2006年05月26日

今日の一冊


シグルイ 1 (1)



 ―――――――正気にては大業ならず。

         武士道はシグルイなり。



 漫画界の天才的異端、山口貴由の最新作にして覚悟のススメを継ぐ最高傑作。
 血。臓物。異形。そして狂気。
 その全てを、なんと主人公側に詰め込んで描き出す世界はまさに死狂い。

 ストーリー原作は残酷時代小説として名を馳せる駿河城御前試合。
 最初に始まるエピソードは隻腕の剣士、藤木源之助と盲目跛足の剣士、伊良子清玄。
 まともに取り組めるはずも無い。
 周囲の戦慄を他所に、伊良子は異形の構えによって藤木と対峙した―――

 原作において三十ページほどのこの対決を、なんとコミックスにおいてすでに六巻まで
使って描き抜いている。山口先生の意気込みと、闘魂が垣間見られる。

 原作からのアレンジも凄まじく、またそれが話全体を強烈で滑稽なまでに色づけ、素晴
らしいものにしている。特に虎眼先生のアレンジは必見。

 言葉では語り尽くせない。読んだ人にしかこの衝撃は伝わらないだろう。
 今の漫画は温い。そう思っている古強者に勧めたい。是非。  

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2006年05月19日

今日の一冊

夜叉ヶ池・天守物語



 怪異なる幽幻の世界、妖と人の物語。


 伝記作家の古強者、泉鏡花の戯曲二篇。

 妖怪に限らず、人外の存在といえば強大な力を持っている。そういう意味では、この物語
でそれぞれ主役をになっている竜神たちと妖精婦人たちは間違いなくそういった物の怪に相
違ないでしょう。彼らの奔放さと対比して、人間たちの矮小さが浮き彫りになる構図となっ
ているのもまた面白い形です。

 もちろん、人間の側にも妖怪たちに認められているような「特別」な存在がいて、彼らも
また話の主軸として普通の人間とは少し違うような立ち居振舞いを演じ、それが独特の空気
となって話全体を不可思議な幻想によって覆っています。

 古文調の文章はやや読みづらいと思われますが、伝奇や妖怪好きとしては欠かせない本と
なることでしょう。実際、慣れるとこの文章もまた古き時代を描くに当たって相応しいよう
に思われるのです。

 強大な力を持ち、奔放に遊ぶ妖怪の姿と、それに翻弄される人間たちが見たい方へ。  
Posted by generalshaman at 02:27Comments(0)TrackBack(0)

2006年05月12日

今日の一冊

 さて、今日は気分を買えて漫画に。

ナポレオン獅子の時代 1 (1)




「大陸軍は〜〜〜っ!!」


「地上最強ォォ〜〜ッ!!」




 はい、「ベルサイユのばら」とかそんな感じのをイメージした人ゴメンナサイ。
 拙者割腹。
 しかしこれほど当時のフランスの情勢や兵士達の姿を克明かつ勇猛、そして凄絶に描き出
している歴史漫画はそうそう無いでしょう。言うなれば通常は豪華絢爛、華美な宮廷の姿を
描いているのですから。それが悪いとは思いませんけど。少女漫画で泥臭いのやられても困
りますし。想像してみてください。原哲夫のベルばら。
 ……やばい、ちょっと読みたいな。(落ち着け


 ともあれ、この強烈な歴史漫画を描いている方は「北斗の拳」「花の慶次」の原哲夫氏が
元でアシスタントをしていた長谷川哲也氏。
 もちろん、ただ史実を漫画にしたところで面白くない。ならばどうするか。


 ―――キャラクターを、ギミックを強烈なインパクトで描けばいい。


 そう、例えばナポレオンがいきなり氷水に突き落とされたり
 パオリがフランス軍兵士の目を潰してなぶり殺しにしたり
 ロベスピエールが童貞だったり。

 他にもこの巻では出てきませんが、
クートンが車椅子から大砲発射したり、
サン=ジュストが仕込杖居合の達人だったり
と素敵ファクター全開。
 あまりの素晴らしさと改変具合に「長谷川マジック」とまで言われて大人気(ごく一部)に。

 もちろんこういった紙一重の部分だけでなく、彼らの生き様、かっこよさ、男臭さという
ものが作品全体から醸し出されるようにその姿を描かれています。

「命令だ 死ぬなよ」
「忘れるな フランスに復讐を」
「さよなら 俺の英雄」

 一度読めば、強烈な印象を残す漢たち。
 ヤングキングアワーズ紙上でも好評連載中。
 是非一読あれ。  
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2006年05月10日

今日の一冊

評というか、単なる感想文めいたものですが。
ザ・サード ただ、それだけのこと


 実は短編長編が過去にも出ているのでそっちを先に紹介していこうと思ったのですが、こ
の本が思い出深いものだったので先に紹介。最新刊ですし。
 これはドラゴンマガジン上で連載されていた作品をまとめ、書下ろしを加えた短編集です
が、この中で特に色々と心を振るわせたのが「帰去来」という一本。
 実はこれが物書きを目指すきっかけになっていたり。そのくらいに衝撃を受けた……って
のも言い過ぎかも知れませんが。読んだ当時は深い感銘を受けてました。スレイヤーズやオ
ーフェンに飽き始めていた模索期だった、というのもあったかもしれません。
 実際、機械の心理をここまで細やかに描いたSF(サイエンス・ファンタジー寄りですが)
はそんなにないでしょう。非常に稀有。それが感情移入できるほどのキャラクター性を与え
ているのやも。妖精の想いとそれを受け継いだ人口知性体が儚く悲しく、そして美しい。
 他の短編も人物をそこに生きている存在のように活き活きと描いていて、どれも魅力が翳
ることなく、物語の華として動き回っていてくれます。個人的には糸が好き。最近の長編で
は超万能主人公的に描かれている火乃香が久しぶりに見せた「等身大」の姿が、無力感が浮
かび上がってくるようで。まあその辺は長編を語る際に置いておくとして。
 ともあれ今回も外れは無し。この人は本当に短編が上手い。  
Posted by generalshaman at 23:30Comments(0)TrackBack(0)