ブログ更新、ずいぶんご無沙汰してしまいました。もう間もなくライ・クーダーの新譜も発売ですね。その前にライ・クーダーさん参加の近作、いっときましょう。今年6月に発売されたボビー・キングさんの新作です。
ボビー・キングさん。お久しぶりですね。言わずと知れた、ライ・クーダーのゴスペル・コーラス隊の一員のテナー担当。1974年、リプリーズよりライ・クーダーも参加したシングル、『Looking For A Love』でデビュー。ライの『Paradise& Lunch』レコーディングから『Get Rhythm』ツアーまで、一貫してライさんをバック・アップし続けた人です。この間、ワーナーとモータウンからソロ・アルバムを各1枚リリース、1988・1990年にはバリトンの相方テリー・エヴァンズとのデュオ作2枚(双方にライ・クーダー参加)も出しているのですが、1994年のニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテイジ・フェティバルでライ・クーダー&デイヴィッド・リンドレーのステージのバックに登場して以降、なかなか姿を見かけることはありませんでした。90年代前半はテリーさんやウィリー・グリーン・ジュニアさんたちと組んで、ジョン・リー・フッカーやら、ポップス・ステイプルスやら、エアロン・ネヴィルやらのアルバムにもよく参加していたんですけどね。思うに、この頃、ショウ・ビジネスの世界に見切りをつけて、教会のゴスペル歌手としての生活をはじめたんじゃいかなぁ。最近のことを記した詳しいバイオを見つけられなかったんで、想像に過ぎないのですが。来日は多分一度きり、1988年ライ・クーダーの『Get Rhythm』ツアーにコーラス隊で参加。大阪公演のアンコールでサム・クックの「Chain Gang」を熱唱した姿は目に焼き付いております。
ボビーさん、1943年生まれということで、今年69歳なんですね。リプリーズからシングルを出した時はすでに30歳を過ぎていたわけだ。あれれ、ウィキでは1944年ルイジアナ州レイク・チャールズの生まれとなっているけど、itunesのプロフィールやallmusicでは43年ミシガン州デトロイト出身になってます。どっちが本当なんでしょうかねぇ。さらには彼のファースト・アルバムがCD化された際の解説には、サウス・カロライナ州レイク・チャールズ出身となっておりますが、サウス・カロライナにレイク・チャールズなんて町ありませんよね。多分。この方、とっても南部の香りがするんで、やっぱりルイジアナ出身であってほしいところです。そんな彼が、本当に久々のアルバムを出しました。ソロ・アルバムとしては1984年以来だから、なんと28年ぶり、デュオ・アルバムから数えても22年ぶりです。もちろん、地元のローカル・レーベルから何らかの作品は出しているのかもしれないし、今回もCDbabyやitune store以外での取り扱いはないみたいですけど、今やネットの時代。ライ・クーダーさん参加ということで、ワールド・ワイドに知られ、多くの人がダウンロードなどして楽しんでいることと思います。
タイトルは『They Don't Know』。高層ビルの上に暗雲が立ちこめる写真と、何かのフェスティバルで撮影したであろう群衆の写真をコラージュしたジャケット。まるで、「ハルマゲドンの到来を人々は知らない」と告げているかのようです。内容はというと、それはそれは、全編神を讃えるゴスペル曲集となっております。まず、曲名を眺めると、冒頭から「Don't Play With The Devil」。「悪魔とプレイするな」ですから、ブルーズを演奏しないでゴスペルを歌いましょうといっているような気になります。5曲目には「Jesus Calling」、7曲目には「You Delivered, Sanctified Me, You Saved Me」なんてタイトルの曲が続きます。
この方は、なんといっても女性かと思うような美しいファルセットでハーモニー高音部を歌うのが印象的だったのですが、普通に歌うときはけっこう野太い声だったりして、その落差に驚いたものです。久々に彼の声が聴けたこのアルバムでは、年齢のせいもあるんだろうけど、その素朴で無骨な歌い方に磨きがかかっていてなかなか味わい深いものがあります。ファルセットも時折顔を出しますが、さすがに昔の切れはちょっとばかり減退したように感じました。
曲調はけっこうバラエティに富んでいて、かつてのソロ・アルバムを彷彿とさせるようなおしゃれな曲もあれば、素朴なR&B調もあって飽きさせません。本人の声はいいんだけど、ほとんどの曲の演奏は典型的なコンテンポラリー・ゴスペル・スタイルになっていて、個人的には少しばかりものたりないです。「Good Time, Sad Time, Same Time」などは、ちょっとラップも出てきます。今の時代だから仕方ないのかもしれませんけどね。
2曲目「Don't Take Your Love Away」は美しいバラードでかなり好きな曲ですが、ここで聴かれる少々エフェクトのかかったアクースティック・ギターはライ・クーダーの手によるものでしょう。ソロもなく、ボトルネックもありませんが、このフレージングはライに違いないと思われます。ボビー・キングのバックで奏でられるアクースティック・ギターというと、『Bop Till You Drop』に収録された「I Can't Win」を思い出しますが、このナンバーはその時のプレイを彷彿とさせるものです。4曲目のタイトル・チューン「They Don't Know」は、さわやかなサックスの音色で幕をあけるコンテンポラリー・ソング。80年代頃のブラコンと言われたら信じてしまいそうなサウンドですが、1番のサビから、聞き慣れたエレクトリック・ギター・サウンドが響き始めます。2番では、そのギターがボトルネックでオブリガードを奏でます。もちろん、ライ・クーダーのギター・プレイですが、ソロもなく引き立て役に徹している印象が強いです。サビのメロディもなかなか良くて、「Don't Take Your Love Away」同様、気に入ったナンバーです。ライ・クーダーの参加曲は以上2曲だけのようです。
そのほかのナンバーは、たいてい元気のいい曲とバラードが並んでいる感じです。69歳という年齢を感じさせないパワー全開の曲もあって頼もしい限り。曲調もコンテンポラリーといいつつも、60〜70年代のソウルのにおいを感じさせてくれるナンバーもあって割合好感が持てます。ベースやキーボードは、けっこう現代的ですが、ギターはけっこういい感じのリズム・バッキングのナンバーが多かったりします。
ラスト2曲がかなり異色。9曲目「Change Me」は、アクースティック・ギター2本とシンセサイザーの伴奏ではじまり、白人とおぼしき男性が歌いはじめます。ゴスペルというより、CCMに聴こえてくるきれいなバラード。もっとも、1番からボビーのカウンター・ボーカルと黒っぽいコーラスが入って、かろうじてゴスペル・カラーを感じることができます。深い信仰を表しているであろう、このナンバーは神のもとでは「白」も「黒」も関係ないというメッセージととらえることができるかも知れません。それにしても、ブリッジのところだけ、ボビーのソロ・ボーカルになりますが、この部分は強力ですね。しかし、全くクレジットが手に入らなかったので、不明なのですが、「ボビー・キング」のアルバムで1曲のほとんどをソロで歌っているこの方、いったい誰なんでしょうか? ラスト・ナンバー「Am I Right, Am I Wrong」は、レゲエのリズムをもつマイナー・キーのナンバー。少々濃すぎる演奏で個人的にはあまり好みではありませんが、アフリカン・アメリカンの間でレゲエが根強い人気を保っていることを背景した作品でしょう。
そんなわけで、ボビー・キングさん名義のこのアルバム、ちょっと辛口なことも書きましたが、バラエティに富んでいて、けっこう楽しむことができました。おそらく彼は90年代前半にショウ・ビジネスの世界から離れて、ゴスペルの世界に戻ったのではないかと想像します。そして、教会などで地道に活動してきたけど、今回久々にアルバムを出すにあたって、同じ信仰を持つ仲間とのデュオを収録したり、かつてのバンド・リーダー、ライ・クーダーに参加してもらって、2曲ほどゲストで演奏してもらったというところではないでしょぅか。「フィーチャリング・ライ・クーダー」と謳うには、ちょっと地味すぎる参加ではあるけれども、おそらくゴスペル大好きなクーダーさんのことですから、かつての僚友のアルバムへの参加を二つ返事で引き受けたことでしょう。そうそう、ライさん、来月発売のテリー・エヴァンズとハンス・シーシックのアルバムにもゲストで入っているようです。テリー・エヴァンズといえば、クーダー・ゴスペル・コーラス隊のバリトン。彼はショウビズ界で地道な活動を続けており、かつてゲスト参加したハンスさんとデュオのアルバムも出しております。ハンスさんと言えば、言わずと知れたクーダー・フォロワー。こちらもどんなサウンドになっているか期待が高まるところです。