taj1969-1973
ライ・クーダーの新譜。発売日を過ぎていますが、まだ届きません。5月から予約していたのになぁ。もう店頭には並んでいるんでしょうかねぇ。自分の職場のある町には、大型ショッピング・モールがあるのですが、最近タワレコが撤退しまして、半分くらいの規模のHMVが入っていますが、もうCDを見に行こうという気にはなりませんねぇ。ここ10年、ネットの普及でCDやレコードの買い方が大きく変わってしまいました。

さて、ライさんの新譜を待っているうちに、タジ・マハールのびっくりするような発掘音源が届きましたので紹介します。コロムビア・レガシーからリリースのCD2枚組みです。タイトルにあるとおり、1969年から1973年の全曲未発表音源です。時期的にライ・クーダーの参加は見込めないだろうと思ったけれど、ジェシ・エド・デイヴィスさんのプレイはたっぷり楽しむことができます。ジェシ・エドのファンのみなさん。これは、「もっとかなあかん奴」ですよ。タジ・マハールのこの時期の未発表音源といえば、1968年リリースの『The Natch'l Blues』拡大盤でボーナス・トラックで未発表曲3曲が追加されたり、1998年リリースの3枚組ベスト盤『In Progress & In Motion 1965-1998』に、ストーンズ主催のロックンロール・サーカス出演時のライブ音源3曲や『Giant Step』のアウト・テイク、ポインター・シスターズを従えてのセッションなどたくさんの未発表音源が収録されていましたが、今回はそのいずれにも入っていない蔵出し盤であります。

内容は1枚目が、『The Hidden Treasures of Taj Mahal』と題されたスタジオ・アウト・テイク集。2枚目は1970年4月18日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたライブ音源です。

1枚目は、1970年2月に行われたセッションが4曲収録されています。メンバーも曲もすごいです。まず、ギターにジェシ・エド・デイヴィス。その他のバックはディキシー・フライヤーズの面々。ギターにチャーリー・フリーマン、オルガンにマイク・アトレー、ピアノにジム・ディッキンソン、ベースにトミー・マックルーア、ドラムにサミー・クリーゾンという面々。内容が悪かろうはずはありませんね。同年に正規リリースされる『Real Live』に収録される「Sweet Mama Janisse」のスタジオ盤がここに入っていて、間奏ではかっちょいいジェシ・エドのソロを楽しむことができます。また、後に別バージョンが『Happy Just To Be Like I Am』に収録される「Tomorrow May Not Be Your Day」がすでにここで演奏されております。

5・6曲目は、1969年の12月に行われたセッションで、こちらは『Giant Step』と同じ面子、ギターにジェシ・エド・デイヴィス、ベースにゲイリー・ギルモア、ドラムにチャック・ブラックウェルという面々でレコーディングされています。おそらく『Giant Step』完成後の次作用録音と思われます。ディランの作品「I Pitty The Poor Immigrant」と著名なゴスペル・ソング「Jacob's Ladder」をとりあげています。前者を聴けば、後にジェシ・エド・デイヴィスが『Ululu』でタジのことを歌った「My Captain」を思い浮かべるのではないでしょうか。それくらいコード進行や歌の雰囲気が似ています。

7〜9曲目は、1971年1月10日〜13日に行われたセッションで、ライブ・アルバム『The Real Thing』のメンバーと全く同じ編成で録音されたスタジオ・バージョンです。『The Real Thing』は同年の2月13日にフィルモア・ウィストで行われたライブを収録していますから、そのリハーサル的な要素が強いように思います。ここに収録された3曲はいずれも『The Real Thing』で演奏されている重要ナンバーで、アレンジもほぼ同じと思われます。一発録りで、ライブっぽい臨場感にあふれたタイトな演奏。ここまでのプロデュースは全てデイヴィッド・ルービンソンです。

10〜12曲目は、1973年12月にニューオーリンズのシー・セイント・スタジオでプロデューサーにアラン・トゥーサンを迎えて行われたセッション。ドラムレスでホシャル・ライトのエレクトリック・ギター、エリック・アジャエのベースと、タジ自身のギターやバンジョー、ハーモニカのみの簡潔な伴奏です。10曲目は『Giant Step』にも収録しているブルーズの大定番「Good Morning Little School Girl」。「Shady Grove」はバンジョーがフィーチャーされているブルージーな曲。ドラムレスなのにベースとギターのリズムが鉄壁で、打楽器がいるように感じます。「Butter」は「People Get Ready」を想起させるインストです。もしかしたら、ニューオーリンズ録音を前提としたデモ的なものかもしれません。しかし、タジの次作はほとんど一人で録音された『Ooh So Good 'N' Blues』となります。その次の1974年録音盤『Mo' Roots』にはホシャル・ライトがギターで参加し、しばらくタジのバンドの重要なメンバーとして活躍します。

それでは2枚目の方に行きましょう。まず、メンバーです。ギターはジェシ・エド・デイヴィス、ドラムにはリオン・ラッセル一派でマーク・ベノやアラン・ガーバー、J.J.ケイルのアルバムに参加することになるジェームス(=ジム)・カースティンとオクラホマ組2人。そして、ピアノにはジョン・サイモン、ベースにはビル・リッチと『The Real Live』にも引き続き参加するウッドストック組2人の計4人がタジをバック・アップします。これも強力な面子です。音質も最高というわけにはいきませんが、かなり状態のよいライブで、長尺曲もあってジェシ・エドのギターやジョン・サイモンのピアノを十分に楽しむことができるのです。

冒頭、会場に登場したタジが、一人アカペラで「Runnin By The Riverside」を歌い。続いてリゾネーター・ギターの弾き語りで重たいブルーズ「John, Ain't It Hard」を歌います。これは『The Real Thing』にはバンド・バージョンで収録されている自作曲です。このあと、メンバーをステージに呼び出し、バンドでの演奏がスタート。同じくリゾネーター・ギターの弾き語りで幕を開ける「Sweet Mama Janisse」はこの時期のタジのお気に入りだったようで、こちらのライブ・バージョンでも間奏でジェシ・エドのギターがフューチャーされています。インストのブルーズ「Big Fat」でバンドの一体感がより増してきて、スピード感あふれる「Diving Duck Blues」へと続きます。次のサニー・ボーイ・ウィリアムソン作「Checkin' Up On My Baby」はオーソドックスでかっこいいブルーズ。間奏でのハーモニカとギターやピアノとの応酬も見事です。そして、後に『Happy Just To Be Like I Am』に収録され、ジェシ・エドも自分のソロにも取り入れる「Oh Susanna」の10分にもわたる演奏がはじまります。若さあふれパワー全開のプレイで聴いていて気持ちよいです。次はリヴォン・ヘルム&ザ・ホークスのナンバーでロビー・ロバートソンとガース・ハドソンが書いたブルーズ「Bacon Fat」。この曲もハーモニカ、ギター、ピアノがソロをとり聴きどころ満載です。『Giant Step』にも収録され、これもジェシ・エドのレパートリーにもなっています。前曲に比べれば落ち着いた演奏ですが、こちらも8分を越える長尺曲です。ラストは、1枚目にもスタジオ盤が入っていた「Tomorrow May Not Be Your Day」のにぎやかな演奏でしめとなります。いやぁ、『The Real Thing』の前年にこんなに内容のよいライブ音源が残されていたんですねぇ。

ライブ音源はいざ知らず、これほどの内容のスタジオ音源のうち、1〜6曲目が未発表であった理由としては、もしかしたら、ジェシ・エド・デイヴィスとタジ・マハールの裁判が関係しているのかもしれません。ジェシ・エド・デイヴィスは、この盤の2枚目におさめられている1970年4月に行われたタジ・マハールのイギリス・ツアーの後、イギリスに滞在中に、エリック・クラプトンに勧められファースト・アルバムのレコーディングをはじめます。それで、このセッションにビル・リッチやジョン・サイモンが参加しているわけですね。デレク&ドミノーズではクラプトンとジム・ゴードンが参加しているほか、ドラマーのアラン・ホワイトの名前も見えます。それで結局、ジェシ・エド・デイヴィスはタジ・マハールのバンドを抜けることになっていますが、契約の関係があったのでしょうか、訴訟になってしまいます。タジとジェシ・エドは互いに敬意を払い合っているのですが、こういうところはアメリカらしいですね。例のビートルズ裁判の渦中だったジョージ・ハリスンが同じ立場のジェシ・エドに同情して、「Sue Me, Sue You Blues」を彼に提供したという話題を、レコードコレクターズ誌1998年5月号に掲載された長門芳郎氏によるインタビュー(1979年1月のもの)で、ジェシ・エド本人が語っています。と、すると、当時は係争中のために、ジェシ・エドが参加していた音源のリリースは見送られることになったものと考えられます。ボトルネック演奏こそありませんが、とってもいいプレイばかり。42年の歳月を経て、こうして耳にできるというのは、なんともありがたいことではないですか。

もちろん、ジェシ・エドのプレイだけでなく、はじめて明らかになったディキシー・フライヤーズの南部感覚あふれるプレイや、ジョン・ホール、ジョン・サイモン、ビル・リッチといったウッドストック勢に加えチューバ4本を擁する『The Real Thing』時のユニークなバンドによるスタジオ・バージョンも素晴らしいです。これはホント素敵な再発で、しばらくは愛聴盤になりそうです。