In Deepさんのサイトより
https://indeep.jp/mexico-in-chaos-of-most-violent-ever/
<転載開始>
投稿日:

毎日平均97人が殺人で死亡している国で起きていること

前回の「湖の水が突然消滅する」ということをご紹介した以下の記事は、メキシコでの出来事でした。

この記事を書いた翌日、またメキシコに関しての印象的な報道にふれました。

それは、アメリカの「ゼロヘッジ」の記事で、

「メキシコの殺人件数が同国の1ヶ月間として過去最高」を更新

という内容の記事でした。

このメキシコでの殺人事件の要因の多くが、いわゆる麻薬カルテル同士の抗争などによるもので、今に始まったことではないとはいえ、最近はひどい状態なのです。

下は、2000年からのメキシコの1ヶ月での殺人件数の推移です。2012年頃から下降していたのですが、2015年から急増が始まりました。

2000年から2018年までのメキシコの1ヶ月の殺人件数の推移

LA Times

昨年、2017年には、1年間の殺人事件の件数がメキシコが統計を取り始めてから最高となり、そして、この 2018年7月には、たった 1ヶ月の間に、

殺人件数 2599件

となり、過去最高となりました。この数字は 1年間ではなく、「 1ヶ月」でです。

その殺人事件で、犠牲となった人の数は、以下のようになります。

犠牲者数 3017人

組織と組織の争いですので、1度に十数人などが犠牲となることがあるため、発生件数よりも犠牲者の数が多いのです。

ちなみに、この数字を日本と比較しますと、メキシコも人口は 1億2000万人くらいですが、日本で殺人で死亡した方の数は 2015年で 314人です(厚生労働省資料)。

つまり 1ヶ月に約 26人という平均の数値となります。メキシコは、この約 116倍ということになりまして、壮絶な数値といえると思います。

 

メキシコについては、ここ数年いろいろと思うことがあります。

たとえば、私自身の思想の中には、

「人間社会やその集団の心理状態と、自然現象があらわす様態はリンクしている」

ということをやや確信している部分があるのですが、そういうことを大変に思わせてくれる国でもあります。

他にもいろいろと考えるところはあるのですが、まず、そのゼロヘッジの記事をご紹介したいと思います。

ちなみに、この件で大事なことは、彼らメキシコの数々のカルテル組織が、「なぜ殺し合いを続けているか」ということの背景にある

何を最大の市場として、誰を最大の商売相手としているか

ということです。

それは、アメリカに住むアメリカ人です。

以前の記事で、現在のアメリカが深刻なオピオイド(ヘロインなどを含む薬物)の蔓延の渦中にあることを記したことがあります。

メリーランド州など、州によっては、非常事態が宣言されているところもあります(過去記事「《地獄の夏》という名のパラダイムシフトが2017年にやって来るのなら… : アメリカの年金地獄やヘロイン / オピオイド地獄に見る「門」のようなもの」)。

そのアメリカでは、オピオイドの過剰摂取(オーバードーズ)による死亡者が 2015年から激増しておりまして、そのグラフは、先ほどの「メキシコの殺人件数の推移」とまるで同じです。

下のグラフは、米国オハイオ州カイアホガ郡という場所での統計ですが、2015年から、急激に上昇していることがわかります。

オハイオ州カイアホガ郡での2013年から2016年の薬物の過剰摂取での死亡者数

cleveland.com

これについては、昨年の記事、

2015年から加速しているアメリカの「ヘロイン / オピオイド地獄」が人ごとではないと思うのは、私たち日本人もまたあまりにも無知にさせられているから
 In Deep 2017/06/13

で取りあげていますので、ご参考いただければ幸いです。

数ある薬物の中で、オピオイドだけは間違いなく「悪魔の薬物」です。人間を絶対に破滅に導くという意味では、他の追従を許しません。

そのオピオイドが今、

・アメリカでは過剰摂取で人々を死に導き

・メキシコではカルテルの抗争で多数の人の命が奪われている

という惨劇の中心にあります。

この話は、メキシコ国内とだけ関係する話ではないということを前提に、ゼロヘッジの記事をお読みいただければと思います。

ここからです。


Murderous Mexico: July Most Violent Ever As Country Descends Into Chaos
zerohedge.com 2018/08/25

殺人国家化するメキシコ : 7月として最も暴力的な統計の中で、国はカオス化へ向かっている

メキシコ公安省は、今年 7月の殺人事件の発生件数が、同月としては統計開始以来最も高い数字となり、混乱に拍車がかかっていると 8月21日に発表した。

同省によると、7月の殺人事件の発生件数は 2,599件で、これは 1日平均 84件の殺人事件が起きていることを意味する。この殺人事件での犠牲者の数は、合計 3,017人だった。

メキシコ政府が殺人事件に関する統計を取り始めたのは 1990年代後半のことだが、保持されている記録の中で、これは 1ヶ月の殺人事件の件数としては過去最高となる。

前回この記録が更新されたのは、今年 5月で、その際には 2,894件だった。

2018年のメキシコは、最初の 7カ月間に 16,399件の殺人事件が発生した。ロサンゼルスタイムズによれば、これは昨年同期間と比較すると 14%の増加だという。

すでに、昨年 2017年の時点で、メキシコは過去の歴史の中で最も暴力的な年となっていた。昨年 1年間で、 2万 5000件以上の殺人捜査がおこなわれ、殺人による死亡者の数は 3万 1174名だった。

そして、現在のこの統計の傾向が続くのなら、今年 2018年は、昨年に続いて過去最高の殺人件数が記録されることになるだろう。

米テキサス州にある民間シンクタンク「ストラトフォー(Stratfor)」のメキシコ担当のアナリストであるスコット・スチュワート(Scott Stewart)氏は、ロサンゼルスタイムズに、メキシコの問題点について話した。

彼は、メキシコ政府は、麻薬カルテルをばらばらに解体すること以外に、この問題に対しての選択肢はないと述べた。

メキシコ当局は、カルテルに対し「中心人物を狙う戦略(kingpin strategy)」をおこなっているが、そのように、ボスや中心人物を殺したり、あるいは逮捕したりというような戦略がメキシコに不安定な影響を与えていることは間違いないという。

そうではなく、カルテルそのものを解体するしかないと。

スチュワート氏によれば、数年前まで非常に支配的だった大きな麻薬カルテルがあったが、それは今ほど暴力的ではなかったという。しかし、現在は、カルテル同士の軋轢や摩擦が非常に大きく、全体的な暴力の拡大につながっている。

メキシコ大統領のエンリケ・ペーニャ・ニエト(Enrique Peña Nieto)氏は、最近、カルテル組織を壊滅するための政府の戦略が失敗したことを認めた。

大統領は、記者会見で、次のメキシコ大統領に決まっているアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏に対して、「改善はしたものの、カルテルを壊滅するという大きな目標を達成するには不十分だった」と述べた。

ロサンゼルスタイムズによると、過去 5年間のメキシコの暴力の増加は、先月のメキシコ大統領選挙でのオブラドール氏の勝利に重要な役割を担ったという。

オブラドール氏は、麻薬カルテルと戦うための計画を策定した。しかし、これにより、さらなる暴力の連鎖が起きる可能性もある。

以下は、ロサンゼルスタイムズからの引用だ。

ロペス・オブラドール氏は、メキシコに平和をもたらすためには、「いかなる選択肢も排除しない」と述べている。根本的なアプローチを上げる中には、オブラドール氏はマリファナの合法化と薬物犯罪者のための恩赦を検討しているという。もし、それらが実行されれば、劇的な移行を迎えるだろう。

彼はメキシコの暴力に対する、より包括的なアプローチを求めている。それには、連邦政府の奨学金を学生に与えたり、貧困な若者がカルテルに入らなくなるような雇用プログラムを作ることが含まれる。

元大統領裁判官であるオブラドール氏の秘書オルガ・サンチェス・コデロ氏は、麻薬の栽培者や、末端の使用者、そして輸送業者への恩赦は、社会に再統合するための大きな努力の一部となるだろうと述べた。

カルテルが雇用しているメキシコ人は 60万人にのぼる。

オブラドール氏の顧問は、犠牲者のグループからの赦免とその他の計画についての情報を得るために、複数の都市での聴聞に参加している。

しかし今のところ、メキシコの現在の戦略はそのまま維持されている。先週、メキシコ政府のメンバーは米国シカゴでの記者会見で、アメリカ麻薬取締局(DEA)の職員と並んで登場した。

彼らは「ネメシオ・オセグエラ・セルバンテス(Nemesio Oseguera Cervantes)」というカルテルを逮捕することに全力を注いでいると述べた。

このカルテルは、新しい世代のメキシコのカルテルとされ、「エル・メンチョ(El Mencho)」という通り名で知られる。

しかし、結局は、アメリカ人たちのオピオイドとオピオイド系のドラッグの渇望が続く限り、メキシコは、アメリカへの貿易ルートの支配権を獲得するために、カルテル同士が争う状態は続くのだ。

メキシコ政府がカルテルを壊滅しようとする試みがうまくいっていないのなら、新たなアプローチを試みてみるのはどうか。それは、アメリカ国内でのオピオイドの需要を抑えることだ。

そこから始めるべきだ。


 
ここまでです。

ところで、このことから、過去記事で思い出したものがありました。

記事の日付を見ましたら 2010年ですので、今から 8年前の記事ですが、中東カタールの通信社アルジャジーラの女性記者が「メキシコのカルテルのヒットマンにインタビューを試みた」という記事を翻訳したものでした。下の記事です。

アルジャジーラの記者がメキシコのヒットマンにインタビューを敢行
 In Deep 2010/11/25

それを訳していて知ったのは、殺人という普通ならやや重大な事象に対して、もはや彼らがあまりの無感覚に陥っていることや、そもそも、メキシコでは人の命そのものがあまりにも安くなっていることでした。

メキシコ政府は、これまでも主要な政策として、カルテルの壊滅を掲げてきましたが、グラフが示している通り、「政府が対策を立てれば立てるほど、状況はさらに悪化していく」というのが現況です。

これからメキシコが良くなっていくという想像力が出てこないのが現実であることは否定しようがありません。


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