2012年02月24日

2011JDA秋季大会決勝トランスクリプト(13)

トランスクリプトの締めくくりとして、自分だったらこの試合をどう判断したか、少し考えてみました。

■デメリット2

まずは簡単なところから。

デメリット2については、否定側が最後にドロップしているので、判定の考慮に入れないのが妥当だと考えます。

実際にこのデメリットを伸ばしていたとしても、日本の技術を海外に供与することは妨げられないこと、海外の原発付近で日本のような大地震が起こる可能性や、仮に大地震が起こった場合に海外の技術で建設した原発が事故を起こす可能性(また、本当に日本の原発なら大丈夫なのか?等々)を正確に評価することが難しそうです。

■ケース

まず、「観察」のうち、大地震の可能性と、現状で原発が再稼働される、という話については、肯定・否定の間で争いは無いので、認めて良いと思います。ただし、「様々な部分が壊れて大事故に繋がる」という話は、次の内因性でより詳しく説明されている話なので、内因性が残るかどうかにかかってきます。

内因性については、事故が起こるメカニズムがかなり詳細に示されており、それら全てを否定側が切っているとは言い難い状態です。ただし、現実に大事故に至った原発が福島第1(マークI型)だけ、という事実からは、マークIとそれ以外の型である程度の事故の起こりやすさに差はあるものと考えられます。

AP1000(第三世代プラス炉)に置き換えるカウンタープランに関しては、マークI型以外の現状の日本の原発(これらはほぼ間違いなくAP1000ではない)に対しては効果がないので、これだけで事故のリスクが極小になるようなものではないと考えられます。また、仮に全ての原発をAP1000に置き換えたとしても、肯定側の言う圧力容器の問題は残りそうです。

インパクトに関して、否定側の最初のターンは、「大気汚染」と「労働者の死亡」について言及していますが、肯定側のレスポンスは、大気汚染に関してのみ言及していて、労働者の死亡(おそらくは燃料の採掘や発電所事故等によるもの)については残っています。ただし、日本の化石燃料消費にともなう燃料採掘にユニークな死亡者についての分析は否定側から無く、その大きさについては疑問が残ります。

地場産業の話に関しては、事故が起これば結局その場所に住めなくなってしまうこと、原発産業に従事している人以外にも影響が及んでしまうことから、それほど大きく取るべき議論ではないと判断するのが妥当でしょう。

ガン死については、ある程度の死者は出ると思われるものの、100万人、というのは、否定側からのレスポンス(肯定側の計算はおかしい)を考えても、誇張されすぎているのでは、という印象です。

■デメリット1

デメリット1は、一本のリンクが通っているというよりは、いくつかの話があまり整理されずに詰め込まれているように見えます(このあたりはNEGの反省すべき点です。もっときちんと複数のリンクがあることを明示すべきでした)。大まかにいって、(1)電力不足(停電など?)が現実に起こることによる経済の衰退、(2)電力不足「懸念」による、ハイテク産業などの海外移転→産業空洞化、(3)燃料費が余分にかかることによる、経済への影響、の3つくらいに集約できそうです。

このうち、(1)については、そもそも現実に停電や電力不足が起きることによるインパクトが、実はあまり証明されていません(一応、(2)のリンクへつながる(実際に電力不足が起これば、不安感が助長されると思われるので)可能性はありますが…)。なので、火力発電の稼働率の話や、増設が可能かどうかの話は、若干ずれている感があります。

とはいえ、一応、このあたりの話についての見解を示しておくと、肯定側の言うような、数カ月で建設できるようなガス火力発電所が、プランによって本当に建設されるのかは、かなり眉唾な感じがします。エビデンスを比較すると、電力会社がこれまで建設してきたのは、否定側の言う「高効率の(建設に時間のかかる)」発電所の方で、ほうっておけば、電力会社はこちらを建設する方向に動くと考える方が妥当な気がします(自らの利益構造を悪化させたくない、という理由で)。ただし、本当に切羽詰まれば、簡易な(肯定側の言うような)発電所建設に動く可能性もありますが、おそらく、電力需給ギリギリのラインを狙ってくるのが自然ではないでしょうか。そうだとすれば、既存の火力発電所の稼働率を上げることを前提とした増設になりそうであり、若干ではあるものの否定側のリンクの方が上回りそうな気がします。

焦点は(2)の、移転が生じるかどうか、というところです。上記(1)のリンク部分がある程度成立すると仮定すれば、ハイテク産業等が不安に感じる可能性は残しても良いのではないかと思います。ただし、海外移転は簡単ではないし、何より現状の日本以上に電力供給が安定している国が(移転対象になるような国の中で)あるかどうか、というのも疑問に感じます。移転〜経済へのインパクトが生じる可能性はあるものの、かなり減じられている、と考えるのが妥当そうです。

(3)のお金の話については、現状で原発を続けていけば、将来にわたって廃炉費用は計上されつづけるでしょう。また原発の新規建設が(もし)あれば、そのぶんの廃炉費用は、現状にユニークな費用となります。さらには、燃料再処理の費用も、現状を続けるなら、計上され続けるでしょう。しかし、プランを取っても、現状の54基の原発の廃炉費用や、現在保管している燃料の再処理・廃棄費用が必要になります。これらの廃炉・再処理・廃棄だけでも、相当な時間と費用が必要なはずで、そう考えると、肯定側にユニークな部分の費用が、原発が急に無くなることによる燃料費増加を上回るかは、かなり疑問に感じます。ただし、その差分が「年間3兆円」にも達するかどうかは、計算出来るだけのデータが無いので分からない、というところでしょう。

結論としては、(2)の企業移転→失業の可能性は若干はある。(3)の燃料費増加もある程度あるものの、その程度については否定側が言うほど深刻ではないだろう、というところに落ち着きそうです。

■メリット・デメリットの比較

以上のように、今回の試合で残るのは、「原発事故によるガン死、居住不能地域ができてしまうこと」「火力発電の増加による、燃料採掘等の増加による事故死」、「電力不足の可能性による企業移転→失業と、火力発電増による燃料費増加」と考えました。これらを比較するのは実際にはかなり困難で、ジャッジによって判断が分かれるところだと思います。

肯定側の言うように、事故のインパクトを絶対的なものと考えて、少しでもその可能性が残るなら肯定側に投票すべき、とすることも可能でしょうし、肯定側メリットのインパクトは額面通りではなく、ターンもあることを考えて、デメリットの方を重視する、という考えもあるかと思います。このあたりはもっとディベーターが説明すべき部分でしたが、この試合においては、どちらの判断になってもおかしくない内容だったのではないでしょうか。

とりあえず、JDA秋季大会決勝の話はここまでにしたいと思います。



geniocrat at 04:32│Comments(0)TrackBack(0)JDA | トランスクリプト

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