難民論題 デメリット例第23回JDA秋季ディベート大会の予選(ほぼ)全試合ジャッジしてみた(その1)

2020年08月30日

#DCS_2020決勝戦の判定理由

 7月26日、8月2日、23日と、ONLINE Debate Championship 2020(#DCS_2020)というオンライン大会のジャッジをさせていただきました。(大会概要はこちらを参照してください)

 新型コロナウィルスの影響で、多くの中高生向け大会が中止となる中、ゼロから完全オンラインの大会を立ち上げ、成功させた運営の皆様のご尽力には頭が下がります。

 大会の決勝戦のジャッジにも入らせていただいたのですが、7人ジャッジの6-1マイナーとなったので、自分の判定内容を分析し、他のジャッジと何が違ったのかを考察するために、決勝戦の判定理由を残しておきます。

 なお、以下の判定内容は、決勝戦をリアルタイムで聞きながら取ったフローをもとに出しています(聞き直し等はしていません)。なので、実際の試合で言われていなかったことが判定理由に含まれていたり、逆にディベーターの発言で、重要と思われるところが落ちていたりする可能性があります。そのあたりは、試合の録音が公開されることがあれば検証していただければと思います。基本的にディベートの試合(とその判定)は生ものなので、ディベーターの発言が必ずしも意図通りにジャッジに伝わるわけではない、というモデルにもなると思います。

 試合内容詳細まで説明すると長くなってしまうので、簡潔にDecisionとその理由のみとさせていただきます。当の試合を聞いていなかった方にはわかりにくいかもしれませんが、ご了承ください。論題は「日本は一般的国民投票制度を導入すべきである」でした。

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■判定:否定側

■判定理由概要:

 デメリットの成立/不成立と関係なく、論題を肯定するに足るメリットが認められない、と判断した。

■判定理由詳細

・メリットについて

 観察の「どのような政策にも利益とリスクのトレードオフがある」という話については、確かに、ある政策を採用した時に、思わぬ副作用がある場合は存在すると考えられるものの、それらプラスの効果とマイナスの効果が、常に完全にバランスしているとは考え難い。このことは1NRでも指摘されており、このエビデンスをもって「どんな政策を採っても同じ」とは言えない。すなわち、どのような政策にもメリット・デメリットはあるが、それらを比較考慮して、プランの結果が、国民にとって好転するのか、悪化するのか、を判断すべき、と考えた。

 少なくとも否定側は上記の立場を(潜在的にせよ)支持していると考えるのが妥当であり(例えば、ケースアタックであった英国EU離脱の例では、国民が「後悔している」とか、デメリットにおいても、現役/将来世代の国民に対して不利益が生じる、といった立場を提示している以上、政策の選択自体に何の意味もない、と考えることには無理がある)、これに対して肯定側は立論の議論を単に伸ばす以上のことをしているように見えなかった。

 その上で、試合中で出てきた例について検討してみる。

 ケースの安保法案の例については、結局「利益とリスク両面がある」と、肯定側が述べたにとどまっており、そのどちらが上回るかは明示されていない(もともとそういう意図で出された議論と思われるので当たり前だが)。

 同じくケースのカリフォルニアの税制に関する住民投票については、いったん問題のある内容の住民投票を行ってしまった結果を、同じく住民投票で修正した、という話と理解した。もしそう考えるなら、そもそも最初から住民投票など行わなければ、修正の必要も生じなかったはずであり、単純に遠回りをした分損をしている、と考えるのが妥当ではないかと判断した(おそらくこの解釈は肯定側が意図していなかったものと思われるが、そもそもこのエビデンスは様々な解釈の余地がありそうなものであり、そのようなあいまいなエビデンスを出すのであれば、肯定側は、最終的な解釈をきちんと与えるべきだった)。

 一方、否定側から提出された、英国のEU離脱の例については、1ARでいくつかの反論はあったものの、ダウトのレベルにとどまり、少なくとも英国国民の一定数は、国民投票の結果について後悔している、と考えるのが妥当と思われる。

 以上より、少なくとも今回の試合で提出された例だけから考えると、国民投票制度を実施した結果に対して国民が「良かった」と思える可能性は低い、と考えざるを得ない。後から修正はできるのかもしれないが、修正が行われるまでの期間については国民に不利益が生じるはずだし、そもそも最初から国民投票など実施しない方がそのような不利益を被らずに済むのではなかろうか。

 最後に、解決性の「国民は、判断に必要な知識を持つか」について検討する。

 まず、前提条件として、ある政策のメリット/デメリットが正しく理解できる情報が提供されなければ、トレードオフの判断もできず、そのような状態で出された判断に正当性はない、という1NRの議論に対しては、有効な反論があったとは認め難い。

 その上で、(特に日本においては)情報提供側(政府や国会議員等)に情報操作のインセンティブが働くこと、おそらくほとんどの国民が情報のよりどころにするであろうマスメディアの情報は、端的なものが要求されるため、偏る可能性が高いこと、また、フィルターバブルの問題もあり、客観的・公平な情報を得るのは難しい、等の分析は否定されていないと思われる。肯定側は最終的に立論のデンマークの例を伸ばしていたが、肯定側・否定側の議論を比較すると、分析の新しさや、日本に特化している、といった観点から、否定側議論が優位であると判断した。

 総じて、国民投票制度の導入は、実際問題として、国民の利益とはなり難い(むしろ、「正しい」政策へ到達するまでに時間がかかる)。また、「国民が自分の利害となる政策を自ら判断すべき」「国民投票による学習効果がある」といった重要性についても、その前提となる正しい情報・知識があやふやな状態でどの程度の意味を持つのか不明(仮にこの重要性が残ったとして、政策の「迷走」を上回る価値が存在する、とまで考える理由が不足している)。

 上記理由により、論題を肯定するに足るメリットは存在しない、と判断した。

・デメリットについて

 メリットの段階で勝敗は決しているが、念のためデメリットの判断についても記す。

 デメリットについては、主に固有性の部分でプラン前後の差異が不明確となっている。

 政治家は、仲間内で認められるような政策を好む一方、有権者にも配慮して、長期的視野が持てないケースもある。また、官僚もそうした政治家に忖度して、長期的視野に基づいた、痛みを伴う政策を避ける傾向がある、ということについては、否定側からの強力な反論はないと考える。

 したがって、プラン後の世界の検討以前に、現状において、「国民の痛みを伴うが将来的に有益な政策」がきちんと提出されているか、は判断し難く、プラン前後での差分を認め難い。

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 他のジャッジのデシジョンを聞いていると、デメリットについては固有性の部分で成立は認め難い、としている部分は私と共通していて、メリットが若干なりとも残ると判断したかどうか、の違いのように思えます。

 もちろん、肯定側の議論を好意的に解釈したり、深読みしたりすれば、メリットが残る、という判断も十分あり得るとは思いますが、今回に関しては、そもそもの観察の議論(どのような政策にも利益とリスクが存在する)に対しての否定側反論が一応あり、ここには乗れない、と考えたことと、肯定側がさんざん強調していた「修正」や「学習効果」がどのような価値を持つのかが、試合中の議論からは理解できなかった、というところが大きいかと思います。「修正」も「学習」も、結局は時間が必要であり、それは(今回は)どちらかというと「単なる遠回り」としか感じられなかった、というのがこの試合での私の感想です。

 他に肯定側に入れる可能性としては、デメリットで出てきた肯定側議論を援用してケースを再解釈する、といったことも考えられますが、スピーチ中でそのような言及があったとは認識できませんでした。また、デメリットの肯定側議論は、プラン後にこうした問題が改善する、という話ではないので、たとえそういったextensionがあったとしても、それを取るかどうかは微妙なところです。

 この試合においては、1NRが秀逸だったと思います。完璧というわけではありませんが、ケースの中で胡散臭いとジャッジが思っている部分を的確に指摘できていたように思います。そのあたりの評価の差が、判定の差となったのかもしれません。



geniocrat at 12:51│Comments(0)中高生論題 | 観戦記

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