルの外にはき出す離漿(りしょう) とよばれるやっかいな現象もあります.このブログでは以下で多くの興味ある物理ゲルの具体例に登場して頂き,それらのキャラクターやパーフォーマンスとをお話する予定です.
最近の研究動向としては,化学架橋で作製したゲル中に物理架橋を導入し,両者の特性,すなわち化学ゲルの形態保持能力と物理ゲルの架橋ダイナミックスによる機能(形状記憶,自己修復,分子認識,刺激応答など)を両立させる試みがあります. また,物理架橋に熱や放射線などの外部刺激を与えて化学架橋に変換する試みも行われていて,次々に新規複合ゲルが登場しています.最近発刊されたオープンアクセスのゲル専門誌"Gels"には,多くの新規ハイテク機能性ゲルに関するレビューが掲載されていますので参考にして下さい.