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ジェネレーション・ホール入り口

今回の旅行で一番残念だったのは、オリジナル・ミーターズの再結成を見逃したことです。このギグは5月5日にハウリン・ウルフというライブ・ハウスで開催されたのですが、2月はじめに告知され、短期間で売り切れとなりました。オリジナル・メンバーでのミーターズは、2005年のジャズ・フェスで久々に再結成し、その後に年に1・2回のペースで再結成されていました。今年のジャズ・フェスには、ドラムがラッセル・バティステJr.、ギターがブライアン・ストルツに、アートとジョージという面々のファンキー・ミーターズの方がラインナップされていましたから、オリジナル・ミーターズは出ないものだと思っていたら、なんと30年ぶりのクラブ・ギグがあったわけです。これに気づいたのは2月中旬。チケットは70ドルとこちらではけっこう高かったのですが、上にも書いたようにすでにソールド・アウトでした。これは痛かったです。

3月中旬になって、5月1日の夕刻から2日の午前2時にかけて、「ニューオーリンズ・ミュージシャンズ・フォー・オバマ」なるイベントが開催されるというインフォメーションがありました。今年は大統領選挙の年ですから、ニューオーリンズのミュージシャンがこぞってアメリカ最初の黒人大統領を支援しようというイベントらしいです。この企画の中心人物は、シリル・ネヴィルの奥さんゲイニェル。出演者はアラン・トゥーサン、ドクター・ジョン、シリル・ネヴィルらの名前にまじって、リオ・ノセンテリ、ジョージ・ポーターJr.、ジガブー・モデリステの名前があるではないですか。ほかにもトロンボーン・ショーティやらアンダース・オズボーンやらダンプスタ・ファンクやら、ニューオーリンズの著名ミュージシャンのほとんどの名前があがっております。そして、しばらくすると、ついにアート・ネヴィルの名前も出演者につらなりました。ものすごいラインナップだし、それに、もしかしたら、オリジナル・ミーターズ全員の演奏が聴けるかも? との思いでネットでチケットを購入しました。

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ジェネレーション・ホールの建物

ただ、1日の午前中はプランテーション・ツアー。はたして夕刻から8時間ものライブで疲れ果てるのではないかと思ったのですが、ジェネレーション・ホールという会場名から椅子席ではないかと勝手に判断し、翌2日にはなんにも予定を入れないことにしておきました。ホーム・ページを見ていると次々に参加ミュージシャンの数が増えていきます。ネットでジェネレーション・ホールを検索してみると、椅子席のホールなどではなく、結婚式とかもできるパーティ・スペースのような雰囲気です。参加ミュージシャンの数はついに70組をこえてしまいました(ジガブー、リオ・ノセンテリもそれぞれ1組となってますが)。いったいどんなコンサートになるのか、全く予想がつきません。会場はハウリン・ウルフの近くです。周囲にはコンベンション・センターもあり、カフェやレストランも増えて最近は環境もかなりよくなってきたようですが、周辺の治安も気になるところです。この日のフロント・マンは背が高く感じがよさそうな白人男性。「ジネレーション・ホールって知ってる? 午前2時に歩いて帰るつもりだけど、どう思う?」とたずねてみると、「大きなコンサートがあるんだろ。終わったら群集にまぎれて帰って来たら安心だよ。それに、CBはOKだよ。」という返事でした。CBというのCBD(セントラル・ビジネス・ディストリクト)をさらに略したもの。割合近くなので、安心して歩いていくことにしました。もっとも、これは人出の多いジャズ・フェス期間中だからかも。ニューオーリンズに行く方は、夜間の行動には十分注意してほしいと思います。

パートナーの金さんの体調が心配でしたが、気丈にも「行く」というので一緒に行くことにしました。プランテーション・ツアーから戻って3時間ほどのんびりして、午後6時頃ホテルを出発。CBDにも古い建物はけっこう残っていますが、再開発で大きなビルになっていたり、一角がまるごと駐車場になっているところもあります。30分もかからずジェネレーション・ホールに到着です。ジェネレーション・ホールの入り口では、数名の係員が接客をしています。自分たちのところには、わたしと同年輩くらいのアフリカン・アメリカンのレディが、「May I help you?」と近づいてました。プリント・アウトしたチケットを見せると、英語で何やらたくさん説明をはじめました。その中に「イリーガル」という言葉が聞こえたので、「何が違法なんだろう??」と頭の中に?マークが点灯しているうち、何か聞かれたのに気づきませんでした。すると、金さんの方が「Japan」と答えております。「おお、どっから来たの?」と聞いていたのか。何やら説明され、受付に連れていってもらって、手に入場スタンプを押してもらったあと、係員と何やら話をして我々を会場の方へ案内してくれました。その時彼女が「あなたたちはお客様。今日はフリー・コンサートよ。さぁ、楽しんで」と言ったので、「どうして?」と聞き直したら、「外国の方から選挙資金を寄付してもらうのは違法(イリーガル)だから、入場料はあとで返金するわ。」とのこと、ようやく頭の中で合点がいきました。思ってもみなかった展開にびっくりしましたが、あとでフェスで知り合った日本の方にうかがうと、このライブの購入ページには「U.S.Citizen Only」とあったようなのですが、自分はそれに気づきませんでしたし、カードで買えてしまうシステムであることは、主催者側もわかっていたようで、そういう客が来た時は入場させて返金するという取り決めになっていたようです。

建物は結構年代ものの煉瓦作りのビルですが、中は大きく改装されて、とてもおシャレな空間になっています。入り口ではアンダース・オズボーンの姿を見かけました。1階部分には片方の端に小さめの小学校の体育館くらいの大きさのホールがあり、こちらの方がメイン・ステージ。一方の端には小形のステージがあって、こちらがサブ・ステージで、同時進行でライブが進んでいます。1階にはバー・カウンターが3カ所もあり、中央部にでケータリングでフードを提供しています。ホールは椅子席でなくスタンディング。床はフラット、冷房かなり効いてます。二階はVIP席で4人がけのテーブルが吹き抜けの手すりにそって並んでいます。

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カーミット・ラフィンズ

中ではすでにライブが進行中で、メイン・ステージで演奏しているのはシーザー・ブラザーズ・ファンクボックス。ギタリストは日本人ですが、ほどなく演奏終了。メイン・ステージの上部にはスクリーンがあって、オバマ大統領の映像が映し出されています。しばらくすると、カーミット・ラフィンズが登場。こんな早い時間に大物が出るんだなぁ。ピアニストは日本人で「ジーツー」というニックネームの辻さん。ギタリスト富永寛之氏のブログで知りました。2曲ほどはオーソドックスなジャズっぽい演奏ですが、3曲目はぐっとファンキーになり、4曲目で「Iko Iko」を歌って終了。さすが、ニューオーリンズのジャズメン。何だってできますね。こんな感じで3〜4曲でどんどんステージをまわしていくので、たくさんのミュージシャンをさばけるわけですね。

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アンダース・オズボーン

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レゲエを演奏したバンド

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サブステージで演奏していたバンド

サブ・ステージに行くとアンダース・オズボーンがもう一人のメンバーと二人で、アコギをかかえて歌っています。こちらはほどなく終了。ふたたびメインに戻ります。ドラム、ベース、ギター、キーボードの4人編成のセッション。ドラム以外はスーツで、ベースは白人さん。この方、どこかで見たような気がするんですが思い出せません。ラテンとかレゲエ調のナンバーをやっていたかと思いきや、「People Say」なんかも飛び出してうれしくなってしまいます。このセットが終わってサブ・ステージに行くと、クラリネット、サックス、チューバ、アコーディオン、バンジョーにドラムという編成で楽しい音楽をやっています。まわりを見回しても誰もプログラムのようなものをもっている人はいません。印刷物をつくるなら、それも寄付にまわしたいのかもしれませんが、お目当てのアーティストが知らないうちに反対側に出ちゃったらたまらんなぁ、と感じました。

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バティステ・ファミリー

再びメイン・ステージに戻るとバティステ・ファミリーがブルーズ・セッションをやってます。「Baby, What Want Me To Do?」とか「Sweet Home Chicago」などの有名曲をえんえん同じキーでつなぎ、だんだん白熱していきます。ベースはダンプスタファンクのニック・ダニエルズ。ドラムが途中で変わったり、トランペットアーヴィンのメイフィールドが参加したり、シリル・ネヴィルがティンバレスで入ってきたり、こういうイベントならではの贅沢なセッション。ラストはバティステ・ファミリーのキーボーディストが全身を使ってエンディングを指揮。めちゃめちゃかっこいいですねぇ。こんな風にセッション形式でミュージシャンを次々出演させているので、片方のステージにつき約35組というたくさんの出演者をさばくことができるのですが、もう一つ。ドラム・セットやアンプ類は使いまわしです。ジャズ・フェスの会場でもニューオーリンズのミュージシャンはこういう機材は使いまわしですが、なんともかっこいい音を出してくれます。「弘法は筆を選ばず」といったところでしょうか。

会場には「ビデオ、録音その他のデジタル製品の使用お断り」の張り紙がしてありますが、みんなデジカメやスマホでバンバン写真をとっていたので、自分もバティステ・ファミリーの写真をとっていたところ、左の耳もと近くで「Excuse me,Sir.」とよく通る声。そちらを見るとシェリフの制服を着た若いアフリカン・アメリカンが、張り紙の方を指さしてます。「No video」と言ってみたのですが、彼が首を振るので、「Sorry」と言ってカメラをしまうと、満足そうに離れていきました。せっかく入れてもらえたのに逆らってつまみ出されたら大変と、しばらく撮影は自重しましたがフェイスブックなどを見てると、明らかにプロでない方が撮った写真もたくさんアップされているし、本来おとがめなしのようなので、ことの次第を書いております。

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ダンプスタファンク(ネット上から拝借した画像)

メイン・ステージ次の出演は、アーロンの息子アイヴァン・ネヴィルをフィーチャーしたダンプスタファンクです。めっちゃかっこいいです。二人いるギターの一人はアートの息子のイアンで、もう一人はかつてのネヴィルズのベーシスト、トニー・ホールだったんですね。その時はぜんぜん気づきませんでした。女性ドラマーもなかなかファンキーです。アイヴァン、親父さんと違ってとっても野太い声してますね。でも、こういう曲にはばっちりあってます。彼らも4曲ほどで演奏を終え、自分たちが見ているすぐ横を帰っていきます。

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アラン・トゥーサン(ネット上から拝借した画像)

続いてのステージはアラン・トゥーサン。まだ8時くらいなのに超大物登場です。下手のピアノに座り完全ソロで弾き語り。曲は「It's A New Orleans Thing」でしょうか。地味なスーツ姿でいい声で1曲歌ったらステージをおります。

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ロッキン・ドゥプシー・ジュニア、シリル・ネヴィル、パパ・マリ(ネット上から拝借した画像)

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さらにトロンボーン・ショーティが参加(ネット上から拝借した画像)

このあたりでパートナーの金さん、冷房の限界がきたようで建物の外で休憩。外には座れるところもあります。しばらく外で休むという彼女を残して会場に戻るとドラムにシリル・ネヴィル、ギターに巨漢のパパ・マリともう一人黒人ギタリスト、あとベース、キーボードに加え、ロッキン・ドゥプシーがジャカジャカとラブボードをかき鳴らしながら歌い踊っています。すんごい迫力です。この曲が終わるとちょっとスローなブルーズになりましたが、それでもドゥプシーの存在感は抜群。いずれ彼単独のギグもじっくり味わってみたいものです。このセッションではドゥプシーが去ったあと、トローンボーン・ショーティも登場。歌はなかったけど、なかなかファンキーなホーンを聴かせてくれました。

ウルフマン・ディーコン
ウルフマン・ワシントンとディーコン・ジョン

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もう一枚(ネット上から拝借した画像)

続くメイン・ステージはホーンズを従えて豪華な編成のウルフマン・ワシントンのセット。あいかわらずいい声、素敵なギターです。途中からディーコン・ジョンが加わりセッションとなりますが、帽子に蝶ネクタイというルックスからジャズ系の人かと思っていたら、ぎんぎんにボトルネックを唸らせてブルーズしてくれます。曲は「Statesboro Blues」のようです。もう1曲はスローなブルーズ。こちらでもいい声と熱いボトルネックを聴かせてくれました。

このあと、金さんのところに戻ると、彼女はオースティンに長く住んでいたことがあるという白人女性と何やら話し込んでいます。彼女は風邪をひいたときは、アップル・サイダー・ビネガーがいいとか、キャナル・ストリートとロイヤル・ストリートの交差点近くにある足つぼマッサージの店がいいとか、親切にも教えていただいております。そのあと、ガイ・クラークとかアサイラム・ストリート・スパンカーズとかオーギー・マイヤーズといったオースティンのミュージシャンの名前が出てちょっとばかり話が盛り上がってしまいました。彼女と話している間に1セット終わってしまいましたが、どうやら若者系のバンドだったみたいです。

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ブラス・ア・ホリックス(ネット上から拝借した画像)

ここで金さんもステージ観戦に復帰です。つづいて登場のグループは力の入ったホーンが主体のブラス・ア・ホリックス。スーザフォンがベース・パートを担当します。コンガも入って音に厚みがあります。オルガンを弾いているのは日本人女性コマキ・ケイコさん。めちゃめちゃファンキーなインスト2〜3曲のあと「Everybody Need Somebody To Love」と「Tutti Frutti」のメドレーでしめとなりました。

ミーターズ&ドクター
ミーターズ&ドクター・ジョン

ミーターズ・シリル
シリル・ネヴィルが参加

ミーターズ・ホーン
もう一枚

彼らの演奏のあとセット・チェンジ。ステージにはリオ・ノセンテリ、ジョージ・ポーター・ジュニア、ジガブー・モデリステの顔が見えます。おお、ついにミーターズが見れるぞ…。と思いきや、オルガンのところにはドクター・ジョン、サックスをかかえたチャールズ・ネヴィルもいます。それにジョージ以外にも7弦ベースをかかえたベーシストがいます。彼はシカゴから参加とのこと。ピアノにはアイヴァン・ネヴィルが座っています。アーティの姿は見当たりません。しかし、すごいメンバーのセッションです。体格のよいアフリカン・アメリカンの女性がバンド・メンバーを紹介。ジョージ・ポーターを「My father」と紹介していて、最後に「This is my family.」と言っておりました。1曲目は「Fire On The Bayou」でスタートします。ボーカルはジガブーとジョージ。完全なミーターズではありませんが、これだけのものを見れれば満足です。やっぱりジガブーのドラムよかったなぁ。関係者向けの壁の予定表には「Art Neville & The Meters」と書いてあるのですが、アーティ、調子がよくなかったのかな。彼が来ていればオルガンを担当し、ピアノ席にドクター・ジョンが座ったのでしょうか。2曲目はドクター・ジョンが歌う「Right Place, Wrong Time」。オリジナル・レコーディング・メンバーの大半がそろっているのですから、興奮しないわけがありません。トランペッターも参加して、タイトでファンキーなプレイです。3曲目は「You've Got A Change」。リオのギターで幕をあけ、ティンバレスをもって登場したシリルが歌います。こちらの曲の間奏ではまず、リオが速弾きを披露。途中から参加してきたトロンボーン・プレイヤー、ビッグ・サム・ウィリアムスもかっこいいソロで応戦。めちゃめちゃ熱いセッションです。3番は確かジョージが歌っていたと思います。エンディングではゲスト・ベーシストが7弦ベースの速弾きで会場を圧倒します。この曲だけ10分をこえる熱演。わずか3曲20分少々でしたが、貴重なセッションを目にすることができました。

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こちらはプロショット(ネット上から拝借した画像)

このセッションが終わるころには午前0時近くになっていました。この日は日中早起きしてプランテーション・ツアーにも行ってますし、さすがにくたびれました。ステージではセッティングが続いていて、次にロイヤル・サザーン・ブラザーフッドが出るようです。でも、目の前を楽器をかついだジョージと手ぶらのジガブーが連れ立って帰っていくのを見て、このあとミーターズの面々は出ないだろうなぁ、と判断してホテルに戻ることにしました。もう少しがまんすれば、メイン・ステージでマーシャ・ボールとマリア・マルダーが見れたのですが、その時はサブ・ステージにすでに出たんじゃないかと思っておりました。ライブは深夜2時まで続き、メイン・ステージにはほかにニューオーリンズ・レイディズ、ボーナラマといった面々が出演したようです。

リスト
舞台袖に貼ってあった進行表。このとおりに進行したわけではありませんでした。(3カット撮ったのですが、1枚しかピントがあいませんでした。)

たまたま大統領選挙の年に行ったおかげで、めったに見れないものをたくさん見れてよかったです。結局ミーターズの4人がそろったところを拝むことはできませんでしたが、3人までが入った上にドクター・ジョンやチャールズ・ネヴィルまで加わったステージは一生の思い出になりました。もちろん、そのほかのセッションも珍しくてすばらしいものばかり。ずっと立っておかないといけないのは老体には辛いですが、音楽の素晴らしさがその苦痛をかなりやわらげてくれたのでした。それにしても、中心人物のシリルとゲイニェル夫妻の人望はすごいです。ほとんど完璧なニューオーリンズのオールスター・キャスト。これだけの人々がノーギャラで快く集まり、すんごいセッションを繰り広げてくれたのですから。二人に大感謝です。もちろんその背景にはオバマ氏自身への期待もあります。ライ・クーダーも反ミット・ロムニーのアルバムを8月にリリースしますが、さて、今度の大統領はどういう結果になるでしょうか。