5aef961f.jpgあれは、確か1986年の大晦日だったと思います。今はなき大阪梅田のコマ劇場で上田正樹、タイのカラワン、BORO、入道などといっしょに、再編ウエスト・ロード・ブルース・バンドを見ました。はじめて見る彼らのライブ。力強い演奏が今も印象に残っています。ホトケのボーカルの素晴らしさはもちろんですが、塩次、山岸のご両人によるギター・サウンドにしびれました。ジェームス・ブラウンの「Papa's Got A Brand New Bag」のカバー。ホントにかっこよかったなぁ。一方、この時の上田正樹のバックには確かスライ&ロビーが来ていたような気がします。キーボードとコーラスに佐々木久美。そして数曲でゲストとして有山淳司が登場しました。たしか、「ウー・ララ」を有山さんが歌い、「なつかしの道頓堀」ほか数曲『ぼちぼちいこか』から演奏したような記憶があります。有山さんとキー坊は、それ以前にもバナナ・ホールとかライブ・ハウスで見たことがあったのですが、この時の関西ブルーズの波状攻撃に自分は完全に撃沈されたのでした。

それから後追いで『Sooo Bad Review』を聴いたりして、自分にとって日本のエレクトリック・ブルーズ・ギター・ヒーローの地位には山岸潤史の名前が常にありました。しかし、高田渡の『Fishing On Sunday』がCD化されたとき、「ヘイ・ヘイ・ブルーズ」で山岸さんが実に達者なアクースティック・ブルーズ・ギターを披露しているのを聴いて、これはただ者ではないと直感し、いつか山岸さんのアクースティック・ブルーズ・ギターを堪能してみたいと念じていましたが、それが有山さんとのデュオの形で実現しようとは夢にも思っていませんでした。付属のDVDで本人達が語り合っているように、30年以上の濃密なつきあいにもかかわらず、山岸さんの勉強トリオのゲストで有山さんがちょこっと参加するとか、木村くんと有山くんのゲストに山岸さんがちょこっと参加するくらいで、共演した回数は数えるほど。今回どちらのオファーかわかりませんけど、このような企画が実現したことは、二人のファンとしては実に喜ばしいことです。本当は東名阪で行われるライブのどれかに参戦したかったのですけど、仕事と自分たちライブの都合でそれもかなわないのが非常に残念であります。山岸さんは1995年にニューオーリンズに移住。ワイルド・マグノリアスやパパ・グロウズ・ファンクの一員としてワールド・ワイドに活躍しているので、今はライブを見れる機会もずいぶん限られているので、無理してでも行きたかったんですけどね。

でも、このCD、レコーディング風景などを収録したDVDがついています。このDVDの一番のみどころは二人の「素」の会話やアレンジの打ち合わせ風景だと思うのですが、スタジオ・ライブ3曲が収録されているのも嬉しいですね。その内2曲は本編に収録されていないSooo Badの「しょぼくれあかんたれ」と有山さんの定番曲「梅田からナンバまで」という選曲もGoodです。生のライブを見れなくてホント残念ですが、せめてこのDVDを見て楽しませてもらうことにしましょう。

さて、本編の方ですが、2曲を除いて二人のギターのみの演奏。オーバーダブも極力少なくしているようです。有山さん主導のナンバーが「皆既日食」「よいしょよっこらしょ」「Jamaica Song」「Sukiyaki Blues」「残しとこう」の5曲。山岸さん主導が「Tipitina」「Young Boy Blues」「Monday Night In New Orleans」のおそらく3曲。どちら主導とも言えないのが「そろそろおいとこ、Carless Love」と「ろっかばいまいべいびい」の2曲という構成なんだろうと思います。「皆既日食」は古くから有山さんがとりあげているエタ・ベイカーの「Railroad Bill」が原案ですよね。『Make A Joyful Noise』では「Railroad Junji」というタイトルでやっていましたが、今回は山岸さんとギター2本バージョンのインスト。リードパートはほとんど山岸さんが弾いているのですが、有山さんの単純にバッキングだけとは言えない渋いラグタイム・ギターとのからみがなんとも言えず渋いです。「よいしょよっこらしょ」は、二人でボーカル・パートをわけあいます。いつも有山さんのライブでは有山さんのフィンガー・ピッキングのギターだけを伴奏にこの曲を聴いているので、山岸さんの弾くカッティングがとても新鮮に響きましたが、『レア・ソングス』では、この曲でゴンザレス三上さんが、ガット・ギターでカッティングを担当していたんですね。今更ながら思い出しました。もちろん間奏では山岸さんの爽快なソロを楽しむことができます。「Jamaica Song」は、ライブで一度だけ聴いたことがありますが、元ネタはもちろん「さらばジャマイカ」。実に歌詞が有山さんらしいなぁと思ったら、カセットコンロスのワダマコト氏と共作なんですね。こういうトロピカルな曲での2本のギター・アンサンブルは最高です。リード・ボーカルは全編有山さんで山岸さんはコーラスに徹していますが、もちろんギターでは存分に自己主張していますよ。イカがスイスイ泳いでいるようなフィル・インとかね。「Sukiyaki Blues」は、ここ5年ほど、有山さんが好んでライブで取り上げてるナンバー。言わずと知れた名曲「上を向いて歩こう」で、有山さんのソロ・ライブでは必ず歌入りで披露されるのですが、ここでは歌の代わりを山岸さんのリード・ギターが務める形のインストになっています。ついこないだとりあげたロニー・スミスの新譜でもこの曲が取り上げられていましたが、彼がこっちのバージョンを聴いたらどんな反応を示すか見てみたいところです。アルバムのラスト・ナンバー「残しとこう」も有山さんが最近のライブでよくとりあげる曲ですが、CDに収録されるのははじめて。歌詞は下田逸朗さんですが、実にいい曲です。山岸さんの素敵なリード・ギターも入ってるしCD化バンザイですよ。そういえば、有山さん以前の下田さん作詞の「満月の夜」でもサブドミナント・マイナー使ってたと思いますが、そのちょっとオシャレな感じが歌詞に合うんでしょうね。

山岸さん主導のナンバーは、まず「Tipitina」。ニューオーリンズ・ピアノの名曲を、こんな風にアコギ2本で料理するのかと感心することしきり。長らく現地に住んでいる山岸さんならではの解釈ですが、有山さん低音弦を跳ね上げるようなバッキングと見事に息があっています。二人の歌もいいですよ〜。名曲揃いのこの盤の中でも、かなり気に入りました。「Young Boy Blues」はそれに比べるとカントリー・ブルーズ風なんだけど、クレジットを見るとフィル・スペクターとドク・ポーマスの作曲になってるではないですか。ウィルソン・ピケットもとりあげているみたいですが、ダニエル・A・ストーンというシンガーがオリジナルのようです。こちらのバージョンでは、山岸さんが歌いはじめ、ブリッジのところを有山さんという風に分担して歌っております。「Monday In New Orleans」も、やっぱりブルーズですが、実に心地よいエレキ・ベースが聴こえてくるではないですか。これを弾いているのは、なんと細野晴臣さん。そういえば、上に書いた高田渡氏の『Fishing On Sunday』のときのベースも細野さんでした。この曲では、山岸さんがリードボーカルで、有山さんは上をハモっていますが、間奏で独特のあのスキャットを一人で歌っております。いやはや楽しい演奏ですなぁ。

その細野さんが、西岡恭蔵さんに書き、本人も歌った名曲「ろっかばいまいべいびい」は、この盤のハイライトの一つ。もちろん細野さん本人のベースも入っています。1番を有山さんが歌い、2番を山岸さんが歌い、そしてブリッジの部分で細野御大自らのボーカルも聴けます。この曲で細野さんが弦上で指をすべらせるタイミングとか、なにげないリード・ギターのフレーズとか。ホント職人技ですなぁ。頭一発目のタイトル・トラック「そろそろおいとこ、Carless Love」では、二人のリード・ギターが交互に語り合い、二人で書いた歌詞をいっしょに歌っています。この息の合いかたはただものではありません。二人ともブラック・ミュージックのとっても深いところ、一番大切なものをきっちりつかみとっているからこそ出てくる同じグルーヴ、リズム、メロディなんだなぁ…と、心地よい演奏にひたりながら、そんなことを思いました。

それにしても有山さんという人は実に多くの人に愛されていますねぇ。ギタリストでも渡辺香津美、内田勘太郎、長岡忠治、石田長生、ゴンザレス三上、中川イサト、富永寛之といった凄腕達との交流があり、今回ここに山岸潤史が加わりました。こういうデュオものでは上田正樹、木村充揮に続いて3組目となりますが、今回は互いに凄腕ギタリストというところが面白いですね。次は有勘でも一枚つくってほしいですねぇ。とにかくアクースティック・ギター好きの人には必ず耳にしてほしいアルバムです。これは絶対、愛聴盤になることは間違えないです。