場末P科病院の精神科医のblogさんのサイトより
http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/26932722.html
<転載開始>
最近、場末であるはずの私が勤務する精神科病院に脱法ハーブの使用で急性精神病状態となり精神科救急を経由して入院した若い患者がいた。自己申告がなされたので、脱法ハーブによる精神症状だと分かったのだが、もし、自己申告もできない程の重度であったならば、おそらく統合失調症と診断されていたことだろう。主治医は救急当直をしていた若手のドクターが担当したのだが、抗精神病薬の1つくらいは投与したくなるような病状ではあったのだが、睡眠導入剤だけで離脱を完了させて短期間で退院していった。彼はさすがである。

しかし、今はこんな場末の病院にまで脱法ハーブの患者が入院してくる時代である。最近は警察官までもが脱法ハーブの使用で辞職している。危険な脱法ハーブが一般市民に広く蔓延してしまっているのではと懸念される。次は私が主治医を担当する番かもしれない。もっと勉強しておかねば(汗;)。

脱法ハーブは合法ハーブと表現されることもあるが、まだ法規制がなされていないという理由で合法と表現されているに過ぎない。しかし、成分は大麻よりもはるかに危険な合成麻薬なのであり、成分である合成カンナビノイド化合物の種類があまりにも多過ぎて法が追いついていないだけである。法の規制がかかると新しい合成カンナビノイドが登場する。まさにイタチごっこである。しかも、「ハーブ」という表現は偽装に過ぎず、100%自然の植物由来のものではなく、化学合成された麻薬成分がハーブの葉に巧妙にスプレーされていたりして、しかも一種ではなく何種類もが様々にブレンドされて混入されているのであった。中には、アロマオイル、芳香剤、エアフレッシュナー、入浴剤(バスソルトなど)、ビデオクリーナー、肥料などとして偽装されて販売されているものもある。しかも年齢制限なしで簡単に購入できる。パッケージにはわざとらしく「人が使用する目的のものではありません」などと書かれている。非常に悪質な悪意に満ちた製品となっているのであった。なお、海外ではバスソルトによる自殺(浴槽で首つりなど)や自傷行為(腹を切る、など)が起きている。
スパイス
















バスソルト










ここで、脱法ハーブには疑問がある。誰がカンナビノイド化合物を合成しているのだろうかということである。何を目的としてあれだけ多くの種類の化合物が作り出されたのであろうか。しかもまだ市場に出廻っていないカンナビノイド化合物が何種類もスタンバイされているようなのだ。私は合成カンナビノイド化合物の裏には製薬会社も大きく絡んでいるのではと疑っているのであった。

カンナビノイドの光の部分

大麻は紀元前から文化的(薬用、宗教儀式、余暇など)な目的で使用されていた。大麻の種は紀元前6000年前から食品として利用され、大麻自身は紀元前4000年前から中国で衣類の繊維として利用されている。薬品としての最初の記録は紀元前2727年の中国における漢方薬としての使用である。大麻と人類との付き合いは非常に長いのであった。大麻から繊維を取る時にたまたま大麻に火がついて燃えて、その煙を吸ったら陶酔感が得られたのが大麻の薬理作用の最初の発見だったのかもしれない。以後、インカ文明のコカの葉のような存在として人類に使用されてきたのだろう。

マリファナ marijuanaは大麻の花冠を乾燥させて切り刻んだものである。ハシシュhashishは花冠から採取した樹脂を加工したもの(大麻樹脂)である。マリファナには400種もの物質が含まれており、そのうち70種がカンナビノイドである。カンナビノイドの中心となる物質の1つである デルター9-テトラヒドロカンナビノール(delta9-tetrahydrocannabinol、Δ9-THC)は大麻樹脂から1964年に初めて分離された。さらに、1988年にカンナビノイド受容体であるCB1R(中枢神経系が主)がクローニングされ、1998年にCB2R(末梢神経系や内臓が主)がクローニングされて2つの受容体が同定された。さらに、内因性カンナビノイドとしては、1992年にアナンダミド(anandamide、AEA)、1995年に2-アラキドノイルグリセロール(2-arachidonoylglycerol、2-AG)などが発見されている。ドーパミンなどのモノアミン系よりは新しく発見された神経伝達システムであり、現在さかんに研究が進められている。

ドーパミンとドーパミン受容体のような単純な1対1の関係ではなく、カンナビノイド受容体に作用する内在性の物質(リガンド)は1つだけでなく何種類もあるようだ。内因性カンナビノイドシグナル伝達は無脊椎動物などの原始的な生物にも存在する。生物が進化していくに従って、内因性カンナビノイドシグナル伝達システムは複雑になっていったものと思われる。内因性カンナビノイドとカンナビノイド受容体の神経系における作用やその機能の全容は相当に複雑なシステムであろうと思われる。(内因性カンナビノイド・シグナル伝達システムに関しては、細胞外だけでなく細胞内の情報伝達系にも関与しており、膨大すぎるため紙面の都合上省略する。他を参考にされたし。)

以後、カンナビノイドの研究は飛躍的に進んだ。カンナビノイド受容体は脳内に広く分布しており(海馬、大脳皮質、大脳基底核、小脳で最も密度が高い)、それ故、その作用は様々な現象を引き起こす。これまでに分かっている内因性カンナビノイド脳内システム(ECB)の作用としては、

脳や脊髄における神経新生や再生、
神経細胞の分化、
脳の成熟や発達への関与、
シナプスの可塑性、
抗不安作用、
抗けいれん作用、
食欲への影響(食欲増進)、
学習や記憶や認知機能への影響、
感覚系への影響(痛覚の調節、強力な鎮痛作用など)、
感情の状態の制御に関与、
脳の老化現象への関与、
脳内報酬系への影響(意欲増進、多幸感や満足感を生じさせる、ドーパミン神経系の調整など)、
セロトニンとノルアドレナリンの神経伝達の増進、
神経細胞のストレスの減少(ストレス回収システム、HPA系の活動を抑制)、
神経細胞の恒常性のバランスの維持、
運動機能への作用、
免疫調整作用(抗神経炎症作用など)、
神経保護作用、
細胞内ミトコンドリアのエネルギー産生への影響(正のエネルギーバランスを維持)、

など多岐にわたっている。その強力な鎮痛作用は、難治性の疼痛性疾患や末期癌などの身体疾患の疼痛治療薬として利用されている。化学療法による悪心や嘔吐への治療薬としても使用されている。さらに、精神疾患にも応用され始めている。海馬にはCB1Rが高密度に分布し、CB1Rの活性化によって嫌悪記憶が消去される。その作用は既にPTSDの治療に応用され始めている。うつ病ではECBのレベルが低下しており、うつ病で自殺したケースでは前頭前皮質でのCB1Rのアップレギュレーションが観察された。このためうつ病とECBとの関連性や、うつ病への治療薬としての可能性が調べられている。

大麻樹脂から抽出された成分は既にサティベックスなどとして製品化されている。サティベックスはテトラハイドロカンナビノール(THC)とカンナビダイオール(CBD)などが含まれており、CBDは主成分の40%を占める(=サティベックスは純粋なCBD製剤ではない。不純物が多く混じっている)。CBDは2007年頃にカンナビノイドとして同定された。CBDは安全な物質であると思われており、抗精神病作用を有する。CBDはTHCの精神病誘発作用にも拮抗する。精神疾患の治療薬としても期待がかかっている。アミスルピリドとCBDの比較試験では、アミスルピリドと同等の抗精神病作用を有するという結果も得られている。CBDは、統合失調症、うつ病、不安障害、摂食障害(拒食症)、てんかん、薬物依存、アルコール依存症、強迫性障害などの治療薬として期待されている。

さらにCBDは、パーキンソン病、緑内障、ハンチントン病、ALS、脳卒中、外傷性脳損傷(TBI)、癌(あらゆる癌細胞の増殖抑制。脳腫瘍には既に使用。)、AIDS、自己免疫性ぶどう膜炎、骨粗鬆症、感染症(敗血症など)、肥満・メタボリックシンドローム、心疾患、潰瘍性大腸炎、肝疾患、リウマチ、気管支喘息、などへの効果も期待されている(主な薬理作用は、他の治療薬と併用することによる相乗効果としての作用である)。CBDはあらゆる疾患への効果が期待されているのであった。これはまさに夢の万能薬だと言えよう(↓の図を参考されたし)。
 
(大塚製薬がここでも登場。大塚製薬はアメリカでサティベックスの独占販売権を取得した。大塚製薬が世界一の製薬会社となる日が来るかもやしれない。)

しかしCBDも既に危険性が指摘されている。治療域が狭く、男女差があり、さらに高用量や慢性投与では逆効果となるおそれがあるらしい(高容量となるとカンナビノイド受容体とは別の受容体であるTRPV1受容体にも作用してしまうため、など)。製品化はされたが、治療薬として様々な疾患に応用できるかはまだ不確実なのである。

そして、当然のごとく、次の段階としてカンナビノイド受容体は新しい21世紀の医薬品へのターゲットとなった。カンナビノイド受容体を介する多くの作用からは、カンナビノイド受容体へのアゴニストやアンタゴニストを開発していけば、他の神経伝達物質に作用薬するような薬剤では得られないようなすばらしい効果が期待しうる医薬品(アルツハイマー病、統合失調症、うつ病などの治療薬)になるだろうという発想につながり、カンナビノイド受容体に作用するカンナビノイド化合物が製薬会社や大学の研究室で次々と合成されていったのであった。

以下、次回に続く。

CBD

<転載終了>