2011年02月23日
JDA秋季大会2010参戦記(予選第一試合2)
JDA秋季大会予選第一試合の第二回です。今回は、否定側第一立論からです。
1NCの内容は、以下のようなものでした。
スタンス:
生命倫理の価値観において、他人に危険な影響を与える自己決定権は制限されるべき。
[(疫学研究とバイオエシックス2001)他者危害の原則…自由主義社会における重要なルール…個人の権利の枠組みの一端…他人への危害を加えないために制限されうる。]
デメリット1:代理母の危険増加
発生過程
A)多胎妊娠の増加。
[(2006年3月8日ヨミウリオンライン)IVFで双子が生まれる確率は、全国平均で15%超…自然妊娠では0.4%程度]
多胎妊娠は、母胎や産まれてくる子供に被害。
[(同)双子以上は、高血圧等妊娠中毒症の恐れ高まる…早産、未熟児、等…未熟児は、乳児期死亡率が数倍、障害、その後の病気等]
依頼者夫婦は、子どもを全て産ませようとする。
[(小林カツミ2001)日本人の場合、ほとんど「できれば生んで欲しい」と言う。…実は代理母の身体のことなどそっちのけ。]
B)出産のリスク。出産は、生命を脅かすリスク。
[(2007年2月17日読売夕刊)脳出血、子宮破裂、大量出血など生命に危険…アンケート結果…高度な救命措置が必要な妊産婦は、推定年間4500人…250人に一人の割合で発生。]
深刻性
1プランにより、子どもや代理母の生命が危険に陥り、危害を与えることになる。
2代理母に被害があるなら、たとえ本人が代理母を望んでいても、認めるべきではない。
[(なら2001)たとえ本人が同意した上での行為でも、人体尊重の権利を傷つけるとみなされるなら、社会がそのような行為を自己決定に委ねない。…代理懐胎では、自分の身体が侵害されるおそれが生じるので、自己決定権に委ねられない。]
デメリット2:虐待増加
発生過程
障害児が生まれるリスクが高まる。
[(2005年1月29日ライフケアマネジメントホームページ)IVF児の先天障害リスクは、自然妊娠に比べて40%高まる。というオーストラリアの調査結果…]
障害児→養育拒否、虐待
[(国立神経センター(?)2001)親のエゴイズム…望み通りの子ども以外は要らない…養育拒否、幼児虐待…諸外国でも問題になっている…]
深刻性
1生まれてくる子供の福祉を第一に考えなければならない。
[(石井2003)生殖補助医療は、新しい生命を誕生させる…当事者の自己決定に委ねられない…生まれてくる子は、自分を守ることができない。]
2子どものころの虐待は、その人の人生に深く関わる。
[(2002年6月日系サイエンス)思春期、青年期、壮年期など、あらゆる時期に様々な形で現れる…抑鬱、不安、自殺、PTSDなど…攻撃的、反社会的、多動症など。]
まず、そもそも1NCでDAしか出さない、というのは、立論が二回ある形式のディベートにおいては、最高の戦略ではない、とされています。AFFはケースを守る必要が無いため、2ACで思う存分DAへのレスポンスを出すことができ、その後のNEGのDAの展開が苦しくなる場合が多いので、もう少しケースにプレッシャーをかけるのが常套手段です。
内容的には、代理母の危険増加、虐待増加、ともに想定内の議論です。「代理母の危険」について、「他社危害の原則」を出してきていますが、この原則が、果たして代理母が自分の意志で契約を結んでいる場合についても当てはまるのか。もし当てはまるなら、一般の労働契約でも、少しでも危険がある(少なくとも労災の確率が通常の妊娠・出産より多い職種は、結構ありそうです)ようなものは、同様に認められないのではないか、といった話をするつもりでした。また、虐待に関しては、そもそもの比較が「生まれていない状態」と「生まれたけど、虐待された状態」の間で行われるため、リスクの評価が非常に難しい(「虐待されるくらいなら、生まれない方が良い」ということなのか、という話になる)のと、リンクがIVF(試験管受精)から始まっているので、代理出産固有の問題、というわけではないだろう、といった話がメインになると思います。
続いてのMさんによる質疑は、以下のような内容でした。
Q:スタンスの「他者危害の原則」というのは、同意無く危害を与えることは良くない、ということですね。A:同意があったとしても、いけない。
Q:では、一番下の「本人が望んでいても駄目だ」という、奈良の証拠資料について、もし本人が同意しても駄目なのであれば、なぜ我々はボクサーとか、スタントマン、ビルの窓ふき、といった職業を認めるのか?
A:それは、その危険性が必要以上に高くないから。
Q:それは、危険性がどのくらいあるかによる、ということ?
A:そうです。
Q:では、自然妊娠を禁止しないのは、危険性がそこまで高くないから?出産そのものがリスクなのであれば、なぜ出産することを認めるのか?
A:自然出産は、代理母出産よりリスクが低いと考えられる。
Q:リスクが高すぎる、というラインは、どこにあるのか?
A:労災認定で、人が死亡している確率、というのが、一番高い林業で0.84%。
Q:では、0.84%を超えなければ良い、ということ?
A:そうですね…少なくとも、それが最悪、ということなので、1%以上だったら認められないと思う。
Q:0.84%は、少なくとも職業として認められている。0.84%を超えたら駄目、というのは、誰が決めている?
A:社会が決めます。
Q:どうやって?
A:合意によって、ですかね。
Q:じゃあ、どういう基準で社会は代理出産がtoo much riskである、という風に判断するのか?そもそも「社会が決めている」といった資料はあるのか?
A:それは多数決の原理だと思う。
Q:多数決の原理で、こうしたことが決まっている、という資料はある?
A:今はない。
Q:虐待の話は、「虐待されるくらいなら、生まれない方が良い」ということ?
A:その通り。
Q:そうなんですか!
A:虐待されるくらいなら生まれない方が良い、ということではなくて、結果的に虐待になることが問題だと思う。
Q:多胎の方の何割程度が虐待になる?
A:それについては資料がない。
Q:そうしたら、どのくらいの割合で虐待されたら問題と考えるべきなのか?
A:[時間切れ]
DAのレスポンスに必要な情報は十分引き出すことが出来ました。
まず、代理母のリスクに関して、Threshold(しきい値。要するに「このくらいのリスクを超えたら、代理出産は認められない」という境界線)が無い、という点。通常の労働契約でも、同様のリスクが発生する、という話を、NEGが自らしてしまっている(特に、林業での労災死亡率0.84%、というのは、かなり高いリスクで、こちらの持っていた「労災死亡者年間1000人超」という資料よりはるかに高く、はっきり言って、AFFにとっておいしすぎるネタです)のは、かなり(NEGにとって)致命的だと思います。
ケースでも述べているとおり、妊産婦死亡率は、日本の場合だいたい10万人に6人くらいです。それに対して、林業の労災死亡率0.84%、というのは、10万人あたり840人(!)にも相当し、ここまで許されるのなら、ほぼ何でもアリ、という状態になってしまいます。
DA2に対しても、結局「虐待されるくらいなら生まれない方が良かったのか」という質問にNEGが答えられない、ということがわかりました。
次回は2ACの内容に移りたいと思います。