terry&hans
ライ・クーダーのゴスペル・コーラス隊の一員だったテリー・エヴァンズと、ヨーロッパ人でライ・クーダー・フォロワーのハンス・シーシックが2008年にデュオ・アルバムを出したことは、このブログでも2010年1月の記事で触れています。今回はそれに次ぐ第二弾のデュオ作が出ました。これが最高なんですよ。基本は前作同様、アクースティック。ベースもドラムスも入っていません。しかし、ゲストにアーノルド・マッカラーとウィリー・グリーン・ジュニアの二人を迎えた曲が5曲。言わずと知れた『Get Rhythm』時点でクーダー・ゴスペル・コーラス隊の面々です。これにボビー・キングが加われば4人全員が揃うところですが、さすがにそれは実現しなかったようです。まず、これらの曲で、とってもゆったり心地よいゴスペル・コーラスを堪能できるわけです。思えばハンスの1992年作『Call Me』をはじめて聴いたとき、「Mabellene」のカバーにぶっとんだものです。ハンスのフィンガー・ピッキングのギターにのって、ボビー・キングとテリー・エヴァンズがライのアルバムと違わない豊かなコーラスをつけていたのですから。それから20年たって、その時の感激を彷彿とさせるアルバムをつくってくれたわけで、それだけでも感謝感激なのに、彼が師と仰ぐライ・クーダー本人もレコーディングにかつぎ出し、3曲に参加しております。ボビー・キングの復活も嬉しかったけど、こちらはそれ以上に素晴らしいです。ハンス本人がアルバムにライナーを寄せておりますので、不十分な点ばかりですが、訳出してみましょう。

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ミリカと私は2月中旬にヨーロッパの寒い冬から逃れてLAに行き、とても素敵な時間を過ごした。私は6弦と12弦のギターを各1本持ち、演奏するつもりの曲のリストがあった。テリーはわれわれをLAXでピックアッブしてくれて、2〜3週間に過ごすイングルウッドの家に連れていってくれた。最初の週、われわれはテリーの家のダイニング・テーブルで、曲を選び、アレンジやグルーヴについて議論した。わたしたち二人ともが歌える正しいキー見つけることはとても重要だ。わたしはいつも自分のキーを低く設定しすぎてしまうが、テリーは驚くべきボーカル・レンジをもっていて、たいていどんなキーでも歌いこなせてしまう。だから他の人達がやるよりはわれわれのキーは決めやすいのだが。

わたしたちは、エコーパークのグランドマズ・ウェアハウスでレコーディングすることを決めた。ここは、わたしたちの最初のデュオ・アルバム『Visions』をレコーディングした場所でもある。スタジオのオーナーで技術者のアンドリュー・ブッシュは偉大な耳と素晴らしい機材を持っている。それこそ、われわれが必要とするものだ。

われわれの音楽はオーガニックで二人が同時に歌う。テリーは歌いながらローランドのコーラス・アンプをとおしてエレクトリック・ギターを弾く。彼のギター・スタイルはまったくユニークだ。彼はジャストのリズムをバーコードで弾く。そのサウンドはとても影響力があり、大いなるパルスとグルーヴを生み出す。わたしはマイクとアンプを通したアクースティック・ギターを弾きながら歌う。わたしは60年代後半のフェンダー・プリンストン・リヴァーヴ(ライブではこれと同じものを使っている)か、古いアンペグか、どちらかにギターをつなぐ。また、それと同時に左足を踏みながら心臓の鼓動のような音を出してマイクで拾う。この時、裸足で木の床を踏むのがベストだと感じて、翌日から数日スタジオでは裸足で過ごした。リハーサルが十分だったので、ベーシック・トラックのレコーディングはスムーズに素早く終了した。われわれはファースト・テイクで何曲かを決定し、他の曲は自分たちがハッピーと感じるまで2・3回繰り返してレコーディングした。

私の大きな希望は、今回男声の三声コーラスと一緒にレコーディングすることだった。それでテリーは仲間のウィリー・グリーン・ジュニアとアーノルド・マッカラーをスタジオに呼んでくれた。そしてテリーと一緒に三声のハーモニーを吹込んだ。彼らの歌は本当に的確で、ウィリーの低音はまるで底なしだった。わたしはテリーにこんな曲にはライ・クーダーがぴったりだねと言ったら、テリーはライに電話しよう、と言った。ライはスタジオに来て、何曲かに彼のトレードマークのギター・サウンドを加えてくれることを同意してくれた。わたしは本当に興奮した。わたしは1960年代(実際には1970年)のいつか、ゴードン・ライトフットのバージョンの「Me And Bobby McGhee」でライが弾くスライド・ギターを聴いたときから、彼のファンなんだ。ライは何本かの興味深いギターをセッションに持って来た。そのうちのいくつかは、まるでガレージ・セールで買って来た楽器のようだった。50年代前半の古いおんぼろアンプ(スピーカー・キャビネットとバルブ・ポーションが分かれているタイプの奴)、そしてライオンズ&ヒーリーの9弦ギターと、ウェストンの12弦エレクトリック・ギター。そのほか何本かのクールな楽器たち。それは40年以上経過していない楽器はひとつもなかった。ライは、これらの古い楽器を本当に歌わせることができるのだ。

われわれの滞在期間中にアナハイムでNAMMショーが行われた。ナショナル・ギターとディーリング・バンジョーの(会社の)友人がスタジオをあけてくれて、いくつかの楽器を使わせてくれた。わたしは何本かの楽器をオーバーダブし、セッションを完成させようとした。ナショナル・ギターと、ナショナル・マンドリン、そしてディーリングのガット弦のバンジョーはとてもハンディで使いやすかった。わたしたちはテープをミックスし、ギャヴィン・ラーセンのところでマスタリングを行った。ウィーンに帰ってから、テリーは、どれほどこのニューアルバムを気に入っているか、電話で語ってくれた。「俺は毎日、一日中聴いてるよ。」わたしは、リスナーのみんなにも同じような興奮を味わってもらいたいと望んでいる。「Delta Time」を楽しんで下さい。

追伸 どうしてわれわれが「The Birds And The Bees」をレコーディングしたか? その答えはシンプルだ。テリーが50年以上前のオリジナル・レコーディングで歌っているから。テリーはターンアラウンズによるこの世界的なヒットで、はじめて歌でお金をかせいだんだ。それがこのハッピーなクラシック・ソングを再訪した理由だよ。


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収録された全13曲のうち5曲がハンスのオリジナル。あとの曲はカバーです。ジミー・リードの「Honest I Do」、エルモア・ジェイムズの「It Hurts Me Too」、ジェームズ・カーの「Pouring Water O A Drowning Man」、マディ・ウォーターズの「How Come People Act Like That (Why Are People Act Like That)」そしてテリーが十八番にして何度も録音しているJ.B.ルノアーの「Down In Mississippi」といった有名どころが選ばれていますが、1曲だけ白人カントリー・デュオ、デルモア・ブラザーズの「Blues Stay Away From Me」もエントリー。これとてB.B.キングのカバーがあって白人作のブルーズと呼ばれるくらいです。あと「Heaven's Airplane」はゴスペル・ナンバーでしょう。それとジュエル・エイケンズによる上記の「The Birds And The Bees」を合わせてカバー曲が8曲となります。ドラムレス、ベースレスですが、物足りなさなど微塵もありません。かえって、ボーカル・ハーモニーやギター・ソロの細かいニュアンスまでしっかり聞き取れて、アクースティックならではの良さにあふれたアルバムです。

1曲目はハンスのオリジナルでタイトル・チューン。ゆったりしたブルーズでマンドリンとボトルネック・ギターが入っていますが、どちらもハンスがオーバー・ダブしたものでしょう。楽器は上記のようにナショナルのもののようです。リード・ボーカルもハンスで、テリー、アーノルド、ウィリー3人の厚いコーラスがハンスに応えています。スタイルだけだと確かにカントリー・ブルーズなのですが、なんだかコンテンポラリーな味わいが豊かなのは、この二人が現代に生きるブルーズを演奏しつづけているからでしょう。

2曲目は「Blues Stay Away From Me」。デルモア・ブラザーズよろしく二人でハモリながらの歌唱。原曲に忠実なメロディながら、リズムを抑えてバラードのように静かに聴かせます。ハンスのアルペジオにからんでくるのは、ワイゼンボーン(コナ)で弾いているであろう、ライの味わい深いアクースティック・ボトルネック。間奏では必殺のソロが登場します。ほんと、しみじみ聴かせる素晴らしい1曲です。

3曲目はエルモアの「It Hurts Me Too」。この曲は実に多くの人がとりあげていて、カントリー・ブルーズ調も珍しくはないけれど、短期間の録音にしてはかなりこなれたアレンジとなっています。間奏はハンスのアクースティック・ギター・ソロ。この部分からマンドリンもかぶってきますが、これがいい感じです。先に1コーラス目をハンスが歌い、後を追うように2コーラス目テリーが歌い、3コーラス目は二人でハミングを聴かせます。

4曲目「How Come People Act Like That 」はリズミックで楽しい感じのアレンジ。ライ・クーダーのエレクトリック・ギターも最初から入ってきて、間奏ではボトルネック・ソロで曲を盛り上げていきます。ライ参加曲でハンスは、彼の邪魔をせず伴奏に徹しております。どちらかというとテリーのボーカルが目立ちます。さて、ここでライが弾いているのはどんなエレキ・ギターなんでしょうか。ハンスがライナーに書いてる9弦ギターかな。興味はつきないところです。

5曲目「The Birds And The Bees」は上記のように、ジュエル・エイケンズとともに組んでいたドゥーワップ・グループ、ターンアラウンズによるこの曲がファースト・レコーディング。プロになるきっかけとなったナンバーです。ハンスのマンドリンが楽しいカントリー風のアレンジですが、ジュエルが1960年代にリバイバル・ヒットさせた時はもっとR&B風のアレンジになっていました。

6曲目「Build Myself Home」は、ライとちがって、オルタネイト・ベースを多用したハンスの軽快なフィンガーピッキングのアクースティック・ギターにのせて歌われるナンバー。テリー、アーノルド、ウィリー3人のコーラス隊が入り、まんまゴスペルみたいな演奏。素晴らしいです。

7曲目は『Crossroads』のサントラで渋い喉を披露して以来、ハンスの定番となったナンバー。ここでももちろんテリーが歌っています。ハンスのボトルネック・ギターやマンドリンのダビングも最小限で、ハーモニーもハンスがつけているだけ。既発の中で最もミニマムな演奏ですが、なかなかの説得力があります。

8曲目「Shelter From The Storm」はハンスのオリジナル。ゆったりした美しいバラードです。この曲のみ、コーラスのアーノルドとウィリー、そしてギターのライと参加メンバー全員の顔が揃っています。もちろんリード・ボーカルはハンス。静かにつま弾かれる自身のギターをバックに曲がはじまり、ライのノンスライドのエレキと、ゴスペル・コーラス隊がからんできて、えもいわれぬ美しい世界が徐々に姿をあらわしていきます。間奏のライのソロの部分はまるでハワイ島から見る太平洋に沈む夕陽のよう。ライとハンスのギターがじっくりと語り合っています。ライのアルバムに入っていてもおかしくないような名演だと思います。

9曲目「I Need Money」は軽快なブルーズ・ナンバー。ハンスのオリジナルですが、テリーが迫力あるリード・ボーカルを聴かせています。そういえば、こういうタイプの曲は「Bobby King& Terry Evans」時代なんかにもよくあったよなぁ。コーラスはハンスに加えてテリーもオーバー・ダビングをしているようです。リズムを刻むエレキがいい感じですが、テリーが弾いているのでしょうか。アクースティック・ボトルネックのリードはハンスによるものです。

10曲目トラディショナルの「Heaven' s Airplane」は、ハンスがリードを歌い、ゴスペル・コーラス隊がぶ厚いハーモニーで応えますが、むしろ主役はコーラス隊の方でしょう。フィンガー・ピッキング中心のアレンジはハンスで、『Call Me』に収録された「Mabellene」を彷彿とさせます。

11曲目「Pouring Water O A Drowning Man」は、オリジナルでは熱いシャウトが印象的。テリーの歌唱も負けていませんが、なんせ編成がアクースティックですから、静かにアコギ2本の伴奏です。R&Bの名曲ですが、こうして裸にしてみるとカントリー的な要素も結構入っていることがわかります。テリーの歌は思いっきり黒いですけどね。

12曲目は「Honest I Do」。原曲はブルーズですが、全編二人のハーモニーでゆったりバラードのように歌われます。間奏はボトルネック・ギター2本をダビング。短いソロですが、なんだかしみじみ心に響きます。

13曲目「Mississippi」はハンスのオリジナルで渋くファンキーなブルーズ・ナンバー。ハンスがリード・ボーカルですが、主題はテリーの生まれ故郷のミシシッピ。どうも歌詞もミシシッピで生まれたブルーズに対するリスペクトのよう。コーラス隊のハーモニーもとってもかっこよいです。10分にも渡るこの曲ではエンディングで、ブルーズ、R&Bの偉人の名前が次々と歌い込まれていきます。ハンスさん、弦楽器だけでなくブルーズ・ハープもなかなか器用に吹きこなすようですね。この曲でたっぷりハープも聴くことができます。

そんなわけで、今日到着したこの新作。とっても気に入っております。ロサンゼルスでヨーロッパの白人と、ミシシッピ生まれのアフリカン・アメリカンが二人でブルーズ・アルバムをレコーディングするというのも、少々奇妙に気がしますが、ブルーズがそれだけ広い世界で親しまれるようになった証左としておきましょう。このアルバムは、前作に引き続いて、ハンスとテリー、二人の厚い友情が実感できる好盤なのであります。