特集ワイド:被災地には後回し!?復興予算にシロアリの群れ 「官僚、いけいけドンドン」武器や核融合研究まで

毎日新聞 2012年09月13日 東京夕刊

雑草に覆われた更地が広がっている南三陸町志津川地区。右手前は防災対策庁舎。震災発生から1年半が経過しても被災地の復興は進んでいない=宮城県南三陸町で2012年9月6日、本社ヘリから丸山博撮影
雑草に覆われた更地が広がっている南三陸町志津川地区。右手前は防災対策庁舎。震災発生から1年半が経過しても被災地の復興は進んでいない=宮城県南三陸町で2012年9月6日、本社ヘリから丸山博撮影


 東日本大震災の被災地復興が進まない。多額の復興予算がつぎ込まれているはずなのに、なぜ? 支援を待ちわびる被災地からは「予算にシロアリがたかっている。復興に関係ない事業に使われている」との実に厳しい批判が聞こえてくる。【瀬尾忠義】

 12年度、復興費などを管理する復興特別会計(復興特会)では、復興増税や復興債の発行などで3兆7754億円の予算が確保された。13年度予算は今が策定作業の真っ最中。各省が7日に提出した概算要求では、復興特会は4兆4794億円。12年度当初予算比で18・6%増に上る。

 だが「港の復興は進んでいないし、津波に襲われたJR仙石線の野蒜(のびる)駅は3・11から放置されたまま。復活を目指す中小企業への支援も進まない。復興特会にシロアリの集団が群がって、被災地以外に予算が使われているからだ」。

 怒りをあらわにするのは、宮城2区選出の斎藤恭紀衆院議員(新党きづな)だ。「国民は原発に苦しめられているのに、なんで復興予算が高速増殖原型炉『もんじゅ』(福井県敦賀市)に回るのか」

 斎藤氏が「怪しい予算」と指摘するのは、文部科学省が所管する独立行政法人・日本原子力研究開発機構の運営費や設備費などに計上された計約107億円。同機構は「もんじゅ」を運営している。

 文科省の研究開発戦略官付の担当者は「除染などの研究開発などに約65億円、青森県と茨城県に核融合に関する国際的な研究開発拠点を構築するために42億円を使います。地元大学などと連携して核融合に必要な基礎的な研究を行い、成果を蓄積すれば被災地の復興、発展の原動力になる」と説明する。除染の研究はともかく、核融合の研究開発拠点がどう復興に役立つのか。斎藤氏は「国民は納得しない」と怒るが、文科省は13年度予算でも引き続き復興特会で48億円を要求している。

 外務省所管の独立行政法人・国際交流基金の運営費1億1900万円もよく分からない。被災地の芸術家らによる海外公演などを行う予算で、同省文化交流・海外広報課は「被災地は元気だと海外に発信するとともに、放射能の不安を払拭(ふっしょく)したい。何回も実施して復興の努力を伝えていきたい」と説明する。

 斎藤氏は「復興予算は東日本地域の復興や被災者の生活改善のためにこそ使ってほしい。それ以外の事業が必要なら、各省庁が一般会計で予算要求すればいい」と指摘する。

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 A4判で約190ページにわたる復興特会明細書に目を凝らしてみると、民主党政権が「事業仕分け」でやり玉に挙げた独立行政法人の予算があった。財務省所管の酒類総合研究所(広島県)に、放射性物質が製品に移行するかどうかの研究などに使うとして5700万円の運営費を計上。野田佳彦首相は、党幹事長代理だった09年の総選挙の時、「(税金に群がる天下り法人という)シロアリを退治する」と発言していたが……。

 疑問はまだある。国土交通省の官庁営繕費には、12年度の復興特会で37億円の計上があった。うち14億円は、東京・霞が関の合同庁舎4号館の耐震改修費用に使われるという。13年度予算でも、4号館耐震のため17億5000万円が要求されている。耐震関連工事では、ほかにも厚生労働省所管の独立法人が運営する群馬県内の施設に12年度、5億6000万円が計上された。

 なぜこんなことが可能なのか。それは「震災を教訓として、緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災のための施策」には予算が認められるからだ。「全国防災」と呼ばれ、被災地以外の道路整備や公共施設耐震工事などに使われる。12年度に4827億円が計上され、13年度予算は9412億円とほぼ倍増の要求となった。


 総務省によると、震災で甚大な被害を受け、本庁舎の建て替えが必要なのは13市町あり、ひとつも着工には至っていない。それなのに復興予算で、霞が関では着々と耐震工事を進めているわけだ。

 「善意にたかるシロアリですよ。ジャブジャブな予算で、官僚はいけいけドンドンになっている」。宮城6区選出の小野寺五典衆院議員(自民党)もそう批判する。「復興予算で武器や弾薬をそろえたり、外交や耐震化工事を行ったり。国民が知ったら『被災者を支援するために増税に応じたのに、何だ!』と怒りますよ」

 批判された防衛省には、12年度の復興特会で、武器車両等整備費669億円、航空機整備費99億円の予算が付いた。同省は「津波で被災した弾薬、ヘリコプターの復旧などに使う。復興特会の予算ではおかしいという批判がありますが、認識の差です」と話す。

 小野寺氏はこう語る。「被災地から住民が流出すれば被災地復興に投じる予算は減る。政府や財務省は復興を遅らせることで住民を減らし、予算を余らせることを考えているのでは」。だけど、財務相は宮城県石巻市を選挙区とする安住淳氏(民主党)。被災地の現状を理解しているとは思うが「消費増税で大変だったのだろう」と小野寺氏。

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 政府は11年度からの5年間で20兆円近い予算を投じる方針だが、13年度予算の要求分を加えると既に約23兆円に達する。「震災復興 欺瞞(ぎまん)の構図」などの著書がある早稲田大政治経済学術院の原田泰教授が疑問を投げ掛ける。「私の試算では復興費は6兆円。自然エネルギーを取り入れたエコタウン造りなども聞こえはいいが、大型公共事業に他ならない。無駄な事業を行わなければ復興増税は必要ない。それよりも被災者の力を信じて直接支援すべきだ。深刻な被災者は50万人として、1人に1000万円を配っても5兆円で済む」と提案する。日本総合研究所の蜂屋勝弘主任研究員は「復興計画を見直して、必要ない事業は中止し、余った予算は復興債返済などに充てるべきだ」と話す。

 復興特会の使途について平野達男復興担当相に7日、閣議後の記者会見で質問した。復興相は「私の立場では、予算は被災地優先でと言っていく。(各省庁が要求した)全国防災は厳選してやっていただきたいと財務省に伝えていく」と答えた。

 国会が閉会し、永田町の関心事は与野党の党首選や総選挙。国会のチェックが利かず官僚は自由に予算を差配できそう。小野寺氏は提案する。「今や復興特会の事業仕分けが必要なんです」

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