加門七海、福澤徹三、東雅夫各氏による選考の結果、今回の大賞作品は圓眞美さんの『夜の散歩』に決定しました。

【大賞】
圓眞美/夜の散歩

【優秀賞】
阿丸まり/土葬
武田若千/おじさん

【佳作】
湯菜岸時也/干潟
青井知之/無言の帰宅
岩里藁人/巳茸譚~ヘビキノコのはなし~
カー・イーブン/パールのようなもの

【特別賞】
敬志/義兄のぼやき(加門七海選)
小瀬朧/ヒメジョオン(福澤徹三選)
化野蝶々/カンブリアの亡霊(東雅夫選)


選考会議

 女性のための怪談マガジン『Mei(冥)』第2号で発表した「第一回てのひら怪談大賞」。誌面の都合で紹介しきれなかった選考会議の様子をご紹介します。
 前回のビーケーワン怪談大賞から引き続き、選考委員を引き受けていただいた加門七海さん、福澤徹三さん、東雅夫さんの三人が、作品をプリントアウトした束を前に、選考を開始しました。


構成・写真=タカザワケンジ
★選考委員二人がマルをつけた作品

辻■こちらに応募作の一覧リストがあります。この中で二人以上が推している作品にマーカーで色が付けてあります。ちょっと見ていただけますか。

東■まず湯菜岸時也さんの『干潟』。これは私と福澤さん。深田亨さんの『みによんの幽霊』。これも私と福澤さん。今回は、福澤さんと気が合ってるなあ(笑)。

福澤■どうしてでしょう(笑)。

加門■それ毎回。私がいつも違うところにいっちゃうのよね。

辻■まとめましょうか。

湯菜岸時也『干潟』 東/福澤

深田亨『みによんの幽霊』 東/福澤

阿丸まり『土葬』 東/加門

葦原崇貴『塀の向こうから』 東/加門

来福堂『ちくわのあな』 東/加門

剣先あやめ『冬山で死ぬということ』 東/福澤

化野蝶々『カンブリアの亡霊』 東/加門

上原和樹『マッチの家』 東/加門

岩里藁人『巳茸譚~ヘビキノコのはなし~』 加門/福澤

カー・イーブン『パールのようなもの』 加門/福澤

武田若千『おじさん』 東/加門

青井知之『無言の帰宅』 加門/福澤


 以上が選考委員二人が推した作品です。圓眞美さんの『夜の散歩』だけに、三人全員の票が入っています。

福澤■今回は突出した作品が少なくて、総合力で選んだ部分が多かったですね。同じ作者の応募作で、どちらを推すか迷ったのも、かなりありました。

加門■私は最初に全部見て、かぶっちゃった人のものはひとつ選んで、その分、次点を繰り上げて入れるというやり方をしました。

Kamon_01


東■私も基本的には同じやり方で選んでいます。

辻■全体の印象としてはどうでしたか。

東■加門さんがどうやらお怒りの御様子で(笑)。どういうところに御不満が?

加門■今回、応募先が変わったことで新規参入の方がたくさんいたのかな。正直に言って、最初に何作選ぶと決めず、気になるものだけチョイスしていったら15編に満たなかったんですよ。びっくりです。これまでも過去の選考会で散々言ってきたことですが、怪談じゃない話が多すぎる。うまい話だけど怪談じゃない。ただの殺人事件だったり、精神異常者の話だったり。怪談の定義を何回も言ってるのに、それを満たさない応募作が今回また多くなっている。また、常連も気負いすぎているところがあって、全体にローテンションだったというのが、率直な感想としてありますね。
 あと、これも前に云ったことがあるんですけど「自分が幽霊だった」というオチはやめましょう(笑)。よほどの巧者じゃないと、このオチで読者を怖がらせるのは無理です。主催ブログが変わったことで、応募者が前の選考会レポートを読んでないということなんでしょうけど(註 幻妖ブックブログで以前の選考会レポートも読むことができます)、なぜ毎回毎回同じこと言わなければならないわけ? ……みたいな感じです。
 もう一つ気になったのが、結果を読者に委ねてみました……というスタイルの話。文学寄りの応募作に多いんですけどね。きちんと読者を納得させてほしい。かっこつけてないで、書くべき事はちゃんと書く。話をまとめられないのかなと思ってしまいます。たとえ結末を曖昧にするにしても、間違いのない結末に読者を導くぐらいの努力はすべきだと思いますね。
 30篇選ぶのは、本当に苦労しましたね。これを入れると、ここからここまで全部入れなければいけないよねって感じで。だって、怪談が少なかったでしょう?

東■そんなに少なかったかなー。

加門■今までは、回を重ねるごとにだいぶ改善されてきて、レベルの高低はあっても、怪談自体は増えてきていたのに……。

東■応募者層がこれまでと違うということは、確かにあったでしょうね。それこそ、過去に「ビーケーワン怪談大賞」があったこと自体も知らないで応募してる方が、けっこういると思います。

加門■だとしても、結局、怪談というものの定義が解っていない。とりあえず、広辞苑を引いてみてはどうでしょうか(笑)。

東■それはまあ……プロの作家や編集者だって、無自覚な人がいますからね。怖い話なら何でも怪談だと思ってる人とか、怪談とホラーをごっちゃにする出版社とか(笑)。そこのところでの認識の隔たりは、世間一般でものすごく大きいと思うんですよ。

加門■なるほどね。とはいえ、怪談を書きたくて書いてきている人が少なすぎる。漠然と作家になりたい人が書いてきているという感じじゃないですか。でも、この賞は、作家志望の人には悪いけれど、怪談が好きな人が怪談を書くべき賞なので、作家になるステップとして「とりあえず怪談でも書くか」と応募してくる人は帰ってくれよという感じです。「怪談でも」は許さん! ですね。

東■まさしく怪談の権化、怒れる怪談大明神降臨ですねえ(笑)。「怪談が好きな人が怪談を書くべき賞」は名言だと思います。忌憚のない御意見をありがとうございました。福澤さんはどうですか。

福澤■僕は応募作を読みながら、A、B、Cとメモしていくんですが、今回は非常に僅差で選びにくかった。「てのひら怪談大賞」としては第1回ですので、原点回帰で怪談らしい怪談を選ぶようにしました。ベストに挙げたなかには、すこしずれるものもありますが……。応募作全体でいえば、怖がらせようとする意志が不足している印象を受けました。虚実は問わないんですから、もっと派手にやってもいい。読者を驚かせる工夫が欲しいと思いました。
「ビーケーワン怪談大賞」からの常連のみなさんは技術的な水準こそ高いものの、いつもと同じフォーマットに縛られて行き詰まったり、あるいは話をひねりすぎて難解になったりという作品が目につきました。

東■私はいつも五段階評価でつけていて、D、Eはまあ箸にも棒にもかからない作品。これは今回ごく少数なんです。BマイナスとCに評価が集中していて、Aはほとんどない。従って、確かに低め安定という感じでした。「てのひら怪談大賞」になって一回目ということで、怪談以外の作品が来てしまうのも、当面は仕方がないのかなという気がしています。初めて応募された方には、この選考会議の内容を熟読して、怪談と文芸について更めて考えてほしいと思いますね。あとは宣伝になってしまい恐縮なんですが、拙著『怪談文芸ハンドブック』(メディアファクトリー)が参考になると思います。そういう方のために書いた本なので。
 それよりも今回、私が期待はずれに感じたのは、常連の人たちの作品に新味がない。あるいは一部の方を除くと、上達の跡が認められないことですね。

加門■むしろ固くなかったですか。だから気負ってるのかなと思ったけど。

福澤■かたくなに同じフォーマットで投稿される方もいらっしゃいますが、どうしても前作とくらべてしまうので、出来不出来がはっきりするんです。したがって前作を上回る作品でないと、落とさざるを得ない。選者としても心苦しいんですが……。

東■非常に困りました。

福澤■応募作の多くに破綻がないんです。実話である必要はないけれど、きれいにまとまりすぎているきらいがある。実際に取材をすると、話の筋とは無関係な夾雑物が入ってくるんです。たとえば体験者の職業に関わる専門的な用語とか、その地域に特有の言語や風習とか。そういう机上で考えたのでは得がたいディテールの描写がリアリティを生みだすんです。
 また取材をした場合、情報量が多いせいで話が長くなりがちです。本来は長くなる話を無理やり八〇〇字に収めるわけだから、いい意味でいびつになるはずなんですが、そういう痕跡が見られない。

加門■今回はエネルギーというか、熱が低いんですよね。まあ、おしゃれねえ、あなたたち、みたいな(笑)。情熱をあまり感じない。
 ショートショートとして読めばよく出来てるものもあるんです。ただあいにくここは怪談の賞なので。

福澤■上手さは申しぶんない作品が多いんですけどね。

★選考委員二人がベスト20に選んだ作品を検討

辻 では、二人以上が選んだ作品を掲げて、一作ごとに検討していきましょう。

湯菜岸時也『干潟』
(てのひら怪談ブログのこの作品のページにリンクされています。以下同)

東■怪談らしい怪談ですよね。

福澤■「ガタスキー」や「サルボウ」や「ワニ」といったディテールがいいですね。「泥の塊がムァ~と動く」とか「泡吹いた犬を引き込んだ」とか、会話の表現にもリアリティを感じますし、独特のテンポがおもしろい。

東■海に出るお化けを「ワニ」と呼ぶなんて、本当にそういう伝承があるのかどうか調べてないので分かりませんが、たとえば『古事記』に出てくる「因幡の白兎」の話にまで溯るような広がりと奥行きもある。定番なんですが、気が利いていると思います。

深田亨『みによんの幽霊』

福澤■ほのぼのとした怪談ですね。怖さはありませんが、「未練があってねえ」という反復があとを引きます。

東■私はこういうタイプの話は好きなので、あまり怖くなくても、ついつい入れちゃう。

加門■私はかなり迷ったんだけど、やっぱりこれはないなと思った。喫茶店などの道具立てにリアリティがある分、辛かった。

東■分かってはいても味があると許しちゃうんですよね。ま、そのへんは我々選者も人間だということで(笑)。怪談としては「無い」かもしれないけれども、この感覚はすごくよく分かる。学生街に昔からある喫茶店に、百年前からいるような名物ばあちゃんがいて……という感覚はよく捉えていると思います。それはそれで、架空ではあってもリアリティがあって、そういうものを言葉で感じさせるというのは、ひとつのやり方だろうなと思うので。

福澤■深田さんはもう一つの『お迎え』もいいですね。どちらを推すか迷いました。

加門■この人の話は、漫画っぽいのよね。漫画にしたほうが、きっと面白い。今回、少女漫画系のジェントル・ゴースト・ストーリーが多かったですね。私はけっこうそういう漫画を読んでいるので、新味は感じなかったです。

阿丸まり『土葬』

福澤■阿丸さんの作品も『萱畑にて』と、どちらにするか迷しました。『土葬』はストーリーの展開や言葉の選択にこだわりを感じました。フィクションっぽい冒頭から、しだいに不気味な雰囲気が醸し出されて、ラストの「平成十年、十二月最初の水曜日の朝だ。」で、リアリティを強調する。いままでにないタイプの怪談じゃないでしょうか。

東■そうなんですよね。まず前半のうっかり水槽を煮立せてしまうという椿事そのものの気色悪さ。意表を突く感じ。そういうこともあるのかと思わせておいて、後半になると、いきなりそれが動き出す。「皿にぺったり張りつくグッピー」を落とすと、「鮮魚よろしく跳ねだしたのだ」という意表の突き方。感触の生々しさ。ものすごく小さい世界ではあるのだけど。

加門■死んだと思ったら生き返るとか、よくある話だなと思ったんですけど? 私の読み間違い?

東■生き返ったと思った、でもそれを埋めちゃった。そこのところのおかしみとリアリティでしょうね。阿丸さんは以前から、こういう意表をつく表現をされていて、ちょっと面白い感性を持っている方だと思います。

葦原崇貴『塀の向こうから』

東■選んだのは加門さんと私。葦原さんはこれまでもケレン味のある作品をお書きになっていますが、これもケレン味たっぷりですね。どうですか? 加門さん。

加門■正直これは数が足りないから入れたというか(笑)。極楽は良いところだと言って、行ってみたら死顔が凄かった……。似た話をどこかで読める気がするんだよね。それが気になってしまって。それがなかったら、かなり面白いと思ったんだけど。

東■匂いを強調したのが効果的ですね。そこから拡げて死の世界への誘惑と、その裏側にあるおぞましいものを上手く書いていますよ。

加門■上手いことは認めます。

来福堂『ちくわのあな』

東■ここしばらく、てのひら怪談以外のコンテストでも、気の利いた話を投稿してくださっている方です。

加門■これを怪談といっていいのかどうかわからないんですが、まぁでも面白いなと思って。

東■あれだけ手厳しいことを言っていた加門さんも、ついつい入れてしまう、と(笑)。

加門■迷ったんですよ。怖くはないな、でも場面を想像すると嫌だな、とか。完全なフィクション、物語としては面白いかな、とか。

東■私の場合は、稲垣足穂の『一千一秒物語』を連想させる奇想のスピード感が面白いなと思いました。

加門■最後の「ああ、春なんだな、と思った。」という台詞は気が利いてますね。私、ヘビ好きなのよ。だから、想像すると可愛くて。だけど、賞はあげません(笑)。

東■穴だから何もないんだけど、すごく存在を主張してもいる。実にシンボリックで。その空虚に蛇を孕んでいくという奇妙な面白さがあると思います。

剣先あやめ『冬山で死ぬということ』

福澤■無難にまとまっていて目新しさはないんですが、タイトルは印象に残りますね。

東■山の怪談というと、どうしても安曇(潤平)さんの顔が浮かんできてしまうんですが(笑)、これもやっぱり意外性の面白さでしょうかね。

福澤■「百人以上が宿泊できる大きな小屋」や「生ゴミは管理が悪いとクマなどを呼び寄せてしまう」や「雪を漕いで」など、ちょっとしたリアリティに魅力を感じました。

東■実際にときどき登山もする山女の加門さんは、どう思いましたか。

加門■うーん。ありえないですね。百人以上収容する小屋が建つような場所は高山ですから。冬だったら、雪が深くて、ゴミのフタなんか見えるわけがない。そこでまずアウトです。小屋があるのに、ゴミ箱を漁る遭難者というのもねえ。意識が錯乱していれば、そういう行動を取る場合もあるでしょうけど、普通は小屋に逃げ込むでしょう。ともかく厳冬期の装備をした人が、ゴミの穴を漁るというのが……この人、山を知らないな、と。
 内藤了さんの『戸隠キャンプ場にて』のほうが、実際の山小屋でありそうな話だなと思いました。この人は確実に山に行っていて、そこでのディテールを正確に書いている。作品としては、こちらの方が質が高いと思います。

東■内藤さんも力がある書き手ですね。今年の『幽』怪談文学賞長編部門でも奨励賞を取ってるし。ただ今回の応募作は、三作連作で読まないと他の作品を凌ぐ力を持ち得ないところが残念でした。ときどき連作を出してくる応募者がいますが、難しいですよね。単発でも評価が出来るように書いてあればいいんですが。

化野蝶々『カンブリアの亡霊』

加門■これは東さんが選ぶと思ってました(笑)。

東■ワタクシ狙いなんでしょうかねえ、カンブリア紀を持ち出してきた時点で。

加門■でも、よくカンブリアを持ち出したよね。これがジュラ紀や白亜紀だったら面白くない。カンブリアを使ったところがいい。この音の面白さが、話の魅力を増幅してますね。

東■ほかの二作も面白かった。ウィットやエスプリ、ちょっと洒落た感じがある。話としてはバカバカしいのですが、まあ、カンブリアそのものが、こういう破天荒な時代なんですよねえ。

福澤■最後が笑えますね。「おのれカンブリアぁ」って。

加門■最後の一言があったほうがいいのか、なかったほうがいいのか……難しいところですけど。

東■ヒモロギヒロシさんの路線と一脈通ずるテイストがありますかね。

圓眞美『夜の散歩』

東■今回で唯一、選考委員三人が推した作品です。圓さんは、かなり初期から投稿されている方ですね。

加門■怪談として、きちんと成立している。夜の闇の中で、もしかしたらそれは柴犬かもしれないけれど「毛むくじゃらの何か」は、なんだろうなんだろうと思いながら、立ち話をして終わっていく。その気持ち悪さみたいなものが、よく描けていると思います。

東■私もその指摘に尽きると思います。曖昧さを逆手にとる描写の妙が、非常に怪談的ではないかと。暗闇で手探りしているような怖さがある。

福澤■日常のささいな違和感を細かな描写を積みあげることで、不気味な話に仕上げています。圓さんは『可愛い双子』もよかったですね。

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東■私もどちらにするか迷いました。この人の持ち味としては『かわいい双子』のほうだと思います。生理的、倫理的に嫌な感じを醸し出すのが巧い。

福澤■怪異はささやかですが、厭な読後感があとを引きますよね。

東■ただ、そちらのほうにばかりこだわっていくと、どうしても本来の怪談性からは離れてしまう。でも「夜の散歩」は、ちゃんと怪談になっていました。

上原和樹『マッチの家』

東■これは加門さんが好きそうな話だなと思いました。

加門■別に好きってわけじゃないけど(笑)。話自体は、店主と客との根拠のない思い込みと心配と言えなくもないわけですよ。だから、弱いっちゃ弱いんですけど(笑)。

東■マッチの家という一種の呪物が孕む禍々しい感じが、活きていますよね。

加門■二人組というのも、いかにもありそうでいいと思いました。

東■迷惑な客といういかにもなパターンで、日常の隙間に呪術的なものが滲み出てくる。加門七海の世界を彷彿とさせますな!

加門■怪談かどうかは微妙だけど、怪談として解釈できなくもないか、みたいな感じですね。

東■それって大事ですよね。書き手が、これは怪談だろうと押しつけるのとは逆に、読み手の側が、これは怪談じゃないかと自然に思う。読み手の解釈を誘発するようなテクニックって、大事じゃないかと。

福澤■この『マッチの家』もいいけど、上原さんの作品では『あらぶる妹』を選びました。ホームセンターの業務連絡と妹の異常な行動とのリンクが意味不明で怖い。

東■たしかに『あらぶる妹』は面白かったですね。

加門■私も迷いました。

岩里藁人『巳茸譚~ヘビキノコのはなし~』

東■迷ったんです。岩里さんのほかの二作と。

福澤■ビーケーワン時代の大賞受賞者である岩里さんの力量からすると、微妙なところですね。そつなくまとまっているんですが……。

加門■まあ、上手いですよね。破綻もないし。これレントゲンで見たのかなとか、そういう疑問はありましたけど。「食道から胃にかけては、ビッシリとひしめきあう様に腫瘍が出来ていた」というのは、どうしてわかったんだろう。献体を拒否したのに。

福澤■行政解剖でしょうか。岩里さんは、ほかの二作も水準は高いですけど、欲を言えば、もっと冒険してほしかったですね。

東■巳年生まれにキノコがタブー、という話は実際にあるんですか。

加門■私は聞いたことがない。

東■蛇にまつわる呪術を扱った怪談は、岡本綺堂の「蛇精」をはじめ、いろいろあるんですが、こういう伝承は聞いたことがない。

加門■上手いから読ませますよね。それも大事。怪談としても成立している。

カー・イーブン『パールのようなもの』

東■これは加門さんと福澤さん選ですね。どのへんがよかったですか。

加門■おばあちゃんの御加護という意味でアットホームないい話でありながら、アドバイスが交番までという(笑)。たいしたことは起こらないんだよね。イヤリングによって声が聞こえただけで、面接には間に合ったけど、受かったという落ちでもない。単に間に合っただけ。この些細な感じに、逆にリアリティを感じました。

福澤■片方だけパールっていうイヤリングがあるのか、ちょっと気になりました。「真珠があるべきところへあてがうと、ぴったり」ということは、取れてたってことなのかな。

加門■私も同じところに引っかかって、読み直して、たぶん二つのうち片方にだけ真珠がなかったんだろうと思いました。ここはちょっと分かりづらかったです。

福澤■パールがぴったりはまったことで読者を驚かせるのなら、もう少し丁寧に書いたほうがいいですね。読者に不安や恐怖を感じさせる部分は、あえて情報を欠落させてもいいんですけど。

東■私は『立候補』も面白かったですが。

加門■あれも面白かったですね。大音量の幽霊というのは、なかなかない(笑)。気がきいてると思いました。

武田若千『おじさん』

東■私、これはちょっと新機軸かなと思いました。どうですか?

加門■最後に意表を突かれました。いいなと思いました。ただ話者が怖がっていない。そこが引っかかって。そんな怖い顔が瞼の裏に浮かんだら、もっと驚いていいんじゃないか、もっと戦いてもいいんじゃないかと思いました。でも、話の作りとしては新味がありましたね。

東■最後がいいよね。写真が風に飛ばされていってしまう。この方は「視える」系の話を以前から投稿されていますが、どうも「視える」人って、無意識のうちに自分が怖がっていないところが作品に出がちですよね、ねえ加門さん?

Higashi_02


加門■私の場合、実はあまり怖がらないです。でも、小説では怖がっているように書きますよ(笑)。これが実話だとすれば、しょうがないのかもしれないけど(笑)。

東■なるほどー、さすがプロ!(笑)そこは視える応募者にとっての課題ですね。「視えない」われわれにとってみれば、「視える」人がどう視えているのかは素朴な興味としてあるし。

加門■この人が幽霊を見慣れているとすれば、それを書くべきだったし、見えないという設定があれば、見えたことで動揺させるべきだった。

福澤■そのへんが曖昧だと、違和感をおぼえますね。武田さんの作品だと、僕は『白いライトバン』を選びました。

東■『白いライトバン』のほうも、なかなかの出来でした。

福澤■こっちのほうが地味だけど、実話っぽい怖さがあると思いました。

東■迷いました。

加門■私は題材の新味で選びました。

福澤■こういう写真は実際にあるんでしょうか。あってもポスターとかカメラマンの作品のような……そこに引っかかったんです。

東■これ自体が「怪異」じゃないんですか。現実ではないんじゃないの。写真のように見えていた、ということじゃないかと。

福澤■そういう平面的な顔が窓に張りついていたら怖いでしょうね(笑)。

青井知之『無言の帰宅』

東■この方も常連投稿者ですが、どうですか。

加門■怖いというか、ああ、と思いました。まとまっているし。怪談としていい話だと思いました。すごくありそう。そういう意味でのリアリティもあるし。

福澤■東南アジアや黒い球体といった設定や、ラストにひねりがある。終盤はジェイコブズの「猿の手」みたいで、ありがちなパターンなんですが。

加門■でも全体的な印象としてレベルが高いと思います。

福澤■怪談になじみのない読者だったら、これがいちばん怖いかも。


★「これは推したい!」選考委員の推薦作は?

東■自分しか推していないけど、ぜひこれは、というものがあれば……。

福澤■小瀬朧さんの『ヒメジョオン』ですね。

小瀬朧『ヒメジョオン』

福澤■〈止まってください〉の誘導旗とか法面工事とか、ディテールのリアルさが臨場感を出しています。

加門■福沢さん、そういうの好きなんですよね。

福澤■小瀬さんは文章も巧みですね。冒頭の「狭いカーブの向こうから絞り出されるように」という描写や、ラストのとぼけた味わいに惹かれます。

東■私も『ヒメジョオン』は気になっていました。

福澤■話は変わりますが、今回は猫をテーマにした作品がたくさんありましたね。加門さん狙いでしょうか。

加門■動物の話が多かったですね。いいとは思いますけど、動物が出ても、要は話がちゃんとしているかどうかだから。
 私は敬志さんの『義兄のぼやき』が好きですね。大好き、この話。(笑)。

敬志『義兄のぼやき』

福澤■ユニークな作品ですね。一発芸という感じで。

加門■ちゃんと怪談になっているから。松田聖子が絶妙です。

福澤■たしかに面白いんですけど、これを選ぶのは不安でした。次回から似たようなパターンがたくさん応募されてきたら、どうしようかと(笑)。

加門■八百字分を埋めなくていいんだ、という好例ですね。全く無駄がなくて、それでも怪談になっているし、話に曖昧なところもない。この短さでも、話はちゃんと成立するんだという好例です。

福澤■曾祖母ちゃんが松田聖子になっていたらどうしますか。

加門■だったら取らなかったかも(笑)。それはそれで怖いけど。

加門■東さんは?

東■延島迦十さんの『葬送の夜』かな。

延島迦十『葬送の夜』

東■文学がかってはいるんだけど、文章に説得力があるなと思いました。小さくまとまっているタイプではあるんだけど、文章が冴えていましたね。

加門■私は延島さんの『鴉の死』を入れました。

東■これも最後はありがちな落とし方なんだけど、文章そのものに力がある。

延島迦十『鴉の死』

東■他に皆さんがあげてないもので、よいこぐまさんの『海の上を走る』とか……。

福澤■『海の上を走る』はベストに入れるかどうか、かなり迷いました。作品の水準としては、ほかとくらべても遜色ないんです。強いて言えば、好みの差でしょうか。

よいこぐま『海の上を走る』

加門■ハナダさんの『新幹線の窓から』。不気味で嫌だった。

東■そうですね。最近、新幹線を利用することが前にも増して増えたので、他人事じゃない読後感が。

ハナダ『新幹線の窓から』


★大賞受賞作は圓眞美さんの『夜の散歩』に決定!

 話し合いの結果、最終的に『干潟』『土葬』『夜の散歩』『おじさん』『義兄のぼやき』『無言の帰宅』の六作品に絞られた。

辻■この中から大賞以下の受賞作を決めていきましょう。

東■なかなかバランスの取れた六作品ですよね。最終的には、怪談らしい怪談という観点が決め手になると思いますが。

福澤■怪談らしいと言えば『夜の散歩』でしょうか。

加門■悪くないけど、オーソドックスすぎる気もするのよね。これが大賞なのかって、読者は思うかもしれないね。

東■過去にはね、ヒモロギヒロシの『死霊の盆踊り』が大賞を獲ったこともあるんだから。

加門■でも、あれは怖かったよ。また、ヒモロギさんのはかっとんでいたけど、こっちはちょっと無難というか、おとなしいかな。むしろ『おじさん』が気持ち悪いですよね。

東■新味があるかなと思ったのは『土葬』と『おじさん』なんだよね。この流れからいくと、『土葬』『夜の散歩』『おじさん』『無言の帰宅』の四作品ですか。

加門■『土葬』『夜の散歩』『おじさん』。『無言の帰宅』は、よく読むと引っかかるところがある。蝋燭が消えただけで弟が帰ってきたと、御両親が思い込むとか。

東■ということは『土葬』『夜の散歩』『おじさん』は、ほぼ互角と。どうします? 一人一作品で、一票ずつ入れてみますか?

福澤■作品だけで判断がつかないとなると、総合力で考えるしかないような……同じ作者のほかの作品はどうでしょう?

東■この三人は、その点からも互角ですねえ。

 ……と話し合いは行きつ戻りつしたのですが、最終的に、東さんの「この三作はどうにも甲乙を付けがたい。ここは初心に戻って(笑)、三人が最初に票を入れていた『夜の散歩』を大賞に、そのほかの二作は優秀賞に、ということでいかがでしょうか」という提案に、残りのお二人も同意。大賞は『夜の散歩』に決定しました。圓眞美さん、おめでとうございます。


なお、選考からは漏れたものの優秀な作品ベスト30を各選考委員が選びました。(募集要項ではベスト50となっていましたが、応募総数とのかねあいから今回はベスト30としました)

■加門七海
内藤了/戸隠キャンプ場にて
香箱/卵
まつぐ/添い寝
延島迦十/鴉の死
透翅 大/おじいちゃんのおふとん
真魚子/なんだ、そうか。
深田 亨/お迎え
巴田夕虚/雨女
透翅 大/海から告げるもの
在神英資/それは知らなくていい
敬志/義兄のぼやき
新熊 昇/母猫の獲物
ハナダ/新幹線の窓から
剣先あおり/わく
葦原崇貴/塀の向こうから
来福堂/ちくわのあな
天羽 孔明/胡蜂
化野蝶々/カンブリアの亡霊
圓眞美/夜の散歩
龍風文哉/初詣
ひびきはじめ/痛い本
上原和樹/マッチの家
駒沢直/蟻
岩里藁人/巳茸譚~ヘビキノコのはなし~
鏡一郎/テエブル
イズミスズ/青い灯
カー・イーブン/パールのようなもの
宇津呂 鹿太郎/虫よけ
武田若千/おじさん
青井知之/無言の帰宅

■福澤徹三選
湯菜岸時也/干潟
坂巻京悟/火曜日
萬暮雨/風水
三浦さんぽ/名前
藤沼 香子/いらっしゃいませ
田中せいや/やわらかな追憶
深田 亨/みによんの幽霊
新熊 昇/フジ江さんとブチッキーのこと
阿丸まり/土葬
白 ひびき/空を舞う
告鳥友紀/百足
丸山政也/青い炎
綾倉エリ/禁足地
日野光里/お引っ越し
剣先あやめ/冬山で死ぬということ
圓眞美/夜の散歩
紺詠志/古井戸とM
小鳥遊 ミル/動物霊園の少女
上原和樹/あらぶる妹
岩里藁人/巳茸譚~ヘビキノコのはなし~
山村 幽星/ロータリーに立つ影
カー・イーブン/パールのようなもの
神村実希/なめくじ
佐多椋/可燃性
小瀬朧/ヒメジョオン
君島慧是/ドームルーペ
武田若千/白いライトバン
青井知之/無言の帰宅
我妻俊樹/柿
白雨/長い階段

■東雅夫
湯菜岸時也/干潟
延島迦十/葬送の夜
花鶏 縁/モラトリアム
三浦さんぽ/弔問
深田 亨/みによんの幽霊
阿丸まり/土葬
天谷朔子/HELLO
岩里藁人/かえるのいえ、かえらぬのひ
鷹匠りく/贈り物
なかた 夏生/坊主
君島慧是/卵形
高家あさひ/消え残るものたち
籠 三蔵/狼の社
典/怖ろしいもの祓い
葦原崇貴/塀の向こうから
来福堂/ちくわのあな
貝原/綿菓子
多麻乃 美須々/土塀の向こう
剣先あやめ/冬山で死ぬということ
化野蝶々/カンブリアの亡霊
よいこぐま/海の上を走る
圓眞美/夜の散歩
夢乃鳥子/黒白映画
上原和樹/マッチの家
沙木とも子/幽霊の臨終
杉澤京子/手鞠
武田若千/おじさん
下川 渉/生垣の中
野棘かな/ひとゆらり
富園ハルク/お行儀良いね