4944894c.jpgこりゃまたすごいアルバムです。最高です。ライ・クーダーの最新作「My Name Is Buddy」に続いて届けられたこのメイヴィス・ステイプルスの最新作は、ライ・クーダーが全面プロデュースしています。「My Name Is Buddy」であまり聞けなかった、エレクトリック・ギター・サウンドがふんだんに使われ、それでいて、アコースティック楽器も上手く生かされ、ライならではのR&B感覚がメイヴィスの良さを十分に引き出しています。サウンドだけでなく、精神面でも「My Name Is Buddy」とあわせて聴くことで、現在のライの立ち位置が明確に浮かび上がってくるようです。

メイヴィス・ステイプルスは、いわずと知れたステイプル・シンガーズのリード・シンガーでした。ステイプル・シンガーズは父ポップス・ステイプルスと三人の娘たちで構成されたファミリー・グループでメイヴィスは三女。初期は典型的なゴスペル・グループでしたが、後期にはソウル的色彩を帯びていきます。メイヴィスは1969年にソロ・アルバムをリリース。グループと並行してソロとしても活動も行い、アレサ・フランクリンらと並んでレディ・ソウルの第一人者になります。80年代末から90年代前半にはプリンス・ファミリーの一員となり彼のプロデュースでアルバムも発表しました。1996年にリリースされたマヘリア・ジャクソンに捧げるアルバム「Spirituals and Gospel」は鍵盤だけをバックにした原点回帰的なアルバムで素晴らしい内容でした。このアルバムは2004年の「Have A Little Faith」に続くソロとして11枚目のアルバムです。

彼女の父、ポップスはエレキギターでゴスペルの伴奏をしていましたが、このギター・プレイがライ・クーダーのギター・スタイルに多大な影響を与えました。彼は2000年に85歳で他界しましたが、92年と94年にリリースされたソロ・アルバムには、ライ・クーダーもゲスト参加していました。このことも、今回のアルバムのプロデューサーにライが選ばれた伏線になったのでしょう。

アルバムのブックレットを開くと、「ママとポップス・ステイプルスの愛すべき思い出に」の文字があります。次のページにはメイヴィスの父、ポップスとキング牧師が並んで写っている写真があり、アルバムのタイトルが記されています。この写真にアルバムのテーマが集約されています。それは、次のメイヴィスのライナーを読めば明白でしょう。

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わたしたちが、ファミリー・グループのステイプル・シンガーズを始めた頃、たいてい南部の教会で歌っていました。父のポップス・ステイプルスは1963年にマーティン・ルーサー・キング牧師に会ってから、わたしたちは音楽的視野をゴスペルの外にも広げるようになりました。ポップスはわたしたちにこう言いました。「わしは、この男が好きだ。わしは、彼のメッセージが好きだ。彼が説教できるなら、わしらは同じことを歌で伝えることができる。」それで、わたしたちは「Why Am I Treated So Bad」「When Will We Be Paid for the Work We've Done」「Long Walk to DC」のような、たくさんの「自由の歌」を歌い始めました。こうして、公民権運動の中でわたしたちは、教会から、社会正義を得るための助力と、平等を獲得する挑戦のための精神性と力を引き出しました。

わたしたちは、公民権運動を代表するグループになり、この国を変えていく希望に満ちた助力となりました。それは困難で危険な時期でもありました。1965年には、アーカンソーのウエスト・メンフィスの牢獄で一夜を過ごし、生きて外に出られるだろうかと心配しました。しかし、わたしたちは立ち上がること、わたしたちのメッセージが多くの人々に届くことが必要だと感じたのでした。

わたしたちは、また、多くの人は、公民権運動の中で教会は明確な変化をもたらす内なる力を持つ場所として期待しました。しかし、今日それは失われたかのように見えます。2007年の今日、世界中には多くの問題や、社会的不平等がまだまだ存在します。わたしはみなさんに、今こそ、これまで以上に変化が必要な時だと訴えたいのです。わたしは、再び教会に力を求めようと思っています。

このレコードをつくるにあたって、わたしは、希望を持って明確な変化を求め続けていくというステイプル・シンガーズと同じ感情、同じ精神、同じメッセージを込めたいと希望しました。われわれは世界をよりよい場所へと変えつづけていかねばならないのです。物事は好転していますが、われわれはまだ道の途中です。けして振り返りはしません。99と1/2のところまで来ています。到達まであとわずかです。さあ、行きましょう。

                             メイヴィス

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メイヴィスのライナーの前にもジョン・ルイスによるライナーがあります。それには次のように書かれています。「この音楽を聴くと、ジョージア州の赤土の丘や、アラバマ州のブラック・ベルト、ミシシッピのデルタ地帯に連れ戻されるような気がする。そして、あの頃、虐げられた人々が自由を求め、痛みに耐えてもらしたうめき声が聴こえるような気がする。」これは、メイヴィスの歌声とライが作り出したバック・ミュージックが見事にアフカン・アメリカンのルーツを表現していることを如実に示しています。メイヴィスは、肌の色に関係なく、「今」最もリアルなルーツ・ミュージックをつくることのできる人物が誰か十分にわかっていたのです。

アルバムを聞き進めて行きましょう。冒頭には、J・Bルノアーの「Down In Mississippi」が収められています。この曲は、ライ・クーダーが「Crossroads」のサントラを制作する際にとりあげ、テリー・エヴァンズに歌わせていた曲で、88年の来日公演でも聴くことができました。94年のポップスのアルバム「Peace To The Neighborhood」にも収録されていました。ここでは、より引き締まったアレンジになり、フラット・マンドリンやアコースティック・ボトルネック・ギターを加えて、カントリー・ブルース的な味わいを出しています。

2曲目「Eyes on The Prize」は、のっけからライのエレクトリック・ボトルネック・ギターがフューチャーされています。トラディショナルですが、モダンなアレンジになっています。このタイトルは公民権運動を象徴する言葉として使われた模様です。

3曲目「We Shall No Be Moved」はゴスペル・ナンバーで、やはりポップスの「Peace To The Neighborhood」にも収録されていました。ポップスのときは、ライのアコースティック・ボトルネック・ギターが印象的な間奏を弾いていましたが、今回はエレクトリック・ギターで抑制のきいた演奏です。ライナーには特に記されていませんが、この曲でも歌詞の書き換えが行われているようです。まず、タイトルが一人称単独のIから複数のWeになっています。この曲の歌詞の大意はもともと、水で育てられた木のように、神への信仰心は揺るぎはしないという内容だったのですが、「ユニオンがついている」「自由のために戦おう」「子供たちのために戦おう」と歌われています。ゴスペルを労働運動の歌に書き換えているわけで、このアルバムに収録された他のゴスペル・ソングについても同じように歌詞が変えられています。

以上3曲には、南アフリカからレディスミス・ブラック・マンバーゾが参加して、独特のコーラスを披露しています。こうした人選もライならではでしょう。通常のゴスペル・コーラスと違って、アフリカン・ルーツが強調されます。

4曲目「In The Mississippi River」からは、ルーサ・ハリス、チャールズ・ネブレット、ベティ・メイ・ファイクスの3人がコーラス。この曲では、チャールズとメイヴィスがデュエットしていますが、曲調はブルージー、エンディング近くでライのエレクトリック・ボトルネックの短いソロも登場します。

5曲目、マヘリア・ジャクソンのレパートリーでもあった「On My Way」は、ライのアコースティック・ボトネルックが活躍するブルージーなナンバー。後半徐々に情感が盛り上がっていきます。ドローン効果が出ていますので、フロア・スライドなども用いられているかもしれません。

6曲目「This Little Light of Mine」は「光よ照らしておくれ」というお決まりのフレーズが出てくるゴスペル。ややアップテンポにアレンジされ、ライのエレクトリック・ギターはあまりでしゃばらずにリズムをスティディに弾いています。

7曲目「99 and 1/2」はライの息子ヨアヒムがミュージック・アレンジを担当していますので、サンプリングなども使ってよりモダンなアレンジになっています。おそらく、ライのギターはループで繰り返されているのでしょう。

8曲目「My Own Eyes」は、メイヴィスとデヴィッド・バートレットが詞を書き、ライが曲をつけたオリジナル・ナンバー。この曲では、コーラスを使わず、メイヴィスの独唱になっています。歌詞は、彼女のライナーと内容が重なり、深いメッセージが託されているようです。そして、伴奏でライの弾く美しいエレクトリック・ギターが実に効果的です。ボトルネックは用いていませんが、音色もフレーズもまさにワン&オンリーの世界です。

9曲目「Turn Me Around」は、ライのブルージーなマンドリンで幕を開けます。彼のこんなマンドリンを聴くのは、ずいぶん久しぶりのような気がします。曲はブルースではなくポジティブな内容と思われ、アップテンポで高揚感のある演奏です。アルバムも佳境に入ってきます。

10曲目がタイトルトラックの「We’ll Never Turn Back」です。マイク・エリゾンドのピアノも加わり、ライはアコースティック・ギターで静かに伴奏します。曲はバーサ・ゴバーの手によって、1960年代のまさに公民権運動の時代に書かれたもので、バーバラ・ディンとチェンバーズ・ブラザーズによって1966年にレコーディングされています。いやはや、素晴らしい選曲です。

11曲目「I’ll Be Rested」は、ライとメイヴィスによって作詞され、ヨアヒムが曲を書いたバラード。やはりサンプリングを用いたモダンなアレンジです。曲の終わり頃、キング牧師、マヘリア・ジャクソンなど、世を去った偉人達の名が次々に呼ばれますが、最後に感きわまった声で、ママと父ポップス・ステイプルスの名前が呼ばれます。

ラスト12曲目は、ライの定番曲「Jesus on The Mainline」でシメとなります。メイヴィスがアルバムのテーマに沿って詞を書き足しています。ライは今まで何度もこの曲をレコーディングしていますが、たいていはボトルネック奏法で演奏していました。今回は、ノンスライドのアコースティック・ギターを中心に伴奏を組み立てています。それにしても、メイヴィスの歌の素晴らしさはどうでしょう。

アルバムに参加しているのは、ベースとピアノにマイク・エリゾンド、ドラムにジム・ケルトナー、パーカッションにヨアヒム・クーダーと、おなじみのライ・ファミリー。ヨアヒムは、「Down In Mississippi」「99 and 1/2」「I’ll Be Rested」3曲の共同プロデューサーとしても名を連ねています。ケルトナーのプレイもまさにいぶし銀ですね。「My Name Is Buddy」で、ライのギターをもっと聴きたかったという人も満足でしょう。また、歌もコーラスも最高、メイヴィスは御年67歳ですが、ますます渋みのでたいい声になってますね。

「My Own Eyes」の中には「ニューオーリンズでは多くの人々が死んでいった。」という歌詞があります。メイヴィスは災害のあと、多くのアフリカン・アメリカンが苦しんでいる姿を見て、現状を変えねばならないと痛切に感じたことでしょう。国外に目を転ずると世界は矛盾に満ちています。ライがこの仕事を受けたのは、こうした状況を打破するため、公民権運動の時代に立ち戻って、多くの人に世の中を変えていくよう訴えねばならないと考えた、メイヴィスの気持ちを共有することができたからでしょう。ライの最新作は、あの恐慌時代を旅する放浪の三匹ですが、今や時代遅れとされているコミュニストへの熱いシンパシーが感じられます。そして、このアルバムの登場です。このように見ると、ライがキューバやベトナムのミュージシャンとコラボレーションを行ったのも、単にすばらしい音楽を求めるためだけではなかったような気もしてくるのです。
それにしても、このアルバム、歌、サウンド、メッセージ、どれをとっても超一級品ですね。「My Name Is Buddy」とともに今年の大愛聴盤になりそうです。