2007年10月21日

昔語黄鳥墳

f309b15a.jpg国立劇場の10月歌舞伎公演を観てきた。初めて観る「昔語黄鳥墳」(うぐいす塚)が目当てである。なにしろ、大歌舞伎では78年ぶりの上演というから、今回見ておかなければ次はいつ機会があるかもわからない。おとぎ話のような他愛のないお話なのだが、これがなかなかおもしろかった。染五郎丈は製作発表記者会見で、息子の斎くんに「パパ、きれいでしょ。鼓、上手でしょ」というところを見せたいと語っていたそうだが、確かにとてもきれい。宗之助丈……じゃなくて、梅ヶ枝が一目惚れするのも道理の美しさだ。でも、鼓の方はまあそこそこ。太鼓は音が大きいだけだし、少し声がかすれているので謡もイマイチ。先月、演奏会かと思うほど立派な阿古屋を観たばかりなので、それと比べると分が悪い。
とはいえ、お話そのものは染五郎丈のすっきりとした美しさとやわらかさ、器用さなどが生かされていて、結構楽しかった。以前見た「乳貰い」は感心しなかったが、今回は舞台は上方でも、紀伊国屋に伝わる脚本を元にしているためか、無理なく演じられていたように思う。ただ、こういうバカバカしいお話を見せるには、「技術だけではない何か」が要求される。その何かがまだ足りない。10年、20年先に、また一度見てみたい。紀伊国屋の宗之助丈が相手役の梅ヶ枝を演じているのが嬉しいところだが、見染めの場となる序幕の衣裳があまり似合っておらず、一番美しく見えなくてはいけない場面で美しく見えなかったのがもったいなかった。友禅の振袖に病鉢巻をしているところはとても美しく見えたので、色や柄の工夫でもっときれいに見えただろうと思う。芝雀丈演じる腰元幾代の活躍、おしりかじり虫、百舌のように巨大な鶯の仕掛けまで、見所もたくさん。最初の10日間くらいはずいぶん試行錯誤したそうなので、前半に観た人は再見してもいいかもしれない。
気になったのは、幸四郎丈演じる与三右衛門。羽織袴姿でやってくるのだが、どう見ても大名のいでたちとは思えない。この拵えはお忍びだから、とか、何か理由があるのだろうか? 仮にそうだとしても、そんな理屈は吹っ飛ばしてどどーんと大名らしく登場した方が歌舞伎っぽくていいと思うのだけど。
その前の「俊寛」は、いつもの「鬼界ヶ島の場」だけでなく、俊寛の妻・東屋が命を落とす「六波羅清盛館の場」も出る。美貌の人妻が縄できりきり縛り上げられた姿で登場という美味しい場面なのに、高麗蔵丈は色気を感じさせてくれない。残念だし、もったいない。
続く「鬼界ヶ島の場」は、段四郎丈の瀬尾が傑作。義太夫味たっぷりで、大きさ、憎々しさも十分。梅玉丈の丹左衛門、芝雀丈の千鳥はともに情があってよい。幸四郎丈も俊寛の心理を丁寧に描いてよいが、この人はどうも体の使い方が歌舞伎らしくないと感じる。手をひらひらと振ったり、沖へ去っていく船を見ようと伸び上がったり、思わず走り出すといった動作がきものに馴染まないように見えるのだ。きものを着ていても伸び上がったり走ったりはするけれど、彼の動きは洋服の人のよう。どうしても、そこで現実に引き戻されてしまう。「流人は一致」のくだりをカットしたのも疑問を感じた。


gen96_cat at 23:23│Comments(13)TrackBack(0) theatergoing 

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この記事へのコメント

1. Posted by おせっかい   2007年10月22日 01:45
梅が枝は宗十郎さん(他界されてます)ではなくて宗之助さんですよ。
2. Posted by 源九郎   2007年10月22日 02:03
>おせっかいさん
うわ、あまりに頓馬な間違いに自分でびっくりです。ご指摘ありがとうございました。
3. Posted by don   2007年10月22日 12:03
わたくし、20日に観てまいりました。
ええ、うぐいす塚、本当に楽しかったわ。
俊寛はね〜、ホンにどっちらけで幕…
このお芝居が終わってお食事に出たとき、NHKのK西さんがいらしてて、お連れの紳士が“このヒトが演ると、何でも大衆演劇になるからな〜…”と嘆息していらしたのが、笑えて笑えて(^_^;)
こらえました。
4. Posted by coco   2007年10月22日 12:47
ご一緒だったのでしょうか、21日に拝見しました。幸四郎さん俊寛の違和感、やっぱり動きもそうですが、アクセントが妙に強調された「おーーい」とか、「未来・・っでっ!」とかでも感じました。

鶯の唐琴ちゃんは大活躍でしたね。
私は、染五郎さんには申し訳ないけれど、菊五郎劇団で見たいかも、などと考えてしまいました(^^;
5. Posted by うぶき   2007年10月22日 22:21
私には仁左衛門さんの芝居が大衆芝居というかお涙頂戴系にみえて、あざとく感じます。幸四郎さんにはそういうあざとさは感じたことないけど確かに西洋ぽいちうか、オペラを観てる雰囲気に感じることはあるかも。

「うぐいす塚」はお気楽で楽しい芝居でしたね。私が拝見した時は鼓の音は相当良いものでしたよ。染丈以外にできる役者、いるんでしょうかね?菊五郎さんは鼓はそこそこお出来ですが。息子のほうは…ですし。
6. Posted by 源九郎   2007年10月22日 23:25
>donさま
あの方の芝居としては、まだいい方(←一応、褒めてる)じゃないかと思いますが、それでもあのどこか西洋的なところが納得いかないんですよねえ。
それはK西さんも答えにくかったことでしょうね。でもなんと答えたのか、気になるわ〜
7. Posted by 源九郎   2007年10月22日 23:42
>cocoさん
はい、私も21日の観劇です(特に断りのない限り、ブログの日付と観劇日は一致しています)。1階センターブロックの8列目だったのですが、前列や並びの席がたくさん空いていたのが衝撃でした。日曜なのに…。
体の使い方から声の張り方まで、すべてが西洋的ですよね、高麗屋さんは。この方の最大の欠点はやたらと理詰めなところだと思うのですが、「俊寛」は論理の飛躍がなくて筋が通っているのが彼向きなのかなと思います。
菊五郎劇団でやるとしたら、(脇に使って申し訳ないですが)菊五郎さんの継母を見てみたいです。張り切っていじめてくれそう(笑)。
8. Posted by 源九郎   2007年10月22日 23:54
>うぶきさん
こんばんは。初めまして、でしょうか? どうぞよろしくお願いします。
仁左衛門さんがお涙頂戴だとは私は思いませんが、エモーショナルな芝居をされる方ではありますね。そのあたりは好みかなと思います。
菊五郎劇団で鳴物の上手といえば、俳優祭のたぬき会で三津五郎さんが大皮でとてもいい音をさせておられたのを覚えています。小鼓は聞いたことがありませんが、お上手そうな予感がします。ただ、菊五郎劇団でやると、紀伊国屋ならではのこってりした風はなくなってしまいますね。染五郎さんがこってりしていた…というわけでもないのですけど。
9. Posted by 春駒   2007年10月25日 13:19
やっぱり俊寛は弟丈ですよね
10. Posted by うぶき   2007年10月25日 13:59
ごめんなさい。初めましてでした。いつも書き込んでいる辛口友人のブログの装丁と同じだったもので、そちらのつもりをして書き込みました…。不躾な書き込みになってしまい申し訳ありません。

仁左衛門丈に関しては最近どうも「?」になっています。以前は感じなかったんですが、確かに好みかどうかってところなんでしょうね。

文章が長いみたいで受け付けてもらえないようなので続きを次に投稿させていただきます。
11. Posted by うぶき   2007年10月25日 13:59

三津五郎丈は確かに器用ですし、色々お上手そう。この役をやりたいとおっしゃる梅玉丈はどうかしら?って思ったりも。菊五郎劇団では確かに「うぐいす塚」のあのちょっとほんわかした雰囲気は出ないかもですね。

染丈は九代目の故宗十郎丈の芸風が好きで色々と教えを請うていたらしいです。かなり前ですが宗十郎丈が染丈を大層、褒めていたのを知っております。今回の復活も、元々は紀伊国屋系の芝居をその染丈が復活させてくれたという思いで、色々感慨深いものがありました。ので、つい他の人にと書かれて、カチンと来てしまいまして…。元々は紀伊国屋の贔屓です。なんだか言い訳をつらつら書き連ねました、申し訳ない。
12. Posted by 源九郎   2007年10月30日 03:41
>春駒さん
弟丈って……(笑)。
播磨屋さまの俊寛は素晴らしいと、私も思います。でも最近、ちょっとかかりすぎで食傷気味なので、播磨屋さまならもっと違うのが見たいです。来月の吃又も楽しみです。
13. Posted by 源九郎   2007年10月30日 03:47
>うぶきさん
お返事遅くなってごめんなさい。
仁左衛門さんは最近、エモーショナル度が増しているので、紀伊国屋の芸風がお好きな方にはそう見えるかも。
紀伊国屋さんのご贔屓でしたら、最後の舞台で共演した三津五郎さんに免じて、菊五郎劇団云々はご容赦いただけると嬉しいです。楽しいお芝居を観たら、自分の贔屓役者であればどんな風になるかな?と考えるのは自然なことだと思いますし。

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