レシーブ二郎の音楽日記

レシーブ二郎の音楽ブログにようこそ。マイペースでぼつぼつ更新していきます。

John Hiatt / The Eclipse Sessions

hiatteclipseジョン・ハイアットは、ルーツに根ざした良質な音楽を40年以上つくり続けてきました。彼のスタイルは一貫しており、シンプルな編成、シンプルなメロディで心に突き刺さる多くの曲を書いてきました。彼の作品には沁みるバラードから、パワフルで骨太なロックまで、さまざまな楽曲がありますが、近年「パワフル」なものがやや少なくなり、アクースティックなものが増えてきたのは、年齢とも呼応しているのでしょうか。

そんなジョン・ハイアットのニュー・アルバムは「地球ジャケ」です。彼のアルバムにはとってもセンスのいいものがある一方で、なんでこんなジャケなのか意味不明のものもあります。そもそも、彼のファースト・アルバム『Hangin' Around the Observatory』にも、「地球」が表現されています。こちらはおそらく月に天文台があって、そのバックに地球が見えているいうものでしたが、今作では地球のモノクロ写真がジャケットの中央に大写しされています。アルバム・タイトルの「ECLIPSE」というのは、IBMが開発したコンピューターの「統合開発環境」を示す言葉のようですが、そもそも日蝕とかの「蝕」の意味だそうです。もちろん、われわれは地球が「欠ける」のを目にすることはできませんが、「天体つながり」でこんなジャケットになったのかな、と思います。

さて、このアルバムですが、今までと大きく違う点は、ブルーズ・ピアニストのケヴィン・マッケンドリーがプロデュースを担当し、ほぼ全曲に鍵盤が入っている点です。彼のピアノ、エレピ、オルガンはけしてでしゃばることなく、隠し味となってハイアットの楽曲に彩りを添えています。そして、ケヴィンの息子でマルチ・プレイヤーのイェイツ・マッケンドリーが多くの曲でギターを弾いています。これがまた、なかなかに「泣ける」ギターなのです。今回のアルバムへのマッケンドリー親子の貢献はかなり大きなものがあります。

アルバムは、シャッフルのリズムのカントリー調「Cry To Me」で幕を開けます。こんなリラックスした感じの曲でスタートするハイアットのアルバムはずいぶん久しぶりのような気がします。若干しわがれた彼の歌声もいつもと変わらぬ味わいです。2曲「All The Way To The River」は、マイナー・キーのいつものハイアット節。この曲にもイェイツは参加していますが、リード・ギターのクレジットはハイアット。なかなかシャープなプレイを聴かせてくれます。3曲目「Aces Up Your Sleeve」は近年目だつようになってきた、シンプルなメロディの繰り返しを主体とするナンバー。自身のアコギとオルガンがぴったりと歌に寄り添います。実にいいラブ・ソングです。

4曲目「Poor Imitation of God」は、アコギとエレピがサウンドの肝をつくっているロックン・ロール・ナンバー。イェイツのエレキ・ギターも大活躍します。これも昔ながらのハイアット節。ロックン・ロールの源流を感じさせるプレイですね。曲のタイトルから新興宗教の教祖がテーマかと思ったら、どうやらラブ・ソングのようです。続く「Nothing In My Heart」もシンプルな繰り返しのメロディをもつ心に沁みるナンバー。実に悲しい愛の歌ですね。

6曲目「Over the Hill」は再びマイナー・キーのロック。エレピやイェイツのリード・ギターがいい味を出していますが、力で押して行くアレンジではなく、静かなる「闘志」のようなものを感じさせる抑制の効いたサウンドです。7曲目はビートの効いたナンバーが続きます。「Outrunning My Soul」です。この曲ではエレキもアコギもハイアットが多重録音していますが、そうは感じさせない臨場感にあふれるプレイです。ソロは珍しくエレピでケヴィン・マッケンドリーの凄腕が片鱗をのぞかせます。

8曲目は再びアクースティクなナンバーです。「涙を隠せ」という骨っぽいメッセージをもった曲ですが、「友達には涙を見せてもいいんだよ」というあたりが、いかにもハイアットらしいと感じます。9曲目は、最近時折見られるカントリー・ブルーズ調。他の曲ではエレキを弾いているイェイツも、この曲ではアコギで達者なスライドを弾いています。そのかわりこの曲には鍵盤はなし。親父のケヴィンはプロデュースに専念しています。実に心地よいナンバーです。

10曲目「One Stiff Breeze」は、ちょっと激しい感じで始まるロック・ナンバー。イェイツもいい感じのギターを弾いています。この曲調も昔ながらのハイアットらしさがにじみ出ていますね。曲の終盤で静かになり、肝心のメッセージが登場するあたり、にくい演出ですね。ラスト・ナンバーは、やはりシンプルなメロディと、ハイアットのアコギ主体のナンバー。自身でエレキも上手くダビングしてゆったりとしたサウンドを生み出しています。曲はお尋ね者となった男の孤独を描いているようですが、カントリー特有のアウト・ローものの系譜に連なる作品といってよいでしょう。

リズム隊は長年のパートナーであるドラムのケネス・ブレヴィンズと、ベースのパトリック・オヘーンのコンビ。今回もこの二人のどっしりとしたプレイに支えられ、ハイアットやマッケンドリー親子が素晴らしい演奏を繰り広げています。とは言っても、いたってシンプルなものばかりで、これみよがしのプレイはありません。それこそが、飽きのこない「良さ」を演出する職人技です。それが証拠に、この文章を書くために繰り返し聴くうち、すっかりこのアルバムの虜になってしまいました。今回も聴けば聴くほど味がでるスルメ・アルバムです。全11曲、40分強という昔のLPサイズの長さも申し分ないです。

それにしても、去年から今年にかけて、たくさんの大好きなミュージシャンがアルバムを出してくれています。ランディ・ニューマン、ジャクソン・ブラウン、タジモ(タジ・マハール&ケヴ・モ)、ライ・クーダー、ドニー・フリッツ、ジョン・クリアリー、リチャード・トンプソン、ジョン・ハイアット、ヴァン・モリソンに至っては2年で4枚。その多くは60代後半から70代前半。引退してもいい年齢なのに、みんななかなかの充実作を聴かせてくれています。ありがたいことです。

Richard Thompson / 13 Rivers

rt13riversリチャード・トンプソンの新作が秀逸です。前回レビューしたトニー・ジョーのアルバムなどは、年齢なりに力のぬけた、よい意味での「ルーズさ」も魅力でした。一方こちらのリチャードさん御年69歳ですが、若い頃と変わらない緻密な音づくり。前作同様完成度の高い一枚となっています。前作はウィルコのジェフ・トゥイーディ、前前作はバディ・ミラーにプロデュースをまかせていましたが、今作では再びリチャードのセルフ・プロデュースに戻っています。彼をバックアップするのは、このところ不動のメンバーであるドラムのマイケル・ジェローム、ベースのタラス・プロドニュークの二人。ギターでボビー・アイコムも参加しています。

このアルバムタイトルは、収録曲1作1作を1本の川にたとえたもの。全13曲収録なので「13 Rivers」というわけですが、川も曲も「流れていく」もの。この新作は、その「流れ」に身をまかせると、得も言われぬ心地よさを感じることができます。

前半はマイナー・キーのナンバーが続きます。「The Storm Won't Come」は控えめなジャングル・ビート。それに乗せたギター・ソロはまさに嵐の来る前の不気味さをあらわしているかのようです。2曲目はドラムからスタート。このあたりは大好きな『Amnesia』の頃を思い出させるタイトな演奏です。前半でとっても気に入っているのは6曲目「Trying」。歌に呼応するトレモロの効いたギター・フレーズがスリリング。メジャー・キーとなるサビもとってもいい感じです。

後半7曲目からは逆にメジャー・キーの曲が増えます。「Trying」などにも女声コーラスが入っていましたが、後半はコーラス入りの曲が多く、「リチャード&リンダ時代」を彷彿とさせるナンバーが並びます。特に「Do All These Tears Belong to You」などは、あの時代の「雰囲気」が素敵。アップテンポの「You Can't Reach Me」などは、聴いていてワクワクさせられます。マンドリンがいい味を出し、トラッド風味を感じさせる曲もいくつかあります。「No Matter」はそんな1曲。この曲でのコーラスも素晴らしいです。

オリジナル・アルバムとしては3年ぶりですが、間に過去の曲をアコギ1本で演奏した「Acoustic Classics」シリーズが2枚出ていたり、過去の映像作品がリリースされたりして、あんまり待たされた感はありません。全編エレクトリックですが、抑制の効いた「My Rock, My Rope」、「Shaking The Gates」なども収録されていて、リチャードのいろいろな「よい面」が凝縮された1枚となっています。

全曲オリジナル。納得いく新曲がたまったら、スタジオに入り、気心の知れたメンバーと、きっちりしたアルバムをつくる…。リチャードはソロになってから、そんなスタンスで約40年近くを過ごしています。まさに妥協を許さない高度な職人技の世界です。リチャード、マイケル、タラスの3人によるライブは、3年前、ビルボード・ライブ大阪で見ましたが、本当に素晴らしい演奏でした。ぜひ、この新作のプロモーションでの来日をぜひ望みたいものです。

Tony Joe White / Bad Mouthin'

tonyjoebadトニー・ジョー・ホワイトが天に召されてしまいました。享年75歳。残念です。彼のライブは一度も見ることができませんでした。残念です。彼はルイジアナの生まれ。まさにワニの住む「スワンプ」地帯の生まれで、1960年代から、後に「スワンプ・ロック」と呼ばれるアーシーな音楽をやっていました。ブルック・ベントンが歌ってヒットした「Rainy Night In Georgia」やエルヴィスが歌った「Polk Salad Annie」もこの頃生み出されたものです。

ディレイニー&ボニーがエレクトラからアトランティックへと移籍したのが1970年。彼らがやっていたのは、まさにR&Bだったわけですが、アトランティックの重鎮ジェリー・ウェクスラー達は、白人の彼らが演奏するロック寄りのR&Bを「スワンプ・ロック」と呼ぶことを提唱したようです。そして、レオン・ラッセル、ジェシ・エド・デイヴィス、マーク・ベノ、リタ・クーリッジ、ドン・ニックスといった面々が「スワンプ・ロック」として売り出されるとともに、ジョージ・ハリソン、エリック・クラプトン、デイヴ・メイスン、ジョー・コッカーといった名だたるイギリスのロッカー達もこうしたサウンドを取り入れ、一時代を築きました。こうした中、真にスワンプ地帯の出身であったのは、トニー・ジョー・ホワイトぐらいだと思います。上記のアメリカのミュージシャン達は、オクラホマ、テキサス、テネシーなど南部出身者が多いけれども、レコーディングなど活動の中心は音楽の都、ロサンゼルスだったため、L.A.スワンプと呼ばれたりもします。トニー・ジョーは、まさに彼らの先達とも言える存在でした。

自分が彼の音楽に出会ったのは、大学生の頃です。彼の70年頃のライブ盤がたしかヨーロッパ盤で発売になって買って聴いてみたのですが、最初はその良さがすぐには理解できなかったのです。しかし、聴きこんでいくにつれてじわじわと彼の音楽の素晴らしさが沁みてきました。なんといってもお気に入りはワーナー時代の『The Train I'm On』です。このあたりは、ずっと以前のブログにも書いていましたね。

さて、先月リリースされたばかりの本作。自身のルーツとなったブルーズを追求しています。全12曲のうち5曲がガット・ギターの弾き語り。残り7曲では自身にエレキ・ギターにドラムとベースが入るいたってシンプルなものです。しかし、年輪を感じさせるコクのある一枚。少し前に届いて聴き込んでいる最中に届いた訃報でした。なんでも心臓発作で亡くなったとか。本人はこれが遺作になるとは思っていなかったでしょう。このアルバムで、彼はライトニン・ホプキンス、チャーリー・パットン、ビッグ・ジョー・ウィリアムズ、ジョン・リー・フッカー、ジミー・リードをカバーしています。また、自作曲の中にも、かなりブルージーなものがあります。それから、タイトル・トラックと「Sundown Blues」はキャリアの初期に書かれた未発表曲だとか。ジョン・リーの「Boom Boom」は、初期のアルバムでも取り上げているし、自身もライブでもよくカバーしていましたが、今回もバンドで再演しています。

確かに今作はブルーズ・アルバムだけれども、今までのアルバムと肌触りはほとんど変わりません。それだけ、彼の演奏スタイルにはブルーズの要素が詰め込まれているということでしょう。近年はかつてのようにワウ・ギターを多用することはなくなってきたけれど、彼のギターさばきは、今作でも超一流です。

低くくぐもった声、冴えわたるギターとハーモニカ。男臭さがただよう彼のパフォーマンスは万人受けするものではないかも知れません。しかし、彼のファンキーなサウンドからは、確かに南部音楽の神髄が聴こえてきます。

アルバムのラスト。プレスリーの「Heartbreak Hotel」をギター1本の弾き語りで締めくくります。その演奏は完全にブルーズになっています。彼の「Polk Salad Annie」を取り上げた傑出したパフォーマーの作品が、彼の生涯最後のアルバムのラスト・ナンバーとなりました。彼のメッセージは、「ロックンロールなんて、ほとんどブルーズから出来てるんだよ。忘れなさんなよ。」と言っているかのようです。

Van Morrison And Joey Defrancesco / You're Driving Me Crazy

vanjoeyヴァン・モリソン さん、今年73歳ですが、ここ2年ほどの間に4枚もアルバムを出しています。今年も1枚アルバムを発表済みですが、年末にはさらに1枚のリリースが予定されています。すごいバイタリティですね。2015年の『Duets』の前は少しインターバルがありましたが、最近はライブ、スタジオともかなり精力的に活動しているのは喜ばしいところ。ヴァン・モリソンといえば、ブルーズ、R&B、ジャズなどの音楽をベースに独自の世界をつくってきた人ですが、90年代後半頃から、ジャズだったり、カントリーだったり、スキッフルだったり、自身のルーツを掘り下げるようなアルバムを時折発表して来ました。2017年の『Roll with the Punches』はブルーズ、同じ年に出た『Versatile』はジャズに寄ったアルバムでした。今年4月にリリースされたこのアルバムも『Versatile』につづいてジャズに寄ったアルバムとなっています。

今作は、ヴァンのソロ作として聴いても何の違和感もないのですが、ジャケットに大書きされているとおり、ジャズ・オルガニストのジョーイ・デフランセスコとの共演盤となっています。自分はジャズ・オルガンけっこう好きなのですが、60〜70年代に活躍したプレイヤーばかり聴いていて、1989年に17歳でデビューしたという彼についてはノーチェックでした。彼はペンシルベニア出身のアメリカ白人で、父上もオルガニストのパパ・ジョン・デフランセスコ。トランペットも達者にこなします。10代でマイルズ・デイヴィスのアルバムに参加。ジャック・マクダフ、ヒューストン・パーソン、ジョン・マクラフリン、パット・マルティーノ、ラリー・コリエル、デヴィッド・サンボーン、ボビー・ハッチャーソン、スティーヴ・ガッドといった名だたるジャズ・ミュージシャン達とレコーディングやステージを共にしてきた猛者です。

このアルバムでのヴァンとジョーイの相性はばっちりです。もちろん前衛的な演奏は一切なく、基本4ビート中心。ジョーイは1950〜60年代のスタイルでヴァンの演奏を盛り上げます。彼が大きな影響を受けたであろう、ジミー・スミス、ジャック・マグダフ、ロニー・スミス達のスタイルを踏襲した演奏で、速弾きなんかもとっても気持ちよいです。ヴァン・モリソン のホワイト・ソウルも、ジャズ・オルガンも大好きな自分のようなリスナーにとってはまさに至福の一枚と言えます。

冒頭の曲はリチャード・マニュエルもレパートリーにしていたコール・ポーターの「Miss Otis Regrets」。こういう渋いナンバーで幕を開けるなんて、いかにもヴァンらしいですね。この曲ではジョーイが、達者なトランペットも聴かせてくれます。ジョーイのペットが聴けるのは、他に「Magic Time」と「Travellin' Light」がありますが、ペットもオルガンも超一流。大半の曲では、オルガン、サックス、ギターがソロを回すジャズ・マナー。やはりオルガン・ソロがやや長尺。ベーシストは参加せず全曲ジョーイのオルガン・ベースです。「Sticks And Stones」でジョーイは、達者なエレピの腕前も披露、曲によってはヴァンのアルト・サックスも登場します。タイトル・トラックや、「Hold It Right There」、「Everyday I have the Blues」などジャズやブルーズ・ナンバーが7曲、ヴァンの過去のナンバーが8曲で、こうしたジャジーな演奏にぴったりの曲が選ばれています。特に「The Way Young Lovers Do」は、ヴァン初期の名作『Astral Weeks』収録のハチロクのナンバーですが、今回のアレンジもとってもスリリング。ラスト・ナンバーの「Celtic Swing」はインストに料理され、冒頭でヴァンのアルトがテーマを奏でます。

こんな演奏を、ジャズ・クラブなどでウィスキー片手に聴けたら最高だと思います。1945年生まれのヴァンが音楽に目覚めたのは、おそらくエルヴィスをはじめとするロックンロールが席巻していた頃だとは思うのですが、1950年代は、まだまだジャズやジャンプ・ブルーズなどが大衆の近くにありました。ヴァンは、音楽好きの父の影響を受け、レイ・チャールズ、マヘリア・ジャクソン、マディ・ウォーターズ、チャーリー・パーカーといったブラック・ミュージックから、ウッディ・ガスリーやハンク・ウィリアムズなどのフォークやカントリーまでさまざまな音楽を吸収して育ちました。

思えば、ヴァンがワーナーから最初に出したアルバム『Astral Weeks』も、かなりジャズに寄ったアルバムだし、過去のアルバムを聴いても、ジャズの持つ『粋』というものを、彼なりのロックやソウルやブルーズに、いつも投影し、彼独自のスタイルを築き上げてきたような気がするのです。今作や前作のような、オーソドックスなスタイルのジャズ・アルバムにあっても、彼のワン&オンリーの歌声がごく自然に演奏に溶け込んでいるのは、スキッフルの時代から、彼はこうした音楽にあこがれ、浴びるほど聴いて、ゼムを結成する以前、モナークスの時代などに最も親しんでいたからでしょう。まさに原点回帰。ジョーイ・デフランセスコという年下の強力なパートナーとともに作り上げた充実の一枚です。

Chaeles Lloyd & The Marvels + Lucinda Williams / Vanished Gardens

marvelsチャールズ・ロイドという名前を聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのは、チャールズ・チャップリンと、ハロルド・ロイドの二人の名前でした。まさに、この二人が活躍した時代、無声映画からトーキーへと転換され、二人の人気にやや陰りがみえはじめた頃、チャールズ・ロイドは音楽の都、テネシー州メンフィスで生を受けました。メンフィスを中心に活躍したエルヴィス・プレスリーの3歳年下で現在80歳、なんとモンゴル人の血もひいているようです。

このチャールズさん、10代の頃から地元でB.B.キングや、ボビー・ブランドのバンドでアルト・サックスを吹いていたというのだから、なかなかの猛者です。南カリフォルニア大学で学び教職に就くものの、今度はジャズのオーネット・コールマンやエリック・ドルフィーと知り合い、ジャズに目覚めてテナーに転向し、プロ・ミュージシャンとなります。まず、チコ・ハミルトンのバンドに加入し、続いてキャノンボール・アダレイのバンドにも入っていました。1966年、キース・ジャレットやジャック・デジョネットの参加した初リーダー・アルバム『Forest Flower』が話題となりますが、やがて超瞑想法に傾倒し、70年代には、サンフランシスコ近郊の海沿いの山中にあるビッグ・サーに籠り、隠遁生活をはじめます。80年代には音楽業界に一時復帰しますが、再び隠遁生活に戻り、90年代末頃から積極的な音楽活動を再開している模様です。

そんなチャールズさん、数年前にマーヴェルズというバンドを結成しているのですが、そのメンバーがすごいです。ギターにビル・フリゼール、ペダル・スティールにグレッグ・リース、ベースにリューベン・ロジャース、ドラムにエリック・ハーランドという編成。リズム隊の二人はジャズ畑の人で今まで名だたるプレイヤー達とツアーやレコーディングの経験がある40代のアフリカン・アメリカンです。デビュー作となる前作では、ウィリー・ネルソンとノラ・ジョーンズが各1曲ゲストで歌っていましたが、今回はルシンダ・ウィリアムズがゲスト参加しています。

今回、ルシンダの名前につられてチャールズ・ロイドをはじめて聴きましたが、とってもいいですね。ここ数年、ジャズもけっこういろいろ聴くようになりましたが、この人はノーチェックでした。前作が出た頃は、ピーター・バラカンさんの番組でもよくかかっていたと思うのですが…。さて、このアルバムですが、名手グレッグ・リースがペダル・スティールやドブロを弾いており、ビル・フリゼールとともにアーシーな南部の香りを漂わせてくれます。そもそもチャールズさんも、もともとはメンフィスでR&Bを吹いていたわけですから、こういうサウンドにはとてもマッチした、いい感じのフレーズに加えて、フリーキーなジャズっぽいプレイも聴くことができるのです。

ルシンダは全10曲中半数の5曲で歌っており、2・4・6・8・10と偶数に配置された曲で彼女の歌声を聴くことができます。その他の5曲はもちろんインストです。インストは美しいバラードから前衛的なものまでさまざまですが、ノイズ系や激しいものはありません。ルシンダが歌う曲は、4曲が彼女のオリジナル、ラストの「Angel」はジミ・ヘンドリックスのカバーです。ルシンダの曲4曲のうち3曲は過去のアルバムで発表済のものですが、「We've Come Too Far To Turn Around」は昨年頃からライブで歌っていた曲のようで、オフィシャルなレコーディングはこの盤がはじめてです。ルシンダも自身のアルバムと変わらずカントリー・フレーバー漂う歌唱を聴かせており、ジャズとかは何も意識していないようです。そもそも、ロック、カントリー、ブルーズ、ゴスペル、ジャズとかのジャンル分けが無意味な、これらの要素が渾然一体となったルーツ指向の素敵なアルバムがこの一枚ということができるでしょう。

インスト・ナンバーのうち「Defiant」と「Ballad of the Sad Young Man」は、美しいメロディーのバラード。「Blues For Langston And LaRue」はチャールズのフルートが印象的な、いかにも60年代のジャズという感じのナンバー。タイトル・トラック「Vanished Gardens」と「Monk's Mood」は、フリー・ジャズの香りが漂う前衛的な演奏が魅力。後者は言わずと知れたセロニアス・モンクのナンバーで、チャールズとビル二人だけの演奏です。

ルシンダの歌はどの曲も彼女の存在感が大きいのですが、「Dust」と「Unsuffer Me」は後半インプロで盛り上がっていきます。「We've Come Too Far To Turn Around」は、近年お得意のえんえんと同じメロディが繰り返されるワルツですが、後半の高揚感がたまりません。「Ventura」と「Angel」は、どちらもバラードで、完成度が高いです。後者はルシンダ、チャールズ、ビルの3人だけの演奏ですが、3人とは思えない音の厚みがあります。

そもそも、ビルとグレッグはルシンダの2016年作『The Ghosts of Highway 20』に二人とも参加しているし、ビルは他に2007年の『West』、グレッグは昨年の『Sweet Old World』の再録音盤にも参加していて気心が知れているのだと思います。2017年4月にはチャールズ・ロイド&ザ・マーヴェルズのカリフォルニアでのコンサートにルシンダが出演したことをきっかけに、このアルバムがつくられることになったようです。

今、数日前に届いた『ロビー・ロバートソン自伝』を面白く読んでいるところなのですが、ホークスがロニー・ホーキンスと袂を分かった直後、リヴォン・ヘルムとロビーがキャノンボール・アダレイのバンドを見に行った時、サックスとフルート奏者として参加していたチャールズ・ロイドと邂逅するシーンが出てきます。ちょっとした偶然に少しばかり気持ちが高ぶったのでした。

Ry Cooder / Blue City

bluecityライ・クーダーは1986年に2枚のサントラをリリースしています。いずれもウォルター・ヒルのがらみ。その前年には、サントラは切られなかったものの、やはりウォルター・ヒルの『Breuster's Millions』のサントラを手がけているし、さらにその前年がヴィム・ベンダースの『Paris, Texas』と、まさに映画音楽家として売れっ子だった時代です。個人的には学生時代で、このサントラもリアルタイムで聴きましたが映画を見たのはずっと後、レンタル・ビデオを借りてのことでした。さて、この『Blue City』ですが、ウォルター・ヒルとウィリアム・ヘイワードが制作、女流のミッシェル・マニングが監督したロス・マクドナルド原作のサスペンス作品。主演はジャド・ネルソンとアリー・シーディです。

サントラには11曲が収録されていますが、もちろん映画には、ここに収録されなかったナンバーも使われています。しかし、たいていは3〜4曲を元曲として、シーンに応じてアレンジを変えて使うというのは映画音楽の常套手段。サントラにも別タイトルで変奏曲が入っていますが、この盤は比較的バラエティに富んだ曲が楽しめます。先に、収録曲を見て行くことにしましょう。1曲目はライが歌う豪快なロック、「Blue City Down」。映画では主人公たちが敵役の賭博クラブをぶっ壊すシーンで使われますが、曲の方はこのころのライの充実度を示すごきげんな演奏です。ドラムはおなじみジム・ケルトナーですが、ベースにネイザン・イーストが入ってリズムを引き締めています。コーラスはボビー・キングとテリー・エヴァンズです。

2曲目は、オープニング・テーマとして使われている「Elevation 13 Ft」。ケルトナーとミゲル・クルーズのパーカッションが叩きだす面白いリズムに乗って、ビル・クオモのシンセがメロディを奏でます。隙間をロバート・グリーニッジのスティール・ドラムやライのエレクトリック・ボトルネックが埋めていきます。キーボードにはジム・ディッキンソン、オルガンにはベンモント・テンチ。ベースはネイザン・イーストと豪華なメンバーによる演奏です。

3曲目はジム・ディッキンソンがプロデュースしたトゥルー・ビリーバーズなるバンドの「Marianne」。映画では主人公のビリーとアニーが会話するシーンで流れるバンド音楽として使われている模様。80年代という時代を感じさせるシンプルなロック・ナンバーです。

4曲目「Nice Bike」バイクは、デュエイン・エディのトゥワンギーなギターを模した低音が魅力のギター・サウンドが心地よいナンバー。この曲も何度も使われるテーマの一つですが、後半、主人公のビリーが町を追放されるとき、警官が「いいバイクだな。」とつぶやき、ビリーがそのバイクで疾走するシーンから曲名がとられてるようです。

5曲目「Greenhouse」は、クライマックス、温室での銃撃戦のシーンで使われるサスペンス映画ならではのオドロオドロしいナンバー。不安な感情とバイオレンスの躍動感が交差します。この曲ではベースはホルヘ・カルデロンに交代していますが、おおむね「Elavation 13 Ft」と同じメンバー。シンセのビル・クオモは参加していません。ライ、ケルトナー、監督のミッシェル・マニングがブンブン回すと風の音がでるプラスティク製のホースで効果音を加えています。さらに、この3人に加えてカルデロンとディッキンソンが加わり、ピアノ線を紐でこすって効果音を出す"Bowed Piano"の手法で、出だしの不穏な効果音を演奏しているようです。

6曲目「Billy And Annie」は、きわめて美しいメロディを持つバラードのテーマ曲。タイトルどおり主人公二人の会話のシーンなどに用いられます。アクースティック・ギターはもちろんライ・クーダー。おそらくOpen Gチューニングで演奏しているんだと思います。ドラムはジム・ケルトナーで、シンセサイザーはデヴィッド・ペイチとスティーブ・ポーカロというTOTOの二人。スティーブはシンセ・ベースを弾いているんでしょうか。それに加え、カービィ・ジョンソンがタクトを振る上品なストリングスも加えられています。

ここからは、かつてのLP時代のB面です。7曲目、ポップス&タイマーの「Tell Me Something Slick」は、なんともご機嫌なノリのいいR&Bナンバー。最初に敵役が経営する賭博クラブが登場するシーンで使われます。ポップス&タイマーとは、ボビー・キングとテリー・エヴァンズのデュオのこと。演奏は「Billy And Annie」のメンバーにベースでネイザン・イーストが加わっています。曲はライとディキンソンの共作です。

8曲目がタイトル・トラックの「Blue City」。フル・バージョンはエンド・タイトルのところで使われています。メンバーは「Billy And Annie」と同じながら、ライは複数のギターをダビングしていますが、特にリアをヴァルコ製のラップ・スティールのピックアッブに交換したクーダーキャスターで、のびのあるボトルネックでふんだんにプレイしています。ヴァースの部分は「Nice Bike」と同じメロディですが、サビに展開していきます。

9曲目はライが歌うジョニー・キャッシュのそっくりさんカバー「Don't Take Your Guns To Town」。この曲もトゥワンギーなギターがいい味を出しています。映画の中では、主人公のビリーが町を追放になったとき、立ち寄った店のBGMでかかっております。しかし、クライマックスの銃撃戦の直前に「町に銃を持って行くな」っていう歌を流すのもいかがなもんでしょう。この曲もベースはカルデロンでシンセは参加していません。

10曲目は「Billy And Annie」と同じメロディを持つ「A Leader of Men」。こちらはロバート・グリーニッジのスティール・ドラムとゲイル・レヴァントのハープ(竪琴)が入っており、ベースはカルデロンが弾いています。最初の方に主人公が市長だった父の墓参りに行くシーンなどで用いられており、その墓石に「A Leader of Men」の文字があります。

ラストナンバーは「Not Even Key West」。この曲は後でわかったのですが、ハワイアンの「Isa Lei」が原曲。後にライはV.M.バットとのアルバムで取り上げていますし、客演したパイヌイ・ブラザーズのアルバムにも入っていました。「Elavation 13 Ft」からシンセのビル・クオモを除いた編成で録音されていてかなり軽快な仕上がりです。映画の中盤、ビリーが「ロウ・バー」という酒場に行くシーンで使われています。

というわけで、『Crossroads』同様、歌ものとインストがバランス良く配され、気持ちよく聴けるサントラに仕上がっています。シンセのサウンドなどは時代を反映したものですが、今聴いてもけして古びた印象が残らないところがライをはじめとする音楽スタッフの素晴らしさでしょう。TOTOのメンバーやネイザン・イーストといった当時の売れっ子達を裏方にして、なかなか聴きごたえのあるサントラとなっています。ただ、今聴くといかにも80年代っていう音づくりが少々鼻につきます。まぁ、これだけの豪華メンバーをそろえ、あわよくばサントラのヒットももくろんでいたのかも知れませんが、映画もサントラも大ヒットにはいたらず、ゴールデン・ラズベリー賞という、あまり名誉でない賞を何部門かでノミネートされてしまったようです。個人的には聴き飽きない盤で、ポップス&タイマーによる「Tell Me Something Slick」の爽快感なんかが出色だと思うのですがね。

さて、ここからがネタばれ満載のあらすじです。もっとも、この映画は国内ではVHSとして販売されていましたが、それも廃盤。DVDやブルーレイは出ていません。米盤はあるようですが、日本では流通していませんし。映画のスジを知りたくない方は、ここまでにしておいてください。



映画は、2曲目「Elevation 13 Ft」とともにはじまります。タイトル、主役、監督などのタイトルが流れ、海沿いの風景が映し出されます。1台のバスが夕暮れを疾走しています。道路標示には「Blue City」の文字。フロリダあたりの架空の地方都市です。ジャド・ネルソン演じるビリーが、バスケットボールを抱えてバスからこの町に降り立ったところから、この物語は始まります。ビリーがバスを降りるとほど近いバーに入ります。バーの中ではテクストーンズが生演奏中です。曲は「You Can Run」ですが、サントラには収められていません。この映画が撮影される1〜2年前、ライはテクストーンズのアルバムにゲスト参加しており、その縁で撮影に呼ばれたのでしょう。ストレート・ヘアーでリード・ヴォーカルをつとめるカーラ・オルソンが印象的です。さて、物語の方は、カウンターに座ったビリーが、いきなり昔の級友ジョニーをなぐりつけ、乱闘シーンに突入です。留置場に入れられたビリーは「親父は市長だ。市長を呼んでくれ。」と刑事に頼むのですが、彼から市長は去年、何者かに撃たれて殺されたことを聞かされるのです。

ビリーは留置場に入れられているときに没収されていた金品を受け取るとき、幼なじみのジョーイ(デヴィッド・カルーソ)の妹、アニー(アリー・シーディ)と再会。彼女が婦人警官になっていることを知ります。彼は保証人がいないと釈放されませんが、かつて市長が目をかけていた警官のレイノルズ(ポール・ウィンフィールド)が署長になっており、ビリーと面会。彼の引受人となりました。署長は、父親の死と、この町のギャングを束ねるペリー・カーチ(スコット・ウィルソン)の間に関係があることをほのめかしますが、証拠はないと言います。5年前ビリーが町を出たのは、父がマルビーナ(アニタ・モリス)という女性と再婚したから。ビリーはマルビーナのよくない噂を知っており、今、カーチとマルビーナが男女の仲であることを知らされます。

ビリーは昔の仲間からバイクを手に入れ、そして、ビリーは庭師につきそわれ、父の墓参りに行きます。ここで流れるのが「A Leader of A Man」。ライによる美しいギター・フレーズにハープとスティール・ドラムが応え哀感を誘います。ビリーはバスケット・ボールを父の墓に供え、墓地を後にします。ビリーはマルビーナが住む自宅を訪れます。彼女はカーチに事業を手伝ってもらっていることをビリーに明かします。ビリーは継母に「あいつと寝てるのか?」とつめよります。

そして海のシーン。ここで再び「A Leader of A Man」と同じメロディをもつ「Billy And Annie」が流れ、ジョーイとの再会のシーンです。ジョーイはカーチ一味に挑んだものの、返り討ちにあい足を折られてしまい、今は観光客相手に釣り船の仕事をしています。ビリーはジョーイに一緒にカーチをやっつけようと誘うのですが、ジョーイは「町は変わってしまったんだ。」と取り合いません。

そこで、ビリーは単身カーチの経営する賭博クラブに乗り込みます。ここで流れている音楽がポップス&タイマーの「Tell Me Something Slick」です。クラブの猥雑な雰囲気にぴったりです。店員は踊子の色仕掛けで、ビリーを籠絡しようとしますが、それに乗らなかったビリーはカーチに会うことができました。カーチは1万ドルの小切手を渡すかわりに町を出ていくようビリーに提案しますが、それを拒んだビリーは用心棒達にいためつけられます。

そして、ビリーはアニーの家を訪れ傷の手当をしてもらいます。アニーはジョーイがすっかりカーチ一味に飼いならされていることをビリーに伝えるのですが、ビリーは再びジョーイを説得に彼の船に向かいます。海のシーンでは「Billy And Annie」の変奏曲が使われます。ビリーはジョーイに「カーチにふぬけにされたな」と挑発、ジョーイはビリーに殴りかかりますが、いままで秘めていた悔しさを爆発させ、ビリーに協力するようになるのです。

「Elevation 13 Ft」のフレーズをライが歪んだエレクトリック・スライドで演奏。ジョーイがカーチの習慣をビリーに教え、ビリーはカーチが車を離れたスキに火炎瓶を彼の車に仕掛けて車を燃やしてしまいます。つづいてマルビーナが買物をしているところにビリーが突然現れ、おどけて彼女のカートに品物をたくさん放りこみながら、車が燃やされたことを告げてカーチを挑発しようとします。次に「Raw Bar」というバーのシーンではBGMに「Not Even Key West」が使われています。このバーからビリーはカーチに電話をかけ、彼を挑発します。ここでビリーはアニーと会い、警察の資料を持ち出すよう頼むのですが、「みつかったらクビになる」と断られます。バーはジョーイの船に近くにあり、ビリーは最近兄と疎遠なアニーにジョーイを訪ねるよう促します。そして次のシーンではアニーがジョーイの船を訪ねるのですが、ここで再び「Billy And Annie」の変奏曲が使われます。

ビリーとジョーイは次の計画を実行します。ジョーイは隠し持っていた拳銃をビリーに渡し、ドッグレースの会場に行きます。ジョーイはカーチの手下だったので、ドックレースの裏をよくしっています。ジョーイがレース会場に生肉を放り込んで会場を撹乱している間に、ビリーはノミ行為で集まった裏金を拳銃強盗で強奪します。このシーンではやはり「Elevation 13 Ft」のフレーズがスライドで演奏されます。このバージョンはサントラに収録されていないのですが、ドラムは控えめにリズムを刻み、ベースラインとスライドがめっぽうかっこいいです。それに、スティール・ドラムがいい感じでフレーズの隙間を埋めていきます。

このあと、ビリーは署長に呼び出されます。署長はドッグレースの騒ぎと首謀者を知っていて警告したのです。警察ではカーチが待っており、ビリーを酒場に誘います。このとき、アルバムに収録されていないライ・クーダーのギター曲が使われています。ノン・スライドのエレキで効果音的に使われています。カーチは今度は5万ドルで彼を買収しようとしますが、ビリーは「俺が欲しいのは金じゃねぇ。親父を殺した犯人を電気イス送りにしたいんだ。」と告げるのです。アニーが船を訪ねてきます。彼女もドッグレースの事件を知っています。彼女は兄を心配しますが、ジョーイはこのままくさってるよりも、カーチ一味の鼻を明かしたいことを妹に告げます。この時「Nice Bike」が少し流れます。ビリーは夜道を一人で戻ろうとするアニーをバイクで送っていきます。このとき「Blue City」のアクースティック・バジョーンが少しだけ使われます。アニーの家で、ビリーとアニーはお互いに惹かれ合い、キスシーンからラブシーンに移行。このとき「「Blue City」のアクースティック変奏曲が使われます。ここでもスティール・ドラムが効果的です。

翌朝、ビリーは新聞記者を装ってマルビーナに電話し、「警察が起訴を決めたそうですが、感想は?」と挑発を続けます。一方、アニーは踊子になってカーチを探ることをビリーに提案しますが、アニーの身を案じるビリーは賛成しません。それでも、その日の夕方警察から捜査資料を持ち帰ります。このとき、二人の会話の背後にラジオから流れてくる音楽はトゥルー・ビリーバーズの「Marianne」のようです。捜査資料を読み込んだビリーは、ビリーの父に抵抗したあとがなく、犯人は顔見知りだという以外得るものはありませんでした。しかし、アニーは本署のコンピューターに登録されているカーチの情報を照会したことをビリーに告げるのです。

ビリーとジョーイは周到に準備し、カーチの賭博クラブを襲撃します。ジョーイが銃で従業員や用心棒を足止めしているあいだに、ビリーが暴れ回り、スロットマシンをたたき壊したり、カジノテーブルをひっくりかえしたりして、店をめちゃめちゃにするのです。しかし、その時その場にカーチはいませんでした。この襲撃シーンで使われる音楽はライ・クーダーが歌う「Blue City Down」。途中からややハネ気味のロックにアレンジされた「Elevation 13 Ft」が使われています。襲撃の直後、署長が船にあらわれ警告します。二人は報復に備えて船を離れ、モーテルに泊まります。バイクの移動シーンで使われるのは、やはり「Nice Bike」。

この時アニーは、カーチを探るために、彼の賭博クラブに踊子として潜入していました。少し後、彼女は、以前ビリーを籠絡しようとした踊子デビーから、お金を払えば市長を殺した犯人の情報を教えると告げられます。桟橋の下でアニーはビリーとジョーイにその情報を教えるとともに、マイアミの本署からの情報で、カーチとマルビーナはずっと昔に結婚しており、籍は抜けていないことを知らされます。さて、デビーとモーテルで会うことになります。しかし、それは罠でした。デビーのいるモーテルにカーチの一味が銃を持ってやってきます。ここで「Greenhouse」の変奏曲が使われ、不安をかきたてるのです。銃撃戦の中、飛び出したデビーが撃たれ、撃った用心棒の一人をジョーイが撃ち殺してしまいます。

再び留置場。呼び出されたビリーの前で署長は激怒します。「もうかばいきれないぞ。しかし前市長の息子を裁くわけにもいかないから、今回だけはポン引きが娼婦を撃ち、警察が抵抗したポン引きを撃ったことにしてやるから、お前は町を出ろ。」と言われ、ビリーはバイクで町を出ます。町はずれまで、パトカーと白バイが先導します。白バイ乗りがビリーに「いいバイクだな。」と声をかけ、ビリーはそのバイクで疾走。BGMはもちろん「Nice Bike」です。

途中の町のうらぶれたバー。ライ・クーダーの歌うジョニー・キャッシュの「Don't Take Your Guns To Town」が流れています。ここででビリーはアニーに電話をかけます。何度もかけているのにつかまらなかったけど、ようやく電話が通じます。ビリーはアニーに「ジョーイは釈放されたか?」と訪ねます。泣き声のアニーは「ええ、されたわ。でも、署長から電話があって、誰かに撃たれてしまったの。確認させられたわ。」と答えるのです。どこかのバーで、ビリーはアニーに会い、ビリーは「ケリをつけに行くよ。」と告げます。ここから、音楽はおどろおどろしい「Greenhouse」になります。

深夜、ビリーはマルビーナとカーチの住む、かつての我が家に銃を手に乗り込み、ジョーイが撃たれた恨みをはらそうとするのです。しかし、ビリーが忍び込んだことをマルビーナに知られてしまいます。用心棒がビリーを追いつめたとき、意外な人物がその用心棒を撃ち殺しました。ここから温室での銃撃戦が始まります。さて、前市長を殺した真犯人は? ジョーイを殺した真犯人は?

ラストシーンはテーマ曲「Blue City」。この曲にのせてエンドロールが流れていきます。
 
クレジットを見ているとバーンスタインの「Latin」という曲と、「ゴッドファーザー愛のテーマ」も劇中で使われているようなのですが、気づきませんでした。単なるアクションもので内容に深みがあるとは思えませんが、1時間20分の間飽きることなく画面にひきつけられました。第7回ゴールデンラズベリー賞では、ワースト・アクター、ワースト・アクトレス、ワースト・サポート・アクター(カーチ役のスコット・ウィルソン)、ワースト・ディレクター、ワースト・ピクチャーの5部門でノミネートされています。

Donnie Fritts / June

donniejune「私には夢がある。それは、邪悪な人種差別主義者たちのいる、州権優位や連邦法実施拒否を主張する州知事のいるアラバマ州でさえも、いつの日か、そのアラバマでさえ、黒人の少年少女が白人の少年少女と兄弟姉妹として手をつなげるようになるという夢である。」

この言葉、1963年、ワシントン大行進のときのマーティン・ルーサー・キング牧師の言葉です。この演説の後半、マヘリア・ジャクソンが「あなたの夢をみんなに聞かせて」と叫んだのを耳にしたキング牧師は、用意していた原稿ではなく、「私には夢がある。」ではじまる様々な「夢」を語りはじめました。上記はその中の一節です。ここに語られているように、アラバマ州は、ミシシッピ州やルイジアナ州、ジョージア州などと同様、もっとも差別の激しい南部地域のひとつでした。

キング牧師のこの演説を遡ること5年。アラバマ州北部のテネシー川沿いの町フローレンスで、ソングライター契約をしていた二人の少年が知り合います。一人はアーサー・アレキサンダー、18歳黒人。もう一人はドニー・フリッツ16歳白人です。この二人は差別の激しかったアラバマの地で、音楽を通じ本当の兄弟のような友情を育むことになります。アーサーの本名は、アーサー・アレキサンダー・ジュニア。仲間からは、そのジュニアにちなんだ「ジューン」というニックネームで呼ばれるようになります。1961年、ドニーとの共作「Sally Sue Brown」でレコード・デビューしたときも「ジューン・アレキサンダー」名義でした。同年、「You Better Move On」がヒット。後にローリング・ストーンズに取り上げられますが、本人は大きなヒットには恵まれませんでした。一方、ドニー・フリッツの方も、60年代にジミー・ヒューズやボックス・トップス、パーシー・スレッジらに曲を提供していましたが、大ヒットには恵まれず、キーボード・プレイヤーとしても活躍していました。

アーサーは60年代にフェームやドット、モニュメントからシングルを数枚、ドットからアルバムを1枚出し、南部のクラブ回りなどをしていたようです。1972年にはワーナーからセカンドとなる『Arther Alexander』をリリースしますが、これも売れず、バスの運転手に転身しました。一方のドニーは、クリス・クリストオファソンのバンド・メンバーとして活動していましたが、1974年にアトランティックからソロ・アルバムの『Prone To Lean』をリリースしたものの、これも売れず、クリスのバンド・メンバーを続けながら、マスル・ショールズに住み様々なシンガーに楽曲提供を続けていました。

1993年、アーサーはエレクトラから突然カムバック作『Lonely Just Like Me』をリリースします。しかし、その年、アーサーは53歳という若さで心臓発作のために世を去ってしまうのです。ドニーはナッシュビルの病院で、ダン・ペンとともに二度と目を覚まさないアーサーと対面したあと、マスル・ショールズに戻る道すがら、二人の出会いからその時までのことを思い返し、このアルバムの冒頭に収められた「June」を作曲したそうです。16歳ではじめて会ったとき、こんな大男が歌うなんて信じられなかったこと、彼が"You Better Move On"を出した時、仲間みんなが誇りに思ったことなどを回想し、「彼は私の誇り高き兄弟だった。君がいなくなって本当にさみしい。」と結んでいます。

また、このアルバムのラストに収められている「Adios Amigos」は、ダン・ペンとドニーが書いたナンバーで、1994年にリリースされたアーサーへのトリビュート盤に収録され、ダン・ペンが歌っていた曲の再演です。冒頭とラストの2曲以外はすべて、アーサーの曲。ドニーは24年も前に他界した親友との想い出を噛み締めるように、ウーリッツアーのエレピや生ギターを弾きながら、ぽつりぽつりとつぶやくように、親友の曲を歌っていきます。バックの演奏は必要最小限で、曲によってはセンスのいい控えめなストリングスだけがドニーの演奏を色づけしているものも多いです。

アーサーは、分類としてはR&Bシンガーとなってしまうのかもしれませんが、60年代から心優しいシンガー・ソングライター的な曲に真価を発揮しています。ここで取り上げられているナンバーも、そうした曲ばかりで、「In The Middle of It All」、「All The Time」、「Lonely Just Like Me」などなど、どの曲もアーサー、ドニー二人の「良さ」が凝縮されているような演奏ばかりです。ドニーの歌声はアーサーに輪をかけて頼りない感じですが、その分、アーサーに対する想いは人一倍伝わってくるのです。前作も彼の得意とするファンキーなナンバーはほとんど聴かれませんでしたが、今作は本当にバラードばかり。しかし、アーサーの本当の素晴らしさを十二分に伝えて余ある内容となっています。

本当に差別の激しかった南部の田舎町。黒人と白人の少年が一緒に歩いてでもいようものなら、白人の大人から脅され、通常なら友情など芽生えるはずもないし、中には子どもながらに憎み合うこともあったでしょう。そんな中、音楽という絆が、逆境を越え二人の心をしっかりと結びつけたのです。もちろん、同じことは、ここマスル・ショールズだけでなく、メンフィスでも、ニュー・オーリンズでも、デトロイトでも起こりました。また、アーサーはブルーズやR&Bだけでなく、ハンク・ウィリアムズやジーン・オートリー、パティ・ペイジなどのカントリーも好んで聴いていたようです。その影響は彼の書く曲にもよく現れていて、ストーリー性のある歌詞、展開の多いコード進行などに顕著です。そうしたことから、先にあげたストーンズだけでなく、ビートルズ、ホリーズ、ボブ・ディラン、ライ・クーダー、ニック・ロウといった白人ミュージシャンからもカバーされる所以でしょう。

しかし、そうした歴史的なカバー群を全く凌駕するのが、親友ドニーによるこのアルバムということができます。彼のアーサーに対する「渾身の想い」がこのアルバムには込められているからです。ドニーは2015年の前作『Oh My Goodness』にもアーサーの「If It's Really Gotta Be This Way」を収録していました。ドニーさんは、ポール・マッカートニーや先頃亡くなったアリーサ・フランクリンと同い年で今年76歳。残り少なくなってきた自身の音楽人生を振り返ったとき、この一枚はどうしてもつくっておきたかったアルバムに違いないでしょう。

The Impressions Live at Billboard Live Osaka

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インプレッションズを最初に聴いたのは学生時代だったでしょうか。ライ・クーダーのエレキ・ギターがカーティス・メイフィールドの影響を受けているからとか、コーラス好きだった同級生の影響とかあったと思います。カーティスのソロCDがたくさん再発されるようになった頃には、彼は事故の後で病床にあり、リアルタイムで彼を聴いたのは、ラスト・アルバムとなってしまった『New World Order』だけです。1999年彼はひっそりと57歳で世を去ってしまいました。カーティスのソロも好きでしたが、彼が在籍した頃のインプレッションズも最高でした。

カーティスは、1970年にグループを離れ、ソロとして独立しますが、後釜としてリロイ・ハトソンが加入してリリースした『Times Have Changed』には作曲とプロデュースで全面的にかかわっています。次作からカーティスの関与は少なくなりますが、70年代前半のインプレッションズは、ファンキーなニュー・ソウルのテイストを大きく取り入れながらも、ドゥー・ワップを基本とする素晴らしいコーラス・ワークはそのままに魅力的なサウンドをつくりだしていました。

60年代にカーティスとトリオでインプレッションズを支えていたサム・グッデンとフレッド・キャッシュは、その後グループを離れることはありませんでした。サムは1958年からのオリジナル・メンバー。フレッドはインプレッションズの元となったルースターズのメンバーで、1960年にジェリー・バトラーの後釜として加入しています。二人は人生の大半を文字通りインプレッションズに捧げてきたわけです。そして、カーティス役というか、リード・シンガーはまだ33歳のジャーメイン・ピュリフォーリー。自分が生まれる前のヒット曲をたくさん歌って喝采を浴びるってどんな気持ちなんでしょう。でも、彼のファルセットはとっても気持ちよく、カーティスの真似をしているわけでもなく、自分の色を出していると感じました。

ライブは、ビルボード東京では9月11日と13日、大阪では15日の三日間、いずれも2ステージです。自分は大阪のファースト・ステージに行きました。ライブはほぼ定刻の16時30分にスタート。バンド・メンバーが入場しスタンバイ。ギター、ベース、キーボード、ドラムに加え、テナー・サックス、トランペット、トロンボーンの3管の7人編成。トローンボーン奏者がアフリカン・アメリカン以外は全員白人のバンドです。ペットが印象的なフレーズを吹いて「Amen」の演奏がはじまり、MCが登場。インプレッションズの3人がステージに上がります。すると、バンドは演奏を切り替え、代表曲のひとつ「It's Alright」がはじまります。人生いろいろなことがあり、悔やむことも多いですが、「それでいいんだよ。大丈夫さ。」と励まされている気持ちになります。2曲目はホーン隊によるダイナミックなイントロに導かれ「Nothing Can Stop Me」がはじまります。心地よいことこの上ありません。

4曲目リズム隊が静かに演奏をはじめ、最高齢のサム・グッデンがMC。まずバンドを紹介。そして、若干33歳のリードボーカリスト、ジャーメイン・ピュリフォーリーと、フレッド・キャッシュを紹介すると、フレッドがサムを紹介。キーボード・プレーヤーがグロッケンで、美しいフレーズを奏でます。こちらも代表的なナンバー「I'm So Proud」。静かなバラードが胸にしみます。続いては珠玉のメロディとコーラスの「I Need You」。ドラマーはマレットを用いて迫力のあるプレイです。6曲目はバラードで「I Love And I Lost」。60年代のナンバーはどれもホーンのアレンジが洒落ていますし、奇才メロディ・メーカー、カーティスの書いた曲はどれもすばらしく夢見心地にさせてくれます。

7曲目に初期の代表曲「Gypsy Woman」が登場。この曲では3番のリードを中音のフレッドがとります。とっても味のあるボーカルです。キーボード・プレイヤーはこれ以前の曲では生ピを使うことが多かったのですが、このあたりからフェンダー・ローズを多用し、ハモンドと併用するようになります。続いては60年代後半のナンバー「Stay Close to Me」。軽快なこの曲は名盤アルバム『This Is My Country』から。9曲目は美しいバラードで「I've Been Trying」。1曲1曲は短いしアップ・テンポ、ミディアム、バラードを順に繰り出し、観客を全く飽きさせません。この曲ではサム、フレッドのボーカルもかなりフィーチャーされます。

10曲目はなんと「Mighty Mighty」の登場。ダンサブルなファンキー・ナンバー。ギタリストもワウ・ペダルを使いカーティス風のプレイを聴かせ会場はぐっと盛り上がります。このあたりからニュー・ソウル路線の演奏となります。曲が終わるとバンドが同じアルバムに収録されている「Choice of Colors」のフレーズを奏ではじめ、今度はフレッドがMC。メッセージ性の高いこの名曲をライブで聴けるなんて感無量です。この曲が終わったあと、やはりフレッドがMCをしてインプレッションズの3人が袖に戻ります。バンドはカーティス・メイフィールドの『Superfly』からのナンバーをインストにして、メドレーで演奏です。曲は「Freddie's Dead」, 「Give Me Your Love」, 「Superfly」。「Freddie's Dead」では主にサックスが活躍し、「Give Me Your Love」はトローンボーンがいい演奏を聴かせていました。「Superfly」では後半にソロまわし。ホーンセクションのあと、オルガン→ギター→ベースの順にソロがまわり、続いてのドラムソロでは高速フィルインに舌を巻きました。大半が白人のバンドですが、見事にカーティスのサウンドを再現していました。少し物足りないのはパーカッションがいないことくらいですが、その分は十分タイトなバンド演奏が補っていました。

次にカーティスがバンドを離れた後の大ヒット曲「Finally Got Myself Together」がプレイされます。この曲もファンキーでニューソウル感満載ながらも、コーラス・ワークが見事でインプレッションズの個性が遺憾なく発揮されています。そして、いよいよお待ちかねの「People Get Ready」です。70年代の曲にはさまれていますが、原曲に忠実なアレンジ。キーボード・プレイヤーはここでもグロッケンで定番のフレーズを奏でます。個人的な想い出も多いこのナンバー。ついにオリジナル・グループで聴くことができて満足です。続いて再びファンキーでダンサブルなナンバーとなります。曲はエディ・ケンドリックスの「He's A Friend」。「People Get Ready」の後に聴くと「He」はやっぱり「Jesus」だって思ってしまいますよね。この曲がはじまるとジャーメインは観客に立ち上がるよう笑顔で促し、多くの客が呼応して身体を揺らしていました。しかし、この曲で1時間と少々のステージは終了。唄が終わるとインプレッションズの三人はバックステージに引き上げ、バンド・メンバーはしばらくエンディングを演奏します。演奏が終わるとしばらくアンコールの拍手が鳴り止みませんでしたが、メンバーは登場せず、ファースト・ステージはアンコールなしで終了しました。

バンマスはギタリストのようで、曲が展開したり、終わる時は彼が指示を出していました。ギターはサンバーストのテレキャスターでフロントはハムバックのよう。センターにダンエレのリップスティックを入れ3ピックアップ仕様にしていました。ベーシストは、サンバーストのプレシジョンにフラットワウンドの弦を張っている模様。指弾きでファンキーなフレーズを繰り出していました。キーボード・プレイヤーは生ピアノ、フェンダー・ローズ、ハモンド、グロッケンを自在に弾きこなしていました。彼の後ろにはレズリー・スピーカーがありハモンド本来のよい音が聴けました。バンド・メンバーではギタリストとキーボード・プレイヤーが少々年上のようで、他のメンバーは比較的若いように感じました。色々なバンドを掛け持ちしているのかも知れませんが、なかなかの一体感でした。

カーティスは過去に来日経験はあるのだけれど、インプレッションズとしての来日は今回がはじめてだったとは知りませんでした。もちろんカーティスの歌声も大好きですが、低音のサムの歌声にも魅了されていましたから、サムとフレッドの歌声をライブで味わえて本当によかったと思います。確かに現在進行形のバンドではないかもしれませんし、ラスベガス・スタイルのショウに過ぎないとの批判もあるでしょう。しかし、60年の長きにわたって、同じボーカル・グループを支えて来たサムとフレッドの2人の功績はいたくら讃えても讃え足りないと思うのです。今も、テンプテーションズ、シュープリームス、スピナーズ、フォー・トップスといった60年代のコーラス・グループが今も、あるいは近年まで活動を続けております。しかし、多くのグループにはオリジナル・メンバーはおらず、言わば襲名といった形で存続しているのですが、このインプレッションズは60年代の黄金期を支えたメンバー3人のうち2人が現役でやっているということだけでも見る価値はあったし、バンドも含めて素晴らしい演奏をしてくれたこと、引退前に日本に来てくれたことに深く感謝したいと思っています。

・Setlist
( Amen )
It's All Right
Nothing Can Stop Me
I'm So Proud
I Need You
I Love And I Lost
Gypsy Woman
Stay Close to Me
I've Been Trying
Mighty Mighty
Choice of Colors
Instrumental Curtis Mayfield Medley (Freddie's Dead, Give Me Your Love, Superfly)
Finally Got Myself Together
People Get Ready
He's A Friend

Joni Mitchell / Both Side Now  Live at the Isle of Wight Festival 1970

joniwight2最近発売になったワイト島フェスの、ジョニ・ミッチェルDVDを見ました。1970年、ジョニ26歳のときの貴重なコンサート映像です。ワイト島フェスは2002年に復活していますが、もともとは1968年から70年まで3回開かれた音楽フェス。第1回はジェファーソン・エアプレーン、翌年の第2回はボブ・ディラン&ザ・バンドやフー、そして1970年の第3回は、ウッドストックにならって、ジミヘン、ドアーズ、フー、ELP、ジェスロ・タル、フリー、マイルズ・デイヴィスなどなど、錚々たるミュージシャンが出演した大規模なものとなりましたが、フェスティバルの主催者が採算がとれた時点でウッドストックにならってフリー・コンサートにするなんて宣言してしまったものだから、ただで見れると思った若者が大挙して押し寄せ、その数は50万人にふくれあがりました。主催者を金の亡者とののしる聴衆、仮設の塀を巡らせてチケットを買わないものは中に入れまいとする主催者、主催者はステージアナウンスで無料入場者を罵倒するなど騒然とした雰囲気になっていました。そんな雰囲気の中、60万人の聴衆を前に、トラブルにとまどいながらも、たった一人で毅然としたステージをつとめ上げた貴重な記録です。

DVDはドキュメンタリーと、コンサート映像の2本立てになっていますが、内容はかなりダブります。自分はコンサートを見てからドキュメンタリーを見ましたが、ドキュメンタリーではコンサートでのMCにも字幕が入り、2003年のインタビューでジョニが当時のフェスを振り返っていて興味深いものがあります。先にドキュメンタリーを見てからコンサートを見るのもよいでしょう。ジョニはこのときすでに3枚のアルバムをリリースしており、4枚目『Blue』はまだリリースされていませんでしたが、その中のナンバーも3曲演奏されました。ファーストからは1曲も選曲されませんでしたが、セカンドの『Both Side Now』とサードの『Ladies of the Canyon』から、それぞれ4曲が選ばれています。そして、当時ライブではしばしば演奏されたものの、長らくアルバムに収録されなかった「Hunter」を加えた少なくとも12曲が披露されたようです。この中で『Blue』に収められたダルシマー弾き語りの「A Case of You」は、ドキュメンタリー、コンサートとも映像はなく、エンドタイトルのバックグラウンドに使われています。曲順はコンサート映像のとおりに進んだものでしょうけど、「A Case of You」は、同じくダルシマーで演奏された「California」の前か後か、どちらかで演奏されたものでしょう。ピアノの弾き語りは「For Free」「Woodstock」「My Old Man」「Willie」の4曲。残りの曲はアコギの弾き語りでした。また、「My Old Man」と「Willie」はメドレーで繋がっていました。

ジョニのアクースティック・ギターは、マーティンD-28。ほとんどオープン・チューニングで、曲にあわせて途中でチューニングを換えて演奏します。とてもいい音です。長い髪に黄色のワンピースという衣装も印象的、女性出演者が少なかった時代ですから、彼女の出演は観客にとっても一服の清涼剤となったことでしょう。特筆されるのは、彼女の歌の上手さ、歌唱テクニックが映像で確認できることです。彼女の曲には静かなものが多いですが、細かいビブラートなどを駆使して情感をコントロールしている様子がよくわかります。

そして、イベントの混乱もけっこう収録されており、この時代の空気やフェスティバル草創期の苦労、主催者の甘い見通しなども見て取れます。そして、客席、主催者の9割以上が三十過ぎくらいまでの若者で占められているのも印象的です。ウッドストックもそうなんですが、現在の音楽フェスでは六十代以上の観客が多く訪れるものが少なくありません(もっとも、このウッドストック・ネイションがそのまま歳をとったら、たいてい70代くらいではありますが)。まさに、当時はロックは上の世代への反抗の音楽だったわけですよね。この映像作品のタイトル、「Both Side Now」はジョニの代表曲からとっていますが、「ものごとには光と影の両面がある」という意味で、まさにこのフェスの一面をあらわしていますよね。

ジョニのインタビューでは、4曲続けて演奏されたピアノ曲の合間におきた「事件」と、それに呼応して落ち着きをなくした聴衆、そして、毅然とした態度で聴衆をたしなめたジョニの姿。このいきさつについて、33年を経た時期に自らの言葉で語っているところがやはり大きな見所でしょう。ジョニがセオリー通りにコードをつけないことについて、ウェイン・ショーターやハービー・ハンコックが興味をもってくれたことなど、曲づくりに関するジョニの持論や、「ライブよりスタジオが好き」という意見など、このコンサートに直接関係ない部分でも興味深い発言を聞くことができます。あと、ステージのMCで、ジョニはもともとウッドストックに出演する予定だったのが、ニューヨークの空港で足止めをくって出演できなかったことがわかります。

1970年のワイト島フェスの映像はジミヘンやフーをはじめさまざまなグループのものが映像化されていますが、こうしてジョニ・ミッチェルのステージがオフィシャルで見れるというのは嬉しいものです。以前、やはりカナダのレナード・コーエンが、ジミヘンが出演した後の深夜に登場したときの映像について、ここに書いたことがありますが、このジョニの映像を見て、ワイト島フェスの混乱というものをより明確に認識できるようになりました。90年代に発売されたフェス全体の映像も、いつか見てみたいと思います。それにしても、この年のワイト島フェス、北米勢はジミヘン(英国勢?)、ドアーズは別として、クリス・クリストオファソン、ジョーン・バエズ、ジョン・セバスチャン、レナード・コーエン、ジョニ・ミッチェルと大人し目の人が多いですね。


●コンサート編曲目
song about the midway
chelsea morning
for free
woodstock
my old man
〜willie
california
Big yellow taxi
both side now
(encore)
the gallery
hunter

(end title)
a case of you

ライ・クーダーが近年使用している楽器

ライ・クーダーの約30年ぶりとなる北米ツアー、8月21日に無事終了しました。次は10月にヨーロッパ・ツアーがあります。来春くらい日本にも来てほしいものですね。考えてみると、2005〜2013年のノンサッチ時代、以前の方針を大きく変え、オリジナル曲をたくさん書いたのですが、この時代、北米ツアーは一度も行わず、ライのオリジナル曲はほとんど人前で披露されることはなかったようです。ところが、ライが70代を迎え、今年になってファンタジーに移籍し、再び大半がカバー曲となる新作を発表すると、上記のように積極的にツアーに打って出ています。ファンタジーやワーナーがアルバムの販売戦略としてツアーを重視したことも関係があるかもしれませんが、ライ自身が70代を迎え、本当に人々に聴いて欲しい曲として古いゴスペルやR&B、フォークを選んでいるようにも思います。思えば、1987年にワーナーから最後となるオリジナル・アルバム『Get Rhythm』を発表したあと、北米、ヨーロッパ、日本とツアーしたライさんですが、それから約30年。その頃、CDが音楽メディアとしておおむね定着したのですが、今や若い人は誰もCDを買わない配信中心の時代となってしまいました。音楽の流通形態は様変わりしましたが、音楽人口の底辺は拡大し、ライ・クーダーもスライド・ギターのレジェンド、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの仕掛人としてリスペクトされるようになりました。

さて、そんなライ・クーダーさん、60代後半〜70代になってもギター収集熱はさめていないようで、今回のツアーでも以前使っていなかったたくさんのギターを披露しています。特に6月のライブにはけっこうレアなギターを持って行ったようで、そっちも見てみたかったのですが、自分が見た、7月中旬以降ではかなり整理されたとはいえ、ステージに6本の弦楽器を置いて曲によって使い分けていました。今回は近年、ライが愛用している楽器を見て行きたいと思います。まず、今回の北米ツアーに持ち込まれた楽器です。写真はRY COODER FANSのfacebookページから主に拝借しております。

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まず、今回の北米ツアー前半、冒頭に演奏された「Nobody's Fault But Mine」でプレイされたギブソンJ-45です。筆記体ロゴ、トップの状態からかなり年季の入った個体だとわかります。もしかしたら、アルバムの中のこの曲でプレイしているのも、この楽器かもしれません。とてもいい音ですので生でも見てみたかったですが、ツアー後半では、「Vigilante Man」でも使っていたプレミアのフル・アコでこの曲を弾いていました。

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次はケントのエレクトリック・マンドリンです。ピックアップはテスコのゴールドフォイルに交換されています。カワイのバイオリン・ギターVS-180なども似た形状をしています。どの曲で使われたかはわかりません。カワイで生産されて輸出され、ケントの名で販売されたものでしょう。グヤトーンも米国ではケント名で流通しているものが多いです。

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続いては、2009年ニック・ロウとのツアーでも使用された、フェンダー・カスタム・ショップのバホ・セスト・テレキャスターです。2009年のときはフロントにテスコのゴールド・フォイルが搭載されていましたが、今は別のピッアップに替えられていますね。

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次も、2009年ニック・ロウとのヨーロッパ・ツアーでも使用された、プレミアーのソリッド・ギターE-722です。フラット・マンドリンのスクロールしたホーンを模したデザインが印象的。

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そして、メーカー不明の黒のダブルネック。6弦ダブルのようですが、ライは両方のネックを使ったのでしょうか。ライのインスタでは、少し歪ませてブルーズを演奏している動画が上がっています。

以上が、今回北米ツアー前半のみに持ち込まれた楽器です。この中の数本は2015年のリッキー・スキャッグス、シャノン・ホワイトとのツアーでも使用されたようです。

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7月13日以降の北米ツアー後半に使ったギターは上記の写真の6本です。この写真はシアトル公演のレポートにものせましたが再掲載です。手前から、ユニヴォクスの黒いレスポール。もちろんメイド・イン・ジャパン。マツモク製のようです。ライはOPEN Gにして「Little Sister」などで使っていました。2番目は、1995年頃から使っているVOXワイマン・ベースを改造したエレクトリック・ブズーキ。デヴィッド・リンドレーとお揃いです。今回のツアーでは「You Must Unload」、「Jesus On The Mainline」で7カポで演奏されています。3番目はプレミアー・バンタムの1ピックアップモデル。ピックガードははずされテールピースは交換されているようです。小ぶりなフルアコですが強力なサウンドでした。今回のツアーでは「Nobody's Fault But Mine」と「Vigilante Man」に用いられていました。次がマーティンのOOO-28とみられます。白いバインディング、バインディングのないネックから、28モデルと思われますが、ヘッドが縦ロゴなのが味噌。「Jesus and Woody」1曲にしか用いられていませんでしたが、とってもいい音でした。おそらくビンテージ・モデルと思われます。その後ろが、ライ・クーダーが60年代末にフェンダーから提供してもらったダフネブルーの貴重なストラトキャスター・プロトタイプ。通常のストラトにはないネックのバインディングが特徴です。ライは70年代から、リア・ピックアップをP-90に換えたり、ハムバッカーにしたりと改造を加えてきましたが、今はフロントにグヤトーンの1950年代のピックアッブ、リアにリッケンバッカーのラップスティールに用いられるホースシュー・ピックアップを搭載しています。これも今やクーダーキャスターですね。過去の日本公演にも持ってきていましたが、そのサウンドを耳にしたのは今回がはじめて。「Staight Street」「Go Home Girl」「I Can't Win」といったバラード系の曲で、きわめて美しい鳴りを聴かせてくれました。その後ろがライのメイン・ギター、豹柄ピックアップ、サンバーストのクーダーキャスター。フロントにテスコのゴールド・フォイル、リアにヴァルコ(オアフ)のラップスティール用ピックアップを搭載しています。1987年の『Get Rhythm』の頃はフロントにハムバッカーを積んでおり、ピックガードも白でした。「Everybody ought to Treat Stranger Right」「The Very Thing Makes You Rich」「The Prodigal Son」「Get Rhythm」などで用いられました。おそらく「How Can A Poor Man〜」もこのギターが使われた回数の方が多かったと思います。自分が見たときは、シアトルではこのギター、バンクーバー島では黒のレスポールでした。

続いては、今年5月はじめ、ローザンヌ・キャッシュと二人、サン・フランシスコでジョニー・キャッシュのナンバーを演奏するライブがありました。その時の写真から紹介します。

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まず、フェンダーのエスクワイヤー。自身のインスタでも3月頃紹介していたものです。

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そして、赤いモズライトを弾いている写真もあります。この2本は、翌月から始まった自身のツアーには持って行ってないようです。

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次は最新アルバム『The Prodigal Son』のレコーディングに用いられたり、そのプロモーションのために撮られたビデオに映っているギターです。「Straight Street」のプロモーション映像で演奏されているヘフナーのサンバーストのストラト・タイプですが、ピックアップ3個、上部にピックアップ・セレクター、下部にはそれぞれのピックアップのオン・オフスイッチがついて、さまざまな組み合わせが可能のようです。おそらく1967年頃の177というモデルと思われます。

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そして、「Everybody ought to Treat Stranger Right」のプロモーション映像で演奏されている、ライオン&ヒーリーの9弦アクースティック・ギター。もちろん第二次大戦前の楽器です。2012年のハンス・シーシック&テリー・エヴァンズの『Delta Time』にも用いられていました。とってもいい鳴りです。当然、アルバムの中でもこの楽器で演奏されていますが、ツアーでは豹柄ピックガードのクーダーキャスターで代用されていました。

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次は、2015年、リッキー・スキャグス、シャノン・ホワイト夫妻とのツアーに用いられた機材です。グレッチのフルアコは昔からライがもっている楽器のようで、1983年のランディ・ニューマンの映像作品や、2005年マジソン・スクエア・ガーデンでのニューオーリンズ復興支援コンサートの映像にも出てきます。

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このケイのフルアコは、バーニー・ケッセル・アーティストの1ピックアップ・モデル。デヴィッド・リンドレーが所有しているバーニー・ケッセル・プロより一回り大きく、Fホールがあります。

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こちらは、ヘッドの形状からダキストと思われますが、ベネチアン・タイプのダブルカッタウェイのモデルは自分の検索力では見当たりませんでした。

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そしておなじみ、グヤトーンのLG200Tです。伊藤アシュラ紅丸氏からライ・クーダーに進呈されたギターで、マヌエル・ガルバンとの『Mambo Sinuendo』でも大活躍。2009年のニック・ロウとの来日のときもノン・スライドの曲数曲でいい音を聴かせてくれました。

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そして、ニューアルバムの裏ジャケでもかかえているマーティンD-28。トップに「ラルフ・トロット」と大書きされていますが、彼は1929年生まれのカントリー・ゴスペル・シンガー。2000年に亡くなっていますが、どういういきさつか、彼の愛用ギターが今ライの所有になっています。ピックアップは2009年の来日のとき、日本にも持って来ていたギブソンのマンドリンについていたビグズビーのピックアッブですが、今回のツアーではこれをギブソンJ-45に付け替えているようです。

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そして、このときのツアーではブルーグラス・ミュージシャンのバックアップとあって、バンジョーも弾いています。これに加え今回のツアー前半でも使われた、ケントやプレミアーの2本も用いられていました。

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おまけの1枚。今年3月頃、ライのインスタにアップされたテスコのTG-64。モンキー・グリップがないタイプのようです。テールピースが、フェンダー・ジャガーやジャズマスター用のものにまるまる交換されています。今のところ、ライブで演奏された形跡はありません。

いかがでしたでしょうか。ライ・クーダーさん、ちょっと見ないうちにこんなに楽器が増えています。たしかにプロが選ぶ商売道具ですから、納得のいくものを揃えるのは当然ですが、それにしてもすごい量ですね。今回紹介したのが22本。1995年のプレイヤー誌で紹介されているライの弦楽器は21本。これらのうち5本はダブりますが、グレッチのフルアコのように、このとき紹介されなかったギターもたくさんあると思います。しかも、たいていの楽器は40年以上は経過していそうですね。もちろん70年以上前の楽器も数本あるようです。ビンテージの戦前アコースティックから、メイド・イン・ジャパンの量産品まで、彼の審美眼にかなったギターはとびきりよい音を聴かせてくれるのです。

シアトル&バンクーバー島旅行記12 帰国

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コートニーの市街地から冠雪した山を望む

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コートニーの中心街

ほんとあっという間の3日間でした。14日は約10時間、15日は約13時間も会場にいましたが、退屈なステージはひとつもなく、あっという間に時間が過ぎ去ったという印象です。7月16日は目覚まして朝7時に目覚め、帰る準備をし7時半前にはホテルをチェックアウトします。近くのヘン&ホッグ・カフェで朝食を、と思ったら月曜は休みでした。それで次に当たりをつけていたアーリー・バード・カフェへ。思ったより近く10分以内に到着です。途中にスシ・レストランがありました。人口2万人くらいの小さな町にスシ屋が2軒もあるのですが、大丈夫なのかなと、少し心配になります。ただ、日本食はヘルシーということで、アメリカやカナダでは結構ブームのようですね。アーリー・バード・カフェの店内には数組のお客さんがいましたが、月曜の早朝とあって割合空いており、ゆったり過ごすことができました。壁には鳥の写真がたくさんはってあります。 アーリー・バード・ブレックファスト・スペシャルを注文、卵はスクランプルにしてもらい、ソーセージかベーコンではベーコンを選択。パンケーキかトーストか聞かれたので、トーストを選びました。ベーコンはカリカリで全体的にとてもうまかったです。コーヒーのおかわりももらえました。

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アーリー・バード・カフェでの朝食

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コモックス空軍博物館の野外展示

店内で一昨日ネーム・カードをもらったジョーズ・タクシーに電話を入れ、迎えにきてもらいます。この日は髭の男性ドライバーでした。フライトの約1時間と少し前の8時30分にはコモックス空港に到着です。まだ時間が早いので、ほんの少し周辺を歩きます。隣接してコモックス空軍博物館があり、野外に軍用機やヘリコプターが展示してありますけど、中に入る時間はなさそうです。こじんまりした空港ですが、エアカナダ、ウィスト・ジェットなどいくつかのチェックイン・カウンターがありました。自分が搭乗する、パシフィック・コースタルのカウンターもありましたが、無人。10分を過ぎても人が出てくる気配がありません。よく見ると、カウンターの通路を挟んで反対側にパシフィック・コースタルの事務所があり、女性職員が2名談笑していました。そこで飛行機に乗る旨を告げると、預ける荷物の有無を聞かれ、チケットを発券してくれました。保安検査を済ませ、待合室で飛行機の到着を待ちます。待合室の天井には恐竜の骨格模型と復元模型がつってあります。行くことができませんでしたが、コートニーの市立博物館には恐竜の化石や先住民が残した遺跡の出土遺物などが展示されているようです。

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コモックス空港の出発ロビー

定時に小型のプロペラ機が到着。コモックスが始発でなく、途中寄港地のよう。行きの飛行機は4列シートの中型機でしたが、2列シートで30人も乗れない小型機、入り口も腰をかがめないと入れません。自分が今まで乗った中で最も小型の飛行機です。出入り口も機長が自ら手で閉めます。機内放送もなく、機長が地声で案内と注意事項を客席に告げています。副操縦士は若い女性でした。窓から絶景を見つつ、あっという間にバンクーバー空港に到着。今回は同じ空港の南端のバンクーバー・サウス・ターミナルに到着。無料のシャトルバスでメイン・ターミナルに移動します。すぐ横の川には何台ものビーチ・クラフトが停泊しており、空を飛んでいるのもありました。

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小型機のコックピット

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カナダの山々ともお別れ

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バンクーバー国際空港に着陸

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搭乗したパシフィック・コースタルの小型機

いよいよカナダともお別れです。エアカナダの搭乗器で係員にアシストしてもらってチェックインを済ませ、しばしお店をうろうろ。特に買い物もないので、保安検査を済ませて国際線ターミナルへ。ここが最も豪華な搭乗口で、カナダの小川を再現した両側にフードコートのテーブルが並び、ミニ・アクアリウムでお魚も楽しむことができます。免税店のシャネルとか高級化粧品売り場はまるでデパートの中のよう。その中のカーブをしている通路をドライバーの乗ったカートが通りすぎて行くのにはちょっと違和感がありました。

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バンクーバー空港国際線出発ロビーのジオラマ

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バンクーバー空港国際線出発ロビーのミニ・アクアリウム

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アクアリウム

飛行機の搭乗口も高級免税品店の間であまり目立ちません。ちょうどお昼どきで、せっかくなのでちゃんとした食事をすればよかったのですが、プレックファストがけっこうボリュームがあったのと、飛行機に乗ったら、すぐ機内食が出るだろうからということで、ジンジャエールで喉を潤すだけにしました。定刻13時25分出発のエアカナダ、成田行きに無事搭乗。窓際の席ではなかったため、写真は撮れませんでしたが、窓の外に幾重にも重なる冠雪したカナディアン・ロッキーの山々を見ながら日本を目指します。帰りの便の中でも、一睡もできませんでしたが、読書したり、ビジョンで映画を見たり。ミュージックプレイヤーの中には、ライ・クーダーの新作『The Prodigal Son』が入っていて嬉しくなりました。成田にも、予定どおり7月17日の午後3時過ぎに到着。空港内で時間をつぶし、夕方6時発の福岡便に搭乗。予定通り、福岡空港夜8時50分発の高速バスで帰宅しました。

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帰りの機内食1

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帰りの機内食2

バンクーバー・アイランド・ミュージック・フェストは、とってもいいフェスティバルで、気に入りました。今回、海の日の連休に重なったことと、ライ・クーダーが出演するということではじめて注目しましたが、なかなか素晴らしいラインナップのフェスで、ほかではあまり見られないセッション・ステージがたくさんあるのも魅力です。フェスに出演する音楽ジャンルは本当に多岐にわたっていて、ロック、フォーク、カントリー、ジャズ、ブルーズはもちろん、ワールド・ミュージックも、レゲエ、アフリカ系、アジア系と多彩でした。ただ、今回ホーンプレイヤーは少なめ。逆にアコースティック・ギターを使ったステージが比較的多く、今回はつとめてそういうステージをたくさん見ることにしました。あと、バイオリンやチェロといった擦弦楽器を使うユニットも少々ありました。

おそらくフェス自体は、オーガニックとかエコもテーマで、会場にテントを張ってキャンプする人もたくさんいました。会場で出るゴミも4種類くらいに分別されており、間違えたゴミはボランティアが正しい場所に入れ直しておりました。

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ゴミを分別するボランティア(VIMFのfacebookより)

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フェスのマーケット(VIMFのfacebookより)

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行かなかったけど、キッズ・ステージ付近のアート

フェスには300人のボランティアが参加しているとのこと。頭が下がります。また、子どもが楽しめる工夫や、ちょっとしたアートもみられます。マーケットは女性ものの衣類やバッグなどが多いですが、絵などアートの販売もありました。ニュー・オーリンズのジャズ・フェスではバス乗場周辺などにポリスの姿をたくさん見かけましたが、ここではほとんど見ることがありませんでした。もっとも、会場近くには道路脇駐車禁止のためにバリケードがたくさん並べられていましたから、交通取り締まりでの出動は多少あったでしょう。来場者はほとんど白人。アフリカン・アメリカンのお客さんは数えるほどしかいませんでした。自分のようにフェスが目的で日本やアジアから来た人も皆無なのではないかと思います。まぁ、ラインナップもちょっと地味ですよね。個人的には、ライ、アーロ、ラリー&テレサ、デイブ・ケリーといったところがお目当てでしたが、一般的な集客力としてはどうなんでしょうか。初日のウォーク・オフ・ジ・アースや二日目のパッセンジャーは、日本ではほとんど知られていないけど、かなり大きな会場を満員にするくらい欧米では人気者のようです。昨年は、エミルー・ハリス、ブルース・コバーン、リタ・クーリッジ、ロバート・ランドルフ… うーんやっぱりちょっと地味かなぁ。

このイベントのキュレーター、ダグ・コックス氏は、本人もギター奏者だし、彼にとって興味深いギタリストを出演者に選んでいるようです。エイモス・ギャレット、ブルース・コバーン、デヴィッド・リンドレー、デヴィッド・エシグなどは複数回出演しているし、リチャード・トンプソン、ボニー・レイット、ジェフ・マルダー、ジェームス・バートン、アルバート・リーといった面子も過去出演しています。おそらく、ライ・クーダーに対しても長年オファーしていたのが、ようやく実ったのではないかと想像しています。今回のフェスでも、ギター巧者を集めた「Guitar Much or What?」というセッション・ステージがあって興味深い共演を見ることができました。

印象に残ったステージは、もちろんライ・クーダーが別格ですが、長年見たかったアーロ・ガスリーも見れたし、ラリー&テレサ、デイヴ・ケリー&クリスティーン・コリスターの2組のデュオもとってもよかったです。そして、キャンベル・ブラザーズのチャック・キャンベルをゲストに迎えたシャクラ・セイーダのパフォーマンスも素晴らしいの一言。あと、スリー・ウィメン・アンド・ザ・トゥルースの派手さはないけど説得力にあふれるステージや、ロブ・アイクス&トレイ・ヘンズリーの超絶ギター・テクニックにも圧倒されました。それから、ブラザーズ・ランドレス、ドン・ロス、ロブ・リュート、マット・エップ、セバスチャン・ガスキン、セリー・カーディナルといったカナダ勢、エラージ・ジウフ、トライ・コンチネンタルといったアフリカ出身で、カナダで活躍しているワールド系のミュージシャン達も、無名ですが、すばらしい演奏を繰り広げていました。もっともドン・ロスは何度も来日していて、ギター・インスト好きの間ではそこそこ有名ですが、自分はノーチェックでした。以上のミュージシャンの中にはセッション・ステージで数曲しか聴けなかった人達もいるし、全く見れなかった人の中にも好みのミュージシャンはいそうな気がします。このフェスは、金曜が約10時間、土曜と日曜が約15時間でトータル40時間も音楽を楽しむことができます。ニューオーリンズのジャズ・フェスは1日8時間ですから、5日分が凝縮されていて、なかなかのコスパだと思います。いつか、機会があれば、またこのフェスを見に来たいなぁと感じました。この拙い旅行記を最後まで読んでいただいたみなさん、ありがとうございました。

シアトル&バンクーバー島旅行記11 Arlo Guthrie Live in Vancouver Island Musicfest 2018.7.15

コンサート・ボウル・ステージでは、スリー・ウィメン・アンド・ザ・トゥルースのすばらしいステージの余韻が残っています。日は傾き、ステージ前はすっかり木陰におおわれ、ますます過ごしやすくなっています。ピアノが片付けられ、ドラムセットが据え付けられ、キーボード2台がセッティングされます。いよいよアーロ・ガスリーの登場です。時間は午後7時半をまわりオン・タイムで進んでいます。アーロを聴き始めたのは高校生の頃。ライ・クーダーが参加しているのを知らずに買った『The Last of Brooklyn Cowboys』でした。このアルバムの日本盤はおそらくそのころ廃盤だったと思うのですが、自分の出身地のレコ屋に長く売れ残っており、ジャケットのデザインにひかれて買ったのですが、今だに愛聴盤です。そのアーロをはじめて生で見れるとあって期待はふくらみます。編成は、アーロがボーカル&ギター、娘のサラ・リーがギター、マンドリン&ボーカル、息子のエイブがキーボード、それにドラマーが入った4人です。

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ガスリー・ファミリー・バンド

1曲目、軽快なナンバーで幕開け。アーロはライと同い年で今年71歳。髪も髭も真っ白ですが、昔と同じように長髪はウェイブしています。そして娘のサラは6〜70年代頃の父親にそっくりです。サラはマンドリンで父親をバックアップ。エイブはキーボードでベースノートを弾いているようです。ドラムスも70年代マナーで、いい感じのオカズを入れてきます。

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アーロ・ガスリー

2曲目、ピート・シーガーとやった曲をというMCのあと、「Sailing Down This Golden River」がはじまります。美しいメロディのフォーク・ナンバー。サラがギターを弾きながら歌い、アーロは12弦ギターでバックアップしながら、コーラスでは一緒に歌っています。こういう曲を聴くと、ガスリー・ファミリーがフォークの伝統を継承しようとしている意思を強く感じます。3曲目の前にアーロが少しおしゃべりをします。「新聞では、メキシコからの不法入国労働者の事件があると、彼らの名前は報道せず、単にディポーティーズ(国外強制退去者)としか書かない。彼らはみんな名前を持った人間だ。」というようなMCです。この曲は父ウッディが書いたもので、1948年におきた飛行機事故で、メキシコからアメリカに来ていた労働者28人が亡くなったのに、それが無かったことにされてしまったことに対するプロテスト・ソングです。当時、貧しいメキシコから不法侵入する労働者を安くこき使い、いらなくなったら満足に賃金も払わず「ディポーティズ」として、国外に退去させる、こういうことを繰り返してカリフォルニアの農園は発展してきました。もともと、アメリカの金持ち側の都合で不法入国労働者を黙認しておきながら、今になって国境に壁をつくって移民をシャットアウトしようとかいうのはいかがなものかと思います。今日のお昼にウッディをトリビュートするセッション・ステージがあったので、このステージではウッディの曲はないかと思っていたのですが、やってくれてうれしいです。

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サラ・リー・ガスリー

4曲目はギターを弾きながらサラが歌うフィル・オクスの「When I'm Gone」です。「自分が死んだら…」という深い歌詞のしみじみとしたバラード。本人はこの曲を書いてから10年後くらいに自殺してしまうのですが、彼はアルバム・ジャケットを墓石にしたりとか、常に死とたわむれている側面がありました。60年代にはディランと並び称されるフォーク・シンガーでありながら不遇の最期をとげた彼の歌がこうして歌い継がれるのはすばらしいことだと思います。ここで再びアーロがMC。ディランのことを話します。アーロはまだ中学か高校のころ、無名時代のボブ・ディランがウッディに会うために自宅を訪ねてきたし、ハンチントン舞踏病で病床にあった父を見舞いにも来ていましたから彼のことをよく知っていたでしょう。ディランはアーロより6歳年上です。アーロは、1960年代には、シングル盤の出るレコードは、ラジオでかかるように必ず3分以内だったので、ディランの長い曲のレコード(「Like A Rolling Stone」)がヒットしたときにはすごく驚いた、という意味のことをしゃべっています。また、それまでになかった文学的な歌詞にも感銘を受けたようです。ここでディランのカバー、「Mr.Tambourine Man」を披露します。続いて「Time They're A Changin'」を歌います。アーロは70年代初頭からディランの曲をよくカバーしていました、どうせなら当時のアルバムに入っていた「When The Ship Comes In 」とか「Gates of Eden」あたりを聴きたかったのですが、今彼が歌いたいのがこの曲なんだろうて思います。ジャック・エリオットやディランはガスリーズ・チルドレンと呼ばれ、60年代末から70年代に多数現れたシンガー・ソングライターはディランズ・チルドレンと呼ばれたりするわけですが、本当のガスリー・チャイルドのアーロが、ディランから大きな影響を受けているというのも面白いところです。

次はサラが歌う番です。曲はおそらく「I'll Be With You」だと思うのですが確証はありません。サビの部分に「My Little Darling」という歌詞が出てきて子どものことを歌った曲だと思います。そして、サラが続けてMC。「5年前に母を亡くしたのですけど、お葬式の二日後に子どもと飛行機に乗りました。おばあちゃんは空の上にいると思ったけど、いないね、と言ったので、おばあちゃんは天使で、お星様になったのよ、そしてあなたたちを見守っているわ。と応えました。」といった内容でした。そして、サラが赤いノードのキーボードの前に座って失った母をテーマにしたバラード「In Tune With You」を歌いました。この曲が本当によかったです。アーロは表情を変えないまま、アコギで静かに彼女をバックアップしていました。

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エイブ・ガスリー

サラはこの曲が終わるとバックステージに引き上げます。アーロがギターを弾きながらはじまった曲は代表作「Alice's Restaurant Massacree」。達者なギターのピッキング、半世紀前と変わらぬ語り口、感無量です。DVDで映画を見ているとはいえ、大半が語りの曲ですので、英語の不得意な自分は語りについていけなかったのが残念。周囲には目をうるうるさせて聴いている60代くらいの方が数人いらっしゃいました。曲が終わるとふたたびサラが登場し、ア・カペラでウッディ・ガスリーの「I've Got to Know」をしっとりと歌います。続いてはアーロのもう一つの代表作スティーブ・グッドマン作の「City of New Orleans」。アーロがノードを弾きながら歌います。ライにも言えることですが歌声も変わらないどころか、70年代より迫力が増しているようにも思えます。本編はここまで11曲。もちろんアンコールがあります。自分も立ち上がって拍手を送りました。

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12弦ギターを弾くアーロ

彼らがアンコールでたいてい演奏しているウッデイの「My Peace」がやはり歌われました。素敵なメロディが胸にしみます。持ち時間よりけっこう早く1時間程度でアーロのステージは終了です。70年代のアルバムに入っていた持ち曲には、たくさんいい曲があるので、そういった曲ももう少し歌ってほしかったけど、とにかく生でアーロが見れたというだけでも満足です。ファミリー・バンドもシンプルといえば聞こえはいいのですが、超テクのミュージシャンをたくさん見たあとには少しものたりない気がします。エイブはほとんど目立つこともなく、アーロのサポートに徹していましたし。しかし、フォークはテクニックではなく、気持ちや言葉を届けることだし、言葉が十分にわからない自分にも、その想いはたくさん伝わりました。彼らはガスリー・ファミリーという重いものを背負っているわけですが、アーロ、サラ、エイブはその重さを担っていることをけして表に出さず、自分たちのスタンスで音楽を紡いでいるように感じました。

この日はライ・クーダーはバンクーバー市内のジェリコ・ビーチ・パークに移動し、バンクーバー・フォーク・フェスティバルの出演に備えているでしょうから、けして共演がないことは承知していましたが、たとえば、前日のライのステージで1曲くらいアーロがゲストで歌うかなという淡い期待はありました。70年代前半はよく共演していた二人ですが、1974年以降はアーロのアルバムにライが参加することもないので、今は接点は切れているようです。しかし、ライは毎ステージでウッディの「Vigilante Man」をとりあげていますし、形は違っても、アーロもライもウッディ・ガスリーという偉大なシンガーの遺産を未来に届けようとしていることは共通しています。

シアトル&バンクーバー島旅行記10 バンクーバー・アイランド・ミュージック・フェスティバル3日目後半

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エラージ・ジウフと彼のバンド

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エラージ・ジウフ

次は、再びコンサート・ボウル・ステージに戻ると、エラージ・ジウフのステージが始まっています。彼はもともとアフリカン人、パーカッショニストとして多くのセッションをこなしていますが、1996年からカナダに定住しているようです。首から下げたジャンベを叩きながら歌う姿は圧巻そのもの。サポートするアフリカ系のギタリストもリンガラ音楽などのエッセンスを凝縮したテクニシャンです。ドラムとベースは白人で、ベーシストは若い女性でしたが、なかなかのグルーヴ感です。このイベントは、ホントに多ジャンルで、その意味ではニューオーリンズのジャズフェストに近いものがありますが、カナダでも彼らのようなワールド・ミュージックのミュージシャンが活躍しているというのは頼もしく感じました。3曲ほどで彼らのステージのラスト・ナンバーとなってしまい、その曲はレゲエ調でした。もう少し長く聴きたかったです。

さて、続いてはグリアーソン・ステージで「Guitar Much or What?」というセッションを見に行くことにします。ステージの真ん前にも空いた場所があったので、最も上手に場所を確保しました。時間は午後3時過ぎ、背中につきささる夏の日差しはさすがに暑いですが、空気は乾燥しています。このセッションに参加するのは、マーティン・シンプソン、ラリー・キャンベル&テレサ・ウィリアムズ、イヴ・ゴールドバーグ、トライ・コンチネンタル、ドン・ロス、ロブ・アイクス&トレイ・ヘンズリーの6組と、自分が見たセッション・ステージの中では最多の出演者です。

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トライ・コンチネンタル

このステージのホストは地元カナダのトライ・コンチネンタル。全然スリムじゃないのにマダガスカル・スリムという名前のアフリカ系の方と、白人2人のトリオ。白人のうち一人はガット・ギター、もう一人はエレキです。二人ともどことなくジョニー・ウィンターを連想させる風貌で、ロックやブルーズとアフリカ音楽を融合した面白い音楽をやっています。みんな中年の域に達していると思いますが、マダガスカル・スリムのギタープレイはなかなかすばらしいですね。同じコード進行を繰り返すパターンの曲をやってましたが、1曲目とあって、セッションは控えめでした。

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ギター・マッチ・セッションでのドン・ロス

2番手はドン・ロス。さっきのワークショップでもやっていた「Michael, Michael, Michael」をプレイ。超絶テクニックに聴き入る他のミュージシャンの表情を見るのも面白いです。

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ドン・ロスのプレイを凝視するマーティン・シンプソンやラリー・キャンベルたち

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ギター・マッチ・セッションでのロブ・アイクス&トレイ・ヘンズリー

最も上手に陣取るロブ・アイクス&トレイ・ヘンズリーも、目にも止まらぬ速さのドブロ&アコギのクロスピッキングで、観客のみならず共演者達に強い印象を与えた模様。この一巡目ではリフが特徴的なインストを演奏しました。

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ギター・マッチ・セッションでのマーティン・シンプソン

マーティン・シンプソンはボトルネックを使った比較的おとなしい歌もので勝負に出ます。ボトルネックですが、そこはかとないケルティックな雰囲気を醸し出しています。

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ギター・マッチ・セッションでのラリー・キャンベル&テレサ・ウィリアムズ

ラリー・キャンベル&テレサ・ウィリアムズは、昨日も演奏した「Somson & Delilah」をとりあげ、ラリーは見事なクロスピッキングを聴かせます。

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イヴ・ゴールドバーグ

次は地元カナダのイヴ・ゴールドバーグですが、MCで「この後に何をやればいいというの? わたしのオリジナルのインストはラジオ局の番組のテーマに使われてきたけど、きっとクビだわ。」というようなことを言っていましたが、意を決して、その持ち曲のインスト「Watermelon Sorbet」を演奏します。それまでのミュージシャンに比べてテクニック的には劣っているかもしれないけれど、「Freight Train」などの系譜を引く暖かみのある演奏はとってもよかったです。途中からリズム隊なども加わり、いいセッションになりました。

二巡目、トライ・コンチネンタルは、今度は白人ギタリストが主導。ブルージーな演奏はなかなか魅力的。だんだんセッションの輪が広がっていきます。ドン・ロスは二巡目もインストですが、「キーはEm」といって、「I IV V II VI」という感じで進行を参加者に示しながら演奏しセッションを促します。高度なギタリスト達のセッションは見応えがありますね。ロブ・アイクス&トレイ・ヘンズリーは、ドク・ワトソンの歌ものをカバー。もちろん二人の曲芸の域とも言える超絶プレイで観客を魅了。ラリー・キャンベル達も彼らのプレイを凝視しています。マーティン・シンプソンの二巡目は、ボトルネックを使わず変則チューニングによるモダールな演奏。さっきの曲以上にケルティクな雰囲気が出ていました。ここで時間もきたようで、ラリー・キャンベル達が締めのナンバーを主導します。曲はデューク・エリントンの有名曲「Caravan」。MCでナッシュビルのスティール・ギタリスト、ベン・キースの名前が出てきます。出始めは、ラリー一人でリズムもメロディもこなしますが、だんだんセッションになって、色んなミュージシャンがソロをとっていきます。このステージにもとっても満足。バンクーバー・アイランド・ミュージックフェストがますます好きになりました。

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ジョッシュ・ホワイトJr.

次は再びウッドランド・ステージに戻り、ジョッシュ・ホワイトJr.を見ます。そうです。ライ・クーダーがカバーした「One Meat Ball」で著名な往年のアフリカン・アメリカン・フォーク・シンガー、ジョッシュ・ホワイトの息子です。彼もライやアーロと同世代なのでしようか。達者な白人のベーシストを従え、コードストロークのフォーク調の曲で幕開けです。2曲目はキャロル・キングが書き、ドリフターズが歌ってヒットした「Up On The Roof」。まぁ、味があってよいのですが、ギターの調子が悪いみたいで、曲中でチューニングをいじり、あまり曲に集中できません。いい声はしているのですけれど、聴いていて今一つ乗り切れません。「親父も歌った歌です。」といってはじまったのは「Careless Love」。ブルージーな味わいもあっていいのですが、この曲が終わったところで他のステージを見に行くことにします。

水分を補給したあと、また背中への日差しがきついですが、グリアーソン・ステージに戻って「Message In A Bottle」というセッションを見ることにしました。南部のブルーズ・マン、テリー・ハーモニカ・ビーンと、昨日見たデイヴ・ケリーとクリスティーン・コリスターのデュオが出るのが楽しみです。他の出演者は、スイート・サンタ・フェ、セリー・カーディナル、マット・エップとカナダのミュージシャンばかりです。このステージのホストはさっき見たマット・エップ。マットからはじめるのではなく、ステージの最も下手のスイート・サンタ・フェから演奏がスタートです。

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スイート・サンタ・フェ

このユニットは、白人女性ボーカルにアフリカ系のギタリストの二人組、それにベースとパーカッションのサポートがつきます。これまで、どこのステージでもPAが上手だったのですが、このステージでは最初のうちベースの音がかなり大きくバランスが悪かったです。音楽はラテン系の曲でギターもボーカルもなかなかの表現力です。

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セリー・カーディナルのグループ

2番手は「Sweet Soul in any Style」にも出ていたセリー・カーディナル。MCで「私はロック・スターになりたかった。」と言ったら、客席から「Never Give Up!」と2名ほど反応します。そしたらセライアは「今はフォーク・スターを目指してるわ。」なんて言ってます。それで、少しカントリー調の軽快なナンバー「My Muse」を演奏しました。

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セッション・ステージでのマット・エップ

次はステージの中央に陣取るマットの番となりますが、彼のお気に入りでメッセージ性も高い「This Old House」をここでも演奏しました。

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テリー・ハーモニカ・ビーン

続いてはハーモニカ・ビーン。期待のブルーズ・マンですがMCは訛りがきつくてあまり意味がわかりません。ほとんど一人で弾き語りで演奏しましたが、だんだんリズムが走っているように感じました。歌は力強く、いい声をしています。デイヴ&クリスティーンは昨日も演奏したタウンズ・ヴァン・ザンドの「Poncho&Lefty」をここでも演奏。デイヴはMCで、この曲に込められたメッセージに共感しているので、このステージで取り上げたという意味のことを言っていました。

二巡目、スイート・サンタ・フェはスペイン語のボッサを披露。なかなかかっこいいではないですか。この頃にはPAもいい感じになっていました。次のセリーはしっとりとしたバラードのラブ・ソングを歌い上げました。たぶん「Winter」という曲だったと思います。この曲ではサンタ・フェの女性ボーカリストがサポートしていました。続いてはホストのマット・エップ。フォーキーなナンバーをしっかりと決めます。この曲ではセリーのギタリストやデイブもセッションに参加します。ハーモニカ・ビーンはさっきの曲よりどっしりた感じのブルーズを演奏。デイヴ・ケリーやリズム隊がサポートしなかなかの盛り上がりを見せます。

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「Way Down In The Hole」をプレイするデイヴ・ケリーとクリスティーン・コリスター

ラストはデイヴ&クリスの番。クリスティーンがリード・ボーカルで、トム・ウェイツの「Way Down In The Hole」をカバー。どちらかというと、デヴィッド・リンドレーがスライドを弾いているファイブ・ブラインド・ボーイズのバージョンを下敷きにしているようです。もちろん、デイブはボトルネックで大活躍。なごやかな雰囲気でセッションは終了しました。

さあ、時間は午後6時を過ぎ、いよいよフェスも大詰めとなってきました。これからの時間はメインのコンサート・ボウル・ステージで過ごすことにします。間もなくスリー・ウィメン・アンド・ザ・トゥルースの出番ですが、最前列には余裕があります。まだ客席は日なたで、少々暑いですが芝生に敷物を敷いて座って楽しむことにします。

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スリー・ウィメン・アンド・ザ・トゥルース

スリー・ウィメン・アンド・ザ・トゥルースはその名のとおりアメリカの3人の女性シンガー達によるグループ。上手には朝のゴスペル・ステージでも見たエライザ・ギルキソン、中央に髪の長いグレッチェン・ピータース、下手にメアリー・ゴーティアの3人がそれぞれギターを手に並んでいます。まず中央のグレッチェンが歌い、グループ名の由来について説明します。スリー・ウィメン・アンド・ザ・トゥルースという名前は、3人でユニットを組むときに、レコード会社がつけたもので、「3 Quarter for the Truth」というカントリー・ソングにちなんでいるそうですが、「真実は女性ではないけれど、女性になりたい3人」という意味にとられて閉口したみたいなMCで観客の笑いを誘います。

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グレッチェン・ピータース

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エライザ・ギルキソン

2番手はエライザ。まず「Roses at the End of time」をプレイ。落ち着いた語り口です。

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メアリー・ゴーティア

3番手はメアリー。短髪で衣装も含め3人の中では最も男性的な雰囲気。曲は「Last of Hobo King」。曲の大半は「語り」のトーキング・ブルーズ調。どことなくルシンダ・ウィリアムズを連想させますが、彼女よりも歌は確実に上手く、印象的な歌声に引き込まれます。どこかで聴いた曲だなと思って、帰国してから探してみると、ジョー・ヘンリーがプロデュースした彼女のCD持ってました。で、この曲が収録されておりました。

彼女達の演奏スタイルはいたってシンプル。リード・ギターもほとんどなく、主役がほぼ1人で最初のバースか1コーラスを歌うと、サビか2巡目から他のメンバーがギターやコーラスで控えめにサポートするというもの。しかし、三人の存在感が際立っているので、全く飽きさせません。歌う順番は、グレッチェン→エライザ→メアリーと固定されていて、5巡。全15曲が演奏されました。グレッチェンは髪が長く、声も高くて最も女性的、メアリーは前述のようにもっとも男性的で、その中間がエライザといったところ。三人とも十分な落ち着きとカリスマ性をたたえており、けして若くはなく、人生の酸いも甘いも噛み分けているかのようです。彼女たちの使用ギターは、グレッチェンがマーティンのOOO-28のコピーモデル。エライザはギブソンのCF100E。自分が歌うときにはドレモロを使って空間的なサウンドを出していました。メアリーはギブソンのサザン・ジャンボ。みんないい音でした。グレッチェンが1曲「Truck Stop Angel」でピアノの弾き語りをした以外は、すべてギターの弾き語り。彼女の曲では、「Disappearing Act」、「Arguing with Ghosts」などが印象に残りました。エライザはメロディ・メーカーとしても優れた資質をもっているようです。「In The Name of The Lord」、「Touchstone」、「Slouching Toward Bethlehem」などを演奏しましたが、典型的なフォーク調で素敵なメロディをもつ「Touchstone」、マイナーゴスペルのような「Slouching Toward Bethlehem」が特にいい感じでした。メアリー・ゴーティアは最も骨っぽい歌を歌います。政治的にもリベラルで、「この曲を共和党に捧げる」なんて言いながら歌ったのは「Soldiering On」だったと思います。ほかにも「Another Train」などもやっていましたが、彼女達の出番のラストに演奏されたメアリーの「Stronger Together」はほのぼのとしたいい曲でした。スリー・ウィメン・アンド・ザ・トゥルースのステージは、このミュージックフェストの出演者のなかでも、個人的にはかなり上位に入る内容でした。自分のように英語を十分解せない人間にも、迫ってくるものを感じさせてくれました。

次はいよいよアーロ・ガスリーの出番。ステージに最も近い同じ場所に座ったまま、彼のステージが見れるなんて夢のようです。アーロのステージについては別稿を用意します。

アーロのステージが予定より少し早く終わり、ヘレンの他に男性司会者が出てきて、後援するラジオ局のTシャツを客席に向かって投げます。どういうわけか、運良く自分のところにも一着飛んできました。そして、この時間を利用して抽選がはじまります。そういえば、チケットを購入するとき最終日に抽選があるようなことが書いてあったなぁ。最後まで観客を残そうとする試みなんでしょうけど、自分は申し込んでないし、さすがにお腹がすいてきたので、夕食をとることにします。移動販売車の中から「ドラゴンボール」と書かれたメニューを選びました。どんな食べ物かと思ったのですが、一言で言えば「サラダ丼」。どんぶりの底に薄くライスがひかれ、その上に大量の中国生野菜。キワモノのような感じですが中国系ナッツも入っていて、これが案外いけます。きわめてヘルシーで一緒に頼んだ中国茶もおいしかったです。

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ドラゴン・ボール

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この日もステージ脇でこんなアトラクションが

このフェスも残すところ2ステージとなりました。時間は夜9時近いですが、まだ少し明るいです。朝のゴスペル・ステージでも見たカナダはウィニペグを中心に活動するブラザーズ・ランドレスの登場。思った通り、彼らはオールマン・ブラザーズ・バンドを彷彿とさせるサザン・ロック系のバンドです。編成はギター×2、ベース、ドラムス、キーボードの5人。ボーカル・ギターのジョーイ・ランドレスとベースのデイヴィッドが兄弟で、このバンド名となっているようです。ジョーイはP-90が搭載されたゴールド・トップのレスポールでボトルネックを弾いていますが、使用ギターにも、サウンドにもデュエイン・オールマンの影響が感じられます。そうかと思うと、数年前の映像ではクーダーキャスターを使用しているものもあり、ライ・クーダーからの影響も十分に受けている模様。

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ブラザーズ・ランドレス

最新のミニ・アルバムからポール・マッカートニーのカバー「Let 'em In」、自作の「Gone Girl」や「Made Up Mind」といった曲が演奏されます。また同じカナダのゲス・フーのカバー「Share The Land」なんかもやってました。後半、オールマン風にザ・バンドの「Life Is A Carnival」をカバー、続いて「ライ・クーダーがギターを弾いていた曲です。」というMCを入れジョン・ハイアットのカバー「Alone In The Dark」を決めてくれました。そのまま曲はノリノリのロックンロール「Runaway Train」に続きます。この曲では間奏でバッキングが静かになったときの、ギター二人の掛け合いがなかなかスリリングでした。

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ギター二本だけをバックに静かに聴かせるコーナーも

その後、ドラム、ベースが楽器を持たず、エレキ・ギター2本だけをバックに4人のハモリをフューチャーしたコーナーで2曲演奏するとか、変化をつけ、緩急を使い分けたプレイで約1時間少々のステージをつとめ、聴衆を魅了しました。時間は10時30分を過ぎています。

ブラザーズ・ランドレスのステージが終わり、次は大トリでレゲエのエクスコ・レヴィ&ハイ・プリエストですが、さすがに来てから約13時間。引き上げることにします。その前に、もう少し腹ごしらえ。移動販売車でミートのタコスを注文。ホットソースもいれてもらって、けっこううまかったです。

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この日最後の食事 タコス

バス乗場に行くと、オクナガンというところから来たというご夫妻と、地元の方らしい女性がバスを待っていて、雑談になりました。自分がライ・クーダーを見るために、このフェスに日本から来たというと、みんなびっくりして握手してくれました。日本の話題から「寿司は好きですか?」と聞くと奥さんの方が「わたしはベジタリアンだから、魚は食べるけど、この人は何でも食べる。」なんておっしゃっていました。みんな、フェスが終わってハイになっていて、見たアーティストの感想などを言い合っています。ご主人の方はロイヤル・ノースというロックバンドがよかったようです。自分も気になっていましたが、今回は初日の13日金曜と、さきほどのグラッシー・ノールに出ていて、自分は縁がなかったみたいです。奥さんの方は、アイリッシュ・マイセンがよかった、K.D.ラングのようだった。それからジャジーなココ・ラブ・アルコンもよかったと言ってました。どのミュージシャンも今回見れなかったので、Youtubeなどでチェックしておこうと思いました。このとき、コートニー行きのバスに乗り込んだのは10人に満たなかったですが、市内に着くまでのわずかな時間、知らない同士で話ができました。みんな自分より少々年上のようですが、フェスティバルを十分に楽しまれたようです。自分が泊まるホテル前で降ろしてもらったのは、会話の輪の中にはいなかった男性が1人。「Goodnight」とあいさつをして別れ、フロントのところでは昨日自分を待っててくれたインド系のホテルマンが、「今日は早かったね。」と迎えてくれました。

シアトル&バンクーバー島旅行記9 バンクーバー・アイランド・ミュージック・フェスティバル3日目前半

7月14日は、ホテルへの帰着が深夜2時となったため、就寝したのは午前3時近い時間になりました。ミュージックフェストの会場へのシャトルバスは、朝8時から巡回しており、最初のステージは朝10時からです。眠い目をこすって15日は朝8時30分に起床し、支度をし最小限の荷物を持って、クォリティ・フードに徒歩で向かいます。出発は朝9時前。昨夜通った道ですが、快晴の空の下、きれいな街の様子がわかります。道路は片側2車線ですが、日本よりかなり広い感じです。バンクーバー島最南端にある大きな町、ビクトリアからここコートニーまでは鉄道が通じていたのですが、2011年に廃止になりました。ホテルからバス乗場となっているショッピング・モールへ行く途中には鉄道で使われていたSLが保存されていました。

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コートニーの国道沿いに保存されているSL

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道はとても広い 日本車多い

ショッピング・モールに着いたとき、ちょうどバスが出発して大通りに出ようとするところだったので、手を上げると、今度は停まってくれました。料金の2ドル硬貨を運転席横のバケツに入れ、フェスの会場に向かいます。お客さんは2人しかいません。ほんの15分ほどで会場に到着です。写真を撮りそびれましたが、ニューオーリンズのときと同じようなスクール・バス。ブルーに塗られていたので、払い下げられて観光用などに用いられているものかもしれません。

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会場近くにはラベンダーのような花が咲いていた

会場入り口の受付には今日もキミコさんがいらっしゃいました。少しお話をしたのですが、彼女は日本名を持っているがハーフで日本語は話せないこと、親は福岡出身だということでした。昨日、フェス各所の移動販売車がブレックファストを出していることを確認していたので、演奏開始に遅れないよう、先に会場にやってきて正解のようです。いくつかの移動販売車の中からポテトの朝食とアイス・コーヒーを選び食します。どんなのかなと思っていると、揚げたポテトが出てきました。朝から少々ヘビーですが、なかなか美味でした。

このフェスの面白いところは、ヘッドライナーの大物をのぞいて、多くのミュージシャンが自身の1時間前後のステージとは別に、複数のセッション・ステージに出演することです。セッション・ステージは、ほとんどが土日の日中で、4〜5組で構成されることが多いようです。だから、見たいミュージシャンがかぶって、片方を見逃した場合でも、こういうセッション・ステージで何曲かは楽しめるし、何よりも、この日はじめて顔を合わせたようなミュージシャン同士で、即興のセッションが行われるのが魅力です。

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ゴスペル&スピリチュアル・セッション

一番大きなコンサート・ボウル・ステージでは、日曜の朝とあって「ゴスペル&スピリチュアル・セッション」が行われます。昨夜大活躍のシャクラ・セイーダも出演するし、もちろんゴスペルも大好きなので、このステージを見ることにします。まだ、朝なので涼しいですが、この日も快晴で午後はかなり気温が上がりそうです。開演時間を少々過ぎて、出演者がずらりとステージに並びます。一番広いステージですが、バックバンドを含めた5組のメンバーが並ぶと、いっぱいいっぱいのようです。出演はシャクラと彼女のバンドのほかに、ロックのブラザーズ・ランドレス、ブルーグラスのロブ・アイクス&トレイ・ヘンスレイ、カントリーのトレイシー・リン&ザ・サベイジ・ハーツ、そしてシンガー・ソングライターでスリー・ウイメン・アンド・ザ・トゥルースのエライザ・ギルキソン。こういうセッション・ステージでは、誰かが仕切り役をするようで、このステージでは、シャクラがその役でした。彼女がまず出演者を紹介。最後に自己紹介のとき「I am Donna Summer.」と冗談を言っていましたが、これは前夜のライ・クーダーのパクリだな、と、一人でにんまりしておりました。

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シャクラのグループが、モーンを歌う

まず、そのシャクラのバンドから演奏をはじめるのですが、1曲目は彼女のレパートリーから「Clap Your Hands & Moan」と「Devil Only Knows My First Name」のメドレー。シャクラ、彼女のバンドのベーシスト、ギタリストがアカペラで歌い始めますが文句無くかっこいい。途中からサビのメロディをなぞるチャック・キャンベルのスティールやブラザーズ・ランドレスのメンバーによるオルガンも活躍し、一発目から濃ゆい演奏に大満足です。いうまでもなく、スピリチュアルやブルーズの元となったアフリカン・アメリカンの「うめき」唄を題材にしたナンバーです。続いてはステージのもっとも下手に陣取るカナダのトレイシー・リン&ザ・サベイジ・ハーツ。曲はI'll Tell You The Best Thingとフレーズが繰り返される「Two Coats」と思われます。彼女達は、ギター、フィドル、マンドリンの3人組。こういうホワイト・ゴスペルもお手のもののようです。途中から、チャック・キャンベルのペダル・スティールがカントリー風のリックを繰り出します。こういうプレイもできるとは驚きです。

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ロブ・アイクス&トレイ・ヘンスレイ

次に登場するのは、アメリカからロブ・アイクス&トレイ・ヘンスレイ。全然知らない人達だったのですが、フェスのホームページから動画を見てびっくり。トニー・ライスとジェリー・ダグラスみたいな超絶テクを持ったデュオです。曲はバーズも『The Sweetheat of Rodeo』でとりあげた「I am a Pilgrim」。やはり二人がかけあうギター・テクに目が釘付けになります。ドラムとベースは、シャクラのバンドと、ブラザーズ・ランドレスのメンバーが交互に演奏しているようですが、アクースティクな演奏とあって控えめなプレイです。

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ブラザーズ・ランドレス 右端にエライザ・ギルキソン

次はカナダのブラザーズ・ランドレスの登場。今夜は同じステージで単独のライブもあります。アーシーなロック・バンドですが静か目な演奏です。途中からロブ・アイクスがドブロでからんできます。そして、次のエライザ・ギルキソンはしっとりしたナンバーを歌っていました。シャクラの2曲目はゴスペルの「Steal Away」を披露。もちろん、チャックのセイクリッド・スティールは大活躍。このあたりから後半のセッション大会が盛り上がります。続いてサベージ・ハーツによる「Old Time Religion」の登場。シャクラもマイクをもってコーラスに参加です。

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シャクラ・セイーダ 左側にチャック・キャンベル

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サベージ・ハーツとシャクラ

ラストはエライザをフィーチャーして「Down By The Riverside」。「lay down my burden…」という歌い出しだけで涙が出そうになります。もちろん、1コーラス目のサビからバンドの演奏となって盛り上がります。朝1番からいいものを聴かせてもらいました。シャクラの進行もすばらしくまとまったステージとなりました。始まりが押したので、演奏時間はおおむね1時間だったと思います。

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アット・ザ・クロスロード

次もいろいろ魅力的なステージがあって目移りしますが、昨日チラリと見て力量がすばらしかったカナダのインスト・ギタリスト、ドン・ロスのワークショップに行きます。会場はウッドランド・ステージのさらに奥側、川よりのところにある「アット・ザ・クロスロード」。ウッドランド・ステージよりさらに小さく、木々に囲まれた快適な場所です。やや砂っぽい地面に敷物を敷いて座り開演を待ちます。お客さんは50〜60人くらいでしょうか。自分はアコギのインストは好きですが、ブルージーなものを好みます。近年もてはやされている「叩き系」とか、アンプリファイズしないと聴き取れないような小音で弾くタイプのギタリストにはあまり食指が動きませんでしたが、ドン・ロスは生音もしっかり出ており、タイトなプレイに好感が持てました。まず挨拶代わりに「Michael, Michael, Michael」を演奏。これは早世したギタリスト、マイケル・ヘッジスに捧げられた曲ですね。グルーヴするリズムに速いパッセージ、かっこいいです。

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ドン・ロス

曲が終わると質問コーナー。ワークショップといっても、観覧者にギターを弾かせてくれるとかいうのではなくて、観客のプレイの参考になるようドンが質問に答えるというコーナーでした。最初の質問に対し、ドンはベースノートを弾きながら、「自分が育ったモントリオールでは、ファンクがとても盛んで、最初はベースでスライ&ファミリーストーンとかを演奏していた。ソロ・ギタリストになるとは夢にも思っていなかった。しかし、その時に身に付いたベースのプレイやグルーヴ感はとても役に立っている。」というようなことを話していました。また、彼が使っている特殊なギターは、ベネトウというカナダのルシアーによるファンフレットのギターだそうです。ファンフレットというのは、ブリッジとナットを逆ハの字形につけて、弦の長さが1本1本違うタイプのギター。もちろん1〜5フレットあたりは、フレットも結構傾斜しているので、弾きこなすには慣れが必要と思います。ドンは「このギターは、6弦をCとかB♭に下げても張りがある音が鳴る」と評していました。ちなみに、ギター通販ポータル・サイトを見たら、ファンフレットではない奴ですが、ベネトウのギターは、160万〜200万で出てました。

次の質問は音響機器についてです。まず、ドンは彼のギターにピックアップが3台仕込まれていることを解説。ピエゾとコンデンサー・マイク、トップの裏側につけられたものの3台の音をミックスしてステレオケーブルでアウトしているそうです。続いてエフェクターについて。ドンは足元に置かれたエフェクターを1台1台スイッチを入れて少しずつプレイし解説していきます。ワウ、コーラス、ディレイ、ベース・オクターバー、自動フェード・インのマシン、そしてベース・オクターバー。このエフェクターはまるでベースみたいな音になります。彼はT.C.エレクトロニクスやデジテックの機材を愛用しているようです。

続いての質問は、どんなミュージシャンに影響を受けたかというもの。もちろん、マイケル・ヘッジスからの影響は大きいでしょうが、ジョニ・ミッチェルやブルース・コバーンといったカナダのミュージシャンで変則チューニングを多用する人達の名前が出ました。そして、イギリスのジョン・レンボーンの名も。ドンのすごいところは、そんなギタリストをお手本にしつつも自分のスタイルをつくりあげているところでしょう。歌ものはやらないのかという質問を受けて、「Any Colour But Blue」を披露。曲はもちろん、声もなかなかいいです。後でこの曲の入ったアルバムを購入しました。最後にブルース・コバーンを思わせるインスト「First Ride」で締め。卓越したギター・プレイと演奏解説を聴くことができて有意義なステージでした。

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森の中にはこんなアートも

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レイン・ハミルトンのグループ

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ハーディ・ガーディを演奏するベース奏者

次は、グラッシー・ノールに移動して、カナダのレイン・ハミルトンなるミュージシャンを見ます。ちょうどお昼時になりましたが、まだ空腹を感じないので、カナディアン・ビールを飲みながら演奏を楽しみました。彼女はモヒカン刈りにした若手女性ですが、アコギとバイオリンをプレイするようです。3人編成のアコースティック・トリオで、コントラバスとチェロのメンバーを従えています。ちょうど席についた時、コントラバスのメンバーが楽器をハーディ・ガーディに持ち替えたところでした。ドノヴァンのアルバム・タイトルで知られた楽器ですが実際に目にするのと、音を聴くのは初めてです。なかなか素朴で不思議な音がしますね。レインがバイオリンを弾く弦楽3重奏や、二人のサポートメンバーを下がらせてレイン一人の弾き語りもありました。彼女達のステージは後半のみでしたが、なかなか好感が持てました。また、彼女の歌にはなんとなくアイリッシュ・ルーツを感じました。

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通りがかりにチラリと見た、小中学生によるマリンバ・パーカッション・バンド「ザズ」。あなどれません。

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マット・エップ

レインのステージが少し早く終わったので、ウッドランド・ステージにカナダのシンガー・ソングライター、マット・エップを見に行くことにします。彼はベーシストをサポートに従え、ギブソンJ-45をストロークしながら歌っていました。このフェスの出演者の中では若手でしょう。マイナーキーの曲が多かったようですが、「Good Lover」、「Never Have I Love Like This」といった自作曲をやっていました。そしてラストは、このフェスの出演者のエライザ・ギルキソンのデュエットでレコーディングした「This Old House」でした。サビのリフレインを聴衆に歌わせ一体感を醸し出していました。少し線が細い感じはしますが、なかなかいい感じのシンガー・ソングライターです。

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グリアーソン・ステージ

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ウッディの歌を歌う、スリー・ウィメン・アンド・ザ・トゥルースとアーロ・ガスリー

このあと、出演者のCDを買って、グリアーソン・ステージの前を通ると、すでに「What Would Woody Do?」というテーマのステージをやっています。ステージにはジョッシュ・ホワイトJr.やスリー・ウイメン・アンド・ザ・トゥルースのメンバーとともに、アーロ・ガスリーの顔も見え、彼女達がウッディ・ガスリーのナンバーを歌っています。ライ・クーダー・ファンとしては、このステージを見ておいた方がよいのかも知れませんが、アーロは今晩コンサート・ボウル・ステージで見るし、ザ・バーンでの「Sweet Soul in any Style」のセッションを聴きたかったので、そちらに急ぎます。この二つのコーナーはどちらも1時30分からだったはず。しまった時間配分を間違えた。「Sweet Soul in any Style」ももうはじまっています。

ザ・バーンは唯一の完全奥内会場。もちろん「納屋」という意味です。日陰で涼しいかと思いきや、中は割合蒸しています。会場の中は暗く、ステージは照明に照らされており、たくさんのミュージシャンが並んでいます。そのとき歌っていたのは、セリー・カーディナル。サングラスをかけ派手な衣装。エレキとアコギの男性2名がサポートしています。なかなかいい声です。

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ロブ・リューツとサポートするラリー・キャンベル

次はこのステージのホスト役らしいカナダのロブ・リューツが歌うのですが、曲紹介で何とウォーレン・ジヴォンの「Mutineer」を演るというではありませんか。しかも、ラリー・キャンベルがマンドリンでサポート。彼の声もハスキーでソウルフルです。

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ウェスタン・センチュリーズ

続いてはシアトルを中心に活動するカントリー・バンド、ウェスタン・センチュリーズの登場。ベテランらしいグループですが、ギター×3で、1名はドブロ、1名はエレキ、ベースはウッド・ベースにドラムといった5人編成です。リード・ボーカルは曲によって交代するみたいです。続いての登場はラリー・キャンベル&テレサ・ウィリアムズ。今日のテレサは黄色いペプラムを着ています。この時歌ったのはテレサがリード・ボーカルの「Save Me From Myself」だったと思います。少しカントリーの香りのする静かなバラードですが、後半テレサがソウルフルに熱唱します。次はカナダはウィニペグを中心に活動しているセバスチャン・ガスキン。ストラトキャスターの弾き語りで、この中ではもっともコンテンポラリーな香りのする音楽ですが、基本的にシンガー・ソングライターだと思います。なかなかいい喉を持っています。

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セリー・カーディナルのグループ

順番は再びセリー・カーディナル。今度は三連リズムのソウル・バラードでした。おそらく「There Ain't No Way」という曲だったと思います。そして、ロブ・リューツがスリーピー・ジョン・エステスの「Drop Down Baby」をプレイしますが、スリー・コードのブルーズなのでいい感じのセッションになります。続くウェスタン・センチュリーズはさっきとは違うボーカリストが歌います。

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ラリー・キャンベル&テレサ・ウィリアムズ

そして、ラリー・キャンベル&テレサ・ウィリアムズの番となり、予想どおり共作者のウィリアム・ベルの名前が出て、「When I Stop Loving You」が演奏されました。昨日のグラッシー・ノールでの単独ライブのときはやらなかったので、きっとこのステージでやってくれると思っていました。リード・ボーカルはラリーでホント素晴らしい曲。ウィリアム・ベルの歌でも聴いてみたいものです。

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セバスチャン・ガスキン

続くセバスチャン・ガスキンも負けじと熱演です。だんだんセッションらしくなり、ベースやドラムが入って盛り上がってきます。このあたりで、残り時間がわずかとなったようで、ロブ・リューツが最後の曲としてビージーズの「To Love Somebody」を演奏しようと提案します。この曲は、オーティス・レディングのために書かれましたが、彼は完成を前に飛行機事故で他界してしまいました。自分には映画『小さな恋のメロディ』でビージーズのナンバーとしておなじみの曲ですが、ジェームズ・カーやロバータ・フラック、ジャニス・ジョップリンなど多くのシンガーが取り上げています。ロブが歌いはじめると、ウェスタン・センチュリーズがすかさずバックアップ。センチュリーズのリード・ギタリストだけでなく、セバスチャン・ガスキンやラリー・キャンベルもギター・ソロをとり、大いに盛り上がりました。

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スゥイート・ソウル・イン・エニィ・スタイルのエンディング

シアトル&バンクーバー島旅行記8 Ry Cooder Live in Vancouver Island Musicfest 2018.7.14

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Ry Cooder with his band

コンサート・ボウル・ステージは、セットチェンジの間にすっかり陽が落ち、夕闇に包まれています。パッセンジャーを見たあと、帰るか、腹ごしらえをするかでたくさんの人々がコンサート・ボウル・ステージを離れるので、それと入れ違いに、なんとか最前列やや上手にすべりこむことができました。ミュージシャンの表情まで読み取れる近さ。9年前のライ・クーダー&ニック・ロウ大阪公演のときも、かなり近かったけど、これほどではありません。ニューオーリンズのジャズフェスなら、最前列でも、ステージからもっと離れていることでしょう。ヨアヒムのドラムセットはすでに組まれており、スタッフが手際良くメンバーの機材を並べています。サウンド・チェックとかはない模様。ライが使用する楽器は、昨日のシアトル公演と全く同じもののようです。このポジションからライを見れるというのは本当にラッキー。はるばるバンクーバー島までやってきた甲斐がありました。なお、この日は最初からキーボード類はステージ上になく、キーボード・ミュージシャンは後半のツアーには同行していない模様です。

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ライ・クーダーのギターのヘッド

スタッフからのOKサインが出て、MCのヘレン・オースティンがライを紹介。バンド・メンバー全員がステージに登場します。このツアーではたいてい1曲目は「Nobody's Fault But Mine」からはじまるのですが、フェスとあって、前の出番のミュージシャンがつくった盛り上がりをそがないよう、ノリのいいバンドの曲からのスタートに替えたのでしょう。この日の1曲目は「Everybody Ought to Treat a Stranger Right」でした。ライは昨日とほとんど同じいでたち。昨日とは違うシャツかもしれませんが、濃紺のシャツにレインボー・カラーのネクタイ。頭にはニット帽をかぶっています。ギターは豹柄ピックガード、サンバーストのストラト、やはり間奏ではご機嫌なボトルネックを聴かせ、昨日よりも力が入っているように聴こえるのは、やはりフェスだからでしょうか。会場にはパッセンジャーを見に来たり、フェスをお祭りとして楽しみにきた若い人たちがはしゃいでいたりしますが、自分のまわりの同年輩の白人聴衆は熱心にライを見つめています。もちろん、ステージ前は総立ちのまま。踊っている若い人もいました。ライは短いMCで、「いいサウンドだね。」とフェスのPAを褒めていました。

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サンバーストのストラトを弾くライ

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ダフネ・ブルーのストラトを弾くライ

2曲目、ライはダフネブルーのストラトキャスターをつま弾きはじめ、自らのギターだけをバックに歌い始めます。昨日と同じく新作の1曲目に収録されている「Straight Street」です。昨日と同じく、「Straight Street」と歌う部分は「まっすぐ」という感じで左手を上げて上方を指差します。そのまま同じギターでを「Go Home Girl」をはじめるという構成も前日どおりです。4曲目はやはりファンキーなナンバー「The Very Thing Makes You Rich Makes Me Poor」です。ライは昨日同様Open Dの豹柄ストラトの2弦をAからBに上げてプレイをはじめます。間奏はこの日もサムが大活躍。ファンキーな曲がフェスの会場をぐいぐい盛り上げます。この曲のあと、昨日同様ハミルトーンズのコーナーになり、一旦ライは退場です。

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バス・サックスを吹くサム・ジェンデル

ハミルトーンズ、この日は大観衆の前とあって、メンバーも少々興奮気味のように見えます。この日もプレイするのは「Highway74」。ヨアヒム、フランシス、ジェンデルによるバッキングも手堅く、素晴らしい演奏。フェスの聴衆も魅了されたようで盛んに拍手を送っていました。彼らの2曲目はライを呼び戻しての「Gotta Be Loving Me」。ライはやはり昨日同様。ユニボックスの黒いレス・ポールを弾いています。どうやら、このギターのチューニングはOpen Gのよう。この曲でも客席は相当盛り上がっています。

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プレマイヤーのフル・アコを弾くライ

ここで、前日同様ライを残しメンバー全員がバックステージに引き上げます。ライはプレマイヤーのフルアコの弾き語りで、定番曲「Vigilante Man」をプレイします。ライ一人のプレイですが、フェスの聴衆の多くは静かにライの歌とギターに聴き入っています。この日も「トレイボン・マーティンはたった17歳だった。」と、90年近く前のこの歌を現代の歌として見事に蘇らせていました。昨日は、この後に「Jesus And Woody」を演奏しましたが、やはりフェスとあって、弾き語りは1曲だけにしたようです。ギター・スタンドにはマーティンOOO-28が鎮座していましたが、結局この日は使わずじまいでした。

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エレクトリック・ブズーキを弾き歌うライ

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エレクトリック・ブズーキくライ

再びバンド・メンバー全員がステージに戻り、ライはエレクトリック・ブズーキを手に「You Must Unload」をプレイ、続いての「Jesus On The Mainline」で、会場は大いに沸きます。この曲のあと、ライは再びギターを豹柄ピックガードのストラトに持ち替え、カポを4フレットに装着します。はじまったのは、昨日聞けなかった「The Prodigal Son」。ロックっぽいアレンジのこなナンバーはフェスにばっちりマッチしてます。ハミルトーンズのコーラスも見事でバンドの一体感もすばらしいです。そして、カポを3フレットにずらして本編ラストの「Get Rhythm」が登場。エンディング近く、アップテンポの3曲を並べてフェスを盛り上げていました。曲が終わると、バックのメンバーを紹介し、最後はやはり「I am Johnny Cash」って言ってました。

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サンバーストのストラトを弾くライ

もちろん、アンコールもあります。ステージの出口のところで、ライはじめバンドメンバーが並んで出ようとしているのが見えますが、おそらくスタッフが時間が押しているから早くアンコールをやってくれと言っているのでしょう。メンバーがステージに戻ってきました。この日はフェスとあってライはほとんどMCをせず、演奏に専念していましたが、「バックステージにも戻らなかったよ。」と言って、黒いユニボックスのレス・ポールを手にとり、「Little Sister」をプレイしはじめます。この曲も明るく楽しい演奏で、フェスにはぴったり。この曲で、ライともお別れかな、と思ったのですが、曲が終わった後、ライは一瞬、豹柄ピックガードのストラトを手にとろうとします。しかし、レス・ポールのまま、「How Can A Poor Man Stand Such Time And Live」をプレイしはじめました。本当は、ストラトのリアに装着しているオアフ(ヴァルコ)のラップスティールのピックアップで、空間的なボトルネック奏法をプレイしたかったんでしょうけど、フェスとあってチューニングを変える時間がもったいなかったのでしょう。自分としては昨日とは別の楽器でこの曲が聴けてよかったです。やはり時間を気にしてか、この曲でのサムのソロは割愛されていました。というわけで、レス・ポールのチューニングはOpen Gで確定ですね。やはり、この日もヨアヒムのラップトップで歌詞をチラ見していたようです。曲が終わるとライはダフネ・ブルーのストラトに持ち替え「I Can't Win」がはじまりました。本当にラストです。二日続けて、このすばらしい演奏を目の当たりにすることができて、自分は幸せだなと強く感じました。

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レス・ポールを弾き歌うライ

ライのギターについては、前日とほぼ同じ。この日もプレマイアーのフルアコはトラブルの可能性があるのか、ヘッドに「KAWAI」のロゴのように見えたそっくりのギターを開演前にテクニシャンがテストしていましたが、使われなかったようです。思えば、1990年にライ・クーダーとデヴィッド・リンドレーの二人が来日までが、ライが同世代のミュージシャン達との最後のステージだったのではないかと思います(単発の企画ものは除きます)。95年のクーダー・リンドレー・ファミリー・バンド(日本、ヨーロッパ)では、それぞれの息子と娘による4人編成のライブとなりました。それからライのコンサートにはおおむね息子のヨアヒムがドラムス&パーカッションでサポートするようになり、2009年のニック・ロウとのツアー(ヨーロッパ、日本、ニュージーランド、オーストラリア)でも、同世代はニックだけで、ドラムスのヨアヒム、コーラスのジュリエット・コマジェアとアレックス・リリーという息子達の世代の方が人数を上回るようになります。そして、今回のツアーは70代のライだけが飛び抜けて年齢が高く、他のメンバーは全員息子の世代になってしまいました。しかし、この息子達、全くあなどれません。ルーツ・ミュージックを知り尽くしているかのような老獪なプレイができるのです。ライも伴奏の彼らを信頼しきっており、いつになくはじけた様子でギターを弾き、ロックっぽいナンバーを元気にシャウトしていました。

もうひとつ言えることは、ライが今回の新作に並々ならぬ自信を抱いていることです。自分は2日間で新作から6曲を聴くことができましたが、ツアー前半では「Gentrification」や「Shrinking Man」をとりあげており、自分が見た前後には「Harbor of Love」を披露ていましたので、自分の知る限りアルバム全11曲中9曲をツアーのレパートリーとして準備していたことになります。こんなことは『Get Rhythm』ツアー以来のこと(アルバムの全9曲中7曲がレパートリーとなっていた)。彼の中で何らかの回路が切り替わったとしか考えようがありません。願わくば、この元気さを保って、来年の来日と、2年後くらいに更なる新作とツアーを期待したいところです。

setlist.fmというサイトによると、ライ達は、モントリオールのジャズ・フェスではたった7曲しかやらなかったみたいですが、このフェスでは、本編11曲、アンコール3曲と全14曲を演奏してくれました。フェスのキュレーターも務めるダグ・コックスさんが、どうやらライにぞっこんということもあるのでしょうけど、3曲ものアンコールが許されるとは思ってもみませんでした。おそらく1時間30分近く演奏したのではないでしょうか。時計の針は11時30分近くになっていました。自分はフェスの最前列で聴いたということもあるのでしょうが、昨日のホール・コンサートよりもでかい音で、しかもけっこうクリアなサウンドで大満足でした。この日もライさんは大熱演。むしろ、フェスとあって前日よりテンション高めでした。しかし、ギター・プレイにほとんどミストーンはなく、まさに円熟の極みといえる燻し銀のプレイ。彼が少年の頃、目にした往年のブルーズマン達の年代に達し、彼ら同様、アメリカン・ミュージックの神髄をわれわれに伝えてくれる存在となったと思います。フェスには10代くらいの若いお客さんもたくさんいましたが、彼らにはライ達の音楽はどのように聴こえたのでしょうか。

Ry Cooder with The Hamiltones

1. Everybody Ought to Treat a Stranger Right (Full Band, Ry plays Sunburst Stratocaster)
2. Straight Street (Full Band, Ry plays Daphne Blue Stratocaster)
3. Go Home Girl (Full Band, Ry plays Daphne Blue Stratocaster)
4. The Very Thing That Makes You Rich Makes Me Poor (Full Band, Ry plays Sunburst Stratocaster)
5.Highway 74 (The Hamiltones with the band without Ry Cooder)
6.Gotta Be Loving Me (The Hamiltones the band and Ry Cooder, Ry Plays Univox Les Paul Model)
7.Vigilante Man (Ry Cooder solo, Ry plays Premier hollowbody Electric Guitar)
8.You Must Unload (Full Band, Ry plays Electric Bouzouki remodeled from Vox Wyman Bass)
9.Jesus On The Mainline (Full Band, Ry plays Electric Bouzouki remodeled from Vox Wyman Bass)
10.The Prodigal Son(Full Band, Ry plays Sunburst Stratocaster)
11. Get Rhythm(Full Band, Ry plays Sunburst Stratocaster)
(encore)
12. Little Sister (Full Band, Ry plays Univox Les Paul Model)
13. How Can A Poor Man Stand Such Time And Live? (Full Band, Ry plays Univox Les Paul Model)
14. I Can't Win (Full Band, Ry plays Daphne Blue Stratocaster)

Ry Cooder (Vocal, guitar), Sam Gendel (sax), Joachim Cooder (drums), Robert Francis (bass), and The Hamiltones (Vocals)


シアトル&バンクーバー島旅行記7 バンクーバー・アイランド・ミュージック・フェスティバル2日目後半

この次は、グラッシー・ノールでラリー・キャンベル&テレサ・ウィリアムズを見るか、韓国のパーカッション・グループ、ノリウム・マチを見るか悩むところです。コンサート・ボウル・ステージでノリウム・マチを前の方で見て、そのままライ・クーダーのステージに備えるか、前々から見たかったラリー&テレサを見るか。昨日、割合いい場所でライを見ることができたので、今日は少々後ろでもいいやと、思い切ってラリー・キャンベル&テレサ・ウィリアムズを見ることにしました。19時にはすでにノリウム・マチの力強い演奏が始まりました。お隣の韓国のグループをカナダで見るというのも不思議なものですが、彼らの演奏も機会があればじっくり見てみたいと思わせる見事なものでした。

さて、グラッシー・ノールに移動し、囲われた中に入ろうとすると、呼び止められ、もう一つリスト・バンドを巻かれました。ここではお酒が飲めるので年齢制限があるようです。ステージと客席はテントの下。テーブル席がほとんどで、涼しい環境でビールを飲みながらコンサートを楽しめるよい場所です。客席もあまり広くなく、日向のスタンドを入れても300人ぐらいが限界と思われます。自分が着いたときは、前のレッド・チェインバーの演奏が佳境を迎えていました。女子十二楽房みたいな腕達者の中国系女性四人が、琴や二胡、琵琶、月琴をものの見事に演奏しすばらしいアンサンブルをつくっていました。その曲がラスト・ナンバーで客席はスタンディング・オーベイショで応えていました。グラッシー・ノールというのは「草原」という意味のようですが、入り口の手前の芝生からイメージされたものでしょうか。

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グラッシー・ノール

定刻の19時30分が近づき、テント下の座席がいっぱいだったので、地べたに持参の小型シートを敷いて、観客の頭の間から、ラリー&テレサを見ることにします。この日は肝心のライブの時にトイレに行きたくなってはいかんとビールはあきらめました。近くにいた初老の紳士が自分が着ていたCOODER・LINDLEY FAMILY BAND JAPAN TOURのTシャツに気づき、「ライ・クーダーを見に来たのか?」と声をかけられました。ラリー・キャンベルは1980年代のはじめにウッドストック・マウンテン・レビューの一員としてシーンに登場したマルチプレイヤー。この日もギターのほかマンドリン、フィドルを弾きましたが、ペダル・スティールもこなします。1997年から2004年まで、ボブ・ディランのバックをつとめ、その後はテレサとともにリヴォン・ヘルムのバック・バンドで活躍しました。ディランやリヴォンの映像で、彼のアコギの達者なプレイを見て、いつか生で見たいと思っておりましたが、ようやくその思いがかないました。テレサ・ウィリアムズはテネシー生まれ。幼少より教会で歌っており、ナッシュビルに出てカントリー・シンガーになった方。それぞれソロ・アルバムがありますが、今は夫婦デュオで2枚のCDが出ています。思えば6年前、2012年のニュー・オーリンズ・ジャズフェストにリヴォンが出る予定だったので、すごく楽しみにしていたのですが、その直前にリヴォンが歌いながらの長い闘病生活の末、天に召されてしまい、彼をバックアップする二人を見ることもできませんでした。こうして、今回彼らのステージを見ることができるのも、何かの縁だろうと思います。

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ラリー・キャンベル&テレサ・ウィリアムズ

この日はバックバンドはなく、二人だけの演奏です。1曲目は「You've Got to Righten That Wrong」。カーター・ファミリーのカバーで、ラリーの軽快なギターにのせて、テレサがいい声で歌います。テレサは1フレーズを長くのばし、肺活量のあるところを見せてくれます。ラリーはマーティンD-18、テレサはギブソンのJ-200でどちらもとってもいい音で鳴っていました。ラリーは黒っぽいジャケットに髭をたくわえていますが、あごひげが結構白くなっています。テレサはスタイルもよくて若々しく、黒のパンツに白のペプラムに革ベルト、サングラスをかけています。2曲目は二人のファースト・アルバムの冒頭のナンバー「Surrender to Love」。マイナー・キーのロックっぽいナンバーでとってもかっこいいです。ラリーの声はなんとなく日倉士歳朗さんに似ています。この曲のあと、テレサがMCで自分はテネシー生まれで、ナッシュビルとか田舎にいたけど、ラリーはニューヨーク生まれで、フィルモア・イーストがあって、ジミ・ヘンドリックスや、ジャニス・ジョップリンや、グレイトフル・デッドや、ジェファーソン・エアプレインや、ヴァニラ・ファッジなんかを生でみていたので、私はとってもうらやましい、みたいな話をし、カントリー・シンガーとしての生い立ちを少し話して、二人で「You're Running Wild」をプレイしました。明るいカントリー・タッチの曲です。続いて、ラグタイム調のリズムに乗せてラリーが「Everybody Loves You」を歌い出します。サビではテレサが息の合ったコーラス。うきうきしてくる演奏です。このあたりで、テーブル席の数人が会場を後にしたので、そちらに座って見ることができました。続いて、ラリーがマンドリンに持ち替え、何やらリヴォン・ヘルムの話をはじめます。そして、ハンク・ウィリアムズの曲でリヴォンもカバーした「You'll Never Again Be Mine」をテレサが情感たっぷりに歌います。カントリー・ワルツでラリーのマンドリンもいい味を出しています。

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マンドリンを弾くラリー

次の曲はリヴォンの晩年の代表作のひとつ「Poor Old Dirt Farmer」。ラリーは素敵な音色のフィドルを奏で、やはりテレサがカントリー唱法で実に気持ち良く歌います。この曲の前にテレサはサングラスをはずしました。後半はアイルランドのジグのように軽快なフィドルによるダンス・チューンになります。この2曲のリヴォン・コーナーは二人のステージの山場でしょう。この曲の後のMCでテレサはお母さんのダンスの話などに触れていました。

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フィドルを弾くラリー

次はレヴァランド・ギャリー・デイヴィスやピート・シーガー、ピーター・ポール・マリーもレパートリーにしていた「Somson & Delilah」の登場です。この曲でもラリーは実に達者なギターの腕を聴かせ、テレサはギターを持たずに曲に没入しながら歌います。ラスト・ナンバーは二人のファースト・アルバムに収録されているブラインド・ウィリー・ジョンソンのナンバー「Keep Your Lamp Trimmed and Burning」。テレサの感情あふれる熱唱が特に素晴らしいです。もちろん、終了後はスタンディング・オベーション。司会者に促されてアンコールに「It Ain't Goona Be a Goodnight」を演奏します。テレサのカッティングにのせて、ラリーが印象的なフレーズを紡ぐマイナー・キーのカントリー・ナンバーで締めとなりました。後半のクロス・ピッキングは本当に見事。はじめて二人の生のステージに接し、ますます彼らのことが好きになりました。

グラッシー・ノールから、コンサート・ボウル・ステージに移動中、ライ・クーダーのツアー・バスが停まっていることに気づきました。横ではヨアヒムがスタッフとラグビー・ボール投げに興じておりました。

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バンクーバー・アイランド・ミュージック・フェストの会場に停まるライ・クーダーのツアー・バス

時間は夜8時30分。少し陽が傾いている程度でかなり明るいです。コンサート・ボウル・ステージの前には人だかりができており、この日のもう一人の大物、パッセンジャーが歌っています。彼はイギリスからのお客様。1984年生まれとのことですから、今年で34歳。 バンドは無く、ギブソンJ-45をかき鳴らしながら、たった一人で大きなステージを沸かせています。「2000年代のキャット・スティーブンス」と言われるだけあって、高く澄んだ特徴的な声は魅力的です。彼はマイケル・デヴィッド・ローゼンバーグというのが本名ですが、かつてパッセンジャーというバンドをやっていました。そのバンドが解散しても、パッセンジャーを名乗って活躍しています。

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パッセンジャーを見る大観衆

彼は時折、有名人アーティストの曲をカバーしますが、この日は「Sound of Silence」を演奏しました。しかし、途中から歌詞やメロディをかえて、個性を打ち出しているのはさすが。またMCも上手いし、「Holes 」という曲だったと思いますが、目の前に見えるフェスの情景(移動販売車とかマーケットとか、客の服装とか)を巧みに歌にとりこむあたりの機転というか機微もすばらしいと思いました。彼は同じギブソンJ-45を2台用意し、チューニングが狂ってきたなと思ったら、スタッフに合図して持ち替えているようです。9時をまわって演奏が佳境に入ってくると、陽もかなり傾きはじめ、ステージ照明に火が入ります。彼をめあてにやってきた若い人も多く、前の方ではみんな立ち上がって見ています。自分も次のライ・クーダーを前の方で見ようと、上手側をゆっくり前の方へ移動しながら彼の歌を聴いていましたが、なかなか説得力がありますよね。これだけの人気の理由がわかるような気がします。ラスト前に代表曲「Let Her Go」をプレイ。印象的なメロディを持つ佳曲です。パッセンジャーは、客席にも歌うように促し、広い会場は一体感に包まれていきます。ラストは「Scare Away The Dark」。印象的なサビのメロディを客席に歌わせながら退場。拍手と「オー・オーオーオー・オオオー・オーオーオー」という、客席の歌声が止みません。この時がちょうど彼の終演時間の9時30分。まだ空はほのかに明るいです。パッセンジャーが再び登場し、アンコールに応え、比較的短いアップ・テンポのナンバーを歌い、「次はライ・クーダーを楽しんで下さい。」といい残し、ステージを去っていきました。

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パッセンジャー

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おそらくキッズ・ゾーンのための曲芸師たちが、メイン・ステージ脇で演技を披露。前はパッセンジャーの演奏に見入る観衆

次はいよいよ、ライ・クーダー・バンドの出番ですが、彼らについては別稿を用意します。

さて、ライ・クーダー・バンドの終演は11時30分。長袖シャツを着ないと肌寒いくらいです。引き続き、この日のトリ、シャクラ・セイーダのステージです。ライ・クーダーに続いて最前列で見ることにします。割合入念なセッティング、シャクラも厚ての上着を着て、「Amazing Grace」の一部を歌ってサウンド・チェックをしています。上手にはペダル・スティールがセッティングされています。なんか、見たような丸顔のアフリカン・アメリカンのミュージシャンがサウンド・チェックをしていますが、彼はキャンベル・ブラザーズのチャック・キャンベルではないですか。これは嬉しい誤算。あとでホームページをよく見ると、チャックが参加することが彼女のパフォーマー・ページの末尾に小さく出ていました。ライに続いて、チャック・キャンベルを生で見れるなんて夢のようです。編成は、シャクラ、チャックとベーシストがアフリカ系、ギターとドラムが比較的若い白人でした。シャクラさんは、ニューヨークのブルックリンで生まれ、スイスで育ち、今はカナダ人という経歴を持つ人。自分は全然知りませんでしたが、ジュノー賞もとっている、カナダでは有名なシンガーのようです。

シャクラの演奏が始まったのは、もう12時も近い時間になっていました。1曲目、ベースがノリのいいファンキーなリズムを弾き始め、ドラムがハイハットで応えます。それにあわせシャクラが歌い出します。2コーラス目からはバンド全体が疾走をはじめます。とってもかっこいいマイナーのファンク・ナンバー「Walk Out The Door」です。

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シャクラ・セイーダと彼女のバンド

シャクラさん、長身でスタイル抜群でまるでモデルのよう。そして歌声もパンチ力があります。直前のライのバンドと比べると、ドラムなどの表現力はやや平板に感じますが、なかなかに素晴らしいバンドです。2曲目はアイク&ティナの「Working Together」。想い出深いこのナンバーをカバーしてくれるだけで、嬉しくなってきます。3曲目はブルーズ。ギター・ソロの時は、シャクラがギタリストと背中合わせになりセクシーな感じでキメます。

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ギター・ソロのときのシャクラとギタリスト

何曲かあとで、シャクラがはじめて長いMC。自分の生い立ち、母が南部の学校に行った時代は黒人差別がまだあったこと。ドライブ・スルーができても白人のみで、有色人種は車を停めて店に注文に行かねばならなかったことなどを語ったたあと、客席に向かって「You have your voice. You have your voice. You have your voice. You have your voice. 」と繰り返し、ドゥービー・ブラザーズの「Taking to the Street」をミディアム・バラードにアレンジしてカバーしました。この曲がまた感動的でした。ステージが佳境に入ってくると、チャック・キャンベルも大活躍です。スティールならではののびやかなプレイで、たくさんの曲でソロを決めていました。エンディング近く、おそらく「Big City Lights」ではアル・ラーマンがゲスト参加。ブルーズ・パープで主役をもり立てます。やはり、フェスとあって、スロー・ナンバーは比較的少なく、アップテンポの曲が多い構成。「Queen of Rock and Soul」などを演奏し、約1時間のステージが終わりました。まだ、観客はアンコールを求めていましたが、MCのヘレンが、「ブーイングしてもいいけど、もうこんな時間だから、アンコールはなしなの、ごめんなさい」という内容を話すのを聞きながら会場を後にしました。シャクラの歌も情感、躍動感にあふれ、チャック・キャンベルのペダル・スティールも完璧なセイクリッド・スティール・マナーでとっても素晴らしかった。このとき、深夜1時。午後3時に着いて10時間も会場にいたことになりますが、きわめて充実した楽しい時間でした。さすがに疲れてきたので、宿への道を急ぎます。

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ペダル・スティールのチャック・キャンベルとベーシスト

出口を出ても、シャトル・バスの乗場がわからないので、少し戻ってボランティアの係員に訪ねたら、道路へ出て右だというので、道を歩いてみたのですが、それらしい表示もないし、誰も待っていません。まぁ、町まで歩いても2キロくらいだし…と思いながら、コートニーの方へしばらく歩きます。道を歩いている人は路駐している車に戻る人が多くだんだん人が減ってきます。200mほど道を下ったところで、前の方から少し電飾をつけたスクール・バスがやってきました。これがシャトル・バスだ、と思い会場の方へ引き返します。しかし、結構な距離を歩いたので、間に合わないかと思っていたら、案の定、さっきのバスが前からやってきました。手を上げましたが停まってくれませんでした。バスが出てきたところは、ロータリーになっており、バス乗場のところに表示がありました。さっきは、そんなところがあるとは気づかず、車に戻る人達についていってしまったので、この場所を通りすぎたわけです。しかし、まだ人が待っているので、一緒に待っていたら、さっきと同じようなバスが来たので、安心して乗り込みました。入り口のところには、「COMOX QUARITY FOOD」という張り紙があります。コモックスとコートニーのクォリティ・フードに行くと思っていたら、実はバスは2系統あって、コモックス行きとコートニー行きで、さっきのバスがコートニー行きの最終。このバスがコモックス行きの最終だったようです。バスが目的地に着いて、はじめてそのことがわかりました。同じように乗り間違えていた人がいて、係員にお願いすると、われわれ二人をコートニーまで送ってくれて事なきを得ました。そんなこんなでホテルへの到着はおよそ午前2時になりました。フロントにはインド系の青年がいて、「あなたが着くまで待っていたよ。」とは言われましたが、とっても感じのいい方で、いろいろ親切にしていただきました。宿はベスト・ウェスタン・ウェスタリー・ホテル。もっと安いホリディ・イン・エクスプレスとかは、2月の段階ですでに満室となっており、少々高いこのホテルにしましたが、部屋はとっても清潔で過ごしやすかったです。

シアトル&バンクーバー島旅行記6 バンクーバー・アイランド・ミュージック・フェスティバル2日目前半

バンクーバー・アイランド・ミュージック・フェスティバルは7月13日から15日までの3日間の開催。自分は7月14日の15時以降と、15日ほぼ全部のおおむね1日半の参加です。7月14日午後3時頃、フェスティバル会場入り口でプリントアウトしたチケットを見せると、バックパックの荷物検査のあと、ピンク色のリストバンドを手首に巻いてくれます。これが入場券がわり。受付のところに日系の方がおられて、「ナカツカ・キミコ」さんとおっしゃるらしい。彼女は日本語はしゃべれないけど、日本からフェスを見に来たとあって、とても親近感をもっていただいたようです。入り口をはいって左手にフェスのメイン・ステージであるコンサート・ボウル・ステージがあります。そこでは元気のいいカントリー・ロックが聴こえています。この日(7月14日)、14時15分から登場のナイス・ホースのステージがまさに終わろうとするところでした。時間は3時過ぎ。フェスのホームページでは彼女達はボンデージ風ファッションのガールズ・カントリー・バンドとあってあまり食指が動かなかったのですが、ちらりと耳にした演奏もタイトでいい感じ。この日のファッションはかわいらしいカントリー・スタイルでした。次は昨日見たヨアヒム・クーダーの登場です。

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メイン会場のコンサート・ボウル・ステージ

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ナイス・ホース 入場したときやっていたが、最後の曲だった。

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Joachim Cooder & Sam Gendel

メイン・ステージは、ニューオーリンズ・ジャズフェストの3つの大きなステージには及ばない広さです。客席は5000人くらいは入りそうな感じです。すでにレジャー用の椅子がたくさん持ち込まれています。ニューオーリンズ・ジャズフェスなどとの大きな違いは、メインステージ前20メートルくらいのところのまで椅子を置いてよく、その前もよほど人気のミュージシャン以外は敷物をしいて座ってみれることでしょうか。立ったり踊ったりしたい人はステージ前の両サイドでお願いしますということで、ひもが張られ、ボランティアの係員が立っています。会場のあるコートニーは、緯度でいうと北海道よりやや北側、サハリンくらいになります。しかし、快晴とあって直射日光が照りつけけっこう暑いです。定刻になって、ヨアヒム・クーダーとサム・ジェンデルが会場にあらわれ、昨日と同じ「Strange Love」でコンサートの幕を開けます。この日は睡眠を十分にとっていたので、眠くはなりませんでした。さわやかな野外で聴くとまた雰囲気が違いますね。2曲目はやはり「Fuchsia Machu Picchu」でした。もう1曲聴いて、まだ、ステージは続くのですが、ウッドランド・ステージに移動です。ライ・クーダー・ファンとしては息子のステージも最後まで見届けるべきなんでしょうけど、昨日見てるし、イギリスからやってきたデイヴ・ケリーさんを見に行くことにします。

時間は16時。コンサート・ボウル・ステージの裏手にあるウッドランド・ステージはその名のとおり木々に囲まれています。日陰に入るととても涼しく、空気も乾いていて過ごしやすいです。とってもこじんまりとしたステージで、客席も200人も入れば満杯になりそうです。

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ウッドランド・ステージ

ウッドランド・ステージでは前の出演者のドン・ロスがまだ演奏していますが、かなり達者なギターの腕前です。とっても気になりました。彼のステージが終わり、短いセットチェンジとサウンドチェック。さて、いよいよデイヴ・ケリーとクリスティーン・コリスターのステージがはじまります。デイヴ・ケリーはイギリスのホワイト・ブルーズ・マンで、70年代に発表した2枚のアルバムがBIG PINKレーベルから再発されています。早世した女性ブルーズ・シンガー、ジョ・アン・ケリーの弟で、一度見てみたいミュージシャンだったのです。

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デイヴ・ケリー

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クリスティーン・コリスター

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クリスティーン&デイヴ

1曲目、クリスティーンはヤマハ、デイヴはタカミネのエレアコをストロークしながら、タウンズ・ヴァン・ザンドの「Poncho & Lefty」で幕開けです。リード・ボーカルはデイヴで、サビでは二人でハモります。この曲で始まるとは意外でした。2曲目はスリー・コードのブルーズ。デイヴはエレキに持ち替え、ボトルネックで達者なギターさばき。リード・ヴォーカルはクリスティーン。なかなかの歌唱力。いい声です。3曲目はデイヴがジョン・リー・フッカーみたいなブルーズを歌います。デイヴ、歌もかなり渋上手です。4曲目は、クリスティーンがギターを弾きながら歌うサンディ・デニーの「Who knows where the time goes」。デイブはエレキのボトルネックでサポート。素晴らしいです。やはりサンディはイギリスではリスペクトされているんですね。クリスティーンの歌では、ボニー・レイットもカバーしたクリス・スミザーの「Love Me Like A Man」もかなり良かったです。ラスト・ナンバーはメンフィス・ミニーの曲で「Buy You A Diamond Ring」とか「Buy You A Chevrolet」として知られている「Can I Do It For You」をにぎやかにプレイして終了。全9曲。クリスティーンは歌唱力抜群で、バラードでは抑制の効いた美しい歌声で、ブルーズなどでは少しだけしゃがれたパンチのある歌が素敵でした。デイヴはエレクトリックではボトルネックをメインに弾いていましたが、ブルーズもメロディックなものも器用にこなします。

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マーティン・シンプソン

ウッドランド・ステージ、17時からは、マーティン・シンプソンが登場です。わたくしこの人のCD持ってましたが、このフェスに来てCD販売所をのぞくまで忘れておりました。リンドレーが参加しているという理由で買ったんでした。この方もイギリスからのお客様。1曲目はボトルネック奏法のブルーズ。イメージとしてはオープン・チューニングで繊細な弾き方をする人と思っていたので、ちょっと衝撃でした。2曲目にイギリスのトラディショナルを思わせるナンバーを演奏。3曲目にディランの「Blind Willie McTell」を達者なオブリガードを交えながら歌いました。なかなかいい声です。この曲も大好きな曲なので嬉しかったのですが、コンサート・ボウル・ステージのダーリンサイドも見たかったので、このあたりでウッドランド・ステージを後にしました。

バンクーバー・アイランド・ミュージック・フェストは、1万人規模のイベントで、今まで2回訪れたニューオーリンズ・ジャズフェストなどに比べれば格段に規模が小さいフェスです。それでも2日目、3日目の日中は計6箇所のステージが同時進行して、やはり、こっちも見たいけど、あっちも見たいと身体が二つも三つもほしくなるところは同じ。それと、60代以上のミュージシャンがたくさん出演し、若者よりもどちらかというと「実年」向けのプログラムが比較的多いというのも、ニューオーリンズ・ジャズフェストと共通するところです。大きな違いは、どのステージもかなり近くまで基本的に座って楽しめるというところかな。会場全体の大きさもニューオーリンズ・ジャズフェストの1/4以下でステージ間の移動がかなり楽です。もう一つ、ニューオーリンズ・ジャズフェストが午前11時に始まって、午後7時には一斉に終わるのに対し、バンクーバー・アイランドでは、金曜は午後3時スタートだけれども、土日は午前10時から夜中1時頃までという長丁場。夕方になると比較的小規模なステージは演奏を終了し、午後6時台にはコンサート・ボウル・ステージとグラッシー・ノールの2箇所のみになります。夜9時台にはコンサート・ボウル・ステージに1本化されます。夏場は日が長いという立地特性のなせるわざですね。もっとも、ニューオーリンズでは、フェスが終わったあと、各ライブ・ハウスでところによっては明け方まで演奏をやってるから、バンクーバー・アイランドの方が身体に優しいのかもしれません。

17時近くなり、そろそろお腹もすいてきたので、コンサート・ボウル・ステージをとりまいている移動販売車の中から、リブ・ディナーを選び注文しました。食事ができるのを待つため、お金を払う時名前を言わねばなりませんが、「Satoru」という私の本名を覚えるのも発音するのも大変だったようです。

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リブ・ディナー

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ダーリンサイド

コンサート・ボウル・ステージも徐々に陰が長くなってきました。次に出演するダーリンサイドはアメリカ、ボストンの若手4人組。弦楽器の4人組で1人がインド系ですが、彼はバイオリンやマンドリンを演奏します。彼は1曲、マンドリンをボウイングして見事なサウンドを出していました。ドラム・セットはありませんが、ベーシストが小さなバスドラを踏んでリズムをとったりします。4人が1本のマイクを囲んでCSN&Yやイーグルズを連想させる素敵なコーラスを聴かせてくれます。基本的には弦楽器伴奏が中心ですが、超小型のリズムマシーン付キーボードを持ち込んだり、12弦エレキにエフェクトをかけたりと、現代青年らしいテクノロジーも駆使しています。しかし、出てくるサウンドは至ってさわやかで、そこはかとないカントリー・フレーバーといい具合に調和しています。基本的にベース、ギター×2、フィドルという編成ですが、ギターの1人がキーボードやバンジョーにまわるなど、ところどころ楽器の持ち替えもあります。代表曲らしき「The God of Loss」とか「Best of Best Time」、「White Horses」、「The Ancestor」、「My Gal, My Guy」、「Singurality」などが演奏されました。「My Gal, My Guy」のMCではこの曲のメインボーカルがドラゴン・ボールのファンとか言ってたような気がします。それで歌詞に「Tokyo」が出てくるのかな、とか思って聴いておりました。1本のマイクだけに向かってみんなでコーラスをするので、PAがあっても、後ろの方では少し音量が足りません。音楽は極上なのでもっと前で見ればよかったなぁと思いました。すでにCDも複数枚出ていますが、今後が楽しみな若者達です。なお、彼らの頃から、このステージのMCは、シンガーでも出演しているヘレン・オースティンが務めています。

さて、ここのフェスのマップを見るとBeer Gardenというコーナーが囲ってあります。1番大きいコンサート・ボウル・ステージと、2番目のグリーソン・ステージの後方にあるのです。どうやら、その2箇所とグラッシー・ノールというステージ以外ではアルコール類は販売されていないし、その囲いの外では酒類は飲めないようです。しかもチケット制みたいです。Beer Gardenからステージは遠すぎるし、結局二日間でビールを飲んだのは、グラッシー・ノールでの1杯だけになりました。暑いので水分補給は絶対必要。スポーツ・ドリンクなどを買って飲みますが、会場には飲み水の水道や噴水状の施設もあり、ボランティアによる給水サービスもありました。ついさっき、リブ・ディナーを食べたところなのですが、夜中にお腹がすいてもいけないと思い、今度は別の移動販売車で豆腐入りタイ・カレーを注文しました。野菜がたくさん入ってヘルシーだしおいしかったです。

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タイ・グリーン・カレー

シアトル&バンクーバー島旅行記5 シアトルからバンクーバー島への移動

ライ・クーダーのコンサートが終わり、タクシーでホテルに移動しました。ホテルは空港近くのタッキウラにあるラマダ・ホテル・サウスセンター。リンク・ライト・レールで空港まで行き、空港に無料シャトル・バスで迎えに来てもらうほうが、圧倒的に安いのですが、深夜に、もしもあの大きな立体駐車場でカツアゲに遭遇することを想像すると、タクシーという安全策の方がいいかな、と思われました。会場のムーア・シアターから2ブロックほど行くと、プリウスのタクシーが後方からやってきたので、手をあげて行き先を告げると、若いアフリカン・アメリカンのドライバーは片側3車線のインターステイト・ハイウェイ5号線を南にがんがん飛ばしてくれました。車の窓はお大きくあけられて涼しい風が入ってきます。20分ほどで目的のホテルに到着。時間は11時20分くらいでしょうか。コンサートの開演や終演が遅れたときのために、レイト・チェックインを申し込んでおりましたが、0時より早くつけて問題ありませんでした。チェック・インのとき、高校生のスポーツ・チームとかぶってしまい、しばしロビーのソファに身をしずめて順番を待ちました。ホテルの部屋も清潔。翌朝、宿泊費についている朝食はバイキング形式。パン3個、オムレツ、ソーセージ、シリアル、コーヒー、ジュースなどをいただきました。味の方は、無料ならこんなものでしょうといったところ。パンケーキ焼き器を使っている人がいて、いい香りがただよってくるのですが使い方がわからないので断念。予定の朝8時にエアポート・シャトルに乗ってシアトル空港に移動、ウエスト・ジェット便の搭乗カウンター近くでおろしてもらいました。

シアトル空港では、発券機でチケットを受け取った後、保安検査。構内に入ると地下鉄で出発ゲートに移動し、ウェスト・ジェットのバンクーバー便を待ちます。午前9時30分発の便。シアトルには19時間少々(そのうち6時間少々は睡眠)しかいなかったけど、また来たいと思わせる魅力的な街でした。さて、バンクーバー行きの便は今回も大陸側の窓際で、昨日と同じような風景を楽しむことができました。空から見てもバンクーバーはとってもきれいな街のよう。

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シアトル空港からバンクーバー行きの便に乗る

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この日もロッキーの山並みを望む

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空から見たバンクーバー 遠くに中心市街地の高層ビル群が見える

朝10時30分には再びバンクーバー空港に降り立ちます。土曜日とあって長い列に並んでカナダの入国審査。割合簡潔な審査で、「何しに来たの?」「観光です」「何日間?」「3日間です。」「一人か?」「一人です。」「カナダに友達は?」「いません。」「ふーん。いいよ。」みたいな感じで終わりました。実はトロントに一人友達がいるのだけれど、今回の旅には関係ないので、そのことには触れませんでした。そういえば昨日のアメリカ入国審査では「食べ物持ってるか?」とか聞かれたなぁ。毎回少しずつ聞かれることが違うし、この入国審査というのがけっこう緊張するのです。カナダ国内便乗り換えなので、外に出なくていいかと思ったら、コモックス便の発券を受けていなかったので、結局外に出ることになりました。こんなことなら、シアトルでコモックス便のチケットも出しておけばよかったなと思いつつ、総合案内所にいたアジア人のおにいさんに、「Where can I check in?」といってウェストジェットのバウチャーを見せようとすると、「こんにちは。ウェスト・ジェットなら、そこの両替所の角を曲がってまっすぐ行ったところですよ。」と普通に日本語で案内されてしまいました。バンクーバー空港にはたくさんお店があって、フードコード、雑貨屋さん、おみやげもの屋さんなどショッピング好きには空港内にいるだけでも楽しいかも知れません。空港でお昼を食べようと思っていたけれど、朝のバイキングでお腹がすいていないので、飲み物だけにしました。

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バンクーバー空港のVirgin ストア 今やCDとか置いてなくて、本屋と土産物屋

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空港内の水族館グッズ売り場

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カナダ国内線にもギターの展示がありました。

この時間に、宿泊するコートニーのホテルに電話をかけ、レイト・チェック・インとなることを伝えました。少しで長くフェスが見られるよう、空港から直接フェス会場に行くためです。何時頃来られるか聞かれたのですが、「フェスが終わったあと、1時か、1時半か…」と応え受け入れてもらいました。再び保安検査をし、カナダ国内線に入場。コモックス行きの便を待ちます。けっこう時間がありましたが、kindleで読書をして時間をつぶします。シアトル発のもっと早い便もあったのですが、急遽日程を変更したため、ちょうどいい時間のコモックス行きはすでに満席だった模様。カナダ入国審査もあるし、この時間の便がとれただけでもラッキーと思わねばなりません。コモックス行きの搭乗ゲートの係員はアジア系のかわいらしい女性。流暢な英語で搭乗案内をしています。いよいよ搭乗時間になり、パスボートと搭乗券を見せると、「ありがとうございます。」と日本語で挨拶してくれました。やはり日本人でした。バンクーバーでは、空港でもたくさん日本人や日系人が働いているようです。

14時10分発のコモックス行きの飛行機は中型のプロペラ機。またしても大陸側の窓際です。バンクーバー空港を飛び立つと、海上を北西に飛びます。窓の外はシアトル-バンクーバー間と比べれば一段と田舎びておりますが、遠くに冠雪したカナディアン・ロッキー、眼下に島々、空は快晴です。わずか30分ほどのフライトでコモックス空港に到着。到着予定時刻は14時53分でしたが、もう少し早く着いたようです。今まで違って、空港の地面に降り立ち歩いて空港建物へ向かいます。乗客の中にマンドリン・ケースを抱えた白人女性がいましたが、フェスの出演者でしょうか。

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コモックス行き ウェストジェット プロペラ機

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機外の景色はぐっと鄙びてくる

空港を降りるとすぐに、タクシー乗場があって、両腕にタトゥーをした若い女性ドライバーが客待ちをしているので、「ミュージックフェストの会場に」と告げ、景色を楽しむため助手席に乗せてもらいました。出発しようとすると、窓の外から「コートニーに行くなら、シェアさせてもらっていい?」と若い白人女性に声をかけられたので、「OK」と応えると、彼女は後部座席に乗り込んできました。ドライバーと女性客は何やら話していますが、自分は内容の半分も聞き取れません。ドライバーからフェスではキャンプするの? と聞かれたので、いや、コートニーのホテルに泊まると応えました。すると、終わった後はどうやって帰るか聞かれたので、「バスで。」と応えると、いつ帰るのかと聞かれました。タクシー会社の名刺をもらって、帰る時はこのタクシーを使って、と営業に余念がありませんが、カナダははじめてか、いいとこでしょう? という感じで、少し話しもできました。女性客はミュージックフェストはカントリー中心か?とかドライバーに聞いています。ドライバーは、カントリーもあるけど、たくさんのジャンルの音楽をやってるわ、みたいな返答をしてました。針葉樹が多い広大な風景の中を10数分走ると、いよいよミュージック・フェストの会場に到着です。一緒に乗った女性客も、ちょっと寄っていこうかなぁ、という感じで、二人別々に料金を払ってタクシーに別れを告げました。

会場は、本当に田舎の農場のようなところ。グーグル・マップにはコモックス・バレー・エキシビジョン・グラウンドと書かれており、フェスのホームページでは会場を「フェアグラウンド」と呼んでいます。中からは女性ボーカルのバンド演奏が聞こえてきます。いよいよバンクーバー・アイランド・ミュージック・フェストに入場です。

シアトル&バンクーバー島旅行記4 Ry Cooder Live at Moore Theater in Seattle

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ムーア・シアターの外観 ライ・クーダー・バンドのツアー・バスが停まっている。

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ムーア・シアターのコンサート案内

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クーダー・バンドのツアー・バス 前から

ムーア・シアターは1907年にできた立派な劇場で1800人を収容する3階建の客席を持ったホールです。シアトルではパラマウント・シアターも有名ですが、こちらの方が歴史ある建物ですね。入り口でiphoneにダウンロードしたチケットマスターのチケットを見せるとQRコードを読み込んでくれます。エントランス・ホール奥にはバー・カウンターがあってアルコールなどを注文できるようになっていて人だかりができています。右手には物販コーナーがありますが、今回はツアーTシャツの販売はない模様。ライの新作と、ヨアヒムのアルバム、コーラスを担当する3人組、ハミルトーンズのCDR3枚が置いてありました。ライのアルバム以外は各10ドル。ライの新作以外すべて購入しました。さて、自分の席は1階の前から15列目最も通路側とわりあいいい席でした。招待席か何かがライブ1週間前くらいに放出されたようで、会場はおおむね満員となっていました。観客は圧倒的に自分のり上の世代、50代から60代が多いようで、白人ばかりです。わずかに東洋人も見かけますが、どうも日本人のようです。

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開演前、舞台袖でギターを試し弾きしているのは、ライ・クーダーその人

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サム・ジェンデルのギターとバスサックス

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ホールの天井

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ステージ前から、2・3階席を見る

ステージ前では熱心なファンが楽器や機材を見ています。自分もするすると一番前に行くと、ピアノの椅子片足をのせ、マーティンのアコギを弾いている背の高い初老の紳士がいます。白いTシャツを着たその人物はライ・クーダーその人でした。ツアー前半には持っていってなかったマーティンのアコギの試し弾きをしているのでしょうか。ステージ下手の幕間には、ライ・クーダーのギター6本が並べられたスタンドがあります。もちろん、ステージ中央には3台のアンプに囲まれたライのセットがありますが、その前にヨアヒムのステージがあるので、ヨアヒムが使うらしい多くのエフェクター類があります。そうこうしているうちに、定刻の20時を少し過ぎて、客電が落ちて拍手が巻き起こり、オープニング・アクトのヨアヒム・クーダーとサックス奏者のサム・ジェンデルが登場します。ヨアヒムはハットにGジャン。近影どおり髭をたくわえていますが、なかなかのハンサムです。かかえている楽器はエレクトリック・ンビラ。ンビラと言えば「親指ピアノ」と訳される小型の楽器を連想しますが、彼の楽器は膝に乗せて演奏するくらい大きなもので、横幅は40cm近くあるのではないでしょうか。サム・ジェンデルの方もサックスに様々なエフェクターを通して、まるでキーボードのような音を出しますが、このあたりはライのプロモーション映像をご覧になった方ならば、ご存知だと思います。そんなわけで、プレイヤー二人ともが空間系のサウンドを出してくれるものですから、自分の「眠気」も倍増します。ヨアヒムの歌はけして悪くないのですが、少々インパクトに欠けます。親父さんに比べるとまだまだといったところでしょうか。けれどンビラのテクニックには目を見張るものがあります。バンクーバー・アイランド・ミュージックフェスティバルのプロフィールを見ると、奥さんのジュリエットが妊娠して音楽活動ができなくなったので、ヨアヒムは曲を書き始めたということで、やはり彼は本職はパーカッション・プレイヤーですよね。まず、ヨアヒムがループマシーンを駆使してカホンなど複数の楽器のループをとり、それにあわせて、自らはンビラを弾いて歌い、サムは前半2曲でサックスを、後半2曲ではエレガットみたいなギターを演奏します。

曲は、1曲目が「Strange Love」、2曲目が「Fuchsia Machu Picchu」、3曲目が「Gaviota Drive」、4曲目が「Country Blues」でした。演目のうち、2〜3曲目は最近リリースされたミニアルバム『Fuchsia Machu Picchu』収録のナンバー。1曲目は、まだレコーディングされていない曲目のよう。なんだか不思議なサウンドですね。2曲目にタイトル・トラック。確かにインカの香りの漂ってくるサウンドです。サムのサックスも効果的です。3曲目は、もっともシンガー・ソングライター的で美しいメロディをもっています。この曲が一番気に入りました。そして、4曲目、タイトルは南部のブルーズを思わせますが、この曲も無国籍的な越境音楽。ンビラのサウンドはどの曲もとっても美しく心に響きます。

約30分のヨアヒムのステージが終わるとしばし休憩。ヨアヒムのエフェクターが片付けられ、ライのギターが運びこまれ、テクニシャン達がバタバタと機材のチェックを進めています。ライの使うアンプは3台。いずれもビンテージもののようです。そして、今回のツアーでライが使っているエフェクターがステージ中央やや上手に置かれます。いよいよ9年ぶりのライのステージが見れるのかと思うと胸が高鳴ります。メンバーの配置はステージ下手にコーラスのハミルトーンズ。その後ろにはグランドピアノが置かれています。ライの真後ろには誰もおらず、上手斜め後方にヨアヒムのドラムセットが組まれています。そして、その前面にサムのサックス群ば配され、サムは客席の方ではなくライの方を向いて演奏するわけで、プレイヤーはライを半円形に囲んで意思疎通をやりやすくしているみたいです。今回のツアー前半、ライは日本産の中心にたくさんのギターをツアーに持ち込んでいましたが、後半にはフェスが2回あることもあってか、ずいぶんギターを整理し6〜7本しかもってきていないようです。

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ライ・クーダーのギターとエフェクター

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ライ・クーダーのアンプ類 モニターの陰であまり見えない

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ムーア・シアターのステージ

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いよいよここでライのコンサートがはじまる

15分ほどの休憩の後、客電が落ち、いよいよライ・クーダー御大の登場です。まず、サム・ジェンデルが一人で登場し、バス・サックスをエフェクターに通し、不思議な音色を奏ではじめます。そして、ライが上手からステージに現れます。服装は濃いブルーのニット帽に紺のシャツ。胸にはカラフルなレインボー柄のネクタイをし、黒縁のメガネをかけています。1曲目は予想どおり、ブラインド・ウィリー・ジョンソンのカバー、「Nobody's Fault But Mine」です。ライは、プレマイヤーのフル・アコのエレキ・ギターでこの曲を演奏しました。いきなりズシリと来るブルージーなプレイ、そしてライの力強い歌声に引き込まれます。ツアー前半ではレコーディングにも用いたと思しきギブソンのJ45を使っていましたが、この日のステージではフルアコの弦上にボトルネックを滑らせていました。ギターのチューニングはOpen Dでしょう。

曲が終わると、ドラムのヨアヒム、ベースのロバート・フランシスが入場します。ライは、MCでムーア・シアターの反響がとてもいいみたいに褒めて、ギターのハーフ・トーンがよく響くみたいなことを言ってました。そして、「Please welcome to the stage fantastic Hamiltones!」とハミルトーンズを紹介してバンド演奏に突入です。2曲目、やはりブラインド・ウィリー・ジョンソンの「Everybody Ought to Treat a Stranger Right」の登場です。新作アルバムの中でも、かなり気に入っているアップテンポのナンバーだけに心躍ります。ライは気に入りの豹柄ピックガード、サンバーストのストラトに持ちかえ、間奏ではご機嫌なボトルネックを聴かせてくれます。1988年の来日公演のときは、テリー・エヴァンズらコーラス隊に比べてライの歌声が線が細く感じたものですが、今回は迫力十分。ハミルトーンズに全然負けていません。もちろん、ハミルトーンズのコーラスもすばらしく、バンドのアンサンブルも完璧。サムもライに続いて間奏でバス・サックスで力強いソロを演奏します。ただ、ピアノは空席。ピアニストは途中から出てくるのかなぁと思っておりました。

3曲目、ライは昔から弾いている(といっても、かなり改造されていますが)ダフネブルーのストラトキャスターをつま弾きはじめます。とってもいい音です。ライは自らのギターだけをバックに歌い始めます。新作の1曲目に収録されている「Straight Street」です。1番が終わると静かにドラム、ベース、サックスが参加し、2番のサビからコーラスのサポートも入ります。間奏はまさにライ・クーダーというべき美しいフレーズの落ち着いたプレイ。素晴らしいの一言に尽きます。そして、同じギターを弾きながらおもむろに歌いはじめたのは「Go Home Girl」です。最初にライを見た1988年から30年の年月を経て、再びこの曲を生で聴けるのは大きな感激です。ギターのサウンドは間奏で少し音量を上げるといい感じでとってもいい感じに歪むのですが、音が小さい時にはとても美しい響きです。サムも前曲とこの曲では邪魔しないよう、控えめにサポートです。ダフネブルーのストラトのチューニングはOpen Gです。

2曲静かな曲が続いたので、5曲目はファンキーなナンバー「The Very Thing Makes You Rich Makes Me Poor」です。ライはOpen Dの豹柄ストラトの2弦をAからBに上げてプレイをはじめます。出たしのルバートではサムが不思議なコードを奏でています。インテンポになると、ハミルトーンズが手拍子で客席をあおり大いに盛り上がっていきます。間奏はサムが大活躍、バス・サックスでかっこいいソロ。その後には客席から拍手と歓声が巻き起こります。この曲のあと、ハミルトーンズのコーナーになり、一旦ライは退場です。

ハミルトーンズのメンバーのかたわらには、テレキャスターとジャズマスターの2本のギターが置かれていますが、メンバーの一人がジャズマスターを手にとり演奏をはじめます。彼らの1曲目は落ち着いた感じながら、洗練されたメロディやコーラスの「Highway74」。とってもかっこいいです。ハミルトーンズの2曲目は、明るく楽しいゴスペル調のナンバー「Gotta Be Loving Me」。リズム・ギターはハミルトーンズのメンバーが担当ですが、ライ・クーダーも演奏に復帰です。ユニボックスの黒いレス・ポールを手に、ところどころ控えめなオブリで曲に彩りを与えます。ハミルトーンズ素晴らしいですねぇ。一発で気に入りました。

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ハミルトーンズ用のギターは2本用意されていた。

ここで、ライを残しメンバー全員がバックステージに引き上げます。1曲目と同じプレマイヤーのフルアコの弾き語りで、定番曲「Vigilante Man」の登場です。鬼気迫る間奏に続いて歌われる3番の歌詞は「トレイボン・マーティンはたった17歳だった。」というものに代えていました。2012年2月にフロリダで起きた「自警団員」による、黒人青年射殺事件を題材にしています。ウッディ・ガスリーによって書かれた80年も前の曲が、現在も通用してしまう悲しい事実を歌ったものですが、今もライ・クーダーは社会の矛盾に対し歌で疑問符をつきつけています。

この後のMCはけっこう長く、ウッディ・ガスリーのことと、次の曲の背景について語っているようです。睡眠不足で頭があまり働かず、客席から大いに笑いをとっているのですが、意味がわかりませんでした。ギターはつのツアーの前半には持ってきていなかったマーティンのOOO-28です。ヘッドには縦方向に「Martin」のロゴが入っていますが、おそらくビンテージでしょう。おそらくLRバッグズのピックアップからエレキと同じユニットにアウトしているようです。とってもいい音です。曲は最新作から「Jesus And Woody」。ごく短い間奏では、ちょっとメキシカンな香りのフレーズを奏でていました。この曲も盛んに拍手を受けていましたが、政治的に違う立場だからか、演奏に飽きたのか、このあたりから少ないけど、チラホラと帰路につく人々がいたのは少し気になりました。

ライのソロ・コーナーは2曲で終了。再びバンド・メンバー全員がステージに戻ります。ライはおもむろにエレクトリック・ブズーキを手にとり、美しいフレーズを奏でます。CDと違って「You Must Unload」の主旋律のメロディを弾いています。キーは原曲よりかなり下げられているようです。ソロ前半はライ、後半がサムがまるで弦楽二重奏のような響きを奏でます。味わい深いライのボーカル、そして息の合ったコーラス。このナンバーも後半のひとつのハイライトでしょう。曲が終わると、そのままの楽器で軽快なイントロを奏で、ハミルトーンが手拍子で観客を煽ります。曲は「Jesus On The Mainline」です。間奏はやはり、ライ→サムの順ですが、サムのフレーズは少しばかり前衛的でした。2009年のDRIVE BY THE NIGHTツアーの時は、エンディングの「Call Him Up, Tell Him What You Want」を繰り返すフレーズがなかったのですが、今回のツアーでは復活していました。

この曲のあと、ライは再びギターを豹柄ピックガードのストラトに持ち替え。次の曲の作者ジョニー・キャッシュについて少々語ります。ここでも眠気に負けて内容が全然わかりませんでしたが、ラジオ局の話などをしていたようです。そして、やはり30年前の大阪厚生年金会館でも本編ラストにやった「Get Rhythm」が登場です。ホントご機嫌なナンバー。この曲を再び生で聴けるとは幸せです。30年前ほど緻密ではなく、ラフな感じになっていますが、それでも、ここまで「聴かせる」のはライが円熟した境地に立っているからにほかありません。ライブ全体から、ライのリラックスした余裕が感じられます。95年のツアーまでにみられたピリピリした雰囲気は霧消しています。

曲が終わると、ハミルトーンズから順にバックのメンバーを紹介し、最後は「I am Johnny Cash」という冗談で締めくくっていました。グランドピアノはハミルトーンズの後ろにセットされていたけど、結局ツアー前半に参加していたピアニストは出てきませんでした。キーボード入りの演奏も聴いてみたかったけど、楽器奏者が4人でも、全く問題のないタイトなサウンドでした。

もちろんスタンディング。オーベイション。アンコールを求める拍手が鳴り止みません。ほんの少し後、ライをはじめてとするバンド・メンバー全員がステージに戻ってきました。ライは、歌詞を覚えていたないのでラップトップのコンピューターをエフェクター群の上に置こうとしますが、うまくいきません。すかさずハミルトーンズのメンバーが椅子をライのそばに運んで、無事にPCを置くことができました。次の曲の歌詞を覚えてないけど、ヨアヒムがこのPCで歌詞を出してくれたみたいなことを言って笑いをとっていました。そして、お気に入りの豹柄ピックガードのストラトを手に取ると、おもむろにチューニングを変えはじめます。「The Very Thing …」を弾いたときのチューニングから5弦をAからGに下げ、3弦をF#からGにあげてOpen Gにし、はじまったのは「How Can A Poor Man Stand Such Time And Live」でした。自分の知る限り、今回のツアーでははじめて披露されるナンバーですが、自分が日本で行った過去3回のコンサートでは必ず演奏されていたライお得意なナンバーのひとつ。今回はハミルトーンズとの息もぴったり、しみじみと聴かせます。間奏ではライのソロのあと、サム・ジェンデルがまるでエレベーターが下降するような前衛的にフレーズを奏でますが、その演奏にもライはオブリで絡んでいきます。曲が終わるとライは同じギターのまま、アップテンポの演奏をはじめます。「Little Sister」です。今回は新作『The Prodigal Son』からの曲は当然ながら、『Bop Till You Drop』から多くの曲を演奏しています。オリジナル・バージョンと違って間奏ではボトルネック・ギターで力強いフレーズが奏でられます。

曲が終わると、ライはバンド・メンバーに指で「もう1曲」という意味の指示を出し、ギターをダフネブルーのストラト(やはりOpen Gチューニング)に持ち替え、ライが一人でしばしフレーズを弾いて合図を送ると、ハミルトーンズのメンバーが天を突くようなファルセット・ヴォイスで歌いはじめます。「I Can't Win」です。『Bop Till You Drop』盤のボビー・キングとは違いますが、遜色ない歌声とコーラス、間奏ではライのノンスライドの美しいギターのフレーズが響き、早くも3番。夢のようなステージはあっという間に終演です。

それでも、全15曲。およそ1時間40分に及ぶ熱演です。ハミルトーンズのボーカルをフューチャーした曲が3曲あったとはいえ、新作を中心に12曲を熱唱しました。「Nobody's Fault But Mine」「Vigilante Man」「Jesus And Woody」の3曲以外は立って演奏するという元気なところをみせています。さすがに70歳を過ぎていますから2時間以上のステージはきついでしょうけど、とっても元気そうで安心しました。ホールのサウンドはとってもクリアで音量も小さすぎす、大きすぎす、とっても耳心地のよいものでした。はじめて訪れた町、シアトルの100年以上前に建てられた音のいいホールで、ライ・クーダーの素晴らしい演奏を楽しむことができたのは本当に幸せだと感じました。シアトルのお客さんはとてもマナーがよく、自分のまわりでは、おしゃべりをする人や写真を撮る人は皆無だったので、自分もステージの撮影はしていません。ライ・クーダーは、今回のツアー前半でケントのバイオリン・タイプ、プレマイアーのソリッド、正体不明のダブルネックなど、さまざまなギターを持ち込んでいましたが、後半にはフェスが2回あることも関係してか、かなり楽器を整理したようです。ただ、前半には用いられなかったマーティンのOOO-28の演奏が1曲聴けたのは収穫でした。あと、プレマイアーのフルアコはトラブルの可能性があるのか、ヘッドに「KAWAI」のロゴのように見えたそっくりのギターを開演前にテクニシャンがテストしていましたが、実際の演奏では用いられなかったようです。

ホールを出ると外は真っ暗。ホールの出口で「出待ち」をしているであろう人々の姿も見えましたが、自分はさすがに33時間近く眠っていないので、近くの通りでタクシーをつかまえて、この日の宿に戻ることにしました。それにしても、ひさびさのライ・クーダーのフル・ステージを堪能した、よい夜になりました。

Joachim Cooder

1 Strange Love
2 Fuchsia Machu Picchu
3.Gaviota Drive
4.Country Blues

Joachim Cooder (mbira, percussions) Sam Gendel (sax, guitar),

Ry Cooder with The Hamiltones

1. Nobody's Fault But Mine (Ry Cooder & Sam Gendel, Ry plays Premier hollowbody Electric Guitar)
2. Everybody Ought to Treat a Stranger Right (Full Band, Ry plays Sunburst Stratocaster)
3. Straight Street (Full Band, Ry plays Daphne Blue Stratocaster)
4. Go Home Girl (Full Band, Ry plays Daphne Blue Stratocaster)
5. The Very Thing That Makes You Rich Makes Me Poor (Full Band, Ry plays Sunburst Stratocaster)
6.Highway 74 (The Hamiltones with the band without Ry Cooder)
7.Gotta Be Loving Me (The Hamiltones the band and Ry Cooder, Ry Plays Univox Les Paul Model)
8.Vigilante Man (Ry Cooder solo, Ry plays Premier hollowbody Electric Guitar)
9.Jesus and Woody (Ry Cooder solo, Ry plays Martin OOO-28 Acoustic Guitar)
10.You Must Unload (Full Band, Ry plays Electric Bouzouki remodeled from Vox Wyman Bass)
11.Jesus On The Mainline (Full Band, Ry plays Electric Bouzouki remodeled from Vox Wyman Bass)
12. Get Rhythm(Full Band, Ry plays Sunburst Stratocaster)
(encore)
13. How Can A Poor Man Stand Such Time And Live? (Full Band, Ry plays Sunburst Stratocaster)
14. Little Sister (Full Band, Ry plays Sunburst Stratocaster)
15. I Can't Win (Full Band, Ry plays Daphne Blue Stratocaster)

Ry Cooder (Vocal, guitar), Sam Gendel (sax), Joachim Cooder (drums), Robert Francis (bass), and The Hamiltones (Vocals)

シアトル&バンクーバー島旅行記3 MoPOP

MoPOPは、グーグル・マップには現代美術館と訳されていますが、ミュージアム・オブ・ポップ・カルチャーの略語であり、けっこうニュアンスが違いますよね。もともとEMP(Experience Music Project)という名前でポップ・ミュージックに特化した博物館だったのですが、2016年に現在の名前に変更。ゲーム、SFやホラー映画、現代アートなども対象となっています。ビル・ゲイツとともにマイクロ・ソフトの共同創業者でありシアトル出身の大富豪、ポール・アレンによって2000年に建てられた施設です。

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MoPOP EMPだったころは、全館シルバーだった。

ここに到着した時間は、午後4時前、日本時間では14日の午前8時です。13日は興奮で早くに目が覚めていたので、この時すでに24時間以上起きていたことになり、展示を見るにも眠気で英語の解説板を見るのも骨が折れます。メイン・エントランスは2階、エントランスを入ると吹き抜けのかなり大きなステージがあり、バックの巨大なモニターにどこかのバンドの演奏風景が映し出されています。ここでライブなどのイベントもやるのでしょう。なんでも、申し込めばスポットライトを浴びながら疑似ライブ体験もできるそうですが、自分が行った時は誰もやってませんでした。エレベーター・ホールの向こうはやはり吹き抜けで、たくさんの楽器(エレキ・ギター、アコギ、ベース、バイオリン、マンドリン、キーボード、アコーディオンなどなど)でできたタワーのオブジェがあります。ヤマハやテスコ・デルレイといった国産ギターもありました。

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巨大な楽器のオブジェ

2階には、ジミヘンとカート・コベインというシアトルが生んだ二人のスターの展示コーナーがあります。ジミヘンの衣装やウッドストックの時に弾いたギター、日記の一部などは目を見はりました。もちろん、ジミヘンの大ファンではないのですが、それでも、エレクトリック・ギターの世界でジミヘンが果たした役割の大きさは知っています。そういう意味では、グランジの世界で大きな役割を果たしたカート・コベインの展示も興味深いはずなのですが、思い入れがあまりないのと、眠たいのでじっくりとは見ませんでした。ファンの方からすればもったいない話なんでしょうけど…。やっぱり、ウッドストックはレコード、CD、映像と繰り返し見ていて、モンタレー・ポップも映像で見ているし、大好きなスティーブン・スティルスとの共演もあるし、ファンでなくてもジミヘンの方は馴染みが深くなるのに対し、ニルヴァーナの方はファーストを聴いたことがあるくらいというところで興味の度合いが違うようです。もっとも、コベインが初期の頃に弾いていた日本産ユニボックス製のモズライト・コピー・モデル(バラバラになっいる)などの展示には少々興味を惹かれました。また、Hall Of Fameのコーナーもありましたが、あまり馴染みのない俳優関係が多くこのあたりも流しました。

ジミヘンマント
























ジミヘンのマント

ジミヘントランク























ジミヘンのトランク

ジミヘン衣装























ジミヘンのステージ衣装

ジミヘンペンダント
ジミヘンのペンダント

ジミヘンD45























ジミヘンのマーティンD-45

ジミヘンストラト
ジミヘンがウッドストックで弾いたストラト

3階には楽器やボーカルを体験できるブースがありました。平日なのにけっこうなお客さんでにぎわっておりました。たくさんブースがあって、ジャムとかができるコーナーもありまして、自分もちょっとだけギターのコーナーに入りましたが、まぁ、出て来るサウンドはアイフォン・アプリなんの音とそう違わないような気がしました。思えば自分の入ったブースはドラム、ベースのブースと三角形になっていてガラスで仕切られており、その気になれば見知らぬ同士でセッションもできたのでしょうけど、出てくるちょっとデジタルっぽいサウンドにあまり心惹かれず、すぐに体験コーナーを後にしました。ほかに3階にはアートのコーナーなどがありました。1階はホラーやSF系の展示が充実しています。猿の惑星のドクター・ザイアスの着ぐるみや、スタートレックの宇宙船の模型、ゴーストバスターズの武器、スパイダーマンなど日本人におなじみのものもありました。

ボンゾラディック
ツェッペリンのボンゾがキャリア初期で叩いたラディックのドラムセット

ゴーストバスターズ
ゴーストバスターズに出てきた武器

バックトゥスケボー
バック・トゥ・ザ・フューチャーのスケボー

リンゴ宇宙人





















リンゴスターのアルバム・ジャケットに使われた宇宙人

goodnightvienna












リンゴのGood Night Viennaのジャケット

このMoPOPも入場料28ドル。けして安くはありません。ジミヘンとカート・コベインのファンには必見でしょうけどね。以前はクラプトンのギター、ブラウニーなども展示されていたようですが、音楽に特化した博物館の時に見ておきたかった気がしました。

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シアトルのランドマーク、スペース・ニードル

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シアトルのモノレール

さて、夕方6時近くなってきたので、再び街の方に移動です。モノレールでさきほどのウェストレイクに戻り、通りを歩いてムーア・シアターを発見しました。外壁補修中で足場が組まれていましたが、今夜の出し物にしっかり「RY COODER」の名前を確認。シアターの真ん前にはクーダー様ご一行用のツアーバスも駐められています。さて、そろそろ、夕食をとし事前に調べていたEtta'sを探しに海側に2ブロックほど移動。シアトルは海に面した高台の街のようで、ムーアから1ブロック目は平坦でしたが、次の坂がかなり急でした。しかし、その前面にはきれいな海が広がります。

6時半頃からライブ前の腹ごしらえ。Etta'sはおしゃれな感じのシーフード中心のレストランで、入り口の両側はオープン・カフェになっていて、みなさんおいしそうに夕食を食べています。Etta'sに入るとバー・カウンターに案内されました。クラムチャウダーとEtta's 'Rub with Love' salmonを注文。クラムチャウダーは文句無く美味かったです。おすすめです。サーモンの方は、特に舌がとろけるほどではなかったけど、そこそこうまかったです。つけあわせのコーンブレッド・プディングもなかなかいけました。食後のコーヒーもうまかったです。

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エッタズのクラムチャウダー

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サーモン

さて、これからいよいよ待ちに待ったライ・クーダー公演。その前にトーテム・ポールのある店の前の公園でシアトルの街の景色をカメラに収めます。すぐ北西側はシアトル・パイク・プレイス・マーケット。シーフードなどなどの市場で観光客でにぎわっている模様。スターバックス1号店もこの近くにあるのだとか。時間は19時をまわっていますが、空は抜けるように青く日暮れはまだまだのよう。さっき降りた急坂をのぼって、いざ、ムーア・シアターに向かいます。

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ビクター・スタインブルーク公園

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公園から見たウォーター・フロント

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シアトルやタコマ市を象徴する山、レーニア山を望む
ギャラリー
  • John Hiatt / The Eclipse Sessions
  • Richard Thompson / 13 Rivers
  • Tony Joe White / Bad Mouthin'
  • Van Morrison And Joey Defrancesco / You're Driving Me Crazy
  • Chaeles Lloyd & The Marvels + Lucinda Williams / Vanished Gardens
  • Ry Cooder / Blue City
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レシーブ二郎
福岡県内で音楽活動してます。本厄となりましたが、楽器の腕はまだまだ。がんばっていきたいものです。リスナー歴は長いけど、アマチュア・プレイヤー歴は駆け出し。持ってる楽器は多数。おいおい紹介していきます。
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