2021年09月10日
第26回ディベート甲子園全国大会中学の部 予選(ほぼ)全試合記録(その4)
第26回ディベート甲子園中学の部予選記録の第四回です。
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■J2-5(O vs. N)
・コミュニケーション点:肯定側17点/否定側16点
・判定:否定側
・メリットの評価:
かなりの程度削られると判断した。
現状の教員の労働時間が増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのか、は分からなかったが、部活動を廃止した場合に、新たな生徒指導などの業務が発生し、その対応で時間を取られる、という部分については否定側寄りに取った。また、過労死については、10年間で63人という数字はあるものの、そのうちどれくらいが部活動要因なのか、はよくわからない(富山県の例もあるので、ゼロではない、と判断はできるものの、額面通りに受け止めるべきではないと考えた)。さらに、労働時間の減少幅も、肯定側の言う額面通りではないと思われる。
・デメリットの評価:
ほぼ残ると考えた。
1ARでの肯定側からの反論として、有効と感じられるものが無いと思われる。メリットの一部で、「現状の帰宅部の人達も問題行動を起こしていないのではないか」という話はあったが、これも証拠資料があるわけではなく、実態が不明。
・結論:
結局、地域クラブに行けないような人たちが、社会的スキルを身につけるような経験が出来なくなったり、問題行動を起こしたりして、損失を被ること、問題行動により、肯定側メリットの解決性も削られてしまう事から、否定側に投票。
・コメント:
肯定側立論:非常に聞き取りやすいスピーチだった。議論と議論の間の「つなぎ」のスピーチがしっかり入っていて、余裕をもってフローを取ることができた。
否定側質疑:質問の仕方がやや強引という印象を受けた。自分の結論の押し付けになってしまっている部分がある(例えば、「富山県の部活動要因の過労死はレアケースですよね?」といった質問など)ので、肯定側議論の中の事実を確認しながら、相手の弱点を引き出す質疑を心掛けたい(例えば、「部活動が原因と『確実に』わかっているケースは、富山県の一例以外に存在するのか?」など)。
否定側立論:非常に戦略的な立論と感じた。深刻性の最後の部分は、メリットをFlipする議論につながることが予感され、面白い。
肯定側質疑:相手の、ややいい加減と思われる返答をスルーしてしまっている箇所が散見される。例えば、「プランによって、低所得層の人がどれくらい増える?」という質問に「プランによって貧困層が増える」という返答は、答えになっていないので、「それでは答えになっていない」ということを指摘し、結局具体的な数値は出ていない、という事を確認すべき。
否定側第一反駁:良い。否定側立論から想定されたFlipの議論がきちんと入っており、効果的にメリットを削っていると感じた。ただし、スピーチの構成が、相手の議論(内因性/発生過程/重要性)に沿っていないので、そこを合わせられると、更に良い。
肯定側第一反駁:メリットで、1NR議論に対抗する資料を出せた点は良い。また、スピーチ内容も分かりやすかった。ただ、メリットに触れているのか、デメリットに触れているのか、わかりづらいところがあり、デメリットへの反論がおろそかになっている印象となってしまった。
否定側第二反駁:必要な箇所はきちんと伸ばせており、良い。ただ、教員の労働時間に関しては、1NRと1ARの資料の比較をきちんとしてほしかった。
肯定側第二反駁:メリットのリカバリーは最低限はできていたと思う。デメリットは、発生してしまうのは仕方がないと割り切り、それでもメリットが上回る、というスピーチができると良かった。例えば、問題行動については、現状部活動に入っている生徒全員が問題行動を起こすわけではなく、通常ごく少数の生徒しか問題行動を起こさないと考えられる。そうした生徒への対応は、普通、教員全員ではなく、一部の生徒指導担当の教員に限られるのでは?とすれば、総体としては、救われる教員の方が多いのでは?といったかわし方もあったかもしれない(Newと取られる可能性も高いが…)。その上で、社会経験といった曖昧なものより、実際に死亡例も出ている教員の過労死防止の方が、緊急性は高い、というようなまとめ方はできたかもしれない。
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■J2-6(R vs. Q)
・コミュニケーション点:肯定側18点/否定側17点
・判定:肯定側
・メリットの評価:
減じられはするが、発生すると考えた。
教員の負担や、部活動中の事故いずれについても、否定側議論は、現状と差が小さい、といった反論はしているものの、メリットがほぼゼロに近くなる、とまで言えるような分析は無いと考えた。
・デメリットの評価:
かなり減じられると考えた。
そもそも、部活動が無条件に非認知能力向上に貢献しているわけではなく、入部後の取り組み次第、という面がある(1AR反論)。また、プラン後も、経済的要因で部活動に相当する活動を続けられなくなるケースは、否定側の言うほど大きくはないと思われる(部活動でもすでにユニフォーム等の費用がかなりかかる、ということと、地域クラブ等でも部活動と費用面で大差ない、という1ARの議論)。デメリットがゼロになるとまでは言えないが、相当程度減じるべきと考えた。
・結論:
メリット・デメリットを比較した際に、デメリットが減じられる程度がメリットよりも大きいと考え、肯定側に投票。
・コメント:
肯定側立論:かなり盛沢山の内容が詰まっており、戦略的に優れた立論と感じた。ただ、要素を多く盛り込んだ分、スピーチが犠牲になった感はある。
否定側質疑:不明点の確認はできていた。やや確認に終始してしまった感はある。例えば、否定側一反の議論につなげるならば、精神疾患で休職する教員の数は、他の業種に比べて多いのか?といった質問を投げて、他業種でも、同様に精神疾患が発生しているのだから、社会的に大きな問題と言えない、といった話へ持って行けたかもしれない。
否定側立論:非認知能力の実態をできるだけクリアに出そう、という意思が見られたことは評価できる。応答においても、それなりの説明はできていると感じた。
肯定側質疑:質問するポイントは良かったと思う。非認知能力について、反論のきっかけを作りたいのであれば、例えば「部活動で、なぜ非認知能力が育つのか?」といった質問よりも、生徒会や学校行事と部活動の違いを問うとか、「部活動に入っている人・入っていない人でどれくらい非認知能力に差があるのか」と問いたい場合は、「そもそも非認知能力は測定できるのか?その差分は明確に数値で表せるのか?」といったところを突いても良かったかもしれない。
否定側第一反駁:議論の流れは、肯定側立論の上から下へ、と順を追って構成されており、フローが取りやすかった。内容的には、証拠資料をもう少し入れられると良かった。読む資料や、資料の内容・分量の吟味をすると良いと思う。
肯定側第一反駁:デメリットに対する反論が秀逸だった。メリットは最低限の守りにはなったと思うが、相手の圧がもう少し強いと危なかったかもしれない。
否定側第二反駁:メリットについては、1NRに沿って比較的きちんと議論を伸ばせていた。デメリットについては、1ARの反論が多く、対応が難しかったとは思うが、個々の議論をきちんと処理してほしかった。
肯定側第二反駁:スピーチ内容は(良い意味で)期待通りだったが、若干スピーチ順が前後する場面があり、フローが錯綜した。
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■J2-7(U vs. T)
・コミュニケーション点:肯定側18点/否定側16点
・判定:否定側
・メリットの評価:
解決性が厳しいと感じた。
教員が授業準備に充てられる時間は、プランを取ることによって増加はすると考えた(否定側からは、マイナスになる、とまで言っている議論は無かった)。問題は、その時間が授業準備に充てられるのか、それによって授業準備時間は必要なレベルに達するのか、達したとして、それがアクティブラーニングの普及につながるのか、アクティブラーニングが実現したとして、生徒の能力がどの程度向上するのか、といった疑問が否定側から呈されており、立論まで立ち返っても、それらに対する回答が無く、そもそも解決性があるのか、に疑問符が付いた状態で終わっている。
・デメリットの評価:
ある程度残ると考えた。そもそも、肯定側反論は、部活動の効果はアクティブラーニングでも実現できる、という点に尽き、部活動の効果そのものを否定するわけではない。部活動が廃止されることによるデメリットの発生そのものを妨げるものではない、と感じた。
・結論:
仮に、アクティブラーニングが全国的に十分普及し、そこで生徒のライフスキルが獲得されるなら、その方が理想状態に近い、という肯定側議論には賛同するものの、メリットの解決性が疑問な状態では、現状を維持して、部活動によりライフスキルを供給した方が、総合的には利益が大きいと判断し、否定側に投票。
・コメント:
肯定側立論:非常に意欲的な内容で興味深い。ただ、やはり解決性については、ハードルが高いと感じた。部活動の存在が、アクティブラーニングが実現しない原因になっているのか?とか、教材研究時間があと4時間ほど取れればアクティブラーニングが実現するのか(そもそも、ここで言う「教材研究は、アクティブラーニングを想定していない可能性が高い)?とか、アクティブラーニングが実現すれば、必要な能力が身につくのか?など、様々な疑問に答える必要がありそう。
否定側質疑:質問の意図はなんとなくわかるが、あまり思ったような答えを引き出せていないと感じた。例えば、解決性の話は、「飯田市では37%の教員の授業準備時間が4.5時間増えたのか?」という聞き方ではなく、「飯田市で授業準備時間が増えた、という37%の教員は、具体的に何時間くらい授業準備時間が増えたのか?」という聞き方の方が、増加時間が分からない、という結論を導きやすいのではないか。
否定側立論:内容的には悪くないが、ややフローが取りづらいと感じた。もう少し立論の内容を絞り込んでも良いかもしれない。
肯定側質疑:部活動からライフスキルが学べる理由を問う質問は良かった。その返答(そのような目的で実施しているから)はもっと突っ込めたと思う(ライフスキル獲得を目的としている、というだけでは、実際にライフスキルが獲得できているかどうかは分からないのでは?)。
否定側第一反駁:メリットに対する指摘事項は良い。スピーチはややぎこちない感じがした(通常のメリットと異なるパターンなので戸惑ったのかもしれないが)。
肯定側第一反駁:良くカバーできていた。デメリットの反論の最後の部分(学業での格差の話)は、もう少し敷衍しても良かった。例えば「部活動のような、任意の課外活動にライフスキル獲得を任せるのは、不安定であり、むしろ格差を助長する可能性があるので、きちんと正規の教育課程にライフスキルを獲得できる活動を組み込む方が、国の教育政策としては望ましい」といったスピーチもできたかもしれない。
否定側第二反駁:相手のメリットの解決性の弱い部分を的確に攻めることができていた。デメリットについては、Newと取られる可能性が高そうな議論がやや多いと感じた(非認知スキルと賃金の関係や、スポーツ活動と非認知能力の関係など)。これらの議論は、必要であれば立論に組み込んだ方が良い。
肯定側第二反駁:比較の筋は良く、スピーチも聞きやすかった。否定側のNew Argumentの指摘ができると、更に良い。
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■J2-8(X vs. W)
・コミュニケーション点:肯定側18点/否定側19点
・判定:否定側
・メリットの評価:
内因性、解決性が一定程度削られると考える。
内因性で言われていたガイドラインは、それによって、将来的に問題を軽減する効果はあると考えた。ただし、それだけで、部活動を廃止するのと同等の効果が得られるとは考えられないので、その分の内因性は残る。
解決性については、かえって負担が増えるかも知れない、という1NRの議論に対して実質的な反論が無かったので、この議論をある程度取る。ただし、肯定側立論で言われている部活動要因の膨大な時間外労働が、この資料一枚で完全に返るとも考えづらい(否定側議論は、肯定側ほど、部活動消滅による負担増加のメカニズムが明確でないので、あまり確信を持って取ることができない)。
総じて肯定側議論はゼロではないと考える。ただし、1AR以降の反駁が十分でないので、ある程度メリットは削減されると考える。
・デメリットの評価:
ある程度は残ると考える。
肯定側反論の学校行事については、言われていることは正しいと思うが、学校行事と部活動両方ある状態に比べて、部活動がなくなった状態は、体験機会の量、という観点から劣ることは否定できないと思われる。
スポーツクラブ等も安価、という話もあったが、否定側議論(実際に経済力によって学校外活動の量に差が生じている)を取る。
・結論:
否定側深刻性の主張だった「認識しづらいからこそ深刻」という話は、若干言葉の綾的な印象を受けるが、その主張に含まれる「コミュニティ内での孤立」「頑張った体験など語れず就職等で不利になる」といった話は、深刻性として取れると考える。メリットがかなり減じられると考えるならば、こうした体験機会を保持する方が得策と考え、否定側に投票。
・コメント:
肯定側立論:非常に聞きやすいスピーチだった。応答も、答えにくそうな質問に対して、きちんと自分の立論にもとづいた適切な返答ができていた。
否定側質疑:質問するポイントは悪くない。より意図を持った質問(1NRの議論につなげられるような質問)ができると良い。例えば、内因性に対して「全員顧問制を止めれば問題は解決するのか?」という質問をするのであれば、1NRが「全員顧問制は将来なくなる」といった議論を持っていることが望ましい。そのような議論を出すことができれば、この質疑は意味がある。
否定側立論:速いスピーチだったが、聞きやすかった。内容を(社会的スキルなどの、部活動によって得られる能力、とせずに)体験機会に絞った点は面白い。深刻性は良く工夫されていると感じたが、「認識しづらいからこそ深刻」という話は若干詭弁的に感じた。
肯定側質疑:質疑の際に相手を「相手側さん」と呼ぶのは避けた方が良い(質疑は相手との対話なので、この呼び方は違和感がある)。内容は、テンポよく質問できていて良かった。ただ、相手のデメリットを、「部活動によって得られる能力」の話と誤解している節があるので、そこが修正できると(また、1AR担当者にそう伝えられると)良かった。
否定側第一反駁:議論のバランスは良かった。重要性への反駁は、「なぜ国がやるのか」という議論だけだと弱い。「過労死の人数が少ない」といった反駁等盛り込めると良いかもしれない。
肯定側第一反駁:デメリットは良く反論できていたが、内容を「部活動によって得られるスキル」のことと勘違いしている節があり、若干Irrelevantなレスポンスになってしまった。また、メリットについては、解決性への反論に対してもう少し厚く反論しておきたかったところ。
否定側第二反駁:スピーチは聞きやすく、デメリットの伸ばし、メリットへの反論の伸ばしも良い。最後の比較は若干蛇足的な印象になってしまった(結局、「メリットが無くてデメリットがあるからNEG」と言っているのとあまり変わらない気がした)。
肯定側第二反駁:かなりうまくリカバリーしたと思う(特にデメリット)。もう少し粘るとすれば、デメリットの深刻性が、実は具体的にはあまり内容が無い、という事をしつこく説明する、といったやり方はあったかもしれない。
…次回へ続きます。