Evidence, Argument, and Form (Advanced Debate第二版) その2The Toulmin Model: Asset and Millstone (Advanced Debate 第二版) その2

2011年04月21日

The Toulmin Model: Asset and Millstone (Advanced Debate 第二版) その1

Advanced Debate第二版、25番目の論文は、The Toulmin Model: Asset and Millstoneというタイトルで、著者はConcordia CollegeのThomas ChristensonとYale Divinity SchoolのPaul R. Nelsonです。

ちなみに、タイトルのAsset and Millstoneは、最初"milestone(マイルストーン)"かと思っていたら、"Millstone(石うす)"でした。単なるスペルミスなのか、それとも意図的なのか(議論をすりつぶして分解する?)は良くわかりません。

内容を見ていきます。

人はなぜ議論モデルを考え、教える努力をしなければならないか。それは議論の能力が私たちの性格や議論している事実によるのではなく、どのように議論するかは、誰もがきちんと教育を受けなければならないからである。

議論の能力が生まれつき備わっている、という考えは、議論と口喧嘩を混同している。議論は口喧嘩とは違う。前者は明確な事実により合理的にサポートされた主張である。後者は、単に主張を繰り返したり、トピックを無視したり、声の大きさによって相手の意見を変えせよう、といった、見当はずれな言動となって現れる。我々は日頃、口喧嘩は多く目にするが、良い議論にはめったにお目にかかることができない。その理由は、見当はずれな議論を避け、合理的に論じるための戦略に関する訓練を受けていないからである。こうした戦略を身につけるための必要条件は、きちんとした議論モデルを知ることである。

我々がこの論文で目指すことは以下の四つ。(1)議論モデルを持つことが望ましい理由を説明すること。(2)トゥールミン・モデルに関する読者の記憶をリフレッシュすること。(3)このモデルのメリットについて論じること。そして(4)高校生ディベーターに広く知られてていて、排他的な使い方をすることによる、このモデルの望ましくない結果について説明すること。

議論の設計を知らずに議論を聞くことは、流暢だが、言葉の切れ目が分からない外国人の話を聞くようなものである。どちらも、聞いている側は重要なパーツを見分けることができず、それらの適切な関係性を見出すこともできない。議論の設計に関する明確なアイデアが無いと、「意見」しか聞き取ることができない。議論と意見の違いとは、議論は、構造や設計をもち、合理的な理解が可能であるのに対して、意見はランダムに登場し、決して議論にはならない、ということである。

ディベーターが特に、記憶のテクニックに長けていなければならないのは明らかである。ディベートの試合が進むにしたがって、様々な議論が生じる。記憶をより確かなものにするツールがあるのであれば、それは求めるに値するだろう。議論のモデルはその役に立つ。議論モデルを持っていれば、聞こえてくる議論を、一定のマス目(grid)に沿って整理・処理することが可能となり、理解がしやすくなる。例えば、もし相手が感情的な言葉や美辞麗句などのノイズを多く含んだ議論を出してきた場合に、議論モデルがあれば、こうした虚飾を取り払って議論の要素を取り出し、重要な主張をそのサポートとなる部分を抽出することができる。相手の言う事を一言一句記憶する必要はなくて、記憶やフローに、議論のエッセンスだけを記録していけば良い。

試合において、ディベーターは少なくとも4分の3以上の時間は聞く側に回っている。したがって、聞いたことを記憶するためのツールとして、議論モデルを持っていることは重要である。議論は、フローをとる過程で忘れられたり誤解されたりする。聞き手が十分な能力を持っていないと、フローを取り間違えたり、曖昧なレトリックなどによって議論の理解が妨げられる。

しかしながら、ディベーターは、自身の記憶の事だけを問題にするだけでは不十分で、ジャッジの記憶、という、同じくらい重要な問題がある。ジャッジの記憶に残らない議論は、試合結果を出すに際して、そのインパクトが大きく減じられてしまうだろう。議論をよりクリアかつコンパクトにし、可能なかぎりジャッジの記憶に残るよう工夫すべきである。そのために議論モデルは役に立つ。キャッチーな言葉や、如才ないレトリックなどは、議論そのものが混乱して、追うことができなければ、なんの役にも立たない。もしディベーターが、彼らのプレゼンテーションを理解して、整理することはジャッジの責任だ、などと考えているのであれば、実際の結果を見て驚き、そうではなかったことを理解することになるだろう。

議論モデルの最後の目的は、議論評価の過程でどのような問いをしなければならないかを明らかにすることである。弔辞などと異なり、議論は評価されなければならない。我々が採用する議論モデルは、明示的な前提条件についてのロジックと、合理的な批評を伝えることができなければならない。

トゥールミンの議論モデルは、2つのステージに分けて考えるのが良い。「基本モデル」は議論を以下の三つの要素に分けている。

1. データ:単に入手可能な証拠を示す

2. 主張:最終的に導かれる結論のこと

3. 論拠:主張とデータを結びつける理由付けまたは一般化

これら三つの要素を含む議論は、例えば、以下のように表される。

データ:FRBは2月1日にプライムレートを8.5%へ引き上げる決定を行った。

     ↓

論拠:金利はFRBのプライムレートと連動している。

     ↓

主張:金利の上昇が予測される。

基本モデルは、他の要素をつけ加えることによって拡張される。これを「拡張モデル」と呼ぶ。論拠に何らかのサポートが必要なとき「裏付け」を加える。主張が広すぎて、サポートしきれない場合、「限定」を加える。もし議論が安定しないといった特殊な場合には、例外的条件を示すために、「留保」を含む場合がある。

あまり解説の必要も無いと思いますが、トゥールミンモデルについては、日本の書籍でも割と詳しく紹介しているものがあります。例えば、「議論のレッスン」(福澤一吉著、NHK出版、2002年)などは、かなりの部分がトゥールミンモデルとその応用の話に割かれており、詳しく知りたい方には良いと思います。用語もほとんど一緒なのですが、ひとつだけ「留保」のところが「反証」と呼ばれていて、この論文とは違っています。

一応元のToulminが書いたもの(Stephen E. Toulmin "The Uses of Argument"─ちなみに、福澤氏は著者の名前を「ステファン」と書いていますが、これはもちろん「スティーブン」ですね)も見てみると、どうやら、「議論のレッスン」での記述の方が、オリジナルに近いようで(引用されている例も、オリジナルの本そのまんまです)、"Rebuttal"と表現されています(本論文では"Reservation"となっています)。ただ、個人的には、"Reservation"の方が意味的にはしっくりくるような気がします(「議論のレッスン」でも、「保留条件としての反証(112ページ)」という表現がされています)。

次回へ続きます。



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