08c95cf6.1973年は、ライ参加作には力作が多いです。
中でも白眉の一枚がこの、マリア・マルダーのソロ・デビュー作。

マリアは、東海岸の人。1960年代、ジョン・セバスチャン、ステファン・グロスマン、デヴィッド・グリスマン、スティーブ・カッツらを擁したイーヴン・ダズン・ジャグ・バンドに参加。ジョンと一緒に見に行ったジム・クェスキン・ジャグ・バンドのジェフ・マルダーに一目惚れ。マリアもジム・クェスキン・ジャグ・バンドに参加し、ジェフと結ばれます。バンド解散後は、夫婦のデュオ・アルバムを2枚発表。長じてシンガーになるジェニーという娘にも恵まれますが、72〜3年頃離婚。リプリーズ・レーベルから心機一転、ソロ・デビューを果たしたのがこのアルバム。制作はレニー・ワロンカーとジョー・ボイドが当たりました。広い意味ではバーバンク・サウンドに入りますね。

夫婦デュオの頃から彼女の歌には、大人の色香が漂っていましたが、ジャケットのとおり、ここでも、そのお色気路線は全開です。それをサポートするミュージシャンがまた、キラ星のごときスターばかり。出てくるサウンドも非常に多彩ですが、それでいて、統一感がとれている。ファーストにして彼女の最高傑作と断言できる逸品です。

まず、何といっても、冒頭の「Any Old Time」です。ジミー・ロジャースがブルー・ヨーデルをからめて歌った素朴なナンバーですが、これをライ・クーダーが自身のアルバムのように秀逸なギター・アレンジをほどこします。とにかくライらしい複雑なフィガリングで美しい響きのアコースティック・ギターがアレンジの基本。ライのギターだけをバックにマリアがファースト・ヴァースを歌いきると、サビから、ホーンやリズム隊がかさなり、にぎやかに盛り上げます。バンドの編成をみると、ベースにトミー・マックルーア、ドラムスにジム・ケルトナー、ピアノにジム・ディッキンソンと、ライの3作目『Boomer's Story』の基本メンバー(前年にはこのメンバーでタウンホールにおいてライブが披露されました)。それに、デヴィッド・リンドレーがハワイアン・ラップ・スティールで参加しています。ライとリンドレーは60年代、ともにアッシュ・グローヴなどコーヒー・ハウスの常連でしたから、多くの共演経験を持っているでしょうけど、公式なアルバム上での共演はおそらくこれが最初でしょう。間奏では、ライの鮮やかなアコースティック・ギターが主役ですが、リンドレーのサポートもなかなか乙なもの、とにかく、数多いライのノン・スライド生ギター・プレイの中でも、最上級に位置するものではないでしょうか。ライ・ファンには、マスト・アイテムです。

2曲目は、流れるようにモダンでジャジーな大ヒット曲「Midnight at the Oasis」。この曲においてのエイモス・ギャレットの活躍は語り尽くされた感がありますから、ここでは詳しく述べませんが、ほんとタメ息のでるほど美しいプレイ。ドラムのジム・ゴードンとベースのフリーボも好サポートです。

一転して、カントリー調べの「My Tennessee Moutain Home」では、クラレンス・ホワイト、デヴィッド・ニッチターンのギター、かつての僚友デヴィッド・グリスマンはマンドリンで参加。

このほかにも、ドクター・ジョンが参加してニュー・オーリンズ色が濃くなる「Don't You Feel My Leg」や「Three Dollar Bill」「Vaudeville Man」、典型的アコースティック・スィングの「Walkin' One&Only」では、達者なレイ・ブラウンのウッド・ベースにのって、リチャード・グリーンのフィドルが夜の闇を切り裂いていきます。また、スワンプの雄、ロン・デイヴィスが書いたゆったりした名曲「Long Hard Clmb」も秀逸。ここにあげなかった曲も一切捨て曲なし。発売当初は日本の著名な音楽評論家にこの盤を酷評する方がいらっしゃったようですが、30年以上たっても全く色あせていません。これぞ名盤の正しいあり方です。